マツダの前田育男とデザイナーの深澤直人、マルニ木工の山中 武マツダの前田育男とデザイナーの深澤直人、マルニ木工の山中 武

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MAZDA~デザインで世界を変える

2019.12.6

MAZDA×マルニ木工 広島から世界へ発信する日本デザインのプレミアム

前田育男×深澤直人×山中武
広島から世界へ
マツダとマルニ木工の躍進を語る

広島は、進取の気性に富む人材を多く輩出する土地だという。広島人が言うには、新しいことへのチェレンジを好み、外へと飛び出していく気性を持つ人材が育つ土地柄なのだと。それを裏付けるかのように存在する企業がマツダ、そしてマルニ木工である。どちらも広島で生まれ、世界へと飛翔しているブランドだ。

 

10月21日、マツダのデザインとブランドスタイルを統括する前田育男とマルニ木工の山中 武、デザイナーの深澤直人を招いたトークセッションが、東京・芝浦のアマナPORTで開催された。「H」編集長のダジリケイスケと「Premium Japan」編集長の藤野淑恵の進行で、両社と深澤直人のデザイン哲学や、ものづくりに込めた想いが存分に語られる夕べとなった。広島ブランドであるという共通点から、それぞれの目指すものを語り、そこから3氏の美意識が共鳴する時間となった。

 

「魂動 KODO: SOUL of MOTION」のデザインコンセプトのもと、「CAR as ART」のスローガンを掲げ、純粋に美を追求するマツダ。マルニ木工は、デザイナーの深澤直人をアートディレクターに招き、「世界の定番」となる家具に挑んでいる。深澤のデザインとなる「HIROSHIMA」アームチェアが、カリフォルニア クパチーノにあるアップルの新社屋「アップル・パーク」に数千脚も納品されたことも記憶に新しい。

左から「H(エイチ)」編集長タジリケイスケ、マルニ木工・山中武、深澤直人、マツダ・前田育男、「Premium Japan」編集長藤野淑恵の5人が、トークセッションを繰り広げた。 左から「H(エイチ)」編集長タジリケイスケ、マルニ木工・山中武、深澤直人、マツダ・前田育男、「Premium Japan」編集長藤野淑恵の5人が、トークセッションを繰り広げた。

左から「H(エイチ)」編集長タジリケイスケ、マルニ木工・山中武、深澤直人、マツダ・前田育男、「Premium Japan」編集長藤野淑恵の5人が、トークセッションを繰り広げた。

マツダの前田育男 マツダの前田育男

「魂動 KODO: SOUL of MOTION」のデザイン哲学を掲げ、マツダのデザイン部門を率いる前田育男。

マツダデザインを率いて、日本の美意識を表現し、数々の賞に輝く名車を生み出している前田育男。マツダデザインを率いる前田は、「車を美しいものにしたいとの想いで、「魂動 KODO: SOUL of MOTION」のデザイン哲学の元、「CAR as ART」、クルマはアートだ!という少し無謀とも言えるテーマを掲げている。「アートと言い切る覚悟がないと、美しいものを生み出せない」とよどみなく語った。

マルニ木工の山中 武 マルニ木工の山中 武

豊富な事例で、世界へ広がるマルニ木工をプレゼンした山中 武。

豊富な事例を示しながら自社のデザインについてのフィロソフィーを語る山中。1928年創業、70年代には東洋一の家具メーカーと言われるまで成長したマルニ木工だったが、世界経済の動きとともに経営面で厳しい時代を迎えていた。自社の強みとは何かを模索するなかで、深澤直人と出会う。深澤直人のデザインとなる「HIROSHIMA」。その座り心地に藤野が「大変に落ち着く椅子」と評した。

デザイナーの深澤直人 デザイナーの深澤直人

マルニ木工 アートディレクターもつとめる深澤直人。

深澤木製の椅子の開発は難しいのですが、だからこそ、覚悟を決めて、最初に最も良い椅子を実現したいと思いました。木の塊から削り出したような、手でしか加工できないような複雑な曲面の椅子を生産可能にしたいと考えました

山中以前、深澤さんに広島の工場まで来ていただいて後日、受け取ったメールにこうありました。『優れた木工家具の技術があるのに、最後にべとべと塗装するのは木の良さを殺すようで、とても残念です』と技術力を認められた瞬間でした。『世界の定番を作りましょう』とおっしゃってくださり、私たちにできるのかと半信半疑ながらもドキドキしたことを覚えています。100年後にも世界の定番と認められる木工家具を作り続けようというのが、いまの私と深澤さんが考えるヴィジョンです

 

前田:座っていて存在感を忘れさせてくれる一脚だと感じました。硬質な素材なのに硬い印象がなく、そして美しい。世界の定番を実現することは、マツダも心に描いていることです。目指すものは同じであるのだと改めて感じました


