備前、一陽窯の窯焚き。十昼夜半もの間、薪をくべ続けて窯を焚く

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六古窯〜千年続く陶磁器窯の魅力(後編)

2019.8.29

世界中の陶芸家やファンを魅了。
暮らしを彩る六古窯の現在と未来

備前、一陽窯の窯焚き。十昼夜半もの間、薪をくべ続けて窯を焚く

ものづくりに真摯に取り組みながらも
暮らしに寄り添うことを忘れない作り手

中世から続く6つのやきものの産地「六古窯」は、産業的なやきものとしての“陶業”と、芸術、工芸的な側面としての“陶芸”の2つの要素を包含しながら、その歴史を紡いできた。時代の流れのなかで産地の存続を余儀なくされたことは幾度とありながらも存在し続けてこられたのは、そこにものづくりの精神性を受け継ぐつくり手が少なからずいたからだ。六古窯日本遺産活用協議会のクリエイティブ・ディレクター、高橋孝治は、「中世から続く歴史のある産地であることに誇りを持ちながらも、あぐらをかかず、いまの暮らしに活かすべく、ものづくりの本質を追求していく。そうしたつくり手とたくさん会って、話をして、それを産地の内外につなげ、使い手に、未来につなげていくことが、私に課せられた仕事だと思っています」と、力を込める。

越前 土本訓寛/焼き締め後手急須 道具としてのやきものを製作し続けている土本は、窯焚きの度に違う焼き締めの表情に、魅せられるという。Photography Shinpei Kato 越前 土本訓寛/焼き締め後手急須 道具としてのやきものを製作し続けている土本は、窯焚きの度に違う焼き締めの表情に、魅せられるという。Photography Shinpei Kato

越前 土本訓寛/焼き締め後手急須 道具としてのやきものを製作し続けている土本は、窯焚きの度に違う焼き締めの表情に、魅せられるという。Photography Shinpei Kato

「例えば、前職の仕事で初めて出会い、六古窯のプロジェクトでは備前の作家の一人として協同させていただいている、一陽窯の木村肇さん。一陽窯は、室町時代から続く備前焼窯元の六姓、木村家の伝統を受け継ぐ窯元のひとつです」。

一陽窯、木村肇の水挽き。主に、「ひよせ」と呼ばれる滑らかな田土を用いる。Photography Shinpei Kato 一陽窯、木村肇の水挽き。主に、「ひよせ」と呼ばれる滑らかな田土を用いる。Photography Shinpei Kato

一陽窯、木村肇の水挽き。主に、「ひよせ」と呼ばれる滑らかな田土を用いる。Photography Shinpei Kato

「陶芸家というと、窯から取り出したやきものをじっと見て、気に入らなければバーンと割っちゃうみたいな、少々エキセントリックなイメージを恥ずかしながら持っていたのですが、木村さんはまったく違いました。まず、暮らしや家族をとても大事にしていて、プロダクト、服飾、料理、酒、音楽、建築、落語など、さまざまなジャンルのものづくりのプロセスに関心をもち、自然環境に対する意識も高い。特に感動したのは、産地の定説やルールなど、“当たり前”とされることも、つくり手としてひとつひとつ実製作を通じて検証していく姿勢でやっている。木村さんの言葉を引用すると、『備前焼が100年の歴史しかないとしたら、先代、先々代の言うことをそのまま踏襲していいのかもしれない。でも、およそ1000年ある歴史のなかで、たった100年、200年前に言われていたことが、本当にずっと昔から言われてきたことなのかどうか。そういうことを改めて考えるのが、すごく面白い』」。


備前 木村肇(一陽窯)/すり鉢 子供の離乳食用のすり鉢を捜し求めたが、しっくりする既製品がなく自作したという作品。Photography Shinpei Kato 備前 木村肇(一陽窯)/すり鉢 子供の離乳食用のすり鉢を捜し求めたが、しっくりする既製品がなく自作したという作品。Photography Shinpei Kato

備前 木村肇(一陽窯)/すり鉢 子供の離乳食用のすり鉢を捜し求めたが、しっくりする既製品がなく自作したという作品。
Photography Shinpei Kato

「やきものの素材である土や木などが有限であるということについても、非常に切実感を持っていて、『目に見えて減っていく粘土を無駄に焼きたくない』くらいのことを言う。だからこそ、焼くのであれば、生活者の視点にたった、暮らしの役に立つものを焼きたいと。いまの時代、ものづくりの現場には、自然環境以外にもさまざまな課題がありますが、解決の糸口になるのは、このように俯瞰した見方であり、伝統を新しく捉えなおす試みではないかと思うのです。実際、木村さんが作っているものを見ると、備前焼のイメージとされる重厚で敷居の高いものと同一線上にありながらも、しつこくなく、産地の技術が現代の生活に添って変換されていると感じます」。

信楽 谷穹/信楽大壺 自身の製作において、中世の古信楽に表れる幽玄の美意識を体現させたいと考えている。 信楽 谷穹/信楽大壺 自身の製作において、中世の古信楽に表れる幽玄の美意識を体現させたいと考えている。

