京都の老舗が世界のハイエンド・マーケットを手中に。西陣織「細尾」の挑戦

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12代目細尾真孝が拓く西陣織の未来(前編)

2019.11.19

京都の老舗が世界のハイエンド・マーケットを手中に。西陣織「細尾」の挑戦

伝統工芸品が新たな可能性を世界に見つける

元禄年間(1688年)に創業した西陣織の老舗「細尾」は、約330年にわたって京都・西陣の地でその伝統を守りながらも技術革新、世界マーケットへの拡大と挑戦を続けている。その陣頭指揮を執っているのが、細尾の12代目となる細尾真孝だ。西陣織の魅力を世界へ発信し、新たな可能性を探りながら、今年完成した新拠点「HOSOO FLAGSHIP STORE」を通して、新らたな西陣織の未来を切り拓いている。

 

「西陣織は京都に1200年受け継がれる先染めの織物です。糸を染め、薄く伸ばした金や銀を和紙に貼った『箔』を作り、織って……など、20もの工程をそれぞれの職人が担い、ひとつの反物へと完成させていきます。それは、ダイヤモンドの原石をカットして宝石の輝きを最大化するように、光の反射を意図的にデザインして織物の構造を作ることで、布に立体的なストラクチャーを持たせていきます。この立体感は他の織物にはない西陣織独自のもので、見る角度によって違う表情が生まれることが何よりもの特徴です」。西陣織は古くから貴族や武士、裕福な町人たちによって育くまれ、贅と技の限りを尽くして受け継がれてきた伝統工芸の極みといえる。

糸は均一なものではなく、太い糸や平らな糸などを織り分け、10~15のレイヤーを重ねて多層的に構造する。 糸は均一なものではなく、太い糸や平らな糸などを織り分け、10~15のレイヤーを重ねて多層的に構造する。

西陣織の象徴でもある「箔」と呼ばれる素材。和紙に金箔・銀箔を手作業で一枚ずつ貼り、それを細かく裁断し、糸状にする。

西陣織は生糸の製造から、糸染めなど20もの工程があり、それぞれのマスタークラフトマンによって仕上げられていく。 西陣織は生糸の製造から、糸染めなど20もの工程があり、それぞれのマスタークラフトマンによって仕上げられていく。

西陣織は生糸の製造から、糸染めなど20もの工程があり、それぞれのマスタークラフトマンによって仕上げられていく。


織屋として創業した「細尾」は、大正時代には帯や着物の卸売業をも兼ねるようになっていたが、時代の流れ共に着物のマーケットは縮小していく。そこで世界へ目を向けていこうと発想を転換したのは現在の「細尾」の社長で、真孝の父である細尾真生だった。「西陣織のポテンシャルは間違いなく高い。2000年代に入る頃から、テキスタイルとしても十分に魅力的なはずだと考えた父は、西陣織の海外進出を狙っていました。その頃から私も家業に携わりはじめたのです」。海外進出の皮切りは2006年。毎年パリで開催されているインテリアの見本市「メゾン・エ・オブジェ」への出展だった。どんな提案をしたら世界が西陣織に関心を持ってくれるだろうかと考えて出展を決めたのは、西陣織を使ったソファだった。「しかし問題になったのが西陣織の伝統的な生地幅でした。通常帯の幅は32cmが一般的です。しかしこれではソファにしたときに生地の継ぎ目が表に出てしまうのです」。この32㎝幅の問題を抱えたままではあったが、翌年はクッションを出品。これが老舗百貨店の目に止まって引き合いを受けたことが自信へとつながっていったと語る。

京都府上京区の西陣と呼ばれるエリアにあるショールーム「House of Hosoo」。 京都府上京区の西陣と呼ばれるエリアにあるショールーム「House of Hosoo」。

京都府上京区の西陣と呼ばれるエリアにある工房、「House of Hosoo」。


西陣織を世界に広めた150cm幅の実現

「細尾」にとって大きな転機となったのが2008年のフランス・ルーブル宮 国立装飾美術館で開かれた展覧会、「感性 Kansei-Japan Design Exhibition」へ帯を出品したことだった。「その翌年、ニューヨークを巡回した際、世界的に活躍する建築家のピーター・マリノが西陣織のテクスチャーの美しさに興味を持ち、西陣織の技術を生かしたテキスタイル開発の依頼を受けました」。しかし、現状の32cm幅のままでは西陣織の未来はないと考えた細尾真孝は、テキスタイルのスタンダートとなる150cm幅の織機を開発することを決意し、およそ1年の年月をかけて完成させた。

大学を卒業後、音楽の道へ進んだ細尾真孝。そのチャレンジングな創造性を生かして、家業の西陣織「細尾」を世界へ羽ばたかせていく。 大学を卒業後、音楽の道へ進んだ細尾真孝。そのチャレンジングな創造性を生かして、家業の西陣織「細尾」を世界へ羽ばたかせていく。

