JINS社長 田中仁氏JINS社長 田中仁氏

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日本のエグゼクティブ・インタビュー

2021.10.26

創造性を高め、既存の概念を刷新し続ける ジンズホールディングス 代表取締役CEO 田中仁


類いまれなブランドストーリーを持つ企業のエグゼクティブにご登場いただくのが、Premium Japan代表・島村美緒によるエグゼクティブ・インタビュー。彼らが生み出す商品やサービス、そして企業理念を通して、そのブランドが表現する「日本の感性」や「日本の美意識」の真髄を紐解いていく。今回はメガネの民主化や高い機能性の付加を実現し、業界に革新を巻き起こしているジンズホールディングス田中仁代表取締役CEOに話を聞いた。



業界の常識を根底から覆す、突破力と企画力


今年
20周年を迎えたメガネブランド「JINS」。
メガネは高額なものというのが当たり前だった時代に、低価格かつ明確な金額設定で当日仕上がりも可能という、これまでのメガネの常識を覆したのがJINSだ。


「創業前、たまたま訪れた韓国で、メガネがリーズナブルな価格で売られているのを知ったのです。日本では
3万円以上するものが、韓国では3,000円ですぐ仕上がる。なぜこんなにも価格差があるのか。その疑問がスタートでした」


その理由が業界の複雑な流通経路にあることを知り、企画から生産、販売までを自社で行うことで、コストを徹底的にカット。大量販売によるスケールメリットを活かすことで低価格かつ高品質なビジネスモデルを構築した。


JINS 田中仁 JINS 田中仁

金融機関の経験を経て地元・前橋で起業。当初は服飾雑貨を製造・販売していた。



JINSの強みはその企画力でもある。ブルーライトカットメガネや花粉カットなど、新たな需要も喚起。2015年にはまばたきや視線の移動、身体の動きを計測するセンサーが搭載されたメガネ「JINS MEME(ジンズ ミーム)」を発売。今年10月に発売した新JINS MEMEは、センサーが捉えたデータをもとに身体や心の状態を専用アプリで可視化するだけでなく、メンテンナンスの方法や運動や休息のタイミングまで提案する。

 

「普通のメガネなら洋服と同じように、売るだけで終わってしまう。でもアプリと連動したサブスクリプションサービスで、メガネを視力矯正だけではなくて、自分自身の状態を知り改善する、つまり、より良いウェルビーイングに繋がるようなアイテムにしたいと考えました」。



JINS メガネ ジンズ ミーム JINS メガネ ジンズ ミーム

フレームの眉間や鼻にあたる部分にセンサーを内蔵した「JINS MEME(ジンズ ミーム)」。驚くほど軽量だ。



JINS ジンズ ミーム JINS ジンズ ミーム

JINS MEMEで計測されたデータが専用のアプリと連動する様子を見せてくれた。自分の身体と心の状態を把握しケアできる。



モノを売るだけではない、地域と共に育む店舗へ

 

常識を覆していくそのスタイルは、商品だけではなく販売の場にも反映されている。開業間もない時期からカフェを併設した店舗を設置してきた。ブランド立ち上げ20周年の節目の今年は、メガネ・食・交流を提供する施設として広々とした空間にベーカリーカフェや誰でも利用できる広場などを設けた「JINS PARK」を群馬県前橋市にオープン。また愛知県岡崎市のイオンモールにオープンした店舗は、地元産の木箱を組み合わせた棚やベンチを設えた店内に、自由に読むことができる1,500冊もの本をメガネとともに陳列。メガネを購入しなくても気軽に立ち寄りくつろげる空間を創り上げた。


JINS PARK ジンズ パーク 前橋 JINS PARK ジンズ パーク 前橋

創業の地である群馬県前橋市に地域コミュニティのハブとなることを目指した「JINS PARK(ジンズ パーク)」。



JINSイオンモール岡崎店 JINSイオンモール岡崎店

JINSイオンモール岡崎店。店内に1,500冊もの書籍と可動式のコミュニティスペースを設置し、ショッピングモールの特性を生かした新たな地域共生の場づくりを目指す。続々と個性的な店舗が生まれている。



