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北山ひとみが描く新時代プレミアムリゾート

2019.12.12

1. 2020年、那須・アートビオトープが拓く新たなるリゾートの姿

二期リゾート代表、北山ひとみが“文化リゾートの先駆け”と呼ばれた「二期倶楽部」を創業したのは1986年のこと。2007年には本格的な陶芸とガラスのスタジオを備えた体験型アートレジデンス「アートビオトープ那須」がオープン。アートビオトープ那須に隣接する敷地には昨年、木々と水によって土地の記憶を重ね合わせたランドアート「水庭」が完成し、2020年には建築家・坂茂が手掛けるスイートヴィラもオープンする予定だ。北山が目指すリゾート新時代の姿がここに明かされる。

 

文・北山ひとみ

文化なきところに経済の繁栄はない―経済を凌駕出来るのは文化だけ

那須は関東の北限、そして東北の南限にあたる、北方系植物と南方系植物とが混在する大変ユニークな地域です。大正15年には皇室の那須御用邸が造られ、ロイヤルリゾートとして多くの方々にも知られるようになりました。

 

那須のなかでも那須連峰の山麓に位置するここ横沢は、美しい渓流を擁する水の豊かな地として知られています。この場所に1986年、二期倶楽部を創業しました。1997年には本館6室に加え、新たに空間デザイナー杉本貴志氏による14室を増築し、2003年にはイギリスデザイナー界の巨匠テレンス・コンラン卿によるスパリゾート「NIKI CLUB &SPA」をオープンしました。続く2006年には創業20周年記念事業として野外劇場七石舞台「かがみ」も完成しました。

わずか6室からスタートした二期倶楽部は、自然との共生をテーマにしながら、栃木県那須高原山麓の横沢エリアにおける「美しい村」づくりを目指してきた。 わずか6室からスタートした二期倶楽部は、自然との共生をテーマにしながら、栃木県那須高原山麓の横沢エリアにおける「美しい村」づくりを目指してきた。

わずか6室からスタートした二期倶楽部は、自然との共生をテーマにしながら、栃木県那須高原山麓の横沢エリアにおける「美しい村」づくりを目指してきた。

翌年には多目的ホール「観季館」や、本格的な陶芸とガラスのスタジオを備えた体験学習型の宿泊施設「アートビオトープ那須」をプロデュース。創業から2017年の閉館まで、30年以上に渡り、“文化”を経営資源にそれを求心力にしながらホテル事業に取り組んで参りました。その間、経営者として多くのことを学びました。尊敬する経営者である資生堂名誉会長・福原義春氏は「文化資本経営」とは「自らの経営を言葉で語り、表象し場所を作り資本を形成していくもの。アートや知識や設計にいたるまで資本に関する文化には社会的経済的な総合活動を目指すものだ」と定義されています。

二期倶楽部は、写真の本館「にき倶楽部1986」と、24室のコテージが立ち並ぶ「NIKI・CLUB&SPA」の二つに分かれており、庭内には七つの小豆島石の巨石とステンレスを組み合わせた野外劇場「七石舞台【かがみ】」があった。 二期倶楽部は、写真の本館「にき倶楽部1986」と、24室のコテージが立ち並ぶ「NIKI・CLUB&SPA」の二つに分かれており、庭内には七つの小豆島石の巨石とステンレスを組み合わせた野外劇場「七石舞台【かがみ】」があった。

二期倶楽部は、写真の本館「にき倶楽部1986」と、24室のコテージが立ち並ぶ「NIKI・CLUB&SPA」の二つに分かれており、庭内には七つの小豆島石の巨石とステンレスを組み合わせた野外劇場「七石舞台【かがみ】」があった。

「良いリゾートには、美味しいレストランがあり、簡素ながらも清潔な寝具が用意されたホテルもあり、その上芸術文化を楽しめる施設も揃っている」という、アートコロニー完成の姿を念頭に、敷地内に少しずつ文化施設を整えながら、横沢の環境を整えてきました。施設を作るだけではなく、アートビオトープ那須のスタジオでは、これまで板橋廣美、三輪和彦、小池祥子、中村錦平、中村卓夫、新里明士、川端健太郎など、日本を代表する現代工芸家がこの地で、時に地域の子どもたちを交えながら定期的にワークショップを開催してきたほか、2008年からオープンカレッジ「山のシューレ」を毎年開催してきました。

 

こうした30年の手縫い仕事は、私にとりまして福原氏から学んだ文化資本経営の実践です。それと共に「ホスピタリティ」マネジメントについても深めて参りました。単なる労働を資本とする「サービス」から、一人一人の文化技術に支えられた真の「ホスピタリティ」へと、私たちはもてなしの技術を一層高めていくことを目指しています。


第8回山のシューレ2015シンポジウムより。右から、高井啓介(宗教学・宗教史・シュメール語)と安田登(能楽師)、いとうせいこう(作家・クリエイター)による鼎談。 第8回山のシューレ2015シンポジウムより。右から、高井啓介(宗教学・宗教史・シュメール語)と安田登(能楽師)、いとうせいこう(作家・クリエイター)による鼎談。