マツダとマルニ木工
それぞれのUn-veil(アンベール)は
奇しくもイタリアから

今回のトークセッションに向けて用意されたテーマは3つ。「Un-veil(アンベール)」「“日本的”ということ」「工芸と工業」、この3つのテーマを手掛かりに、前田、山中、深澤がそれぞれの思い、マツダとマルニ木工という、広島から世界へと飛翔するブランドの、これまでとこれからを大いに語った。

 

「Un-veil(アンベール)」とは、ベール(覆い)を取る、発表するという意味である。アンベールの瞬間にいかに人々の心をつかめるのか。その評価は、緊張に包まれたお披露目の場から始まる。マツダが、魂動デザインのビジョンモデルとなるコンセプトカー「靭(SHINARI)」をアンベールしたのは2010年。マルニ木工が「HIROSHIMA」を世界へアンベールしたのは2009年。ともにデザインの聖地とされるイタリア、ミラノでの発表だった。

2010年にアンベールされたコンセプトカー「靭(SHINARI)」。 2010年にアンベールされたコンセプトカー「靭(SHINARI)」。

2010年にアンベールされたコンセプトカー「靭(SHINARI)」。

「HIROSHIMA」が世界へ披露された2009年以来、マルニ木工はミラノサローネ国際家具見本市(ロー フィエラ本会場)での新作発表を続ける。2016年からは世界中の家具メーカーが展示を夢見るホール16での紹介となり、今年は主催者の企画、選出で世界屈指のトップブランドのみで構成された「S.Project」にて、日本の企業では唯一展示されたことでも脚光を浴びた。

深澤デザイナーの私にとって、アンベールとは、見えなかった『姿』を登場させるという感覚です。姿とはもののありようで、周囲の雰囲気や空気、アンビエントといったすべてが伴う。デザイナーとして行うことは、かたちを作るのではなく、姿を与えること。背景も含めた周囲の雰囲気を作ることでもあるのです

2009年、ミラノサローネ国際家具見本市でアンベールされたHIROSHIMA アームチェア。 2009年、ミラノサローネ国際家具見本市でアンベールされたHIROSHIMA アームチェア。

2009年、ミラノサローネ国際家具見本市でアンベールされたHIROSHIMA アームチェア。

深澤新しい車がアンベールしたときに、多くの人が、魅力のある『線』であるか否か、身体的に感じとっているかだと思います。デザインに破綻がない、と私は表現しているのですが、調和が保たれているかどうか、です

 

前田意図して違和感をデザインする場合もあるのですが、熟成不足でそうなっているケースもあります。それはプロである我々の責任です。徹底して研ぎ澄ましていく、今、挑戦しているのは、要素を引いてシンプルにしながら違和感をなくしていく。引き算の美学です。訴えたい側面を浮き彫りにするため、周囲を落としていくという作業の積み重ねです

 

深澤:車も椅子も機能美を追究しているように見えるかもしれませんが、実際には、心に響き、幸せにしてくれる造形を丹念に探っているわけです。それぞれの造形ができているかどうか。そして人が座ったときに絵になるものでないと姿は成立しない。興味深いところです


研ぎ澄ませること、
「日本的」と評される意味とは

「広島のマツダ本社で実施したPremium Japanの前田さんのインタビューでも、『研ぎ澄ます』、という言葉が何度も挙げられていて、とても日本的な言葉であるとおっしゃっていました」と藤野。そして、マルニ木工と深澤が取組む家具も、海外では日本的と評されることが多い。日本的であるとは、どのようなことなのだろう。

深澤:すみずみまできちっとしているのが日本の製品であると、海外でよく言われます。誰に教えられたのでもなく、暗黙の意識のようなものが日本人にあるのでしょう。マルニ木工で言えば、磨きすぎることなく、若干のテクスチャーを残した美しい仕上げがなされていますが、なぜこれができるのか。これこそが日本的であるのかもしれません

HIROSHIMA HIROSHIMA

この柾目の美しさを活かすことができるのは、マルニ木工の職人だからなせる技。

山中HIROSHIMAでは柾目の木材を使っていますが、職人たちは経験と勘を頼りに、削った際に現れる木目の表情を予測して材料を選別しています。指示がなくても、そのことを工夫していました。甲斐性という言葉がしっくりくるのですが、全力で取り組んでいる。もっとも、私たちには日本的なものを求めるといった意識はなく、丁寧に作る家具に宿る魅力があると信じているだけです

 

前田:丁寧さでいえば、車では光の移ろいの表現を例に挙げることができます。美しいリフレクションを作り出すために重視しているのが立体の変化、繋がりの精緻さです。クレイモデルで車の形を決める際にはあえて硬いクレイを選択し、ひと削り0.3ミリほどの精密な作業を続けています。精緻なかたちの連なりを模索し続ける、こういうところが日本のものづくりらしさかと、思います