「オンラインがこれだけ進化する中で、オフライン、いわゆるリアル店舗はどうあるべきなのだろうと考えたんです。それはやはりオンラインでは得られない体験を作ること。結果として、こういった試みがメガネの販売にも大きくつながっているように思います」

 

とはいえ、従来のメガネ店という枠をさまざまな形で飛び越えながらも、あくまでもその軸足はメガネにある。

 

「新たな体験も、そこにJINSらしさがなくてはいけない。メガネを中心にした上で、出来ることにチャレンジしていきたいと思っています」


さまざまな壁を乗り越え、衰退する街を先進の街へ


そんな田中氏が、もうひとつ、自らの力を注いでいるものがある。それが、群馬県前橋市のまちづくりだ。財団を設立し、出身地である前橋市をはじめとする群馬県の魅力ある都市形成と豊かな地域社会の実現を目指す。

 

「数年前に起業家である自分らしい社会貢献のあり方を考えていた時、ずっと魅力度ランキングで最下位だった群馬県の魅力を、起業の力で上げられるのではないか思いました。そして、次世代を担う群馬の起業家を発掘・サポートする『群馬イノベーションアワード』『群馬イノベーションスクール』をスタートさせました」

 

その活動の拠点である前橋市によく行くようになったが、そこで目にしたのは、かつて自分が過ごした街のさびれた姿だった。

「衰退している状況を見て、この街はもう駄目かもしれないと正直その時は思いました。でもその街で頑張っている若者たちがちゃんといる。ならば何か彼らの役に立ちたいと思ったのです」



田中仁財団 イノベーションスクール 田中仁財団 イノベーションスクール

田中仁財団がサポートするイノベーションスクール。起業やイノベーションを通じて群馬を元気にしていくことを目指す。2021年で8期となる。



ただ、新たな風を受け入れることが容易ではない地方都市の閉鎖性に、やはり苦労の連続だったという。

 

「やればやるほど、向かい風は強くなる。市議会議員の反対や、時には市の幹部と喧々諤々、論じ合うこともありました。でも前に進むには、そういうことを突破していかなければならないのです。時間的にも精神的にも相当エネルギーを注ぎ、さまざまな壁を壊してきたという自負はあります。色々なものと戦っているうちに、自分がはまってしまったのですが()

 

現在は人工知能(AI)など先端技術を利用した都市「スーパーシティ」を目指す前橋市で、その設計や運営を統括する「アーキテクト」の一員にも就任。市民の声を直接届けることが可能なまえばしID”の発行や、学年や年齢に囚われず習熟度に応じた学習や進級ができる、個別最適化された教育システムの構築などの実現に向けて、重要な役を担っている。


アートをコンセプトに世界が認めるホテルを開業

 

前橋のプロジェクトの中でも、田中氏自らが手掛け話題を呼んだのが、老舗ホテル「白井屋ホテル」の再生だ。かつては絹産業で栄えた前橋に300年以上の歴史を誇った旅館「白井屋」を、アートと食文化の発信の場としてリノベーション。設計の藤本壮介氏をはじめ、ミケーレ・デ・ルッキ、ジャスパー・モリソン、レアンドロ・エルリッヒ、杉本博司など世界の名だたるアーティストや建築家が参加し、客室デザインや館内アートを手掛けている。

 

「もともと建築は好きだったのですが、アートにはあまり興味はなかったのです。ところが仕事で海外に行くたびに当時弊社の顧問だった方に美術館に連れていかれまして。そのうちと自分の好みがわかるようになり、アートが身近になってくると同時にこのホテルの話が進み、一気にアートをコンセプトにする形が出来上がりました」



白井屋ホテル 白井屋ホテル

写真左 ラウンジ吹き抜けにあるのは旧白井屋のコンクリートの梁を活かした、レアンドロ・エルリッヒの作品。©️Katsumasa Tanaka 写真右 藤本壮介氏が設計を手掛けた白井屋ホテル。©️Shinya Kigure



