小豆島の中山千枚田に向かい合うように立つアート作品。台湾の作家、ワン・ウェンチー(王文志)による「小豆島の恋」。

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海と空と大地、アートの島・小豆島へ(前編)

2019.6.18

自然とアートが響きあう小豆島で体験する「瀬戸内国際芸術祭 Setouchi Triennale 2019」

小豆島の中山千枚田に向かい合うように立つアート作品。台湾の作家、ワン・ウェンチー(王文志)による「小豆島の恋」。

島の風土と暮らし、空と海、光と風――。
この土地のあらゆる要素と呼応し、いっそう輝く瀬戸内国際芸術祭を体感する。

ふたたび、活気ある美しい島へと変えていく、芸術の力
3年に一度開催される瀬戸内国際芸術祭へ

2019年は、3年に一度の瀬戸内国際芸術祭の開催年。期間は春、夏、秋と3つの会期に分かれている。夏は7月19日~8月25日、秋は9月28日~11月4日に開催される。

 

瀬戸内海に浮かぶ12の島と2つの港(高松港・宇野港)を舞台に、世界各地の作家による多数のアート作品が屋内外に展示されている。思い思いに移動しながら巡り、楽しむという趣向だ。広域にわたるため、観たいものを選んで特定の島を巡る、何回かに分けて各島を訪れる、または長く滞在してすべてを観るなど、さまざまな楽しみ方がある。

 

作品は、大きな構造物や彫刻から、公共トイレとして機能する建物、宿泊できる古民家、レストランのランチ、踊りやパフォーマンス、太鼓の演奏、映画鑑賞とディナー付きのツアーまで、表現も形態も幅広い。恒久的な展示から、特定日時の各種イベントまで多彩だ。

 

会期中は国内外から多くのアート愛好家、瀬戸内国際芸術祭のファンが訪れる。2010年の初回から回を重ねるごとに大きなうねりを見せ、来訪者が瀬戸内の風土と人に出会う場としても、ダイナミックに発展してきた。瀬戸内海にインスパイアされ、この土地でなければ生まれない作品群を通して、「美術という方法で日本に希望を与える」という総合ディレクター、北川フラムの意欲と実践は確かな歩みを見せている。

フェリーで高松港から小豆島へと向かう。空と海が溶け合うひととき。 フェリーで高松港から小豆島へと向かう。空と海が溶け合うひととき。

フェリーで高松港から小豆島へと向かう。空と海が溶け合うひととき。


テーマは「海の復権」
作家の感性+瀬戸内海=独自の作品群に出合う喜び

作品が誕生する過程は、各作家にそれぞれの島や港の特色、土地の生活、文化、歴史を知ってもらうことから始まる。作家は場所を選択し、住民と対面した後に制作を開始する。作品は、初回や2,3回目に制作されて今も展示されているものもあり、時の流れの中での変化や作品と再会する喜びを感じさせてくれる。

 

瀬戸内海は穏やかで美しく、誰の心も優しく和ませる。だがこの地もまた近代化の波の中で自然破壊、人口減少、漁業の衰退といった問題を抱えるようになった。だからこそ、芸術祭は「海の復権」をテーマに掲げている。

島々が浮かぶ穏やかな瀬戸内海。心和む景観が広がる。 島々が浮かぶ穏やかな瀬戸内海。心和む景観が広がる。

島々が浮かぶ穏やかな瀬戸内海。心和む景観が広がる。

瀬戸内海、そして小豆島が経験してきた沈滞する側面をまっすぐ見つめ、土地の人に寄り添うというこの祭典の根底にある想いには、深い共感を抱く。地元の人を巻き込み、外からやってくる作家や鑑賞者を魅了する芸術や美術の力は、確実に瀬戸内海の島々を活気づかせている。芸術祭を訪れたことをきっかけに、この地に魅せられ、都会から移住する人も増えている。

 

作家が感性と力を込めた作品に出逢い、心を動かされ、土地の美食と心地よい空間にも満たされる。目に映るのは、海と山、陽光と星空。その旅は、この島々を誰にとっても忘れがたいものとして胸に刻む。

 

自分が何を好きで、美しいと感じ、何を問題とし、何に刺激を受けるのか。アートは自分の内面も耕し、心を旅する水先案内人にもなってくれる。

海、空、大地そして芸術
自然と融合するという挑戦を目撃する
2019年、小豆島で出合える作品群紹介

小豆島では11のエリアで作品展示が行われている。4月~5月の春会期に小豆島で展示された作品をいくつかピックアップした。いずれも引き続き、夏・秋の会期も展示される作品だ。

「辿り着く向こう岸―シャン・ヤンの航海企画展」
シャン・ヤン(向阳)(中国)

辿り着く向こう岸―シャン・ヤンの航海企画展 辿り着く向こう岸―シャン・ヤンの航海企画展

高松と小豆島を結ぶ港のひとつ、草壁(くさかべ)港に降り立ってすぐに出会うのが、中国の作家シャン・ヤンによる古い漁船と家具を組み合わせた屋外作品だ。

 

