丹波 今西公彦/丹波大壺 左官職人の久住章が丹波の陶土を用いて建てた小屋、雨滴聲に佇む壺

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六古窯〜千年続く陶磁器窯の魅力(前編)

2019.8.26

越前・瀬戸・常滑・信楽・丹波・備前
〜六古窯は日本のやきものの原点〜

丹波 今西公彦/丹波大壺 左官職人の久住章が丹波の陶土を用いて建てた小屋、雨滴聲に佇む壺

日本の風土から生まれ、
日本の暮らしに根付いたやきものの原点「六古窯」

「日本六古窯(にほんろっこよう)」とは、古来の陶磁器窯のうち、中世から現在まで生産が続く代表的な6つの産地(越前・瀬戸・常滑・信楽・丹波・備前)の総称。1948年頃ごろ、古陶磁研究家で陶芸家でもあった小山冨士夫によって命名され、2017年春、日本遺産に認定された。それを機に、産地である6市町(越前焼:福井県越前町 瀬戸焼:愛知県瀬戸市 常滑焼:愛知県常滑市 信楽焼:滋賀県甲賀市 丹波焼:兵庫県丹波篠山市 備前焼:岡山県備前市)では、六古窯日本遺産活用協議会を発足。およそ千年にわたり、それぞれの産地で育まれてきた技術や文化を見つめ直し、俯瞰した視点で、あらためて「六古窯」の魅力を掘り下げようとしている。2018年春に始動した「旅する、千年、六古窯」は、やきものを通して人間の根源的な営みと、人と自然との関わり、ものづくりの根源を再考する取り組みだ。

常滑の篭池(かごいけ)古窯。平安時代末期に使用されていた窖窯(あながま)で斜面を掘り抜いて作られている。 常滑の篭池(かごいけ)古窯。平安時代末期に使用されていた窖窯(あながま)で斜面を掘り抜いて作られている。
常滑の篭池(かごいけ)古窯。平安時代末期に使用されていた窖窯(あながま)で、斜面を掘り抜いて作られている。
日本に分布する六古窯。中世には、80ヶ所を超える陶器生産地が存在したことがわかっている。 日本に分布する六古窯。中世には、80ヶ所を超える陶器生産地が存在したことがわかっている。

日本に分布する六古窯。中世には、80ヶ所を超える陶器生産地が存在したことがわかっている。


なぜいま「六古窯」なのか。その問いに答えてくれたのは、六古窯日本遺産活用協議会クリエイティブ・ディレクターの高橋孝治。「無印良品」のインハウスデザイナーとして、主に生活雑貨の企画・デザインを担当した後、2015年から、「六古窯」のひとつである愛知県常滑市に移住し、やきものの世界と人々の暮らしをつなげる活動に携わっている。

 

「日本は、小さな国土のなかに、驚くほど多くのやきものの産地がある“やきもの大国”。これは世界的に見ても非常に珍しい、ほとんど唯一の事象です。『六古窯』は日本のやきもの産地の代表的存在。工業的なやきものだけではなく、その土地の土と水を合わせて捏ね、用途に合わせて形をつくり、太陽と風で乾かし、薪をくべて窯を焚くという、原初のものづくりがいまも続いている。ものがあふれるいまの時代だからこそ、『六古窯』は、私たち日本人の暮らしや、自然との向き合い方を改めて考えるためのヒントを示してくれる存在として注目されています」

瀬戸の陶土採掘場。広大な土地が採掘場として使われている。こちらの陶土は美濃など他の産地でも使われている。 瀬戸の陶土採掘場。広大な土地が採掘場として使われている。こちらの陶土は美濃など他の産地でも使われている。

瀬戸の陶土採掘場。広大な土地が採掘場として使われている。こちらの陶土は美濃など他の産地でも使われている。

なぜ、日本のやきものは、これほどまでに発展し、多様な進化を遂げてきたのか。背景として、やきものに適した気候風土があることが大きい。とりわけ「六古窯」の里は、やきものの素材となる粘土質の土に恵まれており、さらに窯を築きやすい丘陵地帯であることや、薪を採る森林に恵まれていること、河川や海を通じてものを運搬できたこと、一大消費地である都市に近かったことなどから、やきものの一大産地として栄えてきた。歴史をさかのぼって見れば、古墳時代に朝鮮半島から伝わった須恵器(すえき)や、飛鳥・奈良時代に中国大陸から伝わった施釉陶器(せゆうとうき:釉薬をかけて焼く陶器)を体得し、庶民の道具として量産化、産業化し始めたのが「六古窯」だった。