デザイン性のみならず、地域を巻き込んだ取り組みは国内外に注目され、ナショナルジオグラフィックの「2021年世界のベストホテル39」に日本で唯一選出。世界が認めるディスティネーションのひとつとなった。

 

「開業以来、今も取材が途切れません。このホテルをハブにどんどん街がにぎやかになっています。街中に人がいない、県庁所在地の中で一番さびれた街が、今確実に活気を取り戻しています」

 

近い将来、新ギャラリーも前橋にオープンする予定もあり、アートは街の活性化のための重要なツールのひとつと考えている。

 

「アートを購入しても大事に倉庫にしまうのではなく、前橋のいろいろなお店に置くのも良いのではないかと考えています。普段の生活の延長線上に一流アートがあり、人々が自然に触れる。街を美術館にする、そのようなイメージも湧いてきています」


シンプルを愛し内面を見る目を持つ、日本的な発想

 

世界のアーティストとプロジェクトを進めながら、日本の魅力を地方から発信している田中氏だが、日本の美意識はどんなところにあると考えているのだろうか?

 

「建築で言えば、木や紙の素材感もあり欧米のデザインに比べ、重厚感というよりはシンプルさや軽さに長けているのではないかと思います。メガネでも海外では装飾的なものが人気ですが、日本では圧倒的に昔からあるようなベーシックなウエリントンとかスクエアタイプ、色も黒やべっ甲柄が人気です」

 

それはメガネの機能性をどこに求めるかという部分にも違いがあると田中氏は指摘する。

 

Googleグラスに代表されるように、欧米企業だと外部のものを見たり、スマホをメガネに搭載するといったものを作ることが多いと思います。しかし我々は、JINS MEMEのようにメガネによって身体のケアをしたり、自分の内面を知ることに注目しています。それはもしかしたら日本的な発想なのかもしれませんね」



JINS東京本社 JINS東京本社

東京を一望する東京本社。ラウンジには新進気鋭の作家によるアート作品も展示されている。



既存の枠組みを壊し、前へ。メガネで新たな価値の創造を

 

ファッションだけでも視力矯正ツールだけでもなく、メガネが人々の生活を豊かにする。そして地方都市だからこそ、大都市には真似できない新たな試みが実現できる。そんな田中氏を突き動かすものとは。

 

「古くて時代に合わなくなった枠組みを壊して、新しい価値を創造したいのです。もちろん全てが成功する訳ではありません。しかし、そうやって他人のやらないことに挑戦することで、それまでになかった新しい価値が生まれるのだと思います」

 

新たな価値の創造、それがJINSの成功の源であり、未来への鍵となっているに違いない。


田中仁 Hitoshi Tanaka

1963年群馬県生まれ。1988年有限会社ジェイアイエヌ(現:株式会社ジンズホールディングス)を設立し、2001年アイウエア事業「JINS」を開始。2013年東京証券取引所第一部に上場。2014年群馬県の地域活性化支援のため「田中仁財団」を設立し、起業家支援プロジェクト「群馬イノベーションアワード」「群馬イノベーションスクール」を開始。現在は前橋市中心街の活性化にも携わる。慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科 修士課程修了。

 

島村美緒  Mio Shimamura

Premium Japan代表・発行人。外資系広告代理店を経て、米ウォルト・ディズニーやハリー・ウィンストン、 ティファニー&Co.などのトップブランドにてマーケティング/PR の責任者を歴任。2013年株式会社ルッソを設立。様々なトップブランドのPRを手がける。実家が茶道や着付けなど、日本文化を教える環境にあったことから、 2017年にプレミアムジャパンの事業権を獲得し、2018年株式会社プレミアムジャパンを設立。2019年株式会社アマナとの業務提携により現職。

 


Text by Yukiko Ushimaru
Photography by Toshiyuki Furuya

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