フードイベント「ジェリーナズ」フードイベント「ジェリーナズ」

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世界のガストロノミーの潮流を知る(後編)

2020.1.29

フードイベント「ジェリーナズ」で、世界のトップシェフと熱狂した夜

最新テーマは「レシピに旅をさせてコラボレーションする」。

世界38か国(17のタイムゾーン)、138のレストラン、148人のシェフが参加して、世界同時多発的に開催された一夜限りのフードイベント「The Grand Gelinaz Shuffle(ザ・グランド・ジェリーナズ・シャッフル)」(以下ジェリーナズ)。東京からは「NARISAWA(ナリサワ)」の成澤由浩、「傅」の長谷川在佑、「Il Ristorante-Luca Fantin(イル・リストランテ-ルカ・ファンティン)のLuca Fantin(ルカ・ファンティン)、「鮨 m」の中村導昌、「炭火割烹 白坂」の井伊秀樹、イベント限定店舗を仮オープンしたSergior Meza(セルジオ・メザ)、日曜劇場『グランメゾン東京』(TBS系)の料理監修で知名度を上げた「INUA(イヌア)」のThomas Frebel(トーマス・フレベル)、そして「Alter Ego(アルテレーゴ)」徳吉洋二の8名が参戦した。

 

2019年のキャッチフレーズは「Nobody Move!」。過去のイベントは、参加シェフたちが厨房を交換するかたちで開催されたが「大勢のシェフが飛行機で移動するのはエコではない」というサステナブルな考えと「シェフはよりローカルに密着する」という将来的な予測に基づき、「レシピに旅をさせてコラボレーションする」という、今回初めての実験的なアイデアに至った。


ジェリーナズのイメージビジュアル。レシピをシャッフルし、レシピが世界を飛んだ。モデルは今回の参加シェフで、2017年に「アジアのベストレストラン50」で最優秀女性シェフ賞に輝いた香港「ハッピー・パラダイス」のメイ・チョウ。 ジェリーナズのイメージビジュアル。レシピをシャッフルし、レシピが世界を飛んだ。モデルは今回の参加シェフで、2017年に「アジアのベストレストラン50」で最優秀女性シェフ賞に輝いた香港「ハッピー・パラダイス」のメイ・チョウ。

ジェリーナズのイメージビジュアル。レシピをシャッフルし、レシピが世界を飛んだ。モデルは今回の参加シェフで、2017年に「アジアのベストレストラン50」で最優秀女性シェフ賞に輝いた香港「ハッピー・パラダイス」のメイ・チョウ。

すべてのガストロノミストを歓迎する開かれたイベント「ジェリーナズ」

ジェリーナズ最高責任者で、世界的に名を知られるフードライターのAndrea Petrini(アンドレア・ペトリーニ)によると「国際的な感覚に優れ、イベントのコンセプトを理解し、共にガストロノミー界の未来を盛り上げていけるシェフ」を自ら選び出し、電話やメールで直接参加を依頼した。

 

予約をオープンにしたのも特徴だ。一般的に、コラボレーションやポップアップといった日時限定の特別なイベントは、限られた席数に対して参加希望者が多いことから、どうしても常連客が優先されるといったクローズドな条件下で開かれることが多い。

「ジェリーナズ」の最高責任者を務める、フードライターのアンドレア・ペトリーニ(Andrea Petrini)。「世界のベストレストラン50(The World’s  50  Best  Restaurants)」のフランス支部会長を長年務め、昨年は「ワールド・レストラン・アワーズ(The World Restaurant Awards)」を創設した人物でもある。 「ジェリーナズ」の最高責任者を務める、フードライターのアンドレア・ペトリーニ(Andrea Petrini)。「世界のベストレストラン50(The World’s  50  Best  Restaurants)」のフランス支部会長を長年務め、昨年は「ワールド・レストラン・アワーズ(The World Restaurant Awards)」を創設した人物でもある。

