清水寺や金閣寺、伏見稲荷大社など、国内でも指折りの観光名所が集まる京都。
狭いエリアに見どころが密集しているだけに、混雑してしまうことも多々。
そんな京都の街にも、まだ観光客の少ない隠れた名所があるんです。
それが、今回ご紹介する東福寺エリア。
東福寺は紅葉で有名ですが、広大な敷地内にある塔頭寺院は落ち着いた雰囲気のある穴場的スポット。見応えのある庭園を通年公開している塔頭もあるので、ぜひ訪れて静かな京都を楽しんで。あわせて訪れたい素敵な喫茶店もご紹介します。
■芬陀院 ―― 画僧・雪舟の心が息づく古刹
“雪舟寺”として知られる「芬陀院」は、水墨画で有名な室町時代の画僧・雪舟が手がけた「鶴亀の庭(南庭)」を持つ寺院。
石組で亀の姿を表した亀島を主体に、白砂と苔、常緑の緑で構成されたこの庭は、京都最古の枯山水庭園のひとつともいわれています。
鎌倉時代後期、時の関白・一條内経により創建。以後、現在まで一條家の菩提寺となっている。
また南庭には、こんな伝説も残されているのだとか。
「亀の画」の依頼を受けた雪舟は、画ではなく石組により亀島を主体とした庭園をつくった。その夜、物音がするので庭に出てみると亀島が手足を動かし庭を這っていた。そこで大きな石を甲の上に乗せたところ亀は動かなくなり、現在の二重基壇の亀島が完成した——
その後、二度の火災と長い歳月のなかで荒廃したものの、昭和14(1939)年に重森三玲の手によって復元。その際、三玲によって、同じく鶴亀の島を題材とした東庭が加えられたそう。南庭が亀島を中心とするのに対し、こちらは鶴島を中心に構成されています。
障子越しに見る庭も美しい。本堂には、雪舟の画風を継承する雲谷派の画家、雲谷等竺の襖絵も。
どちらの庭も竹林を借景にした静謐な佇まいで、耳をすませば、風に揺れる笹の葉がサラサラと擦れあう笹鳴りや鳥のさえずりが聞こえてきます。坐禅をするようにゆったりと心を落ち着け、雪舟や三玲の美意識が反映された景色に没入できます。
【施設情報】
芬陀院(ふんだいん)
住所 京都市東山区本町15-803
電話 075-541-1761
拝観時間 9:00~16:30(冬季は16:00まで)
拝観料 大人500円、小人300円
公式HP https://funda-in.com/
■光明院 ―― “虹の苔寺”の異名を持つ寺院
苔の美しさから、別名「虹の苔寺」とも称される「光明院」。こちらの寺院も、重森三玲が手がけた庭を擁しています。
大きな見どころは、三玲の初期の傑作として名高い主庭「波心庭」。大海を表す白砂に仏様に見立てた三尊石組を浮かべ、そこから斜線状に48の立石を配置。ダイナミックさと静けさが絶妙なバランスで共存した枯山水庭園です。
東福寺方丈庭園・八相の庭と同じ年に作庭された「波心庭」。本堂と書院、双方から眺めることができる。
雲紋になぞらえたサツキやツツジの大刈込が背後を覆い、さらに視線をあげれば茶亭「蘿月庵」が。この庵も三玲の設計で、窓や壁、障子には月のモチーフが施されています。
というのも、波心庭は「光明」をテーマに作庭された庭園。この庵を月と見立て、雲が晴れて大海原に映り込む悟りの月を表すことで、悟りの先には仏様の後光が満ちていることを伝えています。
円窓「悠刻の窓」の向こうに見えるのは、勝負の守護神「摩利支尊天」が鎮座する石庭「雲嶺庭」。
山門入ってすぐの、前庭・雲嶺庭も三玲によるもの。本堂や書院では現代アートの展覧会も定期的に開催され、古きと新しきの融合が生み出す景色に魅了されます。
【施設情報】
光明院(こうみょういん)
住所 京都市東山区本町15-809
電話 075-561-7317
拝観時間 7:00頃~日没頃
拝観料 500円
公式HP https://komyoin.jp/
Instagram @komyoin
■霊雲院 ―― 宇宙の神秘が宿る二つの庭
最後にご紹介する「霊雲院」の庭園も、重森三玲によるもの。
書院前庭の「九山八海の庭」は、江戸時代中期に作庭された庭園ですが、長らく荒廃していたのを昭和45(1970)年に三玲が修復。中央に鎮座する「遺愛石」とそれを取り囲む白砂の律動的な砂紋で、仏教の世界観を表した枯山水庭園です。
