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成駒屋三兄弟がゆく!

2026.7.9

成駒屋三兄弟がゆく! 第1回 僕たちが作る「神谷町小歌舞伎」とは

右から中村橋之助さん、中村歌之助さん、中村福之助さん。「サンパール荒川」で行われた「歌舞伎鑑賞教室」で三人揃って「仮名手本忠臣蔵」に出演した後に。( photo by  Toshiyuki Furuya)

 


昭和、平成の歌舞伎を代表する女方(おんながた)で、人間国宝にも認定された七代目中村芝翫(しかん)を祖父に、八代目中村芝翫を父に持つ、中村橋之助、福之助、歌之助の三兄弟。名門「成駒屋」のホープとして、彼らはいま大きな注目を集めている。三人は、家の芸を受け継ぎながら、歌舞伎俳優として日々研鑽を重ねる。さらに、自ら企画・出演する自主公演「神谷町小歌舞伎」にも力を注ぎ、新たな歌舞伎の魅力を発信。一方、舞台を離れれば、いわゆる「Z世代」の若者だ。プライベートではさまざまな趣味を持ち、それぞれの世界を楽しんでいる。そんな三人が考える歌舞伎とは、芸とは、成駒屋とは。そして普段の生活は?連載「成駒屋三兄弟がゆく!」。今後とも、乞い願い上げ奉りまする。


4回目を迎えた、自主公演「神谷町小歌舞伎」



酒乱の癖があるために、固く禁酒を誓っていた魚屋宗五郎は、妹の死という悲報に接し、迷ったあげくに酒を口にする。酔いが回り大酒乱へと変じた彼は、妹の死の元凶となった大名家へ殴り込みをかける。人気歌舞伎演目のひとつ『魚屋宗五郎』。主人公の宗五郎を演じるのは橋之助さん。舞台は浅草公会堂。今年5月に行われた「神谷町小歌舞伎」でのことだ。


「神谷町小歌舞伎」とは、三兄弟が中心となって行う自主公演で、今年で4回目を迎える。橋之助さんを座頭に、福之助さん、歌之助さん、そして成駒屋神谷町一門が脇を固め、いつか歌舞伎座の本公演で演じたいと願う演目の大役に、初役として挑む公演だ。2023年に同じく浅草公会堂で始まったこの会は、回を重ねるごとに新たな挑戦を続け、いまでは歌舞伎ファンの間でも、5月初旬の恒例公演として認知されるようになってきた。


神谷町小歌舞伎 神谷町小歌舞伎

第4回「神谷町小歌舞伎」での『魚屋宗五郎』では兄弟三人が揃い踏み。左から橋之助さん(宗五郎)、福之助さん(浦戸十左衛門)、歌之助さん(磯部主計之助)。


今年のテーマは「お酒を与えないでください」



今回の神谷町小歌舞伎は「お酒を与えないでください」がテーマ。ゆえに演目は『魚屋宗五郎』と、やはり大酒呑みで酒乱の主人公が登場す『悪太郎』となった。

妹の死という悲しみを背負いつつ次第に酩酊していく宗五郎。その酔態は観客に笑いを誘う一方で、時折見せる癒すことのできない悲しみが、深い哀切をも感じさせる。



「酔って言うんじゃございませんが、たかが一万五千石の木っ端大名が、何の罪もない人間をなぶり殺しにしやがって」

悲痛な叫びとともに、酔いで目の据わった宗五郎が客席を睨(ね)め回す。生真面目な職人、江戸っ子の洒脱、そして酔いがもたらした怒りと暴力性。宗五郎が兼ね備えるいくつもの「貌」が絡み合う、一見単純そうで難しいキャラクター。「世話物」の代表ともされる役を橋之助さんは見事に演じきった。




神谷町小歌舞伎 神谷町小歌舞伎

悲しみのあまり、長らく断っていた酒に手を出す宗五郎と、それを心配そうに見遣る女房のおはま。おはまを演じるのは、中村莟玉さん。

 「僕の宗五郎がダメだったら、すべてがダメになる」




「自分が中心となって最初から最後まで指揮棒を振り、話の展開を自ら作っていく役はあまり他にないような気がします。それだけ演じていて気持ちのよい役です。ただ、酩酊ぶりを過度に表現してもいけない。酔いを一生懸命演じがちですが、どこかで抑えなければならない。父からはそれを厳しく言われました。また、僕の宗五郎がダメだったら、今回の神谷町小歌舞伎や成駒屋神谷町一門すべてがダメになってしまう、そんな責任重大な役でした。そして何よりも、今回の神谷町小歌舞伎は、福之助、歌之助の二人に感謝です」



その感謝には理由がある。これまでの神谷町小歌舞伎では、主役を福之助さん、歌之助さんに回し、橋之助さんは脇役に回り、運営など役以外のさまざまな方面で公演全体を支えてきた。今年は支え役を弟二人に依頼し、自身は役に徹することにした。それだけ、宗五郎にかける思いが強かった、ということでもある。