1960年代後半、子供時代に作家は母親と小さな漁船に乗って父親を捜しに行った体験を持つ。船は彼にとって心安らぐ彼岸への導くものだ。船の脇にそびえる、中国の伝統的な家具を積み上げた塔(灯台)の作品の美しさにも圧倒される。人や生き物を新天地へと誘う船。今作品が港のすぐ近くにあることで、いっそう感慨深いものとなっている。


「花寿波島(はなすわじま)の秘密」
康夏奈(こう・かな)(日本)

花寿波島(はなすわじま)の秘密 花寿波島(はなすわじま)の秘密

三都(みと)半島にある「小豆島ふるさと村」館内の展示作品。半島沖に浮かぶ無人島・花寿波島をモチーフにした絵画が16角形の逆円錐形の内側に描かれている。はしごを登って上から、また下の中央空間から鑑賞できる。幻想的な青のグラデーションが美しい。

「潮耳荘」(しおみみそう)
伊東敏光+康夏奈+広島市立大学芸術学部有志

潮耳荘 潮耳荘

三都半島の浜辺に置かれたホルン型の収音装置が、木で組み立てられた建物内部に波や船の音を伝える作品。子供にも大人にも人気だ。

「小豆島の恋」
ワン・ウェンチー(王文志)(台湾)

小豆島の恋 小豆島の恋

中山地区に広がる千枚田を見上げるように建つ巨大なドーム状の作品。約4千本の竹が使われ、竹の伐採に地元の人々が協力して制作された。竹を編んだ高さ15mのドーム内側に入ることができ、木漏れ日が降りそそぐ中、竹を敷き詰めた床で寝転がる人、読書する人がいた。

「オリーブのリーゼント」
清水久和(しみず・ひさかず)(日本)

オリーブのリーゼント オリーブのリーゼント

オリーブ畑に置かれた、髪型がリーゼントでオリーブ型の顔をした立体作品。無人販売の屋台でもあり、顔の一部のくぼんだ場所に野菜や果物が置かれていることもある。脇にはリーゼントのカツラが置かれていることもあり、かぶって写真を撮る人も多いユニークな作品。


福武ハウス

1980年代後半から直島を中心に斬新なアート活動を展開してきたベネッセアートサイト直島/株式会社ベネッセホールディングス、公益財団法人 福武財団。2013年から小豆島の旧福田小学校を「福武ハウス」として再生し、アジア諸地域と福田地区がつながるプロジェクトを開始した。今期は、建築家の西沢立衛が改装した2階空間にアジア・ギャラリーを開設し、「眼にみえる魂-ベネッセアートサイト直島のアジアコレクションを中心に」を開催している。シンガポールビエンナーレでのベネッセ賞に輝いた作家の作品をはじめ、世界が注目するアジアの現代美術を堪能できる。食を通じてアジア諸地域と地元住民、来訪者をつなぐ「福田アジア食堂」も併設している。

福武ハウスの正面入口。インドネシアのアーティスト、インディゲリラによる作品「Sahabat Alam/Friend of Nature」が迎える。元小学校の建物は当時の面影を色濃く残しながら、モダンに改装されている。 福武ハウスの正面入口。インドネシアのアーティスト、インディゲリラによる作品「Sahabat Alam/Friend of Nature」が迎える。元小学校の建物は当時の面影を色濃く残しながら、モダンに改装されている。

福武ハウスの正面入口。インドネシアのアーティスト、インディゲリラによる作品「Sahabat Alam/Friend of Nature」が迎える 。元小学校の建物は当時の面影を色濃く残しながら、モダンに改装されている。

2階での企画展「眼に見える魂」でのインドネシアの作家、ヘリ・ドノの作品「The Odyssey of Heridonology」 2階での企画展「眼に見える魂」でのインドネシアの作家、ヘリ・ドノの作品「The Odyssey of Heridonology」

2階での企画展「眼に見える魂」でのインドネシアの作家、ヘリ・ドノの作品「The Odyssey of Heridonology」

 

福武ハウス
http://benesse-artsite.jp/art/fukutakehouse.html

(敬称略)

 

瀬戸内国際芸術祭 2019 Setouchi Triennale 2019

テーマは「海の復権」。会期は春・夏・秋の3会期で計107日間開催される。開催地は、瀬戸内海の12の島+高松(香川県)・宇野(岡山県)。本島・高見島・粟島・伊吹島は秋会期のみの開催となる。
春(ふれあう春) 4月26日(金)~5月26日(日)終了
夏(あつまる夏) 7月19日(金)~8月25日(日)38日間
秋(ひろがる秋) 9月28日(土)~11月4日(月)38日間
https://setouchi-artfest.jp/

 

取材協力:小豆島町役場

 

海と空と大地、アートの島・小豆島へ(中編)へつづく

Text by Misuzu Yamagishi
Photography by Noriko Kawase

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