第2章の展示風景。
新素材研究所 © N.M.R.L./ Hiroshi Sugimoto + Tomoyuki Sakakida

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カルティエの新たなる創造(後編)

2019.10.10

杉本博司・榊田倫之の新素材研究所による
日本の素材と美の融合「カルティエ、時の結晶」

第2章の展示風景。
新素材研究所 © N.M.R.L./ Hiroshi Sugimoto + Tomoyuki Sakakida

時代を超えて、カルティエの美の世界観を鑑賞体験できる「カルティエ、時の結晶」が10月2日(水曜)から、国立新美術館で開催されている。会場構成を手掛けた新素材研究所の榊田倫之に「時」を回遊しながら作品を鑑賞する空間づくりについて、開催前の9月に話を聞いた。

アートピースとしてのジュエリー、そしてその向こう側

今回の展覧会では、会場を構成する力強いインスタレーションは舞台を提供するだけでなく、カルティエのジュエリーの見え方までも変容させる。「会場が国立の美術館なのですから、バックグラウンドやコマーシャル的な要素を排し、純粋に美術品として向き合える空間構成にします」と「新素研」の榊田は言う。「時の間」のミステリークロックと並んで、ところどころに「トレジャーピース」を杉本博司が日本の古美術と組み合わせて見せるコーナーがある。カルティエの現代ジュエリーがどのように響き合うのか、総合芸術である「しつらえ」のもたらす効果もまた見所の一つとなっている。

仏師に依頼し、神代杉などの銘木でジュエリーを飾るデコルテ部のトルソーを製作。 Photography by Ruriko Kusanagi 仏師に依頼し、神代杉などの銘木でジュエリーを飾るデコルテ部のトルソーを製作。 Photography by Ruriko Kusanagi

仏師に依頼し、神代杉などの銘木でジュエリーを飾るデコルテ部のトルソーを製作。
Photography by Ruriko Kusanagi

神代杉や屋久杉、神代欅で各ネックレスに合うよう角度や高さをオーダーメイド。木目がゆったりと襞打つ、仏像の一部が台座として用いられる。 Photography by Ruriko Kusanagi 神代杉や屋久杉、神代欅で各ネックレスに合うよう角度や高さをオーダーメイド。木目がゆったりと襞打つ、仏像の一部が台座として用いられる。 Photography by Ruriko Kusanagi

神代杉や屋久杉、神代欅で各ネックレスに合うよう角度や高さをオーダーメイド。木目がゆったりと襞打つ、あたかも仏像の一部のようなトルソーが台座として用いられる。
Photography by Ruriko Kusanagi


さて、序章の次に第1章「色と素材のトランスフォーメーション」が来る。絵画を鑑賞するのと同様な視線でジュエリーを眺められる。ここではカルティエの名を不滅のものにしたプラチナ×ダイヤモンドのホワイトジュエリーだけでなく、希少なゴールド×ステンレススティールの素材の革新的なコンビネーションや素材の豊かさには驚かされる。有機的なカワセミの羽細工やクラフツマンシップを堪能できるのもここになる。しかし、最も理解しやすいのは色のバランスだろう。カルティエの色彩と呼ばれるコントラスト豊かなブルー×グリーンの高貴な色の組み合わせの大胆さから、現代ジュエリーではミックスのバランスがより洗練された変化を遂げる。さらに繊細な色遣いや微妙なニュアンスも加わり、同系色のグラデーションのエナメル遣い(カマイユ)が生み出された。アーカイブの逸品であるカルティエ コレクションと現代のハイジュエリーを比較できるまたとない機会を得られるだけでも幸運といえる。実は現代のハイジュエリーは限られた顧客にだけに開かれているため、工房から顧客へ最短距離で届けられてしまう。全く一般には公開されない。それだけに今回の展覧会でアーカイブ ピースと現代作品を並列し、カルティエのクリエイションの変遷を見るのは本当に興味深い。時系列に歴史を追う従来の展示から脱却したこの新しい試みは、ジュエリーを装飾品のカテゴリーからもっと広い意味での美術品へと向かわせる。

≪ネックレス≫ カルティエ、2018年  ゴールド、ダイヤモンド、エメラルド、スピネル、ガーネット、ターコイズ、オニキス 個人蔵 Vincent Wulveryck © Cartier ≪ネックレス≫ カルティエ、2018年  ゴールド、ダイヤモンド、エメラルド、スピネル、ガーネット、ターコイズ、オニキス 個人蔵 Vincent Wulveryck © Cartier

≪ネックレス≫ カルティエ、2018年
ゴールド、ダイヤモンド、エメラルド、スピネル、ガーネット、ターコイズ、オニキス
個人蔵 Vincent Wulveryck © Cartier