「念願だった『悪太郎』を勤めさせていただきました」



「僕は念願だった『悪太郎』を演じました。じつは、2021年に猿之助のお兄さんが歌舞伎座で悪太郎をなさった際、修行者智蓮坊役で出させていただきました。間近で猿之助のお兄さんの素晴らしい芝居と踊りを肌で感じ、自分もいつかはこの役をやってみたいと思っていたのです。父以外の先輩と2人っきりで舞台に立つのは初めてでしたので、父とはまた違う魅力に圧倒されました。猿之助さんも『いつか悪太郎をやってね』と言ってくださり、それが今回やっと実現しました」


神谷町小歌舞伎 神谷町小歌舞伎

歌舞伎舞踊劇『悪太郎』で、体幹の良さを感じさせる踊りを披露した福之助さん。



5年越しの思いがかなった福之助さんは、千穐楽の舞台挨拶でその思いを吐露した。幼いころから猿之助一門が率いる澤瀉屋(おもだかや)の舞台に数多く出演し、芸を学んだ福之助さんにとって、澤㵼屋の家の芸とされる歌舞伎舞踊劇「猿翁十種」のひとつである歌舞伎舞踊劇『悪太郎』を演じることは、ひと際感慨深いことだった。

酒に酔いながらも踊る。しかも愛嬌よく下品にならず。福之助さんの体幹の良さがいかんなく発揮された舞台には、大きな拍手が寄せられた。


「祖父の七代目芝翫から芸を教わったことはあまりありませんでしたが……」


歌舞伎座で福之助さんが演じた修行者智蓮坊は、今回は歌之助さんが演じた。

大酒呑みの悪太郎に翻弄される修行者の哀れみと可笑しみを、優美で上品な踊りで表現した歌之助さん。その姿に、踊りの名手といわれた祖父の七代目芝翫を重ね合わせた人も少なくない。

「僕は幼いころからずっと祖父にくっついていました。祖父も晩年には、僕を傍に置きたいと言って1年くらいは楽屋も一緒でした。ですので、楽屋での祖父の立ち居振る舞いは鮮明な記憶となって残っています。まだまだ小さかったので、芸を教わるということはあまりありませんでしたが……」


神谷町小歌舞伎 神谷町小歌舞伎

『悪太郎』では、修行者の哀れみと可笑しみを、優美で上品な踊で表現した歌之助さん。



歌之助さんはそう語るが、人間国宝の楽屋で時間をともにしたという得難い幼少期は、現在の歌之助さんに間違いなく少なからぬ痕跡を残しているはずだ。また、そうした幼少期が影響したのか、歌之助さんは二人の兄から「古典芸能オタク」とからかわれるほど、歌舞伎を中心とする古典芸能に詳しい。そんな歌之助さんが茶目っ気たっぷりに語る。

「祖父から芸は教えてもらいませんでしたが、受け継いだものがあります。それは携帯の番号。祖父が亡くなってからしばらくして、成駒屋一門の方に何気なく電話したら、メチャ驚かれましたよ。『旦那、迷われましたか!』って」

 


「来年の神谷町小歌舞伎は新宿『シアターミラノ座』で行います」長男・中村橋之助



今年の「神谷町小歌舞伎」は、5月1日から3日までの公演を大好評で終えた。第5回となる2027年は、会場を新宿の「シアターミラノ座」に移し、公演数も4月29日から5月5日までの全10公演(予定)と大幅に増えるという、大きな転換期を迎える。演目に関しては秋ころに発表される予定だ。





神谷町小歌舞伎 神谷町小歌舞伎

( photo by  Toshiyuki Furuya)

橋之助さんは語る。

「『神谷町小歌舞伎』を単なる発表会にはしたくない、という思いが僕たちにはあります。成駒屋を応援してくださるためにお客様が足を運んでくださるのはありがたいのですが、それだけでなく、純粋に歌舞伎を楽しむために劇場へ来てくださる、という時間にしたい。僕たちがやりたい役という、いわばエゴだけで演目を決めるようなことはしたくありません。ですので、今年のような世話物もやりつつ、舞踊劇も織り交ぜながら徐々に演目を広げ、古典を基本として難しいものにも挑戦していきたいと思っています。それを続けることが、ゆくゆくは成駒屋神谷町一門で歌舞伎座本公演を1カ月行う、という夢にもつながります」


「ポスターやパンフレットの印刷物、SNSの動画編集は僕が担当しました」次男・中村福之助




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( photo by  Toshiyuki Furuya)

浅草公会堂の客席は、歌舞伎座の本公演に比べ、若い人が多かった。そこには福之助さんの次のような思いが働いている。

「僕たちと同世代の若者にもっともっと気軽に観ていただきたい。ですので会場で販売するグッズ関係の料金は、かなりこだわりました。クリアファイルやステッカーなどは学生さんがおこづかいで買うことができる範囲の1000円以内。グッズ開発担当の歌之助には、その値段を守ってもらいました。開発を歌之助が担当したのは、若者の好みは一番若い彼が一番よく知っているからです。おかげでグッズは完売でした」