工業製品と調和する
工芸的な感性

日本のデザイン、ものづくりには「調和」という美学がある。「工芸の工業化」をモットーとするマルニ木工では、機械の改良の連続と職人一人ひとりの経験の積み重ねにより、クオリティを上げると同時に生産体制を大きく向上させている。「美しさには力がある。だからこそ、かたち探究を簡単に終えてはならならない」とは前田の言葉だ。

クレイモデラー クレイモデラー

微細な違いを感じ取り、車に命を与える役目を果たすクレイモデラー。

前田:デザイナーやモデラー、生産技術のエンジニアに私は、『正解は求めていない、まちがえを犯すことを恐れるな』と伝えています。各々の手の感覚のまま、ファジーな側面を良しとし、そこをロジカルに整理し過ぎないよう留意しながら、味わい深い。プロダクトに置き換えていく。難しい取り組みですが、データを基にしたプレス金型には最後に手仕上げを加え、クレイを削るモデラーの手の動きで金型の最終仕上げを行うのもその一例です

 

山中マルニ木工では5軸の切削を駆使していますが、最後は職人の手で一脚一脚磨きあげて完成させます。手が覚えている、と、職人たちは口にしています

 

深澤:人から自ずと出てしまうかたちこそが工芸ではないでしょうか。私自身は、工業製品と工芸との境目は、実はないのではないかと思っています。私自身が手も使えばPCも使います。何よりデザインには限界はなく、一本の線を引いて終わりというものではない。だからこそ良いものを目ざして、作っていける。人間が人間たるゆえんと同じではないでしょうか


広島の2つの企業が
デザインで
世界を目指すとき

今回のトークセッションは、応募開始後まもなくソールドアウトになり、当日は多くのオーディエンスが熱心に耳を傾けていた。終了後も、ステージ上に置かれたHIROSHIMAチェアに触れたりと、デザインへの関心の高さをうかがわせた。

 

マツダとマルニ木工。それぞれの奥底に流れるものが、今回のトークセッションで語られた。プロセスの中で得た知見を重ね、その先にまなざしを向ける彼らのヴィジョンが強く印象に残った。そして今、彼らのフィロソフィーを体現した車や家具の姿が、世界の多くの人々の心に響いている。

短い距離だったが、イベント当日「MAZDA 3」を試乗した深澤。「強さと同時に静謐さが両立していて、難しい点が実現されていることを感じました」と評した。 短い距離だったが、イベント当日「MAZDA 3」を試乗した深澤。「強さと同時に静謐さが両立していて、難しい点が実現されていることを感じました」と評した。

短い距離だったが、イベント当日「MAZDA 3」を試乗した深澤。「強さと同時に静謐さが両立していて、難しい点が実現されていることを感じました」と評した。

 

(敬称略)

前田育男 Ikuo Maeda
マツダ株式会社 常務執行役員デザイン・ブランドスタイル担当
1982年 東洋工業(現マツダ)入社。2009年 デザイン本部長就任。デザインコンセプト「魂動」を立ち上げ、 多くのデザインアワードを受賞。2016年 常務執行役員デザイン・ブランドスタイル担当。国際C級ライセンスを保有。著書に「デザインが日本を変える ~日本人の美意識を取り戻す~」(光文社新書)がある。
MAZDA https://www.mazda.co.jp/

深澤直人 Naoto Fukasawa
プロダクトデザイナー/株式会社マルニ木工 アートディレクター
1956年生まれ。2003年NAOTO FUKASAWA DESIGN設立。卓越した造形美とシンプルに徹したデザインで、国際的な企業のデザインを多数手がける。マルニ木工のアートディレクターや良品計画のデザインアドバイザリーボードを務めるほか多くの企業のコンサルティングも務める。英国王室芸術協会の称号を授与されるなど受賞歴多数。2018年、「イサム・ノグチ賞」を受賞。多摩美術大学教授。日本民藝館館長。
NAOTO FUKASAWA DESIGN https://naotofukasawa.com/

山中 武 Takeshi Yamanaka
株式会社マルニ木工 代表取締役社長
1970年生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、1995年ウィスコンシン大学ミルウォーキー校経営大学院(MBA)を経て、1996年三井信託銀行株式会社(現在の三井住友信託銀行株式会社)に入社。2001年株式会社マルニ(現在の株式会社マルニ木工)に入社。外部デザイナーとの取り組みを推進。2008年プロダクトデザイナーの深澤直人氏と協働してHIROSHIMAを発表。同年株式会社マルニ木工代表取締役社長に就任。
マルニ木工 https://www.maruni.com/jp/

MAZDA~デザインで世界を変える(前編)
MAZDA~デザインで世界を変える(後編)

 

 

Photography by Kiyoshi Obara(amanaphotography)
Text by Noriko Kawakami

 

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