臼井氏と水野氏臼井氏と水野氏

JCCO

PREMIUM JAPAN AWARD

日本文化発信機構 JCCOが目指すもの

2026.7.15

機能美の先にあるもの 日本のデザインが世界に届くとき パナソニック ホールディングス執行役員 臼井重雄 × good design company代表 水野学

日本の優れた文化やものづくりを表彰し、世界へ発信するPremium Japan Award。その顔となるロゴなどのグラフィックは、受賞対象に引けを取らない水準であることが求められる。アワードを主催する一般社団法人日本文化推進機構(JCCO)の理事会には、国内外で高い評価を得る2人のデザイナーが名を連ねている。マツダ株式会社 シニアフェロー ブランドデザイン監修の前田育男氏と、パナソニック ホールディングス株式会社 執行役員 グループCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)の臼井重雄氏だ。

JCCOは、前田氏にアワードのトロフィーを、臼井氏にロゴを含むブランド・コミュニケーション全体の設計を託した。臼井氏はその骨子を組み立てたうえで、実際のロゴ制作を、公私にわたって親交の深い日本を代表するクリエイティブディレクターに委ねる。「くまモン」のキャラクターデザインや、ヘラルボニー、三井不動産、相鉄グループなどのブランディングを手がけた、good design company代表・水野学氏である。

 

 

長い付き合いながら、メディア上で語り合うのは初めてという2人に、アワードに込める思いに始まって、日本のデザインの特徴や世界進出をする上で重要なことについて話を聞いた。

 



Premium Japan Award、JCCOへの思い

 

 

まずはJCCO理事の就任を真っ先に快諾してくれたという臼井氏に、このアワードにかける思いを聞いた。

 

臼井 僕は中国・上海に9年いて、日本を外から見ていました。日本は、外から見たら素晴らしいものがいっぱいあるのに、それがうまく外に発信できていないと強く感じていました。海外に行くと「日本っていいよね」とよく言われます。でも、今、海外に行くと日本人が一時期に比べると全然いなくて、日本を外から見ている人がとても少ないと感じています。

 

情報が溢れて、本当にいいもの以外も伝わってしまう時代。だからこそ、しっかりとしたメンバーで、ちゃんとした基準とフィルターで厳選して良いものを選び、日本の良さを自信を持って世界に伝えていきたい。

 

そんな臼井氏の熱い想いのこもったアワードのロゴを、水野氏はどうデザインしたのか。

 

 

水野 臼井さんが、日本国内の狭い話ではなく、それをどう世界に広げていくかを強く考えていらっしゃる。そこは聞いていて、とても感銘を受けました。日本のユニークなものを、世界へ――。それが、いちばん大事なところですよね。

 

僕は日本の文化は、シンプルにして象徴化する(シンボライズする)のが得意だと思っています。家紋がその代表ですよね。だから、このロゴでもそうしたのですが、モチーフとして日本でいちばんシンボルになり得るものは何かを考えたとき、やっぱり富士山に行きつきました。何百年、いや下手をすれば何千年も、シンボルとして君臨してきたものをモチーフにするのが、正しいやり方だなと思ったんです。富士山は、立派なのに優雅で、美しいのにすごく力強い。相反するものを兼ね備えています。その「あり方」までが、Premium Japanが目指すところに近いんじゃないかと思って、モチーフに選びました。



水野氏 水野氏

コンセプト設計から企画開発、グラフィック、プロダクト、空間、広告宣伝まで領域を横断したトータルディレクションを手掛ける、水野学氏。



トロフィー トロフィー

good design companyのオフィスには、受賞トロフィーの一部が飾られている。








海外が見る「日本のデザイン」とは

 

 

海外の人と話すと「日本はデザインが素晴らしい」という声を聞くことが多い。日本のデザインを、二人はどう見ているのか。

 

臼井 海外の人が言う「デザイン」は、ポスターやプロダクトそのものを指しているわけではないと思うんですよね。たとえば日本食なら、味の良さだけでなく、その一皿を映像として切り取ったときの美しさ、店内での人の動き方(動線)、料理人の所作まで含めて「デザインがいい」と言われている気がします。

 

 