グッズ関係だけではない。自主公演は、チケット販売の管理、ポスターやパンフレットの制作、会場運営などすべて三人が中心となって進めなければならない。まさしく手作り公演なのだ。橋之助さんが魚屋宗五郎の役作りに徹したため、こうした作業のほとんどを福之助さんと歌之助さんが担当した。印刷物の制作とSNS用の動画編集は福之助さんが、会場運営全般は歌之助さんが担った。


「公演を支えてくださる方々に感謝の気持ちで一杯です」三男・中村歌之助



神谷町小歌舞伎 神谷町小歌舞伎

( photo by  Toshiyuki Furuya)

「これまでは末っ子ということで兄二人に任せ、少し甘えていた部分もありました。今回、初めて運営にも携わり、とても勉強になりました。公演には役者以外の多くの人が関わり、その人たちのお陰で成り立っている、ということを実感した次第です。規模が大きい歌舞伎座の本公演の場合は、もっと大勢の人が関わっています。その方々に感謝の気持ちで一杯です。と同時に、役に対する向き合い方、行動、稽古での姿勢など、興行に関わるすべてを僕たち3人がきちんとし、それを成駒屋のお弟子さんたちに示さなければなりません。そうすることで、成駒屋神谷町一門がよりパワーアップしていく。自主公演は、そのよい機会だと思います」


プライベートでは、兄のことを「にいに」と呼ぶ二人


借り物ではない自分の言葉で、折り目正しく語る三人。歌舞伎や芸に関する質問に対する受け答えの文脈のなかでは、お互いのことを橋之助、福之助、歌之助と、役者名で呼ぶ。その一方で、話題がプライベートなことに及ぶと、福之助さんと歌之助さんは、橋之助さんのことを、親しげに「にいに」と呼ぶ。そこには、国生(くにお)、宗生(むねお)、宜生(よしお)という本名で語るのがふさわしい、仲の良い三兄弟の暖かな絆が感じられる。



神谷町三兄弟 神谷町三兄弟

( photo by  Toshiyuki Furuya)



歌舞伎俳優としての成駒屋三兄弟の活動にスポットを当てる一方で、そんな三人の日常や三者三様の「推し活」など、普段の様子も紹介していく。ちなみに、橋之助こと国生さんは自身のチームを持ちキャッチャーを買って出るほどの野球好きと同時に宝塚に熱をあげている。福之助こと宗生さんもやはり野球愛好家で、とりわけヤクルトスワローズの熱烈なファンであり、祖父・芝翫も愛した競馬にも目がない。そして歌之助こと宜生さんは玄人顔負けの料理と趣味の域を超えた古典芸能探求。次回以降はそんな三人の素顔を逐次リポートしていきます。乞うご期待!!



中村橋之助

1995年生まれ。本名中村国生。2000年9月歌舞伎座にて初代中村国生を名乗り初舞台。2016年10月に四代目中村橋之助を襲名する。父、八代目芝翫譲りの力強く豪快な演技が魅力の立役で、2026年1月の「浅草新春歌舞伎」では前年に引き続き座頭を務める。近年は演劇、テレビドラマ、映画など歌舞伎以外の舞台にも挑戦。今年4月には、女優で元「乃木坂46」の能條愛未さんと結婚発表し話題を呼ぶ。



中村福之助

1997年生まれ。本名中村宗生。2000年9月歌舞伎座にて初代中村宗生を名乗り初舞台。2016年10月に三代目中村福之助を襲名する。体幹の強さと踊りのキレに定評があり、2026年1月の新橋演舞場での「新春大歌舞伎」では『鳴神』の主役に抜擢され注目を集める。また古典のみならず、スーパー歌舞伎などにも積極的に出演し芸風を広める。野球をはじめスポーツ全般に興味があり三兄弟のムードメーカー的存在。



中村歌之助

2001年生まれ。本名中村宜生。2004年9月歌舞伎座にて初代中村宜生を名乗り初舞台。2016年10月に四代目中村歌之助を襲名する。子役時代から数多くの舞台を勤め、襲名後は清々しい若手立役として高く評価されている。動的な兄二人に対し、どちらかと言えば静的で、「常に歌舞伎のことを考えている」と本人が言うほど、歌舞伎に対する探求心を持つ。



構成/執筆:櫻井正朗

『婦人画報』元編集長代理。陶芸や漆芸など、日本の伝統工芸をはじめ、茶道や歌舞伎などさまざまな日本文化の取材・原稿執筆を担当する。現在ではフリーランスの編集者として、書籍、雑誌、広告制作に携わる。「プレミアムジャパン」では主に伝統工芸・旅行関係の記事を執筆。








































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