「遺愛石」は、庭にあった貴石に台と石船をつけたもの。古代インドの宇宙観において、世界の中心に巍々として聳える須弥山を象徴している。
寺号である「霊雲」を主題とした「臥雲の庭」は、昭和に入って作庭された庭。渓谷を流れる水と、山腹に湧く雲の美しさを白砂や鞍馬砂、滝組で表現しています。
抽象的な造形で宇宙や自然風景を表すふたつの名庭は、いずれも非常に独創的で、時間を忘れ、いつまでも眺めていられそう。
三玲らしいモダンな意匠が見られる「臥雲の庭」。無心で流れる水や悠々とたゆたう雲のように、何ものにもこだわらずに生きる、無心の境地を表している。
書院北側には、日本でも数少ない2階建ての茶室「観月亭」が。豊臣秀吉によって開催された「北野大茶会」当時の移築で、桃山時代の清明な茶風が偲ばれます。
庭園の公開は年間を通して行われていますが、土日・祝日やお彼岸、お盆、ゴールデンウイークなどが中心。天候による拝観時間の変更等もあるため、訪れる前に電話で確認しておくと安心です。
■喫茶と菓子 Tile’s ―― 自家焙煎珈琲と焼き菓子を
塔頭寺院をめぐったあとは、珈琲とお菓子でホッとひと息。
東福寺駅から徒歩7分ほどの場所にある「喫茶と菓子 Tile’s 」は、店主の村上ゆるりさんがひとりで切り盛りするお店。
築100年の町家を改装した店内は、天井が高く開放的。手入れの行き届いた坪庭は、なんと自らの手で開墾し、自宅の庭の植物を移植したものなのだとか。
食器から家具、調度品にいたるまで、村上さんの確かな審美眼によって選び抜かれたものたちが、心地良い空間を生み出している。
自家焙煎の珈琲は、ハンドピックした生豆を少量ずつ焙煎。ほんのりとした苦味のなかに甘みを感じる中深煎りの「タイルスブレンド(500円)」のほか、深煎りのコーヒー豆を濃いめに抽出しミルクを注いだ「カフェオレ(550円)」としても味わえます。
あわせて楽しみたいのが、国産小麦を使った焼き菓子。なかでもおすすめは、りんごや柿、パイナップルなど、そのときどきの旬のフルーツの入った「キャロットケーキ(490円)」です。しっとりしていながらも、ふわっと軽い生地には、オーガニックレーズンとくるみ、そしてニンジンがたっぷり。スパイスを効かせた生地と、クリームチーズのフロスティングのハーモニーがたまりません。
濃厚な味わいの「タイルスぷりん(460円)」も人気。スプーンを入れるとしっかりとした密度を感じるのに、口に入れればとろーりなめらか。
お昼時に訪れるなら「自家製酵母パンのデリプレート(1,250円)」という選択肢も。小麦粉で起こした自家製酵母ルヴァン種を使って低温長時間発酵させたカンパーニュとフォカッチャは、シンプルな素材で焼き上げているからこそ楽しめる、飽きのこない風味豊かな味わい。
野菜たっぷりのデリやサラダ、スープは、一つひとつ吟味した食材を使って丁寧に料理されたものばかり。彩りもよく、お腹も心も満たされます。
【施設情報】
喫茶と菓子 Tile’s(きっさとかし たいるす)
住所 京都市東山区今熊野椥ノ森町22-27
電話 なし
営業時間 12:00~16:00
定休日 日~水曜、不定休あり ※2025年は1月16日(木)より営業
Instagram @tiles.kyoto
訪れるべき場所が、まだまだ尽きない京都の街。
二度、三度と旅を重ね、その奥深い魅力を感じてくださいね。
Text by Erina Nomura
野村枝里奈
1986年大阪生まれ、京都在住のライター。大学卒業後、出版・広告・WEBなど多彩な媒体に携わる制作会社に勤務。2020年に独立し、現在はフリーランスとして活動している。とくに興味のある分野は、ものづくり、伝統文化、暮らし、旅など。Premium Japan 京都特派員ライターとして、編集部ブログ内「京都通信」で、京都の“今”を発信する。
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