常滑 鯉江明/常滑山土叩き壺 鯉江は、地元常滑での中世古窯発掘調査への参加が契機となり、作家を志す。 常滑 鯉江明/常滑山土叩き壺 鯉江は、地元常滑での中世古窯発掘調査への参加が契機となり、作家を志す。

常滑 鯉江明/常滑山土叩き壺 鯉江は、地元常滑での中世古窯発掘調査への参加が契機となり、作家を志す。


土地の個性から生まれたやきものが
日本ならではの食文化や美意識によって進化

また、「六古窯」は、やきものの歴史において重要な位置をしめる「茶陶」(茶の湯で用いる陶器)と深く関係する。「中国から舶来品として伝わったやきものは、金属器を模したものが目立ち、それらはピシッと左右対称を良しとします。窯の中でゆがんでしまったものや、灰が落ちて付着して釉薬として溶けたものは許容されてこなかったようです。ところが『六古窯』では、そのいびつさや、ゆらぎ、灰の落ちた跡も個性や味わいとして肯定し、そこに新しい価値を見出していった。それが茶陶における“景色”として結実していくわけです。つまり『六古窯』は、うつわの世界における日本人的な美意識のターニングポイントとも言えるのです」。「六古窯」には、作為的でない、土そのものの美しさ、純度の高い精神性が息づいている。

桃山時代の備前「種壺」(一陽窯 蔵)。農作物の種を保存するための壺で、茶の湯においては、水指しとして見立てられる。Photography Shinpei Kato 桃山時代の備前「種壺」(一陽窯 蔵)。農作物の種を保存するための壺で、茶の湯においては、水指しとして見立てられる。Photography Shinpei Kato

桃山時代の備前「種壺」(一陽窯 蔵)。農作物の種を保存するための壺で、茶の湯においては、水指しとして見立てられる。Photography Shinpei Kato

「日本人は、うつわを手で持ち上げて食事をしますよね。汁物の器なら、直接口をつけたりもする。これは、日本のやきもののルーツである朝鮮半島、中国大陸でも、現在は失われたスタイルだと思います。日本人は、体と器の距離が非常に近く、パーソナルなものとして捉えている。飯碗や湯のみ茶碗、さらにはマグカップのように自分専用の器があるのが、その証左です。季節や料理によって器を使い分け、器が演出のひとつになるのも、世界的に見て珍しいこと。そうした日本人の感性が、根っこの部分で『六古窯』を支えてきたのだと思います」。

瀬戸本業窯/(奥から)三彩スープ鉢、麦藁手茶碗、黄瀬戸石皿。瀬戸本業窯は、瀬戸で約300年続く窯元。民藝の思想に基づき、瀬戸焼の制作、販売を行う。 瀬戸本業窯/(奥から)三彩スープ鉢、麦藁手茶碗、黄瀬戸石皿。瀬戸本業窯は、瀬戸で約300年続く窯元。民藝の思想に基づき、瀬戸焼の制作、販売を行う。

瀬戸本業窯/(奥から)三彩スープ鉢、麦藁手茶碗、黄瀬戸石皿。瀬戸本業窯は、瀬戸で約300年続く窯元。民藝の思想に基づき、瀬戸焼の制作、販売を行う。Photography Shinpei Kato

「旅する、千年、六古窯火と人、土と人、水と人が出会った風景」
瀬戸 瀬戸市制施行90周年記念 瀬戸市美術館特別展
「日本六古窯を辿る-日本六古窯それぞれの歩み-」
会期 2019年8月3日(土)〜9月29日(日)
会場 瀬戸市美術館1階常設展示室・企画展示室1
展示 瀬戸窯・常滑窯・越前窯・信楽窯・丹波窯・備前窯の中世から近代にかけての作品約50点
入館料 大人:500円(20名以上の団体:400円)、高大生:300円(20名以上の団体:240円)

 

常滑 とこなめ陶の森 陶芸研究所企画展
「日本六古窯を辿る ‐常滑窯と諸窯の関係-」
会期 2019年8月3日(土)〜9月23日(月・祝)
会場 とこなめ陶の森陶芸研究所
展示 六古窯と中・近世諸窯(渥美窯・中津川窯・染屋焼)と現代作家作品(常滑焼及び染屋焼)約40点
入館料 無料
https://sixancientkilns.jp/

 

千年続く陶磁器窯の魅力〜六古窯(後編)につづく

Text by Yuki Ito

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