株式会社 和光 代表取締役社長 庭崎紀代子株式会社 和光 代表取締役社長 庭崎紀代子

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Portraits

日本のエグゼクティブ・インタビュー

2023.12.27

日本のラグジュアリーを体験できる唯一無二の店づくりを目指す 株式会社 和光 代表取締役社長 庭崎紀代子

東京・銀座の交差点といえば、そこには誰もが知るランドマーク時計塔の建物がある。その中にある和光の代表取締役社長として2023年11月に就任したのは庭崎紀代子氏。セイコーグループの主要な事業会社で初の女性社長の誕生だという。輝かしいキャリアを重ねてきた庭崎氏が、銀座の顔ともいえる和光の舵を取ると聞き、早速インタビューを申し込んだ。庭崎氏の描くこれからの和光について、そして女性の働き方など、多岐に渡り語ってくれた。







銀座とともに歴史と文化を紡いできたランドマーク

 

日本、そして世界中から人が訪れる銀座。その4丁目の交差点にあるのが、時計をはじめとした上質なアイテムを扱う「和光」だ。歴史ある建築とともに、「銀座を訪れるすべての人をもてなす」という想いをこめて、まるでアートのような独創的で美しいディスプレイが季節ごとに大きなショーウィンドウに施され、訪れる人の目を惹きつける。

 

 

輸入時計や宝飾品を販売していた服部時計店の創業者、服部金太郎が、時計塔を備えた店舗を構えたのは1894(明治27)年のこと。関東大震災を経て、1932(昭和7)年に2代目となる時計塔を擁した現在の建物が竣工。その美しい佇まいは、以来銀座の街の顔となっている。第二次世界大戦後は米軍に接収されていたが、1947(昭和22)年に服部時計店の小売部門を継承し設立されたのが、現在のスペシャリティストア「和光」である。

 






銀座和光 銀座和光






商売のイロハを学んだ、キャリアのスタートはジュエリー部門から

 

 

庭崎紀代子氏は、大学卒業後入社した服部セイコー(現セイコーグループ)では当初ジュエリー部門へ配属された。

 

 

「主要部門である時計とは違って、ジュエリーは自由で新しいことを若い人にどんどんやらせるセクションだったんです。担当するブランドのためにイタリアに行って商品を仕入れ、利益率を計算して価格を決め、タグをつける作業も自らやりました。さらに広告表現、リーフレットやディスプレイツールなどの宣伝販促物も自分で作り、最終的に販売するまでを1人で担当させてもらいました。大変でしたが、当時はとても仕事が楽しかったですね。でも役職に就きたいとか上昇志向は全然なくて。ただ、経験を積む上で、自分がやりたいと思ったことは成し遂げたいという、想いは持っていました」




実はその時代の仕事は、後にセイコーのデザインから戦略まですべてを統括するマーケティング本部長になった時におおいに役立ったそうだ。

 

「ひとつひとつの仕事は繋がっているものだということを、最初の若いときに肌身をもって知ることができました。単なるバケツリレーでは駄目で、各部門をトータルで考えなくてはいけないということを経験させてもらったのは大きかったです」








庭崎紀代子 庭崎紀代子

「若い人や女性にも仕事を任せてくれた自由な社風に感謝しています」と庭崎氏。




あらゆるチャンスを形に。その経験がグローバルブランドの成功へ

 

 

その後、クレドールをはじめとした時計の商品企画へと異動したが、デザインを主体にしたジュエリーと異なり、時計は一種の機械。同じ社内でも世界観がまったく異なり、工業製品の世界であることにカルチャーショックも受けた。

 

最初は新しい仕事に違和感を持ったが、さまざまなプロジェクトを任されれば成果を上げ、着実に経験を重ねていった。中でもユニーク経験だったというのが、女性用高級腕時計市場に新たなジャンルを切り開くためのプロジェクト「セイコーM」。“女スパイ”をコンセプトに商品を企画し、限定品では松任谷由実氏がコンセプトワークにも関わり、時計のイメージから曲も生まれている。

 

 



「女スパイの生態を把握するために、NYやカリブ海に行ってFBIの捜査官に会ったり映画の『マトリックス』のスタイリストに会ったり。一番大事なリアルな感覚みたいなものを養うことから始めたんです。プロジェクトひとつひとつがとにかく大変だったので、毎回なぜこんな苦しい事させるんだと思うのですが、でも後から思えばこういう経験ができることは本当に貴重なこと。チャンスをくれた会社にはありがたいと感謝しています」

