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NADが描く、未来のオフィス(後編)

2021.1.13

データとリサーチから読み解く、NADがデザインする未来の働き方

Photo by 永禮賢

日建設計の一部署としてスタートしたNAD (NIKKEN ACTIVITY DESIGN lab)は、最新のオフィスをデザインすると共に、10年後のオフィスの未来構想も研究している。COVID-19の影響によって大きく変化する、これからのオフィス空間と働き方について、日建設計の設計部門のダイレクターであり、NADのダイレクターも務める勝矢武之に話を聞いた。


日本橋らしさを表現した路地空間に広がるゲスト用会議室エリア。 Photo by 永禮賢 日本橋らしさを表現した路地空間に広がるゲスト用会議室エリア。 Photo by 永禮賢

日本橋らしさを表現した路地空間に広がるゲスト用会議室エリア。Photo by 永禮賢


企業に応じた働きやすいワークプレイスを、
ワーカーの共感と能動性を育てるプロセスのデザイン

 

NADが日建設計の設計部と日建スペースデザインで協働し、クライアントとともに実現した最新のプロジェクトに、「Woven Planet Group」(旧トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI-AD))がある。2018年に設立されたトヨタグループの自動運転のソフトウェア開発企業「Woven Planet Group」には、世界のトップエンジニアが集められている。彼らが高い生産性を可能にしながら、自分自身でカスタマイズしたり、チームでの工夫ができるような、「ここで働きたい」と思ってもらえるワークプレイスの実現がプロジェクトの目標となった。

 

「NADはデザインをするのに先立ち、インプットを重視します。まずはクライアントとワークショップを行ったり、一緒に類似事例視察に出かけたり、リサーチャーが実際のオフィスに常駐して観察を重ねるなど、その企業の文化やワークスタイルについての様々なリサーチを行うともに、クライアント自身が問題への理解を深めるインプットを行います」。

 

なぜそこまでする必要があるのか? 全体の変化を捉えるのであればデータから読み取ることは可能だが、個人の課題や視点となると数字から読み取ることはできないと勝矢は語る。

 

「データ社会と言われていますが、数字化されたビッグデータだけ見ていると、見落としてしまうものがあります。それは個人ベースの体験やユニークな視点などであり、これを見逃さないためにもリサーチャーによる目や肌感覚が必要になります。個人をターゲットにしたユーザー観察と、全体をターゲットにしたデータ分析とリサーチを併用して、企業の課題だけでなく、その文化やワークスタイルを理解し、その企業に応じたオンリーワンのワークプレイスを提案します」。


TRI-ADのオフィスフロアには一周200メートルの回遊できるストリートがあり、パーソナルモビリティが行き交っている。 Photo by 永禮賢 TRI-ADのオフィスフロアには一周200メートルの回遊できるストリートがあり、パーソナルモビリティが行き交っている。 Photo by 永禮賢

Woven Planet Groupのオフィスフロアには一周200メートルの回遊できるストリートがあり、パーソナルモビリティが行き交っている。Photo by 永禮賢

Woven Planet Groupではでは『スクラム』という”シリコンバレー流”のソフトウェア開発手法が取り入れられている。チームメンバーが設計→開発→テストを短いサイクルでどんどん繰り返していくため、チーム単位ですぐに確認やミーティングが行えるデスクの配置が必要だった。
「チームのデスクはリサーチとパイロットプロジェクトでの議論のうえ、振り向くだけですぐ皆で議論ができるハニカムレイアウトにたどり着きました。企業によってグループの規模や働き方が違うので、当然ベストは変わってきます。しかしそれを丁寧に探し出すことでオンリーワンのオフィスが生まれ、それによって社員の満足度が高まり、自分の家のように愛着が育まれ、企業のパフォーマンスも上がると感じています」。


働き方の民主化によって、オフィスは大きく変化して進化する

 

最新オフィスを手掛ける勝矢に、COVID-19後のオフィスと働き方について聞いた。「COVID-19が扉を開いたリモートワークは、全ての企業とまではいかないにしても、今後、働き方のベースパターンとして定着していくでしょう。そして、ワーカーがいつでも・どこでも働けるようになったことで、ワークの主導権が企業から個人へと移ります。いわば”働き方の民主化”が進むわけです。ならオフィスはいらないのか?私はそうは思いません。しかしオフィスの役割や目的は変化していくと思います」。


「ワークスタイリング品川」では、ニーズが高まっている個人ワークの質を向上させる半個室が充実。 Photo by 鈴木 渉 「ワークスタイリング品川」では、ニーズが高まっている個人ワークの質を向上させる半個室が充実。 Photo by 鈴木 渉

「ワークスタイリング品川」では、ニーズが高まっている個人ワークの質を向上させる半個室が充実。Photo by 鈴木 渉


今後、オフィスは単純なデスクワークの場ではなくなり、価値を生み出す場、人と人、人と企業が関係を築くための場になっていく。オフィスでの対面の同僚とのアイデア交換や外部の方との交流はクリエイションを助けてくれるし、日々の雑談はワーカー間の交流を深め関係を強化してくれる。そしてメンバーと場所を共にすることが、会社への帰属意識を高め、自分が所属する企業の文化への共感を高めることにつながるだろうと勝矢は語る。

 

 

「NADは、COVID-19以前からリモートワークはかなり進んでいた方だと思います。メンバーの一人は、以前は働き方の実証実験を兼ねて世界中を旅しながら仕事をしていて、いつも違う国からメールが来ていましたね。COVID-19の拡大以降は、我々も完全リモートワークになり、最近ようやく対面での全員打ち合わせを実施したところです。オンラインではやや難しい、雑談を交えながらの対面でのアイデア交換は、やはり新たなアイデアを生むために有効ですし、対面コミュニケーションの重要性を我々自身も再確認しました。日本的な組織では、会社へのエンゲージメントが高まれば、集団としてのパフォーマンスは上がっていきます。このエンゲージメントを養い、チームの一体感を醸成するためにも、みんなで集まることができるオフィスは今後も需要な役割を果たす場であり続けると考えます」。

 

 

オフィス=働く場所という概念は崩れ、オフィスは新たな機能や役割を持つ空間に変化していくだろうと考えるNADの下には、これからのオフィスをどうしたらよいか?という企業からの相談が後を絶たない。

「働く場所や時間の選択肢が増えることで、通勤時間が節約され、住む場所が多様化するだけでなく、暮らしの豊かさへの関心が高まっていきます。この新たな暮らし方や働き方は、今までにないユニークな発想や新たなビジネスを生み出す契機にもつながると考えます」。

 

 

COVID-19の拡大は悲観することばかりではなく、未来の働き方や暮らし方を生み出すきっかけにもなっている。それをどう活かしていくか、自身の人生プランの見直しも必要になってくるだろう。

 

(敬称略)

 

 

 

勝矢武之 Takeyuki Katsuya

日建設計 設計部門ダイレクター 兼 NAD室ダイレクター

京都大学大学院工学研究科建築学専攻を終了後、2000年に日建設計入社。2016年FCバルセロナのホームスタジアム「カンプ・ノウ」改修の国際コンペに当選。2019年、渋谷駅の再開発「渋谷スクランブルスクエア東棟(第Ⅰ期)」とその展望施設「渋谷スカイ」、「有明体操競技場」を担当。2020年より設計部門ダイレクターに加えて、NAD室のダイレクターを兼任。

 

 


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