Experiences

Spotlight

食の宝庫・福井で出合った2つの新潮流

2023.1.19

黒龍酒蔵「ESHIKOTOプロジェクト」と気鋭フレンチ「ル・ジャルダン」の福井進出


2024年春の北陸新幹線の延伸が近づき、それを迎えるさまざまな動きが一段と活発になっている福井県。とりわけ老舗酒蔵の挑戦と気鋭のフレンチシェフの登場は大きな話題となっている。注目を浴び続けている、この二つのスポットに足を運んでみた。

 

 

九頭竜川を見下ろす高台に誕生したモダン建築

福井県吉田郡永平寺町。白山連峰に端を発する九頭竜川は、典型的な河岸段丘の地形を形成し、この永平寺町を流れる。穏やかに光る川面を見下ろす高台に、2022年6月、2棟のモダンな建築物が誕生した。「酒樂棟」「臥龍棟」とそれぞれ命名された建物は、「黒龍」の銘柄で知られる「黒龍酒蔵」が「ESHIKOTOプロジェクト」の先駆けとして手掛けたものだ。

 

 

「酒樂棟」にはカフェレストランとパティスリー、そしてショップが設けられ、「臥龍棟」はスパークリング日本酒を熟成させる酒蔵となっている。「ESHIKOTOプロジェクト」とは、「黒龍酒蔵」が中心となって、日本酒をキーワードとして福井の食文化を世界に発信していこうという試みだ。北陸新幹線が敦賀まで延伸する2024年以降には、醸造ラボやオーベルジュなどの建設も敷地内に予定されている。



「酒樂棟」のエントランス 「酒樂棟」のエントランス

「酒樂棟」のエントランス奥は九頭竜川を臨むウッドデッキが広がる。プロジェクト全体の敷地面積はおよそ3万坪で、「酒樂棟」「臥龍棟」の建物は約1万坪。



教会建築を思わせる空間に眠る、スパークリング日本酒

 

「臥龍棟」に足を踏み入れると、杉の無垢板で覆われた広大な空間が広がる(通常は非公開)。美しいシンメトリーを描く急勾配の天井が、ヨーロッパの教会建築にも似た厳かな空気感を醸しだす。設計を手掛けたのは、サイモン・コンドル。明治初期に来日し、鹿鳴館やニコライ堂などを設計したジョサイア・コンドルの玄孫である。イベントスペースとしても使われるこの空間の一画に、スパークリング日本酒を貯蔵するセラーが設けられている。「ESHIKOTO AWA」と名づけられたこのスパークリング日本酒が本格的に製造され始めたのは4年ほど前からとのこと。

 



日本酒の貯蔵セラー。 日本酒の貯蔵セラー。

白山から伐り出された樹齢200年の美山杉の巨木はカウンターとして使用。右手奥がスパークリング日本酒の貯蔵セラー。



「臥龍棟」の貯蔵セラー 「臥龍棟」の貯蔵セラー

「臥龍棟」の貯蔵セラーで眠る約8000本のスパークリング日本酒。地下には5万本貯蔵可能な蔵も設けられている。



バーカウンターで3種類の日本酒をテイスティング

 

「酒樂棟」には、テイスティングや商品購入のスペース「石田屋ESHIKOTO店」、カフェレストランとスィーツなどを販売する「acoya」が入る。ここでは3種類の日本酒をテイスティングすることができる(有料)。なかでも、ぜひ試してみたいのが、スパークリング日本酒。すっきりとしながらも、ふくよかで日本酒独特のまろやかな味わいは、この空間のみでテイスティング可能な銘柄である。ショップでは購入も可能。ずらりと並んだ「黒龍」ラインナップのなかには、ここ限定の商品もあり、お土産に最適だ。



テイスティングできる日本酒は3種類(1500円) テイスティングできる日本酒は3種類(1500円)

テイスティングできる日本酒は3種類(1500円)。スパークリング、純米酒、純米大吟醸などの飲み比べは実に楽しい。



ショップ ショップ

「永(とこしえ)」は、ここでしか手に入らない貴重な銘柄。ショップにはそんな限定品も置いてある。

 



黒龍吟醸豚や酒粕ソフトクリームに舌鼓

 

テイスティングスペースの隣が、カフェレストランとパティスリーの「acoya」。カフェレストランでは、黒龍の酒粕を飼料にして育てた黒龍吟醸豚を用いた昼膳や、酒粕を用いたソフトクリームなど、日本酒をキーワードとしつつも、お酒を飲むことができない人でも、料理やスイーツを楽しむことができる。もちろん、食前酒として日本酒を存分に味わうことも可能。ガラス越しに広がる景色を眺めながらの食事は、まさに至福のひととき。



黒龍大吟醸酒の酒粕に貴醸酒を加えたソフトクリーム。甘さ控えめで爽やかな余韻が残る。



黄金梅酒ケーキや酒粕ケーキ 黄金梅酒ケーキや酒粕ケーキ

黄金梅酒ケーキや酒粕ケーキなど、パティスリーの品も黒龍酒蔵ならではの品揃え。



「ESHIKOTOプロジェクト」は、福井の食文化の新たな発信拠点

 