大学を卒業後、音楽の道へ進んだ細尾真孝。そのチャレンジングな創造性を生かして、家業の西陣織「細尾」を世界へ羽ばたかせていく。

ピーター・マリノから依頼を受けたテキスタイルは、ディオールの旗艦店を彩る壁紙として採用されることになった。これを機に着物の西陣織から、インテリアファブリック、また洋服の生地としてその可能性を広げることができた。その後もディオールをはじめ、シャネルなどのハイブランドの洋服の素材として、またザ・リッツ・カールトンやアマンなどのラグジュアリーホテルのインテリアファブリックとして、世界の西陣織へと昇華していった。

ザ・リッツ・カールトン東京のプレジデンシャル スイートの寝室の壁には「細尾」の西陣織が使用されている。 ザ・リッツ・カールトン東京のプレジデンシャル スイートの寝室の壁には「細尾」の西陣織が使用されている。

ザ・リッツ・カールトン東京のプレジデンシャル スイートの寝室の壁には「細尾」の西陣織が使用されている。

「HOSOO FLAGSHIP STORE」で展開するファニチャーはデンマークのOeOがデザインを手がけている。「西陣織の素材があって成立する、ミニマリステックなデザイン」(細尾真孝)。 「HOSOO FLAGSHIP STORE」で展開するファニチャーはデンマークのOeOがデザインを手がけている。「西陣織の素材があって成立する、ミニマリステックなデザイン」(細尾真孝)。

「HOSOO FLAGSHIP STORE」で展開するファニチャーはデンマークのOeOがデザインを手がけている。「西陣織の素材があって成立する、ミニマリステックなデザイン」(細尾真孝)。


これまでに「細尾」が創作したテキスタイルは約200種類を超えた。「コンセプトに掲げているのは『Ⅿore than Textile』です。人々が見たことのない美しい織物を作ること、また、今の時代にしかできない西陣織を作ることを常に目指しています」。今年からオランダ人デザイナー、メイ・エンゲルギールをパートナーに迎え、新作に取り組んでいる。「メイ氏はカラースキム(色彩計画)という概念を織物に取り入れるスペシャリスト。今回の新作は今まで西陣織になかったカラースキームという考えを取り入れ、コレクションすべての作品が呼応しあい、色が響き合うようなものとなっています」。

「HOSOO FLAGSHIP STORE」2階ギャラリーで12月20日から次のコレクションが発表される。来年のコレクションの制作に向けて、マエ・エンゲルへ―ルの1ヶ月に渡るレジデンスが予定されている。 「HOSOO FLAGSHIP STORE」2階ギャラリーで12月20日から次のコレクションが発表される。来年のコレクションの制作に向けて、マエ・エンゲルへ―ルの1ヶ月に渡るレジデンスが予定されている。

その新作は「HOSOO FLAGSHIP STORE」2階ギャラリーで12月20日から「Colortage」と名付けた展覧会として発表される。

若い頃は家業を継ぐ気はなかったという細尾真孝が、西陣織という伝統工芸の世界へ戻ってから10年が経った。同時に、京都の伝統工芸の後継者6名で活動するプロジェクトユニット「GO ON」での活動も大事にしている。メンバーは茶筒(開化堂・八木隆裕)、竹工芸(公長齋小菅・小菅達之)、木工芸(中川木工芸・中川周士)、京金網(金網つじ・辻 徹)、茶陶(朝日焼十六世・松林豊斎)、そして西陣織(細尾・細尾真孝)と、若き担い手ばかりだ。横のつながりがあまりなかったという京都の伝統工芸の世界で、同世代で同じように海外進出へ挑戦しているのなら一緒に取り組もう、と誕生したユニットが「GO ON」。それぞれが独立しつつも緩やかに繋がり、伝統技を新たな素材と融合させてものづくりに挑んでいる。「伝統工芸が次世代へと受け継がれるためには、挑戦し続けることが必要。そのための刺激や勇気を享受し合える仲間です」。2012年に活動をスタートした「GO ON」は、海外のデザイナーやパナソニックなどの企業とコラボレーションすることで、伝統工芸に新たな価値観をもたらしている。

 

(敬称略)

 

→12代目細尾真孝が拓く西陣織の未来(後編)

細尾真孝 Masataka Hosoo
細尾常務取締役 マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ・ディレクターズフェロー
1978年、西陣織老舗の細尾家に生まれる。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後フィレンツェに留学し、2008年に細尾に入社。2009年より新規事業を担当。帯の技術、素材をベースにしたファブリックを海外に向けて展開し、建築家、ピーター・マリノ氏のディオール、シャネルの店舗に使用される。2012年、「GO ON」の一員として国内外へ伝統工芸を広める活動をスタートさせる。2014年、日経ビジネス誌「日本の主役 100人」に選出。2016年よりMITのディレクターズフェローに就任。
http://www.hosoo.co.jp/

HOSOO FLAGSHIP STORE
京都市中京区柿本町412
075-221-8888
営業時間10:30〜18:00
日曜、祝日、年末年始休

Text by Mako Yamato
Photography by © HOSOO .Ltd.,
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