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皆川魔鬼子 テキスタイルの世界観

2019.8.7

1. 過去と未来の一体化。『HaaT(ハート)』のテキスタイルは時空を超える

「テキスタルから発想する」という新しい視点で2000年にスタートした『HaaT(ハート)』。トータルディレクターを務める皆川魔鬼子は、日本とインドの伝統的な素材や技法を用いた美しいテキスタルを衣服と融合させて、新しい世界観を展開している。

 

 

談・皆川魔鬼子

初めて三宅一生さんと出会ったのは1970年代のこと。当時、私はロンドンでテキスタイルの勉強をしたいと考えていました。たまたま招待されて出かけたのが『東レ ニットエキジビション』。参加していた世界的なデザイナーの中で、最もカッコいいデザインをつくる人、それが三宅一生さんでした。その場でご挨拶をしたところ、「テキスタイルのデザインができるなら一緒にやってもらえませんか」と誘っていただいたことがきっかけとなり、三宅デザイン事務所に入ることになりました。

 

三宅デザイン事務所に入社してからは、イッセイミヤケの初のパリコレクションから素材の開発を担当しました。社会のニーズに敏感になりながら、「小さな驚きを与え続けること」を常に追求する三宅の期待を一身に受けて、新しい素材選びや開発に日々精進し、毎日、何かを見つけ、考えることに努める日々を送っていたのです。


伝統は守るだけでは淘汰される
進化させることで新たな潮流となる

テキスタイル開発の技術は常に進化し、そして時代のニーズも変化して行きます。イッセイミヤケでは1990年代からプリーツの衣服がスタート。徐々に合成繊維の取り扱いが多くなっていましたが、私は古くからおつきあいのある機屋や日本の伝統技術、その職人たちとのつながりを絶たないように心がけていました。伝統技法や手仕事から生まれる温もりを多くの人に伝えたい、感じて欲しいという気持ちがいつも強くあったからです。

ビリ刺繍が施された「Tamasha」シリーズのバッグ、「ORJ」ワンピース、ランダムボーダー ビリ刺繍が施された「Tamasha」シリーズのバッグ、「ORJ」ワンピース、ランダムボーダー

左:インドの職人によってビリ刺繍が施された「Tamasha」シリーズのバッグ。洋服は「ORJ」のジャージ素材と布帛(ふはく)の異素材が新鮮なワンピース。「Tamasha」、「ORJ」ともに皆川がトータルディレクションするブランド、『HaaT』のライン。(2019年AWコレクションより) 右:絹やモール糸という様々な糸を織り交ぜた、ランダムボーダー。ボーダースカートはシマウマをイメージ。表裏で着用可能。Tamashaのバッグをあわせて。

伝統的なものづくりをする人々は日本国内でも少なくなっています。だからこそ彼らと仕事を続けていくことが必要です。伝統とは水の流れのように、ただ流れているだけではいつか淘汰されます。流れの中で新潮流が生まれることもあり、新たに生まれたものがこれからの時代を築いていくと考えています。だから私は職人の方たちと協働によるものづくりを続けているのだと思います。そうすることで、伝統が継承されることを願っています。

インドのクラフトマンシリーズ。刺繍レースの生地を裏面から抜染プリントしたテキスタイルを使用。(2019年AWコレクションより) インドのクラフトマンシリーズ。刺繍レースの生地を裏面から抜染プリントしたテキスタイルを使用。(2019年AWコレクションより)

インドのクラフトマンシリーズ。刺繍レースの生地を裏面から抜染プリントしたテキスタイルを使用。(2019年AWコレクションより)


『HaaT』で使用するテキスタイルには主に、日本の素材や技法を使ったテキスタイル「HEART(心)」と、インドの素材や技法を使ったテキスタイル「HAATH(手)」があります。共に上質で、長く培われてきた伝統技法をHaaTのアイデアで進化させて新たなデザインしたもの。例えば、日本の技法であれば、一見シンプルに見える先染めをウールの縮絨(しゅくじゅう)加工を用いて空気を含ませて立体的に仕上げたり、ミシン絞り技法を用いて伝統刺繍のモチーフを染めたり、刺繍した柄のまわりをハンドカットしてさらに工程を施したり。まるで素材が時空を超えるように、過去と未来が一体化していく、とでも言えるでしょうか。

オーガニックコットン素材に摺剥がしと呼ばれるプリント技法を用いたもの。手描きのヤマアラシ柄。(2019年AWコレクションより) オーガニックコットン素材に摺剥がしと呼ばれるプリント技法を用いたもの。手描きのヤマアラシ柄。(2019年AWコレクションより)

オーガニックコットン素材に摺剥がしと呼ばれるプリント技法を用いたもの。手描きのヤマアラシ柄。(2019年AWコレクションより)

京都の手法である摺剥がし技法。 京都の手法である摺剥がし技法。

京都の手法である摺剥がし技法。

今シーズン登場した摺剥がし(すりはがし)という技法もそのひとつです。布に手作業で1色ずつ刷毛で糊と色をプリントしていく手捺染(てなっせん)台を使用して、拓本のように布地に一枚ずつ乗せて柄をうつし、剥がしていくという新たなテキスタイルを作り出しました。とても手間が掛かかり、作業台が汚れる大変な作業です。しかし一枚ずつ手作業で仕上げていくので、どれも一点ものと言えるほどに貴重な仕上がりです。

 

またインドの伝統的技法で作られるテキスタイルのカディも同じ。イッセイ ミヤケ時代から長く使用していた素材であり、インドの人たちの生活を支えてきた伝統技法でもあります。糸を紡ぐところから手間のかかる手作業が必要で、今ではこの手仕事ができる人は少なくなっています。伝統技法を生かした素材は、コストや手間、時間を掛けて作られるからこそ類まれな魅力があるのですが、こんなに手間暇をかけてビジネスとして成り立つのだろうかと心配する声もあります。それでも、今日まで実現できているのは、テキスタイルデザイナーとして永年仕事をした経験や、それに基づくアイデア、さらには人とのつながりがあるお陰なのでしょう。テキスタイルへの私の思いは果てることなく、今も毎日新しいものを追い求めています。

 

8月22日まで,ISSEY MIYAKE/NEW YORKにて「Khadi:Indian Craftmanship」を開催。

 

→次回は、アシャ・サラバイ(デザイナー)です。
(敬称略)

Makiko Minagawa Makiko Minagawa

Profile

皆川魔鬼子 Makiko Minagawa
テキスタイルデザイナー
HaaT トータルディレクター

京都市立美術大学(現京都市立芸術大学)美術学部染織科卒業。在学中より染織作家としての創作活動を始める。1970年に三宅一生氏と出会い,翌年から(株)三宅デザイン事務所でテキスタイル担当を務める。2000年(株)イッセイミヤケにおいて『HaaT』を展開開始。トータルディレクターとして研究開発を始めて、現在に至る。京都市立芸術大学客員教授。第8回毎日ファッション大賞の第1回鯨岡阿美子賞(90年)、イギリス「TEXTILE INSTITUTE」から「COMPANION MEMBERSHIP」を授与(95年)、毎日デザイン賞(96年)、第25回京都府文化賞功労賞(2007年)受賞。著書に、「テクスチャー」(講談社)

 

HaaT/ISSEY MIYAKE INC.
https://www.isseymiyake.com/haat/ja

Photography by ©ISSEYMIYAKE INC.

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