「五感のリゾート、五感の共同体」に向かって、新見隆が見た風景

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北山ひとみが描く新時代プレミアムリゾート

2019.12.23

2. 「五感のリゾート、五感の共同体」に向かって、新見隆が見た風景

数々の美術館において注目の展覧会を手がけてきた、美術界の異才と呼ばれる新見 隆は、北山ひとみ・実優母子と共に、アートビオトープ那須の未来を描いている一人だ。また毎年開催している山のシューレのディレクションなども手掛けている。新見が考えるリゾートの未来形とアートビオトープ那須の魅力を綴る。

 

文・新見 隆

「ディアスポラ」が意味するものとは?

現代は、高度に多種多様なものが混ざり合って、まさしく「多様化」の坩堝(るつぼ)にある時代だろう。そして、天変地異や災害が相次ぎ、地球温暖化の弊害は、私どもの身体感覚の至近距離にある。かの、スエーデンの少女、グレタ・トゥーンベリ嬢が、「これ以上、地球環境の劣化を次世代に放っておくのなら、あなたがたを、絶対に許さない」と国連で泣きながら訴えたように、彼女が地球自体の、一つの生命としての苦しみを実感する果敢な姿勢は、世界中を動かしつつある通りである。

 

「日本人とは、何か?」という質問を、授業で美大生にする。逆に「あなたの、部族とは何か?」という問いも。彼らはかなり、しっかりじっくり自分の問題と考えて、正解に近い言葉を導きだす。曰く、「政治的法律的にある種、決められた日本という土地に、現在住む人すべて」、あるいは、「百年後に、ここを古里と思う人」。

 

二番目の問いの正解は、「モンゴロイド」、つまり赤ちゃんのお尻が青い、文化人類学的にいう、チベットあたりからシベリアを経て、ベーリング海峡を何百年かけて渡り、カナダのエスキモーになり、アメリカではインディアンになり、マヤから、インカまでの、所謂、「モンゴロイド何千年?バンド」の、私たち自身である、と。

 

先般、大分で、竹田出身の歌人、川野里子さんと対談した。彼女の最新歌集に、『硝子の島』がある。3.11以降的な、現代日本の迷妄を問う、深い洞察や叫びにみちた歌集だ。彼女も私も語りながら発したのは、近代以降の私ども人間は、すべてどの国に属そうが、戦乱や貧困や迫害で実際に故国を出た人たちだけじゃなく、すべて故郷喪失者、ディアスポラであるのじゃないか、という実感、共感であった。

 

日米を行き来して、老若男女が出会う、未来的な五感の芸術、庭の彫刻を目指した、イサム・ノグチ。彼はその庭を、地球から外の、何処か別の惑星から眺めるような、ある種哀しい、けれど、絶望を乗り越えるような強い眼差しで見ていたのではないか?それが、未来のディアスポラの超克(ちょうこく)、の一つの示唆であるとしたら、これからの人間の連帯とは、国や人種を超えた、五感による共感共同体になるのではないだろうか?


「五感の共同体」を目指して、新たなリゾートを形づくる

畏姉でもある北山ひとみさん、実優さん母娘と私どもは、十数年前、語り合って、那須の清冽な自然の残る、横沢の渓流の流れのほとりで、ある小さな芸術村を立ちあげた。非営利的な文化共同体である、「アートビオトープ那須」だ。

2007年にオープンした「アートビオトープ那須」。体験学習型のアートレジデンスとして、近年注目されているアーティストの滞在制作を支援する「アーティスト・イン・レジデンスプログラム」を先駆けて開催している。 2007年にオープンした「アートビオトープ那須」。体験学習型のアートレジデンスとして、近年注目されているアーティストの滞在制作を支援する「アーティスト・イン・レジデンスプログラム」を先駆けて開催している。

2007年にオープンした「アートビオトープ那須」。体験学習型のアートレジデンスとして、近年注目されているアーティストの滞在制作を支援する「アーティスト・イン・レジデンスプログラム」を先駆けて開催している。

陶芸とガラスの工房を併設した、誰にでも開かれた、新しい自然のなかでのステイを提供するワークショップ的リゾート、つまり、文化リゾートの先駆的実験である。アーティスト・イン・レジデンスからは幾多の若手作家が育ち、羽ばたき、広く一般に開かれた、夏のオープン・スクール「山のシューレ」には、数多くの老若男女が集った。

吹きガラス、サンドキャスト、バーナーワーク、サンドブラストなど、宿泊客も様々な作品づくりに挑戦できるガラススタジオがある。 吹きガラス、サンドキャスト、バーナーワーク、サンドブラストなど、宿泊客も様々な作品づくりに挑戦できるガラススタジオがある。

吹きガラス、サンドキャスト、バーナーワーク、サンドブラストなど、宿泊客も様々な作品づくりに挑戦できるガラススタジオがある。

画期的な、「自然を素材とした」未来的体験ミュージアムである「水庭」も、異色の俊英建築家、石上純也の手によって成った。来夏には、坂茂によるコテージや、レストラン棟も起動して、伝説的な「二期リゾート」の未来形が、また那須に出現する。

 

これらの思想的源には、ヨーロッパ近代にあった、都市化や機械化によって分断されつつあった、自然と人間の肉体を再び結び合わせるための、一大対抗文化運動であった、あれらの芸術家村、アーティスト・コロニーの一群があった。その典型に、北イタリアはマジョーレ湖畔に生まれた、アスコーナがあった。元は結核療養のための、森林浴サナトリウムがあって、そこに世紀末の元祖ピッピーたちが入り込んだ。ヌーディズム、菜食主義、モダン・ダンスの実験など。20世紀の革命家たち、舞踊のイザドラ・ダンカン、神秘思想家、人間革命を目指したルドルフ・シュタイナー、詩人ヘルマン・ヘッセなどが集った。(註1)

 

その萌芽こそが、あの戦後カウンター・カルチャーの大運動であった、1960年代の対抗文化の波を経由して、今、21世紀に繋がろうとしているのではないだろうか。


(註1)
亡きハロルド・ゼーマンが企画した「アスコーナ」展図録や、マーティン・グリーンの名著『真理の山—アスコーナ対抗文化年代記』(国書刊行会、進藤英樹訳、1998)に詳しく、そこから学んで借りた。

 

→次回は、近藤高弘(陶芸家)です。

 

 

(敬称略)

Profile

新見隆 Ryu Niimi
武蔵野美術大学教養文化・学芸員課程教授、元大分県立美術館館長、フリーランス・キュレーター、美術・デザイン評論家、イサム・ノグチ庭園美術館学芸顧問。アートビオトープ那須文化顧問。

1958年生まれ。西武美術館・セゾン美術館の学芸員として、「バウハウス 1919-1933」「イサム・ノグチと北大路魯山人」などの展覧会を企画。著書に『空間のジャポニズム』『モダニズム庭園と建築をめぐる断章』『イサム・ノグチー庭の芸術への旅』など。2011年「ウィーン工房展 1903-1932」展(パナソニック電工汐留ミュージアム)で西洋美術振興財団賞を受賞。

アートビオトープ那須 https://www.artbiotop.jp/

Text Ryu Niimi
Photography by Niki Resort

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