水野 目を向けてくれているのは、装飾的なもの(飾り立てたもの)よりも、むしろ機能的なもののほうだと思っています。余計なものを「そぎ落とす」というのは、日本人が昔から当たり前にやってきた、伝統と言ってもいいくらいのことです。街並みも、礼儀作法も、和食も、最小限まで削ぎ落とされたものに対して「いいね」と言ってもらえることが多い。無印良品の影響もあるかもしれませんが、もっと過去のものにさかのぼっても、同じことを感じます。

 

 

臼井 海外とは逆ですよね。『アベンジャーズ』の敵はどんどん巨大になっていく。それに対して『ドラゴンボール』の最も強い敵は、いちばんツルッとしている。土器でいえば、装飾の多い縄文式土器より、後の時代の弥生式土器のほうがスッキリしている。シンプルなもののほうが進化した形だという感覚が、日本人には刷り込まれている気がします。

 

 

なぜ、日本は削ぎ落とす方向へ進んだのか。水野氏は二つの理由を挙げる。

 

 

水野 一つは「受け入れる文化」。八百万(やおよろず)の神がいる日本人は、一つの視点だけでなく多方向の視点でものを受け入れるところがあります。そうすると、視点の違いに関係のない共通項である機能を重んじるようになってくる。気候風土に目を向けても日本は国土が南北に長く、四季がはっきりしている。この気候の多様性が、違いを超越した特徴である機能に目を向けさせるのだと思います。

 




「作れば売れる」から「伝える」へ

 

 

だが、今、機能だけでは物は売れない時代に入りつつある。

 

水野 機能を重視するのは良いことで、当たり前のことです。でも、日本は少しそこに依存しすぎているところがあります。
著述家の山口周さんが言っているように、役に立つ、つまり機能を満たすのは当然やったうえで、そこにストーリーや世界観(そのブランドらしい、一貫した世界の見え方)という「意味」を、同時に乗せていくことで価値が生まれる。それこそがこれからの日本のデザインや企業文化にとって大切なことでしょう。

 

 

臼井 先日、コペンハーゲンのデザインの祭典「3 Days of Design」で、デンマークの家具ブランド、フリッツ・ハンセンの本社を訪ねたのですが、過去の資料(アーカイブ)をきちんと残していて、自分たちの歴史をとても大切にしている。日本人は新しいもの好きで、どんどん前に進みたがるところがあります。本当は振り返ってみると、過去に価値あるものがたくさんあるのに、そうしたものを大事にしていない。実は特に海外へ発信するときには、それを大事にするべきでしょう。

 

 

そんな臼井氏も、元々は機能重視のものづくりをする環境に置かれ悩み、水野氏に助けを求めたことから二人の縁が始まったという。

 

 

臼井 もともと僕は、製品そのものの形をつくるプロダクトデザインの出身で、「いい商品を作れば売れるはず」というメーカーの価値観がありました。メーカーでは、作り手の思いのうち、機能的なところだけが次の担当者へとバトンタッチされて、その背後にあるストーリーや、お客さんに届けたかった思いは、なかなか伝わることがありません。商品の魅力をどう伝えるか――コミュニケーションデザインの役職を担うことになったとき、知見も何もなくて、水野さんに相談したんです。そうしたら真っ先にこう言われました。「伝えたいことばかり言っていて、相手が知りたいことを、語っていないですよね」と。

 

ものの価値を使う人が知りたいと思うストーリーとして届ける。この「ブランディング」の視点が、日本の多くの企業には欠けているというのが、今では二人の共通の認識だ。

 

 




臼井氏 臼井氏

入社後、A V機器や家電のデザインを担当し、その後、中国・上海デザインセンター立ち上げや家電デザインの変革に尽力。現在はパナソニック ホールディングスのグループCCOを務める、臼井重雄氏。






ブランディングの正体

 

 

では、「ブランディング」とは何か。誤解されがちなこの言葉を、水野氏は捉え直す。

 

 

水野 日本人はブランドというと、高級ブランドを思い浮かべるか、作り手側なら、マークを作ってあちこちに貼っていくようなイメージです。でも、まったくそういうことではありません。徹頭徹尾、すべてにこだわり抜いて、ストーリーを乗せ、世界観を作り上げていくことなんです。ポルシェやロレックスのカタログを見ると、その徹底ぶりがよくわかりますよね。本来なら、これは日本人が得意なことでした。でも、戦後の高度経済成長を超えて大量生産・大量消費の時代に入る中で、それが失われてしまった。物を作れば売れる時代だったので、難しい世界観を守るとか、ストーリーを組み立てるといった考え方が、いらなくなってしまったんだと思います。

