「いま、理想のキッチンの形は大きく変化をしている」。
そう語るのは、日本はもとより世界のキッチンを長年取材しているキッチンジャーナリスト本間美紀だ。料理をする場としての機能性を重視するよりも、インテリアの一部であり、自分らしい暮らし方を実現する自己表現の場としてのキッチン。前編では理想のキッチンをつくるための、本間流のとっておきのセオリーを教えてもらった。
1.キッチン作りの発想方法が変わった
“キッチンは料理をするだけの場所だと思っていませんか?”
私が新刊の「人生を変えるINTERIORKITCHEN」(小学館)の冒頭で読者に問いかけたのは、そんな質問だった。本書は私が2012年から「リアルキッチン&インテリア」で取材した6年間の取材から導いた憧れのキッチンを実現した人のストーリーとセオリーをまとめている。
その6年間で何がわかったか。それは家事や料理ではない言葉からキッチンやインテリアを発想した人が多かったこと。では何からか、それはずばり「自分らしさ」からだった。
2.キッチンを「遠目で見る」
キッチンを考えるとき、私がおすすめしているのはキッチンを遠目で見て、景色として考えること。
壁面キャビネットのウォルナット材に合わせてテーブルとチェアをセレクト。天板が薄いテーブルがキッチンの直線のデザインを邪魔しない。キッチン製作=ユーロモビル大阪/住宅=積水ハウス
Photography by Ken Shirotani
写真上のゆみさんのキッチンはウォルナット材の扉のバックキャビネット(壁側の収納)と漆喰のような素材のアイランドの組み合わせだ。実はキッチンの横には大きな窓があり庭の緑が眺められる。日々の暮らしで木立のようなキッチンと緑に似合う景色として飛び込んでくる。
収納スペースは適材適所の収納が実現するように計算されている。キッチン製作=ユーロモビル大阪/住宅=積水ハウス
Photography by Ken Shirotani
こういった美しいキッチンが見た目だけなのかと言うと、もちろんそんなことはなく、収納は食器、掃除道具、調味料などが適した位置に配されている。収納は量がしまえることより、適した位置に気に入った道具が入っていることが今時のスタイルだ。
3.照明、椅子・・・好きなものから考えていい
照明、カフェ、お気に入りの椅子―そんなキーワードからキッチンを考えた人がいる。好きなものから発想していい、というと多くの人は驚くだろう。
「キッチンより先に、そこに吊られている照明から発想した」というのが、下の写真のキッチンだ。
こちらのキッチンの木のスリットのデザインは世界のどこにもないオリジナル。オーダーキッチン会社や設計者にキッチンで使いたいフィンランドの照明を見せたり、賃貸住まい時代から集めていた椅子のコレクションを見せ、こんなインテリアで過ごすカフェのようなキッチン、とイメージを伝えた。
アイランドキッチンは幅3cmのスリットにして横方向のストライプに貼るオーダーメイド。ダイニングにはずっと集めていた名作椅子やヴィンテージを1脚ずつ並べている。キッチン製作=インターテック /住宅=長縄貴人
Photography by Yoshiro Imai
IHクッキングヒーターや収納がまとまる壁側の調理ゾーンはマットグレイで、汚れや傷も目立たないカラーに。細かいデザイン指定をするのではなく、イメージを伝えることで、自由な発想のキッチンが出来上がった。打ち合わせの途中も、自分たちが好きなものを明確にしておいてことで、イメージがぶれず、機能や予算の調整をしてくことができる。ちなみにこちらのキッチンや家づくりは夫婦でアイディアを出し合って楽しんだそうだが、キッチンをインテリアから考えることで、男性がキッチンづくりにも参加しやすくなるだろう。
ダイニングスペースは木の温もりを大切にし、キッチンスペースはモノトーンですっきりとデザイン。キッチン製作=インターテック /住宅=長縄貴人
Photography by Yoshiro Imai
4.賢さと自分らしさが憧れを現実に変える
住まいも建築家の住宅やデザイナーズハウスということではなく、一般住宅のリフォームやハウスメーカーの家が舞台の場合も多く、家のすべてをこだわりで満たしたというよりは、あくまでも基本は普通の家。
家で一番長く時間を過ごすことが多いキッチンに絞って「自分らしさ」を表現することで、コストも労力も賢く活用して、日々の心地よい暮らしを実現しているのだ。こういった人に共通するのは「賢さ」と「自分らしさ」を合わせもつこと。お金があるから、ではない。
そんなニーズを受けてこの数年で、日本のキッチンメーカーやオーダーキッチンブランドが激増している。衣類でもメガネでもデジタル機器でもそうだが、キッチンも耐久性、デザイン性、機能性という全ての面でのレベルが上がってきている。レンジフードやIH、ガス、食器洗い機の性能も上がり、以前よりキッチンは汚れにくく、傷みにくくなっていることもこの傾向を後押しする。さらにインターネットを駆使すれば、プロでなくてもユーザーが直接、自分の欲しいものの情報に行き着きやすくなっている。
使い勝手はもちろん、掃除がしやすい素材やデザインをセレクト。キッチン製作=リネアタラーラ
Photography by Takuya Neda
上の写真は間口の狭い土地に建てた家。シンプルでスリムな白いキッチンとテーブルを同じサイズでオーダーしている。奥の壁にスチームオーブン。拭くだけで掃除できるIHクッキングヒーター。野菜や魚をオーブンで蒸して、鋳物鍋で玄米を炊く。動線も短くて済み、限られた広さの中で理想の食生活を実現している。
限られたスペースを生かしたキッチン。まるで家具のように美しいディテールのキッチンなら、ダイニングテーブルの延長線上においても違和感はない。キッチン製作=リネアタラーラ
Photography by Takuya Neda
本間美紀 Miki Honma
早稲田大学第一文学部卒業後、インテリアの専門誌「室内」編集部に入社。独立後はインテリア視点からのキッチン、家具、住まい、家電、キッチンツールまで、デザインのある暮らしの取材を得意とし、建築家住宅の取材は300件以上、ユーザーとメーカー、両サイドからのインタビューを重視し、ドイツ、イタリア、北欧など海外取材も多く、セミナー活動も増えている。著書にデザインキッチンの新しい選び方」(学芸出版社)「人生を変えるINTERIORKITCHEN」「リアルキッチン&インテリア」(小学館)
『人生を変えるINTERIOR KITCHEN』(小学館)
「リアルキッチン&インテリア」の取材のエッセンスを集約した、洋書のような美しいインテリアキッチンが楽しめる1冊。インテリアキッチンのセオリーと夢をかなえた15家族の実例ドキュメンタリーに、インテリアキッチンの先進国ヨーロッパの取材も交えた、本質的なキッチン&インテリアの考え方が学べる。1600円(税別)
Photography by ©人生を変えるINTERIOR KITCHEN
Premium Japan Members へのご招待
最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。