「ジェリーナズ」の最高責任者を務める、フードライターのアンドレア・ペトリーニ(Andrea Petrini)。「世界のベストレストラン50(The World’s 50 Best Restaurants)」のフランス支部会長を長年務め、昨年は「ワールド・レストラン・アワーズ(The World Restaurant Awards)」を創設した人物でもある。

しかし、「ジェリーナズ」は、公式ウェブサイトで世界同時に予約の受け付けを開始した。つまり早い者勝ちで、申し込めば誰でも参加できる。残念ながら東京では、事前に十分な告知がされなかったことや、英語のウェブサイトでユーロ決済が必要だったことなどから、一般のゲストにはややハードルが高く、結果的に他のイベントと変わらないような出席者が中心にはなったが、「アルテレーゴ」には、徳吉の世界的な活躍に憧れる調理師専門学校の学生たちも駆けつけた。若い世代は、つてを使って潜り込むことはできなくても、インターネットには強いのだ。

 

さらにペトリーニは、ゲストにも前代未聞の呼びかけを行った。「ゲストはシェフたちの苦戦する姿を見て、応援したり冷やかしたり、キッチンに乱入したり、テーブルで歌ったり踊ったり、それをソーシャルメディアで世界中に拡散して、特別な一夜を共に盛り上げなくてはいけません」。


「アルテレーゴ」徳吉洋二が「ジェリーナズ」でみせた類稀な才能と魅力

上記の前提を踏まえて、私が参加を決めたのは「アルテレーゴ」徳吉洋二が開いたディナーだ。なぜ「アルテレーゴ」なのか。あくまでも個人的な意見だが、参考になれば嬉しい。

ミラノに「Ristorante TOKUYOSHI」をオープンし、わずか10ヵ月で日本人初のイタリアのミシュラン一ツ星を獲得した徳吉洋二。2019年2月に「Alter Ego」を神保町にオープンし、スーシェフを勤めていた平山秀仁をヘッドシェフに迎えた。 ミラノに「Ristorante TOKUYOSHI」をオープンし、わずか10ヵ月で日本人初のイタリアのミシュラン一ツ星を獲得した徳吉洋二。2019年2月に「Alter Ego」を神保町にオープンし、スーシェフを勤めていた平山秀仁をヘッドシェフに迎えた。

ミラノに「Ristorante TOKUYOSHI」をオープンし、わずか10ヵ月で日本人初のイタリアのミシュラン一ツ星を獲得した徳吉洋二。2019年2月に「Alter Ego」を神保町にオープンし、スーシェフを勤めていた平山秀仁をヘッドシェフに迎えた。

このようなイベントは、率直に言うと当たり外れが大きい。料理の完成度の高さやおいしさだけを求めるなら、それはその料理人が経験を重ねてきた料理ジャンル(徳吉ならイタリアン)で、長い時間をかけて試作を重ね、考え抜かれた通常提供のメニューが間違いない。「アルテレーゴ」の通常メニューを私は体験したことがあり、その独創性とクオリティに感動した分、どれだけ大きなギャップが生まれるのか、どのくらい徳吉らしさを表現するのか関心があった。「このシェフといえばこのひと皿」という強い看板を持っているのもポイントだ。

このカウンターを見て、あれ?と思った方も多いだろう。現在は外苑前に移転した長谷川在佑日本料理店「傳(でん)」がかつてあった空間を引き継ぎ、ほぼそのまま利用している。 このカウンターを見て、あれ?と思った方も多いだろう。現在は外苑前に移転した長谷川在佑日本料理店「傳(でん)」がかつてあった空間を引き継ぎ、ほぼそのまま利用している。

このカウンターを見て、あれ?と思った方も多いだろう。現在は外苑前に移転した長谷川在佑の日本料理店「傳(でん)」がかつてあった空間を引き継ぎ、ほぼそのまま利用している。

何をどうやって料理が完成するか。その行程を丸ごとライブで見られる店の構造やスタッフも魅力的だ。「アルテレーゴ」は通常営業時も、徳吉はもちろんヘッドシェフ・平山秀仁をはじめサービススタッフに至るまで、とにかく何も包み隠さない。厳選した食材の産地や生産者、自ら培った調理技術まで、惜しげもなくすべてをゲストにシェアしてくれる。