 

 

でも今は違います。今、成功している企業を見渡してみるとトヨタが生み出したレクサスのように、デザインやブランディングを捨ててこなかった企業こそが光り続けている気がします。

 

 

臼井 ブランドやデザインが入ると、会社側の目線だけではない、お客さんや社会がどう見るかという視点に目が行くようになる。安く、効率的に、生産性高く、という会社の論理だけではない視点です。だから、時に社内ではひどく面倒がられます。本当は価値(バリュー)の話をしているのに、費用(コスト)だと受け取られてしまうことが多いんです。世の中は、価値を大事にする時代と、生産性・効率化が大事という2つの時代の波があって、その2つの波をうまく乗り越えていくことが大事だと感じています。

 

 

水野 ただ、企業には税務上、一年ごとに区切りが来る。決算や株主総会も含めて、一年、あるいは四半期という単位で成果を見なければならない。これは、時間をかけて積み上げるブランディングにとっては、あまりプラスにならない。会社の価値を短期で見るのか、長期で積み上げていくものとして見るのかの2つの視点を持つことが重要だと思っています。



プライベートでも交流がある二人。 プライベートでも交流がある二人。

プライベートでも交流がある二人の会話には、信頼感と思いやりの心が溢れている。




見えない進化 ── 変わらないために変わる

 

 

では、海外の人たちの心に響く日本のデザイン、ブランディングとはどんなものなのか。

 

 

臼井 今回、Premium Japan Awardの審査をしていて強く感じたのは、「変わらずにあり続けるものは、実は変わっている」ということです。テレビである俳優さんを見て家族が、ふと「昔から変わらずきれいね」と言ったとき、当時中学生だった長男が「変わっているから、変わっていないんだよ。何もしなければ老化していく」と言って「良いことを言うな」と思ったことがあるのですが、伝統工芸で「今見ても良い」と思われているものは、実は昔と見比べるとすごく変わっている。
京都の茶筒の老舗・開化堂さんは、筒に蓋をのせると自重で静かに閉まることが有名ですが、昔はその蓋が落ちる時間が4秒だったそうなのですが、今の人はせっかちで4秒も待てないので、現在は3秒に縮めているそうです。職人さんが手で微調整するだけで、その速さを変えられるのも凄いですが、時代を超えて続いているものは、このようにちゃんと変化を続けています。

 

同様にテクニクスのターンテーブル(レコードプレーヤー)「SL-1200」は、外観こそ昔からほとんど変わっていないんですが、中の部品は大きく変わっています。精度を上げて、見えないところで進化させているんです。

 

その変化を見極めるのが、審査でもとても大事だと感じました。

 

ちなみにオーディオやカメラ、時計は、中国や韓国がなかなか参入できないカテゴリーとなっています。和光さんにグランドセイコー スタジオ雫石を見学させてもらったときも驚きましたが、職人さんが、ゼンマイやネジやバネなどミクロの世界でちゃんと仕事をしているんですよね。

 

 

水野 そうですね。腕時計こそ文化の塊ですよね。スマートフォンやApple Watchもある時代に、(機械式)腕時計がもたらす機能は「時間を計る」ことにほぼ集約されている。それにも関わらずいまも人々を強く惹きつける。デザインが、機能だけでなく、装飾や文化、時間の積み重ねに対しても意味を持つ。

 

「変わらずにあり続けるものは、実は変わっている」と言う文脈で言えば、僕は京都がその好事例だと思います。行くたびに違う街になっていると思うくらいに、見えにくいところが絶えず更新されていると感じます。

 










AIの時代と「問いを立てる力」

 

 

見えない進化を支えてきた作り手の営みに、いま大きな変化が押し寄せている。AIだ。

 

 

臼井 AIが入ってきて、デザインやブランドといったクリエイティブの領域は、思った以上のスピードで変わりますよね。厄介なのは、AIが「それらしいけれど、どこか変なもの」を、そこそこ作れてしまうこと。専門性のある人は「これはおかしい」とわかるけれど、ない人には同じように見えてしまう。そういうものが世の中に氾濫してくると、正直、恐ろしくなる。お金も人も足りない地方などでは、すでにそうしたものが溢れ始めているとも聞きます。

 

 