信楽 谷穹/信楽大壺 自身の製作において、中世の古信楽に表れる幽玄の美意識を体現させたいと考えている。


豊富なミュージアムや
海外の作家をも受け入れる育成機関。
やきものの“聖地”は世界にひらかれる

一方、世界は「六古窯」をどう見ているのか。前編にも記したように、日本は小さな国土のなかに驚くべき数の窯元がある“やきもの大国”であり、とりわけ「六古窯」は、やきものを志す人たちにとっては“聖地”のような存在だ。「欧米にもたくさんのつくり手がいますが、それは多くは、スタジオや作家個人という単位で、地域の産業となっている『六古窯』に限らず、やきもの産地を訪れてみたいというアーティストは非常に多いです。いまも地元の山や田んぼから粘土質の土を掘ってきて、手作りの薪窯で焼いているつくり手が多数いるのですから、やきものルーツを知るには最高の場所。また、やきもの関係のミュージアムが世界に類を見ないほど多く、古い資料がふんだんなことも『六古窯』の魅力です」。

山間の景観が美しい丹波焼の里、兵庫県丹波篠山市立杭地区にある兵庫陶芸美術館(右の建物) 山間の景観が美しい丹波焼の里、兵庫県丹波篠山市立杭地区にある兵庫陶芸美術館(右の建物)

山間の景観が美しい丹波焼の里、兵庫県丹波篠山市立杭地区にある兵庫陶芸美術館(右の建物)

「国内外の作家を受け入れる体制もあって、例えば、信楽のアーティスト・イン・レジデンス『滋賀県立陶芸の森』では、世界中の陶芸家を年間50人ほど受け入れています。私が住む常滑にも1960 年代に作られた『とこなめ陶の森 陶芸研究所』があり、開設当時から若手陶芸作家の育成に努めてきました。常滑を代表する陶芸家であり、世界的にも有名な鯉江良二さんは、その開設当初の職員です。鯉江さんに限らず、各産地に陶芸界のスーパースターのような作家さんがいるところも、『聖地』と呼ばれるゆえんでしょう。だから、少しでも多くの人に、産地を見に行って欲しい。やきものづくりの原点、多様性を見て、その空気を全身で感じて欲しいと思っています」。

常滑 鯉江良二/自然釉壺 常滑 鯉江良二/自然釉壺

常滑 鯉江良二/自然釉壺


六古窯の千年を紡いだ物語と作品を
俯瞰して旅する特別展が
瀬戸市と常滑市で開催中

「六古窯」は過去の文化遺産ではなく、いまに息づく産地だ。しかも、日帰りで行けるような場所に点在している。「旅する、千年、六古窯」プロジェクトでは、その活動の一環として、2019年8月3日(土)から9月29日(日)、特別展「旅する、千年、六古窯 -火と人、土と人、水と人が出会った風景-」を瀬戸市・常滑市にて開催。今回の展示では、会場となる瀬戸・常滑を中心に、六古窯の誕生から近代にかけて6つの窯業地がどのような歴史を歩んできたのかを、代表的な作品とともに概観。加えて、周辺の窯業地に大きな影響を与えた瀬戸窯、常滑窯の技術伝播の様相も明らかにしていく。展覧会の前後には、それぞれの地を歩き、火と人、土と人、水と人が出会った風景を、ぜひその目で確かめてほしい。

 

(敬称略)

瀬戸「灰釉菊花文四耳壷」(14世紀、瀬戸市所蔵) 瀬戸「灰釉菊花文四耳壷」(14世紀、瀬戸市所蔵)

瀬戸「灰釉菊花文四耳壷」(14世紀、瀬戸市所蔵) 瀬戸市美術館での展覧会に出品中

「旅する、千年、六古窯 火と人、土と人、水と人が出会った風景」
瀬戸 瀬戸市制施行90周年記念 瀬戸市美術館特別展
「日本六古窯を辿る-日本六古窯それぞれの歩み-」
会期 2019年8月3日(土)〜9月29日(日)
会場 瀬戸市美術館1階常設展示室・企画展示室1
展示 瀬戸窯・常滑窯・越前窯・信楽窯・丹波窯・備前窯の中世から近代にかけての作品約50点
入館料 大人:500円(20名以上の団体:400円)、高大生:300円(20名以上の団体:240円)

 

常滑 とこなめ陶の森陶芸研究所企画展
「日本六古窯を辿る ‐常滑窯と諸窯の関係-」
会期 2019年8月3日(土)〜9月23日(月・祝)
会場 とこなめ陶の森陶芸研究所
展示 六古窯と中・近世諸窯(渥美窯・中津川窯・染屋焼)と現代作家作品(常滑焼及び染屋焼)約40点
入館料 無料
https://sixancientkilns.jp/

 

千年続く陶磁器窯の魅力〜六古窯(前編)はこちら

Text by Yuki Ito

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