前田育男  Ikuo Maeda      マツダ株式会社 常務執行役員 デザイン ブランドスタイル担当。デザインの力を信じ、マツダの「魂動デザイン」はじめ、ブランドスタイルも統括する。前田育男  Ikuo Maeda      マツダ株式会社 常務執行役員 デザイン ブランドスタイル担当。デザインの力を信じ、マツダの「魂動デザイン」はじめ、ブランドスタイルも統括する。

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MAZDA~デザインで世界を変える(前編)

2019.10.31

広島から世界へ発信する。MAZDAのスタイルに見る「日本の美意識」

前田育男   Ikuo Maeda     マツダ株式会社 常務執行役員 デザイン ブランドスタイル担当。デザインの力を信じ、マツダの「魂動デザイン」はじめ、ブランドスタイルも統括する。

前田育男が指し示す
独自のフィロソフィ
「魂動 KODO:SOUL of MOTION」

2010年、「魂動 KODO:SOUL of MOTION」というデザインコンセプトを掲げて以降、世界中で喝采を浴びるマツダのカーデザイン。「クルマに命を与える」というその独自のフィロソフィはどこから生まれ、どこに向かおうとしているのか。マツダのカーラインナップが新たな段階に突入しつつある今、魂動デザインの創始者であり、ブランドスタイルも統括する前田育男に話を聞いた。


90年代後半から00年代にかけ、マツダは経営の立て直しに追われていたが、その復活を力強く牽引したのは2つの大きなブレイクスルーだった。かたやエンジンやトランスミッション、ボディなど次世代技術の結晶である「SKYACTIV TECHNOLOGY(スカイアクティブ・テクノロジー)」。そしてもうひとつが魂動デザインと呼ばれる造形面でのイノベーションだ。

デザインの責任者に任命された前田は、就任後すぐにマツダという会社の歴史を洗い直す作業に着手する。「マツダデザインの将来像を描くには、マツダの持っているDNAを全部わかった上でやらないとダメだと思ったんです。この会社は過去にどんな作品をどのように作ってきたのか、そこにどんなメッセージが込められていたのか。それを踏まえてやらないと、これまでの歴史と隔絶した一過性のデザインになってしまいますから」。

「マツダのDNAを学び進める中で飛び込んできたのが「人馬一体」というキーワードでした。人馬一体とは車と乗り手が心を通わせ、一体感を感じるというマツダ伝統の開発哲学。これをデザインに当てはめるとどうなるのか? “馬”になれる車とはどういうことか?そんな思索を深める中で、思いついたのは、車を単なる移動の道具ではなく、自分の家族の一員や仲間のように感じてもらうことではないかと。つまり、クルマに命を与えるということではないのかということでした」。前田は、マツダという会社が連綿とその命題を追いかけてきたのではないか、ということに気付いた。では「ものに命を与える、魂を吹き込む」とは具体的にどういうことか?――― そのテーマを元に作り上げたのが“ご神体”と呼ばれる抽象的なオブジェだった。

丹精な筋の通った俊敏さと、なめらかな曲線が醸す色気を放つオブジェ“ご神体”。 丹精な筋の通った俊敏さと、なめらかな曲線が醸す色気を放つオブジェ“ご神体”。

丹精な筋の通った俊敏さと、なめらかな曲線が醸す色気を放つオブジェ“ご神体”。Photography by ©MAZDA

“ご神体”から導かれる理想の形
背骨の通った
美しい生き物のように

魂動デザインがユニークなのは、車のデザインより先にまず純粋なフォルムの探求を目的としたアート活動を行っていることだろう。現実的制約は脇に置き、とにかく徹底的に理想を追求する――それもマツダの継承する、ものづくりに対する流儀だった。

そして究極の理想形である“ご神体”をベースに、実際の車のデザインに入っていく。「でもなかなか車になってくれなかった。車にはタイヤが4つありますが、これが生き物の4つ足の位置に正しく付いていないと、とたんに生命感を感じられなくなるのです。デザイン部内では、『車の“骨格”は正確に捉えられているか』、『この車には“背骨”が通っていないからダメだ!』と言った会話が飛び交っていました」。

魂動デザイン独自のチェックをくぐり抜け、ついに完成したコンセプトカーは「靭(SHINARI)」と命名された。しなやかな動きを全身にまとって登場したこの車は2010年、イタリア・ミラノ郊外で行われた「マツダデザインフォーラム」で披露され、センセーションを巻き起こした。