水野 グラフィックは、AIで結構、手軽に作れてしまう。プロダクトはまだ、完成品まで仕上げるのが難しいので、AIには壁がある。ただ、作ることがどんどん簡単になっていく分、そこから何を「選ぶ」のか――良し悪しを見極める審美眼が、これからめちゃくちゃ重要になってくると思います。

 

 

臼井 自分はモノを作る時、ただ流れに合わせて突っ走るのではなく、「自分たちが本当に行きたい場所」から逆算して、それをどう作るのかを考える「バックキャスティング」を大事にしています。そうしないと、変なところに流れ着いてしまう。僕はもともとこの逆算型だったので、水野さんの本を読んだ時、考え方がすごく似ていると感じました。

 

 

水野 「何が売れるか」から考えると、たいしたものは生まれない。どんな世の中にしたいか、どんな暮らしを変えたいか――大きな志(大義)から逆算して作ったものほど、長く売れ、長く求められることが多いと信じています。

 

 

この「逆算」と「世界観づくり」を、日本人ははるか昔から実践してきた、と水野氏は葛飾北斎を例に語る。

 

 

水野 葛飾北斎は、現実と想像の間にあるものを描いているんですよね。有名な「神奈川沖浪裏」の、あの大波。実際にはあんな光景は見られない。想像の中に現実を溶け込ませ、独自の世界観を立ち上げている。こうした世界づくりは、日本人がずっと続けてきた伝統文化で、その本質はエンターテインメントなんです。作り手が「言いたいこと」ではなく、受け手が「見たいもの・知りたいもの」を差し出したものが、流行り、残っていく。AIには立てられない「問い」を立てる力――そこに力を注げるのは、まだしばらくは人間なのかなと思っています。

 







「耐久性」という強度

 

 

最後に、これからのPremium Japan Awardの受賞者・候補者へのアドバイスを求めると水野氏は「耐久性」という言葉を挙げた。

 

 

水野 求められるのは、自分を表現したい人よりも、人に求められるものを作ろうとする人のほうだという気がします。僕は最近、「耐久性」という言葉をよく使うんです。

 

世の中には耐久性ではなく、瞬発力で成立するものもあります。例えばセールのチラシは瞬発力が大事です。その代わり長持ちはしません。

 

これに対して、文化について考える場合、長く生き延びる「強度」のあるもののほうがいいと思います。それは多くの場合、静かで動きの少ないデザインだと思っていますが、北斎のように派手で動的なのに長く残るものもある。僕はそれを「モンスター」と呼んでいます(笑)。
何百年も使われ続けるザルや金槌、あるいは着物のように、見飽きない・使い飽きない、必要とされ続ける長さ。その「強度」こそが、Premium Japanの評価軸の一つになるんじゃないかと思います。

 

 

臼井 そうした良いモノをしっかりと見極めて世界に発信していきたいですね。

 

 






水野 学 Manabu Mizuno

good design company代表。クリエイティブディレクター、クリエイティブコンサルタント
1972年東京生まれ。長期的なブランド戦略を軸に、コンセプト設計から企画開発、グラフィック、プロダクト、空間、広告宣伝まで、領域を横断したトータルディレクションを手掛ける。主な仕事にパナソニック、相鉄グループ、熊本県「くまモン」、三井不動産、HOTEL THE MITSUI、JR東日本「JRE POINT」、中川政七商店、Oisix、久原本家「茅乃舎」、黒木本店、再春館製薬所「ドモホルンリンクル」ほか。国内外で受賞歴多数。著書に『もう、時間に追われない。 逆算時間術』(ダイヤモンド社)『センスは知識からはじまる』『世界観をつくる「感性×知性」の仕事術』〈山口周氏との共著〉(共に朝日新聞出版)など。

 

 

臼井重雄 Shigeo Usui

執行役員 グループCCO(兼)ブランド・コミュニケーション戦略グループ長
1967年静岡生まれ。1990年 松下電器産業(現パナソニック)に入社し、AV機器や家電のデザインを担当。中国・上海デザインセンター立ち上げ、現地発のデザインを生み出す組織へと成長させる。2021年 執行役員に就任し、パナソニックグループのデザイン経営を主導。2026年1月よりグループCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)としてデザイン、ブランド・コミュニケーション領域において、一気通貫した戦略を構築するとともに、企業価値を高める役割を担う。

 

 

Text by Nobuyuki Hayashi
Photos by Toshiyuki Furuya

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