「臥龍棟」と「酒樂棟」を巡り、「酒樂棟」の前面に広がるオープンデッキに出る。豊かに広がる田園地帯を縫い、滔々と流れる九頭竜川。「ESHIKOTO(えしこと)」の「えし」は「良い」という意味の古語。また、逆さに読むと「とこしえ」で、「永久」の意味でもあり、土地の象徴である「永平寺」の「永」でもある。水と米から生まれ、土地の風土と密接に結びつく酒造りの未来と福井の食文化を展望する「ESHIKOTOプロジェクト」。そのネーミングも立地も、まさにこれ以外のものは考えられない。流れる九頭竜川を見遣り、改めて強く感じた。



九頭竜川 九頭竜川

「酒樂棟」のエントランスから九頭竜川を望む。福井の自然が育む日本酒の里である。

ESHIKOTO(エシコト)

福井県吉田郡永平寺町下浄法寺第12号17
開店時間は各店舗に準ずる
毎週水曜日、第1・3・5火曜日定休



世界的な料理コンクール優勝シェフが厨房に立つフレンチレストラン
「Le jardin(ル・ジャルダン)」

 

福井市内のフレンチレストラン「ル・ジャルダン」が、2022年秋、リニューアルオープンした。それに伴い、シェフとして新たに厨房に立つことになったのが、堀内亮シェフだ。

 

 

堀内シェフは、2022年5月、世界的な料理コンクールのひとつである「ル・テタンジェ賞」国際コンクールで日本人では3人目となる優勝を果たした。その堀内シェフが新たに福井で手掛けるフレンチは、オープンしてからまだ半年も経たないうちに、日本全国から熱い注目を集めている。晩秋の午後、「ル・ジャルダン」を訪れ、渾身の一皿を堀内シェフに作っていただいた。

 

 



堀内亮シェフ 堀内亮シェフ

堀内亮シェフは1988年、京都生まれ。銀座「ロオジエ」等で経験を積んだ後、三つ星として名高い「Regis et Jacques Marcon」をはじめとするフランスの名店で5年働いた後帰国。「パレスホテル東京」の「エステール」のアシスタントシェフを務め、2022年4月に福井へ移住。



福井のブランド魚、若狭ぐじが絶品フレンチに
福井の冬の美味を堪能する

 

 

抑制が効いた白の世界に、ふわりと添えられたトリュフと三本の黒褐色のラインが際立つ。料理名は「若狭ぐじとトリュフのテリーヌ」。「若狭ぐじ」は「アマダイ」とも呼ばれる福井県を代表するブランド魚のひとつだ。白身と層をなしているラインもトリュフ。ナイフを入れる。ほろりと崩れる白身にトリュフの馥郁たる香りが加わり、旨味を含んだ白いソースが優しく寄り添う。

 

若狭ぐじのムースで包まれた白身とトリュフは低温で火入れされ、しっとりと柔らかなテリーヌとなり、若狭ぐじの骨で取った白ワインソースからは、ほのかに海の香りがする。開いた花のように見えるのは、ぐじの皮を油で揚げたもの。見事なまでのフレンチに昇華した、福井の食材を用いた一皿。そこには、世界コンクールで優勝を勝ち得た確かな技術と、斬新な発想が満ち溢れていた。



「若狭ぐじとトリュフのテリーヌ」 「若狭ぐじとトリュフのテリーヌ」

「若狭ぐじとトリュフのテリーヌ」。若狭ぐじの食感とトリュフの香りが口腔に広がる。



「鹿肉のロースト ノワゼットのクルート 黒ニンニクのアクセント」は、福井県池田町産の日本鹿に自家製のヘーゼルナッツペーストを纏わせてロース肉をロースト。ポワブラードソースに福井の黒ニンニクのピューレを使用。Courtesy of Le jardin



「六条大麦とイカの温かいサラダ 汐うに風味のエキューム」は、若狭湾のイカを細かくして六条大麦と炊いてリゾット仕立てに。その上に汐ウニの軽いエキューム(泡)を添えた一品。Courtesy of Le jardin

目指すは、遠方からでも足を運んでいただけるレストラン

 

京都生まれの堀内シェフがなぜ福井に?「私が一番尊敬する料理人である、レジス・マルコンさんの影響だと思います」と堀内シェフは語る。三ツ星レストランのオーナシェフで、「キノコの魔術師」とも世界的に賞されるマルコン氏は、来日した際に福井を訪れ、その食材の豊富さを絶賛したとされている。氏の下で3年間働き、副総料理長まで務めた堀内シェフが、その影響を受けたのは、ある意味では当然のことと言えよう。「師匠が絶賛したように、海のものや山のものがとても豊かな土地、それが福井です。パリから遠く離れた山の中にあるマルコンさんの店に世界中から人が集まってくるように、遠くからでも足を運んでいただけるようなレストランを目指します」。



ル・ジャルダン ル・ジャルダン

店名の通り手入れされた庭が、美しい空間と雰囲気を演出している。


Le jardin(ル・ジャルダン)
福井県福井市文京4-28-16
ランチ11:30~15:30 (LO13:30)/ディナー18:00~23:00(LO20:30)
火曜日、水曜日(祝日の場合は変更有)

 

老舗酒蔵の壮大なる取り組みと、気鋭のシェフが手掛けるフレンチ。今回訪れたこの二カ所が、食の宝庫と称される福井における話題のスポットだ。越前がにをはじめとする冬の美味が旬を迎えるこの時期、福井旅のコンテンツに、この二つを加えてはいかが。

 

 

 

 

Text by Masao Sakurai
Photography by Junko Ueda

最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。

ページの先頭へ

最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。