「アルテレーゴ」のヘッドシェフを務める平山秀仁。「ジェリーナズ」が催された夜は、サービス直前まで徳吉と料理の調整を重ねていた。訪れるたびに料理のクオリティが上がり、接客も洗練されていく。これからの進化が楽しみだ。 「アルテレーゴ」のヘッドシェフを務める平山秀仁。「ジェリーナズ」が催された夜は、サービス直前まで徳吉と料理の調整を重ねていた。訪れるたびに料理のクオリティが上がり、接客も洗練されていく。これからの進化が楽しみだ。

「アルテレーゴ」のヘッドシェフを務める平山秀仁。「ジェリーナズ」が催された夜は、サービス直前まで徳吉と料理の調整を重ねていた。訪れるたびに料理のクオリティが上がり、接客も洗練されていく。これからの進化が楽しみだ。

ここまでは事前に予想していたが、実際に参加して、徳吉のレシピに対する分析力と、それを言語化する能力に驚いた。参加者に学生がいたこともあり、元のレシピをどう分解し、何を足したり引いたりして、この最終形にたどり着いたのか。時にシニカルに、時に笑いを混ぜながら、スターシェフの頭の中を公開するような徳吉のプレゼンテーションこそ、このイベントの真骨頂だった。


シェフとフーディーズが国境もジャンルも超えて繋がった一夜

タイムゾーンの関係で、東京は世界でもっとも早く「ジェリーナズ」が始まった。「ジェリーナズでアルテレーゴにいる」。ソーシャルメディアにそう置いておくだけで、世界のフーディーズから「誰のレシピだと思う?」と連絡が入る。徳吉の事前予測は「メキシコの都会か、アメリカのテクス・メクス料理を出すテキサス州あたり。ファインダイニングではなく、カジュアルなダイナーかカフェバー」。食事終了後に発表されたレシピ作成者はまさに的中し、メキシコシティにある「Loup Bar(ループバー)」というカジュアルなカフェ&ワインバーのシェフ、Joaquin Cardoso(ホアキン・カルドソ)によるものだった。

「ファラフェル メキシカン スタイル」。カジュアルなおつまみスナックのひよこ豆のコロッケを、そら豆とホタテの旨味で繊細な味わいに仕上げたひと皿。コリアンダーやライム、赤唐辛子のオイル漬けなどカラフルなトッピングでメキシコらしさを演出した。 「ファラフェル メキシカン スタイル」。カジュアルなおつまみスナックのひよこ豆のコロッケを、そら豆とホタテの旨味で繊細な味わいに仕上げたひと皿。コリアンダーやライム、赤唐辛子のオイル漬けなどカラフルなトッピングでメキシコらしさを演出した。

「ファラフェル メキシカン スタイル」。カジュアルなおつまみスナックのひよこ豆のコロッケを、そら豆とホタテの旨味で繊細な味わいに仕上げたひと皿。コリアンダーやライム、赤唐辛子のオイル漬けなどカラフルなトッピングでメキシコらしさを演出した。

「ラヴィオリ イン ブロード」。自家製リコッタチーズとほうれん草のラビオリ。鳥とチーズの皮でとった透明感のあるブロード(出汁)に浮かぶツートーンカラーの調和が美しい。途中でトッピングを加えてイタリアンからメキシカンに味を変える遊び心も楽しい。 「ラヴィオリ イン ブロード」。自家製リコッタチーズとほうれん草のラビオリ。鳥とチーズの皮でとった透明感のあるブロード(出汁)に浮かぶツートーンカラーの調和が美しい。途中でトッピングを加えてイタリアンからメキシカンに味を変える遊び心も楽しい。