第8回山のシューレ2015シンポジウムより。右から、高井啓介(宗教学・宗教史・シュメール語)と安田登(能楽師)、いとうせいこう(作家・クリエイター)による鼎談。

20世紀から21世紀に入り、大きく時代は変わりつつあります。経済においては経済的利益を追求することで全てがうまくいく、こうした市場原理主義的な考え方は既に行きつくところまで到達しているように思えます。最近では企業のCSR活動や環境指数、エシカルな取り組みなどが企業価値として評価されるようになってきました。こうした背景には、人間とは何か?経済活動のみで本当に人間は幸せになることができるのか?という本質的な問いがあります。30数年の私の仕事や原点は、この問いにあります。二期倶楽部というホテル事業を通して、人間学とマーケティングとを一体化した思考の中で、自らの仕事を考察しながら歩んできた年月だったと振り返っています。

体験学習型のアートレジデンス「アートビオトープ那須」では、近年注目されているアーティストの滞在制作を支援する「アーティスト・イン・レジデンスプログラム」を先駆けて開催してきた。本格的なガラスと陶芸のスタジオでは、思いのままに創作活動に没頭することができる。 体験学習型のアートレジデンス「アートビオトープ那須」では、近年注目されているアーティストの滞在制作を支援する「アーティスト・イン・レジデンスプログラム」を先駆けて開催してきた。本格的なガラスと陶芸のスタジオでは、思いのままに創作活動に没頭することができる。

体験学習型のアートレジデンス「アートビオトープ那須」では、近年注目されているアーティストの滞在制作を支援する「アーティスト・イン・レジデンスプログラム」を先駆けて開催してきた。本格的なガラスと陶芸のスタジオでは、思いのままに創作活動に没頭することができる。

2019年には令和への改元がありましたが、即位された天皇陛下の皇太子殿下時代のお言葉の中に、徳について述べられたものがあることを知る機会がありました。そのお言葉のなかで、陛下は次のように述べられています。

 

「歴代天皇のご事蹟を学ぶ中で、第95代の花園天皇が、当時の皇太子-後の光厳天皇にあてて書き残した書に、まず徳を積むことの重要性を説き、そのためには学問をしなければいけないと説いておられることに感銘を受けたことを思い出します。そして、花園天皇の言われる「学問」とは、単に博学になるということだけではなくて、人間として学ぶべき道義や礼義をも含めての意味で使われた言葉です。私も、50歳になって改めて学ぶことの大切さを認識しています」

 

こうした人としてのあり方を学ぶための「学問」と、より良い人間性を手に入れるためのリゾート事業とは大変近しいものがあるように感じています。未来のリゾートホテルには、こうした学びの場となる潜在的な力があるのではないでしょうか。

2018年に完成した「水庭」。318本の木と160個の池、地面を覆う苔から成る。土地の持つ記憶を重ね合わせることで誕生したこの庭は、自身の内面へと向き合う瞑想空間でもある。設計を手掛けたのは、日本建築学会賞、第12回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞といった数々の賞を受賞し、世界から注目を集める建築家・石上純也。2019年には水庭の成果が評価され、芸術選奨文部科学大臣新人賞、デンマークの新しい建築賞であるオベルアワードを受賞した。水庭は宿泊ゲストは自由に見学できるほか、外来の見学ツアー(予約制)も開催されている。

https://www.artbiotop.jp/water_garden#water_garden_tour

くしくも、近年の旅のスタイルは既に文化や知に移行しつつあります。かつての巡礼の旅に象徴されるように、旅とは新しい文化や知に触れ、新たな自分自身を獲得するためのものでした。そうした学びの実践的な場として、私たちは毎年オープンカレッジ「山のシューレ」を開催してきました。日頃都会でストレスを抱えながら働いている多様な人々が、数日間寝食を共にし、学びを通じて豊かな時間を過ごすという経験は、これからますます求められるようになっていくと思います。

 

那須横沢の小さな庭から、その新しい物語は始まります。

Profile

北山ひとみ Hitomi Kitayama

株式会社二期リゾート 代表取締役 1980年、株式会社栄光の創立に携わり、経営企画室取締役・第二事業本部長を経て1986年、「二期倶楽部」をオープン。その他、体験滞在型アートレジデンス「アートビオトープ那須」、東京・千鳥ヶ淵のライブラリーカフェ「ギャラリー册」の運営のほか、ゲストハウス「沼津倶楽部」などのホテル運営受託事業を手掛ける。現在、特定非営利活動法人アート・ビオトープ理事長、特定非営利活動法人保育:子育てアドバイザー協会参与。著書に『人分けの小道』(2014年、ライフデザインブックス)、対談に福原義春「ステイヤンコロジーで人生は輝く!」、渡辺淳一「一度は泊まりたい日本の宿」など。

https://www.artbiotop.jp/

Text by Hitomi Kitayama
Photography by Niki Resort

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