魂動デザインを具現したコンセプトカー「靭(SHINARI)」。 魂動デザインを具現したコンセプトカー「靭(SHINARI)」。

魂動デザインを具現したコンセプトカー「靭(SHINARI)」。Photography by ©MAZDA

フォルムをより鮮明に放つ色の効用
魂動デザインを象徴する
「ソウルレッド」とは

魂動デザインと同時に、前田は新色の開発もスタートさせた。前田はデザインを刷新するタイミングでマツダのブランド様式も定義したいと考えており、そのためには色、フォルム、フロントマスク(車の前側の顔)――この3つは欠かせないものだった。

そして産み落とされたのが、魂動デザインを象徴する「ソウルレッド」である。ソウルレッドは「色も造形の一部である」という考えに沿って創られたもので、なめらかな曲線がポイントとなる魂動デザインの造形を際立たせるため、光に対し鋭敏に反応する色を追求した。明るい場所は明るく輝き、光が当たらない場所は黒く落ちる。その結果フォルムの陰影がくっきりと浮かび上がる特別な赤色は、「匠塗(TAKUMINURI)」という塗装技術によって量産化が可能になった。

「赤い車が売れる会社って、世界でもフェラーリとアルファロメオとマツダくらいですよ」。そう嬉しそうに話す前田にとって理想の赤は、いま名前を挙げた2社と同じ故郷を持つネッビオーロのワインのような飴色の深い赤だという。

「ネッビオーロのような深い赤」と前田が評す、かぐわしいソウルレッドクリスタルメタリック。 「ネッビオーロのような深い赤」と前田が評す、かぐわしいソウルレッドクリスタルメタリック。

「ネッビオーロのような深い赤」と前田が評す、かぐわしいソウルレッドクリスタルメタリック。Photography by ©MAZDA


魂動デザインが獲得した
「世界で最も美しいクルマ」の称号
コンセプトカー「RX-VISION」

そんな前田が発表の瞬間、もっとも緊張した一台が2015年、東京モーターショーでベールを脱いだコンセプトカー「RX-VISION」である。マツダの代名詞とも言えるロータリーエンジンを積んだ、正統派スポーツカー。大学時代から自動車レースに没頭し、現在も社内のエースドライバーとして活躍する前田にとって、自分がいくら払っても乗りたいと思えるスポーツカーをデザインすることは究極の夢だった。

「お披露目のときの光景は今も忘れられません。ベールを外し、車がライトの下にさらされた瞬間、会場がシーンと静まり返ったんです」。誰もが息を呑む緊張感が、前田にも伝わってきた。それが一瞬の後、爆発的な歓声に変わっている――「RX-VISION」は翌年「モスト・ビューティフル・コンセプトカー・オブ・ザ・イヤー」という賞に輝き、最新の魂動デザインを形づくる雛型のひとつになっている。

フォルム、そしてそれを際立たせる色。色気と精密さを兼ね備えた「RX-VISION」。 フォルム、そしてそれを際立たせる色。色気と精密さを兼ね備えた「RX-VISION」。

フォルム、そしてそれを際立たせる色。色気と精密さを兼ね備えたRX-VISION。Photography by ©MAZDA

 

マツダの本社は現在も広島にある。JR広島駅から2駅離れた向洋(むかいなだ)に拠点を置いて早90年。マツダが広島という土地に生まれたことには理由があるのだろうか?

 


コンセプトカー「靭(SHINARI)」から進化した「VISION COUPE」とともに。マツダの美学がここに表現されている。 コンセプトカー「靭(SHINARI)」から進化した「VISION COUPE」とともに。マツダの美学がここに表現されている。

コンセプトカー「靭(SHINARI)」から進化した「VISION COUPE」とともに。マツダの美学がここに表現されている。

「たたら製鉄から造船業へと至る“ものづくりの盛んな土地”という背景もあるのでしょうが、私が感じるのはパイオニア・スピリットです。広島は移民が盛んで、開拓民としてハワイや北海道に進出する人が数多くいました。そういう自分の道を自分の手で切り開く感覚は共通するというか。私たちも決してセンターにいるわけではないので、簡単にトレンドに乗らない頑固なところがありますからね。本当にトレンドに乗ることを嫌うのがマツダの風土なんですよ」。

広島という土地のDNAを継承するマツダだが、最新の魂動デザインではさらにまた別のDNAに接近しつつあるという。それは日本が持つ“美”のDNA――― ではマツダはその“日本の美”というDNAをどのように読み解いたのだろうか。その真髄にさらに迫りたい。

Photography by Kiyoshi Obara(amanaphotography)
Text by Koji Shimizu
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