 

 

その後は広報宣伝・販促を経験し、デザイン、商品企画、宣伝販促広報、あるいは戦略などすべてを統括するマーケティング本部長に。セイコーの最上級ウオッチラインであるグランドセイコーのブランド戦略の責任者として、大谷翔平の起用などグローバル展開を図りグランドセイコーを世界的なブランドへと成長させた。






庭崎紀代子 庭崎紀代子

「どんなに困難な仕事でも、柔軟におもしろがる力が大事」と、語ってくれた。周囲を明るく照らすように、笑顔が絶えない人。








「もちろん必ずしも全てが成功したわけではなく、失敗したプロジェクトもたくさんあります。もう何度も反省しましたから(笑)でもまずは自分が面白いと思うかどうかが大事。そう思ったらとことん本気で没頭して、心から楽しむようにする。そうすると、ちょっとしたヒントをくださる方がいたり、誰かの言葉がその時になって沁み込んできたり、パズルのピースが埋まっていくんですよね。そうやって周りの人に助けてもらうことが多かったと思います」

 

 

自分がおもしろいと思ったブランドや商品をいかにユーザーや社会にコミュニケーションしていくか。そこにはさまざまなアプローチがあるが、庭崎氏は“ファン作り”と言う言葉に置き換える。

 

 

「いろいろな方にそのブランドのファンになっていただく。消費者の方はもちろん、クリエイティブを作ってくださるスタッフやメディアの方々など、そのブランドに関わる方がファンになってくださると自然とプラスの方向に動き始め、ブランドの形が築かれていくんです」





人を「引っ張っていく」のではなく「巻き込んでいく」
同じ目標へ向かう仲間を作るという、独自のマネジメントスタイル

 

 

今回の社長就任はセイコーグループ主要な事業会社として女性初。未だ非上場も含めた日本企業において女性社長の割合は8.2%(帝国データバンク、2022年)という状況の中、きっとさまざまな所で何度と聞かれてきたと思うが、これまでも執行役員、取締役といった重責を担ってきた中での苦労はなかっただろうか。

 

 

「もちろん日本はまだまだ男性社会なので、女性だからわからないだろうと意見を聞いてもらえないなど、大変だと感じることもありました。でも一方で女性だから意見に耳を傾けてもらえることもある。ですので、結果的にはプラマイゼロだと私は思っています。だから自分ではあまりジェンダーを意識してなくて、“女性初”と言われて、改めてそうなのかと認識するぐらいです」





「ある女性経営者の著書にもあったのですが、人をどんどん引っ張っていく強いマネジメントではなくても、いろいろな考えを融合して形にしていくのもマネジメント。男性でも強いリーダーもいれば、しなやかに前進していくリーダーもいますよね。マネジメントスタイルにも多様性があっていいと思うんです。私はリーダーシップというより、まず第一義にやりたいことがあって、みんなにこれをやろうよと言ってその目的に周りを巻き込んでいくタイプかもしれません。ただこれやりたい!とすぐ思いついてしまうので、巻き込まれる人達は大変かもしれませんが(笑)」

 

 





庭崎紀代子氏 庭崎紀代子氏

庭崎氏の愛用している時計のひとつが、Grand Seiko STGF345。独特なカーブフォルムとベゼルのダイヤモンドが凛々しく美しい。





日本を代表する街・銀座で伝え続ける
美意識と街への思い

 

これまでもグランドセイコーのグローバル戦略の成功を始め、海外から見る日本のマーケットやモノづくりにも関わってきた庭崎氏だが、その視点で気づく日本の美意識とはどんなところにあるのだろうか。

 

「食べ物ひとつとっても“旬”の前に“走り”があって、後に“名残”があるように、季節が変わるごとに感じる感性が研ぎ澄まされて、自然の摂理にあらがわない生き方みたいことが日本人の意識の中に常にあるのではないかと思います。様式美という点でも、欧米だとパッと見て美しさを感じるところを、日本は見た目だけではなく玉ねぎの皮をむくように、奥に入っていくほどに新たな美に気づいていく。そういう奥深さに日本の美意識を感じています」

 

日本の美意識という視点でも、この銀座にあるということは和光にとっての大きな財産であると考えている。

 

 

