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PHILOCOFFEAを通じて、最高のコーヒー体験を

2025.5.8

世界一のバリスタ PHILOCOFFEA 粕谷哲。コーヒーに愛された男の人生と哲学とは(後編)





世界を駆け巡り、日本のコーヒー文化に新風を吹かせている、バリスタ粕谷哲。前編では、バリスタとしての活動やPHILOCOFFEAへの想い、後編では粕谷が見た世界のコーヒー事情や日本のコーヒー業界の課題を中心に話を聞いた。

 

また、粕谷が提唱する“誰でも美味しいコーヒーを淹れるための理論”『4:6メソッド』もレクチャー。自宅で美味しいコーヒーを楽しんでみてほしい

前編はこちらをクリック

 





『コンビニコーヒー』が日本のコーヒー文化に影響を与え、さらにはオフィスコーヒーの価値を上げた

 

 

コンビニエンスストアやファストフードチェーンで、淹れたてのコーヒーが100円台で飲めるようになり、日本のコーヒー文化は大きく変わることになる。そのはじまりは2008年、日本マクドナルドが販売した『プレミアムローストコーヒー』だったとされている。2013年にはセブン-イレブンが「SEVEN CAFÉ」をスタートさせ、いつしかコンビニエンスストアに行けば、本格的なコーヒーがわずか100円で飲める時代が定着していった。(現在はホットコーヒーSサイズが120~150円が多い)








粕谷自身もファミリーマート『FAMIMA CAFÉ(ファミマ カフェ)』のカウンターコーヒーの共同開発、チルドカップコーヒーの『世界NO.1バリスタが認めた』シリーズの監修を手掛けている。

 

 





「ファミリーマートさんとの共同開発に当たって、まずお伝えしたことが、“みんなが美味しいと思うコーヒー”をつくるのではなく、“美味しいコーヒーとはどういうものなのか”を、ファミリーマートを通じて世の中に伝えていきたいということでした。美味しいコーヒーであれば、必ず皆が受け入れてくれると僕は思っています」と語る。

『FAMIMA CAFÉ』のカウンターコーヒーは一度開発すればいいのかと思いきや、実は毎年、豆のブレンドや焙煎具合を変えて、その味わいを進化させていると言う。

 




「コンビニエンスストアは、北海道から沖縄まで、日本中に数多くの店舗があります。日本中どこでも同じ味わいのコーヒーを提供することを目指していますが、北海道と沖縄では水の硬度が違うため、コーヒーの味わいも変わってしまいます。100円台で提供するために掛けられるコストの限界はありますが、コーヒーマシンに浄水器を取り付けるなどの工夫をすることで、僕なりにかなりこだわらせていただいています」。




世界的に見ても、わずか100円台でこれほどのクオリティのコーヒーが飲めるところはないだろう。さらに、コンビニコーヒーの定着によって、オフィスコーヒーにも大きな影響を与えた。








僕の淹れたコーヒーが美味しいと思うのは、肩書のせいかなと笑う。 僕の淹れたコーヒーが美味しいと思うのは、肩書のせいかなと笑う。

僕の淹れたコーヒーが美味しいと思うのは、肩書のせいかなと笑う。





「オフィスコーヒーサービスの『ダイオーズ』さんは、現在PHILOCOFFEAの豆を使ってくださっており、共同でコーヒーの開発もさせていただいています。ダイオーズさんから聞いた話では、以前はオフィスコーヒーと言えば、一杯10円、20円が当たり前であったとか。しかしコンビニコーヒーが登場したことで、コーヒー一杯100円という感覚が一般的になったことで、オフィスコーヒーのコストアップも可能になったと聞きました」。




思い起こせば、20~30年前のオフィスコーヒーは決して美味しいと言える味ではなかったが、昨今ではカフェに負けないほどの味が楽しめるようになった。コンビニコーヒーが、日本人のコーヒーへの意識の高まりや味へのこだわりに大きく貢献したと言えるのかもしれない。





世界各国でコーヒーの好みは全く違うから、世界のカフェ巡りは意味がある

 

 

粕谷は『ワールド・ブリュワーズ・カップ(World Brewers Cup)2016』において、アジア人初の優勝をし、誰でも美味しいコーヒーを淹れられる理論である『4:6メソッド』を提唱した功績もあって、現在でも、世界中でセミナーやトップバリスタのコーチングを依頼されている。





PHILOCOFFEAのオンラインショップではコーヒー豆を購入することもできる。 PHILOCOFFEAのオンラインショップではコーヒー豆を購入することもできる。

PHILOCOFFEAのオンラインショップではコーヒー豆を購入することもできる。





「世界的に見てみると、コーヒーの好みは全く違います。その根底には食文化の違いや風土、気候の違いなどがあるのでしょう。それらの違いはコーチングをする上でも影響があります。僕は日本大会や世界大会のコーチングなら問題ありませんが、例えば、タイの国内大会で勝たせて欲しいとなると難しいんです。世界大会には世界のカリブレーション(評価基準)があり、世界レベルのジャッジが行われることから、勝たせるための道筋は見えるのですが、国別となるとその国のカリブレーションがよく分からない。その国の趣向を把握することは簡単ではありません」。