ジュエリー愛好者だけでなく、アートラバーたちの関心を引く第2章「フォルムとデザイン」では、カルティエが20世紀初頭から幾何学をジュエリーに多用し、その先進性は現代作品ではさらに大胆さを増してくっきりと明瞭なフォルムに変換されるのを見ることができる。抽象化させ、デザインをクリアな美しさで見せることは何に繋がっていくのだろうか。輝きを動きのあるデザインに変え、視覚に新たな刺激を与える。整った形でありながら、時代の感性に添った美しさが変化してきたのをつぶさに感じるだろう。

≪「2本のフェーン(シダ)の葉」ブローチ≫ カルティエ パリ、1903年 プラチナ、ダイヤモンド  カルティエ コレクション Nils Herrmann, Cartier Collection © Cartier ≪「2本のフェーン(シダ)の葉」ブローチ≫ カルティエ パリ、1903年 プラチナ、ダイヤモンド  カルティエ コレクション Nils Herrmann, Cartier Collection © Cartier

≪「2本のフェーン(シダ)の葉」ブローチ≫ カルティエ パリ、1903年
プラチナ、ダイヤモンド
カルティエ コレクション Nils Herrmann, Cartier Collection © Cartier

ようやく最後の章「ユニヴァーサルな好奇心」に辿り着く。ここに来て初めて私たちはカルティエの全体像を知ることになる。というのは、カルティエのクリエイションの素となった数多くのモチーフはエジプトやアフリカ、中東そしてアジアではインド、中国、日本の文化を吸収し、カルティエのスタイルに置き換えられていることを発見する。印象派が浮世絵にインスピレーションを得たのと同様、カルティエのジュエリーは他国の文化を巧みに取り入れた。カルティエの最も先進的な精神は現代のカルティエの基盤を作ったルイ・カルティエの世界旅行に端を発する。アーカイブに残る彼の写真から冒険者の横顔を垣間見ることができる。こういう仕掛けはとても楽しい。そして最後に忘れてはならない「カルティエの動物園」がある。有名なパンテールを始め、鳥と昆虫、爬虫類、タイガーまでジュエリーの中でレリーフとなり、パターンとなって現代まで生命を得た動物たちは、顔の表情や姿に時代を反映し、変化が続いている。


≪ブレスレット≫ カルティエ、2017年 ゴールド、ダイヤモンド、ロッククリスタル 個人蔵 Vincent Wulveryck © Cartier ≪ブレスレット≫ カルティエ、2017年 ゴールド、ダイヤモンド、ロッククリスタル 個人蔵 Vincent Wulveryck © Cartier

≪ブレスレット≫ カルティエ、2017年
ゴールド、ダイヤモンド、ロッククリスタル
個人蔵 Vincent Wulveryck © Cartier

カルティエ コレクションのあるジュネーブ、そしてハイジュエリー工房のあるパリを訪れた後、新素研の榊田は「美術品としての価値を実感しました。実物の迫力とクラフツマンシップの卓越した技術は、訪れなければ分からないものです。連綿とつながるハイジュエリーの制作は想像以上のものでした」と語る。この人の手で作られる工芸的な世界は「新素研」の目指すところと一脈通じる。「全てが合理化されたことによって均質化され、これによって弊害がもたらされています。モノと対話していないために失われたものは余りに大きい。肌合いを感じ、その先にあるものを考える。これを感じてもらえたらと思います」。

第2章の展示の様子。 新素材研究所 © N.M.R.L./ Hiroshi Sugimoto + Tomoyuki Sakakida 第2章の展示の様子。 新素材研究所 © N.M.R.L./ Hiroshi Sugimoto + Tomoyuki Sakakida

第2章の展示の様子。
新素材研究所 © N.M.R.L./ Hiroshi Sugimoto + Tomoyuki Sakakida

歴史に淘汰されないジュエリーは人の一生を超えて存在し続ける。つまり所有者は一時的な所有者に過ぎない。カルティエのジュエリーがこうした価値と美しさを保ち続ける秘密を私たちが知るとしたら、それはモノを超えた世界観、時の結晶とは何かを知ることに等しい。

「カルティエ、時の結晶」
会期 2019年10月2日(水)~12月16日(月)
休館日 毎週火曜日(ただし10月22日(火・祝)は開館、10月23日(水)は休館)
開館時間 10時~18時(毎週金・土曜日は20時まで。入場は閉館の30分前まで)
会場 国立新美術館 企画展示室2E
観覧料(当日)一般1,600円 大学生1,200円 高校生800円 ※中学生以下および障害者手帳をご持参の方(付き添いの方1名含む)は無料。
https://Cartier2019.exhn.jp

 

→カルティエの新たなる創造(前編)はこちら

Text by Kioko Kobayashi
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