葉山の真名瀬(しんなせ)海岸から望む森戸神社

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海から見た日本の風景(前編)

2019.5.14

気高くそびえたつ、日本のシンボル富士は遠い昔から海の道標だった

葉山の真名瀬(しんなせ)海岸から、森戸神社の方を望む。森戸神社の裏手に名島(菜島)という小さな島があり、そこには赤い鳥居と葉山灯台(裕次郎灯台)がある。

遠い昔から旅路の道標、富士山
船上での遭遇に心奪われて

海から眺める富士山が最も美しい。
これは船乗りに聞けば誰もが頷く意見だ。高い山というのは灯台ができるよりもずっと前から海を渡る時の道標だった。
遠くからでも陸地の存在が伝わってくる。なによりその壮大な姿には、空と海の間にそびえる大地の象徴的な気高さを感じる。

横浜沖合の東京湾を航行する船上から見る雪化粧の富士山 横浜沖合の東京湾を航行する船上から見る雪化粧の富士山

横浜沖合の東京湾を航行する船上から。雪化粧の富士山もまた美しい。


富士山を海から望むなら駿河湾がはじめに思い浮かぶ。

海の玄関口となる清水港からは駿河湾フェリーが毎日運航しているため、思い立った時に富士山クルージングを楽しむことができる気軽さは嬉しい。また意外かもしれないが、横浜湾や鹿島灘からも富士山を望めるため、首都圏発のフェリーからでも十分チャンスがある。ただ高層ビルに隠れてしまうことが多く、できるだけ背の高い船を選ぶことを勧める。また冬場の晴天ならさらに好ましい。

 

 

日本中には富士と名の付く山々がある
郷土富士へ想いをはせる

富士山がいかに愛されていたかは地方の港をめぐると良く分かる。
日本全国には300を越える富士と名のつく山があり、その多くは海岸線からも見ることができて陸地から眺める姿とはまた異なる顔がある。郷土富士として名高い利尻富士もそのひとつ。礼文島と利尻島をつなぐハートランドフェリーからその全景を望むことができる。

北海道の利尻島にある利尻岳。利尻富士とも呼ばれる。 北海道の利尻島にある利尻岳。利尻富士とも呼ばれる。

北海道の利尻島にある利尻岳(利尻山)は利尻富士とも呼ばれている。
海に囲まれた独立峰のために雲がかかることが多い。
人生でも忘れがたい利尻富士の夜明けのワンシーン。


利尻富士を初めて見たのはもう10年近くも前になる。その時には頂に雲がかかって全貌を拝むことができなかったが、それでも大きな衝撃を受けた。
それは島全体が美しい山そのものだったからだ。まるで海の上に山がそびえている。そう思ったのをよく覚えている。それから5,6回ほど訪れたとき、ようやく澄み渡るように利尻富士がその全貌を見せてくれた。朝焼けに抱かれ半月を頭上に飾る姿は、一般的な山々が持つ力強さだけでなく、どこか女性的とも言える可憐な美しさを持ち合わせていた。

 

一方、南下して鹿児島県の開聞岳(かいもんだけ)も海から見られる郷土富士として、忘れがたい美しさを持っていた。利尻富士に勝るとも劣らぬ海にそびえる重厚なたたずまい。ひとつ差があると言えば開聞岳は島ではなく、陸続きで指宿市内へと裾野がつながっているところだろうか。しかし別称を薩摩富士と聞くと、なぜだろうか鹿児島県の誇りに似た印象を受ける。

鹿児島県指宿市に位置する開聞岳。薩摩富士とも呼ばれる。 鹿児島県指宿市に位置する開聞岳。薩摩富士とも呼ばれる。

鹿児島県指宿市に位置する開聞岳は、円錐形のその姿から薩摩富士と呼ばれている。

薩摩富士は鹿児島港へと向かう航路のちょうど狭まる部分、つまり海峡の入り口に位置している。そのため、遠くからこの薩摩富士の影が見えるとそろそろ鹿児島港が近づいていることが分かる。
そしてその奥には錦江湾を背負う桜島も待っており、鹿児島港の航路は二名山を海から望む絶好の航路といえよう。そのためか船影も多く、鹿児島港と結ぶこの航路には那覇、奄美大島、屋久島、西表島、喜界島・・・・・・数々のフェリーが発着している。


日本最南端に位置する郷土富士 日本最南端に位置する郷土富士

母島にある小富士は日本最南端に位置する郷土富士。小富士の頂上から南崎を望む。

鹿児島から更に1000キロ近く南下した所に浮かぶ小笠原諸島の母島には、日本最南端の郷土富士がある。母島の中でも最南端に位置する南崎に、小富士という丸みを帯びた山がそれだ。

 

船旅をしていると多く出合う郷土富士、他にも八丈富士、小豆島富士、与那国富士など数々の郷土富士を見てきたが、今回はその中でも最も美しいと感じた3つの郷土富士をご紹介させていただいた。富士山だけでなく、今一度郷土の美しさを船上から感じるのは旅の良い目的地となるはずだ。それは古来の道標として以上に、これからの人生の道標となるようなかけがいのない経験をくれるかもしれない。

 

 

「海から見た日本の風景」の(前編)(後編)で紹介した地を記載。 「海から見た日本の風景」の(前編)(後編)で紹介した地を記載。

「海から見た日本の風景」の(前編)(後編)で紹介した地を記載。

中村風詩人 Kazashito Nakamura

旅写真家

クルーズには10年以上毎月乗船しながら国内外10隻に乗船取材。世界一周航路などを乗船し旅した国は80ヶ国にのぼる。世界3周分の海の奇跡をまとめた写真集『ONE OCEAN』や船旅の目的地『小笠原のすべて』(JTBパブリッシング刊)を出版。同展示はキヤノンの協力を受け銀座・名古屋・大阪キヤノンギャラリー、仙台メディアテーク、高崎高島屋、東武宇都宮百貨店、水戸京成百貨店の全国を巡回。日本橋三越や各新聞社ホール、各客船上にて講演、全国のフォトツアーやコンテストの審査も定期的に行っている。
http://kaza.jp

 

 

海から見た日本の風景(後編)へつづく

Potography & Text by Kazashito Nakamura
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