それなら、世界展開をしているカフェチェーンは味をどう決めているのだろうか。

「たとえば日本にも数多くの店舗を持つアメリカのカフェチェーンでは、各国にスペシャリスト部門が設置されており、ターゲットゾーンに合わせたマーケティングリサーチから、その国に応じたレシピを決めています。つまり国によってブレンドや焙煎具合などは変えて販売しています」。







そうだったのかと膝を打つが、一般人が果たしてその味の微妙な差に気が付けるのだろうか。海外旅行に行った際には、皆さんも味の差を体感してみていただきたい。




粕谷が店頭に立つと大混乱になるため、現在はイベントのときだけコーヒーを淹れている。 粕谷が店頭に立つと大混乱になるため、現在はイベントのときだけコーヒーを淹れている。

粕谷が店頭に立つと大混乱になるため、現在はイベントのときだけコーヒーを淹れている。




日本の国力の低下が、日本のコーヒーの味の低下を招く危険性

 

 

日本のコーヒー文化は喫茶店からはじまり、コンビニコーヒーやテイクアウトを中心としたスタンドカフェ、世界的なカフェチェーンの展開など、確実な進化を実感はしているが、粕谷はこれからの日本のコーヒー業界が心配だと語る。







「現在、円安や原油高などの状況もあってコーヒー豆の仕入れ値は高騰しています。しかしそれ以上に心配なのが、日本の国力の低下です。いいコーヒー豆があっても、コーヒー農園の人が日本に売りたいと思わなければ、日本には入って来ない。国力が低下していけば、日本にいい豆を売ことはもったいないとさえ思われます。すると少しずつ品質の悪いコーヒー豆が流通するようになり、日本のコーヒーのクオリティは確実に低下しますし、海外からの観光客も日本ではコーヒー屋さんに行かなくなると思います」。




さらにこれに輪をかけて、少子高齢化による人口減少はコーヒー市場を確実に縮小させていくとも語る。

 

「日本のコーヒーに関わる仕事をする多くの人は、どうも日本市場にしか目を向けていない気がするんです。もっと世界を俯瞰して見ていかなければ先細りをしていきます。どうしたら美味しいコーヒーをつくれるかということも大切ではありますが、日本のコーヒービジネスという視点で考えていく時期だと思います」。




粕谷と同じような視点で活動する仲間も多くいるようだが、一人の発信には限界があるという歯がゆさもあるようだ。YouTubeでの発信もその活動の一つであり、世界を駆け巡る粕谷だから語れること、感じることを自身の言葉で日々発信するなど、粕谷は活動し続けている。

 







最後に粕谷に仕事以外の楽しみを聞いてみた。

 

「なんだろう。仕事ってできる、できないは別として、一番簡単に達成感が得られるんです。失敗や成功などもすぐに感じられるでしょ。だから仕事に逃げちゃうのかな」。

PHILOCOFFEAのコーヒーを体験したことのない人は、粕谷が選んだ豆、焙煎で淹れるコーヒーの味を味わってみて欲しい。きっとそこから新しいコーヒーの世界が広がっていくはずだ。

 

 




「4:6メソッド」

 

使うお湯の総湯量を40%と60%にわけ、それぞれで味と濃度の調整をするハンドドリップの方法。





1.使用する粉量の15倍のお湯を使用します。
例)粉量20g→湯量300g



2.総湯量を4:6に分割します。
総湯量が300gの場合であれば、40%が120g、60%が180gという具合です。

 

3.最初の40%は味わいの調整。
2回に分けて注ぐ。1投目と2投目の量のバランスで味の調整が可能です。1投目のほうが2投目よりも”少ない”場合、最終的なコーヒーの味わいは「より甘く」1投目のほうが2投目よりも”多い”場合、最終的なコーヒーの味わいは「より明るく」なります。このようにして、コーヒーの味わいの主体となる酸と甘さのバランスを注ぐ湯量で調整します。




4.残りの60%は濃度の調整です。
何回に分けて注ぐかによって、濃度を調整できます。1回で注げば「薄く」、2回に分けて注げば「濃く」、3回に分けて注げば「より濃く」なります。


4:6メソッドは中粗挽き~粗挽きを推奨しており、その場合は3回に分けて注ぐことを勧めています。深煎りのコーヒーなどは比較的濃くなりがちなので、2回に分けて少しだけ薄めに作るというのもお勧め。





(敬称略)

 

 

Text by Yuko Taniguchi
Photography by Hidehiro Yamada

 





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2025.4.10

世界一のバリスタ PHILOCOFFEA 粕谷哲。コーヒーに愛された男の人生と哲学とは(前編)

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