「ラヴィオリ イン ブロード」。自家製リコッタチーズとほうれん草のラビオリ。鳥とチーズの皮でとった透明感のあるブロード(出汁)に浮かぶツートーンカラーの調和が美しい。途中でトッピングを加えてイタリアンからメキシカンに味を変える遊び心も楽しい。

「アボカド 牛タン マカダミアナッツ」。レシピ提供者のカルドソに「徳吉のレシピがほしい」と言わしめた一品。薄切りトーストにスライスしたアボカドとマヨネーズを合わせただけのレシピから、分厚くカットしたジューシーな牛タンの歯ごたえとアボカドのクリーミーなテクスチャを対比するガストロノミーな一品へと変化させた。 「アボカド 牛タン マカダミアナッツ」。レシピ提供者のカルドソに「徳吉のレシピがほしい」と言わしめた一品。薄切りトーストにスライスしたアボカドとマヨネーズを合わせただけのレシピから、分厚くカットしたジューシーな牛タンの歯ごたえとアボカドのクリーミーなテクスチャを対比するガストロノミーな一品へと変化させた。

「アボカド 牛タン マカダミアナッツ」。レシピ提供者のカルドソに「徳吉のレシピがほしい」と言わしめた一品。薄切りトーストにスライスしたアボカドとマヨネーズを合わせただけのレシピから、分厚くカットしたジューシーな牛タンの歯ごたえとアボカドのクリーミーなテクスチャを対比するガストロノミーな一品へと変化させた。
Photography by Shifumi Eto

食事中もソーシャルメディアを通じて、1時間遅れで始まった香港や台北、2時間遅れのバンコクなどからメッセージが届く。「そちらはどう? こっちはひと皿目はよかったけれど、2皿目は最悪。レシピとシェフの相性が悪いみたい」。こんなグローバルなライブ感のある食事は、初めての経験だ。

 

徳吉の料理を見たレシピ提供者、カルドソも反応した。「徳吉の料理の方が、うちの店で出しているものより美しくておいしそうだ」。材料に記載されていたものの、日本では入手できなかった南米原産のフルーツも、すぐさま動画を送ってくれる。「鮮やかな赤色が特徴」というそのフルーツは、メキシコの強い太陽を受けた赤いパラソルの下で撮影されていたため、色がまったくわからないというおとぼけぶり。これまでシェフや店の存在さえ知らなかったのに、徳吉への無邪気な賞賛ぶりや、この動画を見て、一気に彼を好きになってしまった。いつかメキシコシティに行ってみたい。

 

徳吉をハブとして、作り手と食べ手が世界と繋がった実感を得た今回のイベント。格付けとはまた違う、レストランの新しい楽しみ方を提唱した。次回開催は未定だが、食べ歩き好きな日本のフーディーズに、ぜひこの熱狂を体感してほしい。

ザ・グランド・ジェリーナズ・シャッフル The Grand Gelinaz Shuffle 
世界同時多発的に行われるゲリラ的フードイベント。2019年12月のイベントでは、38ヶ国、148人のシェフが、時差はあるものの同日に自分の店で、他のシェフが作ったメニューに従って料理を提供した。組み合わせは抽選。手渡されたレシピが誰のものなのかは、ディナー終了のタイミングではじめて明かされた。日本からは成澤由浩、長谷川在佑、ルカ・ファンティン、中村導昌、井伊秀樹、セルジオ・メザ、トーマス・フレベル、徳吉洋二の8人が参加。次回開催は未定。
https://gelinaz.com

 

Alter Ego(アルテレーゴ)
住所:東京都千代田区神田神保町2-2-32
電話番号:03-6380-9390
営業時間:18:00-20:00、20:30-22:30
定休日:日曜日
https://alterego.tokyo/

Ristorante Tokuyoshi 公式インスタグラム
@ristorantetokuyoshi
AlterEgo 公式インスタグラム
@alterego.tokyo
徳吉洋二 個人インスタグラム
@yojitokiuyoshi
AlterEgoヘッドシェフ・平山秀仁 個人インスタグラム
@hidehito_hirayama

Text by Shifumi Eto
Photography by Ahlum Kim

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