「銀座は日本を代表する街ですし、仕事で毎日通っていてもやっぱり高揚感を感じる街。そんな場所に、創業者が建てたままの状態で90年以上この建物が残っているのも奇跡。毎日鳴らす時計の鐘にも、服部金太郎という創業者の街に対する社会貢献という思いがすごく詰まっていると思います。どんな時も1時間ごとに正確に鐘を鳴らす。それが今も変わらずずっと続いている。何気ないようで、人々にここが銀座であるということを感じていただく役割を担っている気がします」






和光のポテンシャルを掘り起こし
世界で唯一無二の存在へ

 

 

社長に就任する以前から、和光にはかなりの関わりがあった庭崎氏。2022年、当時セイコーホールディングス常務取締役兼和光取締役企画本部長だった庭崎氏が責任者となり、和光本館の再整備を行った。地下1~4階の店舗はそのままに、竣工当時からほとんど趣を変えず、服部金太郎を始めとした経営者の執務室、応接室として使用してきていた5階のフロアを、一部招待制のゲストラウンジとし、グループのおもてなしの場として活用することとした。6階の展示ホールは、「セイコーハウス銀座ホール」と改称、そして屋上はイベントやブライダルリングの購入特典で上がることができる「セイコースカイガーデン」に。館の名称も「セイコーハウス銀座」と改称し、セイコーグループのブランド発信の拠点として新たなスタートを切った。




庭崎紀代子 庭崎紀代子



「和光は世界でもこの銀座に1店舗しかありません。それはすごく貴重だしおもしろい存在だと思うんです。日本の方にも海外から来られる方にも、ハレの気分になる銀座で日本のラグジュアリーや日本の良さを体験する場になると、すごく嬉しいと思っています」

 

扱うラグジュアリー商品や風格ある佇まいから、敷居の高さを感じるという課題もある。ただそのハードルの高さは、裏返せば和光の魅力のひとつにもなると庭崎氏は言う。

 

「誰にでもワイドオープンであることももちろん大事ですが、ハードルがあるからこそちょっと勇気を出して入ってみたら、今まで知らなかった発見があった、というようなことも体験としてはおもしろいのではないかと思うんです。長年いらしてくださるお客様も大切ですし、ちょっと勇気が必要な和光と開かれた和光、そのバランスがとても大事だと考えています。でも、どんな時でもいらしていただける皆さんにとって、何か小さなサプライズがあったり新しい発見があったり、他にはない心が動くものがここにある、そういう場所になったらいいなと思います」

 

 

「和光は“和の光”。日本の光のように、日本を象徴する場所やブランドになれればうれしいと思っていますし、そのポテンシャルが和光にはあると感じています」



和光を一度訪れれば、ここにしかない特別なアイテムに歴史ある空間、そして受けるきめ細やかなもてなしと、ここが常に素晴らしい出会いがある宝箱のような場所だということにきっと気づくだろう。

 

 

蓋を開ければ何かが見つかる宝箱の底に、まだまだ眠っている和光のポテンシャルを掘り起こしていく、庭崎社長が開く和光のこれからを楽しみにしたい。




Premium Japan発行人・島村と。 Premium Japan発行人・島村と。

今も竣工時の姿を残すセイコーハウス5階のゲストラウンジにて、Premium Japan 島村と。





庭崎紀代子 Kiyoko Niwasaki

株式会社和光 代表取締役社長。1986年(株)服部セイコー(現セイコーグループ)入社。宝飾部でインポート及びライセンスジュエリーを担当。2001年にウオッチ部門(現セイコーウオッチ)へ異動。商品企画部で「クレドール」の企画、またレディースマーケティング企画部の課長として、女性用新ブランドの立ち上げに携わる。その後、広報宣伝部で広報宣伝・PRを担当したのち、セイコーウオッチ(株)取締役・執行役員就任(マーケティング統括本部副本部長兼広報宣伝部長)、セイコーウオッチの取締役・常務執行役員としてマーケティング統括本部の本部長。2019年よりセイコーグループ(株)の常務取締役、常務執行役員としてコーポレートブランディング、広報、ESG・SDGs推進担当を経て、2023年11月株式会社和光 代表取締役社長に就任。

 

島村美緒  Mio Shimamura

Premium Japan代表・発行人兼編集長。外資系広告代理店を経て、米ウォルト・ディズニーやハリー・ウィンストン、 ティファニー&Co.などのトップブランドにてマーケティング/PR の責任者を歴任。2013年株式会社ルッソを設立。様々なトップブランドのPRを手がける。実家が茶道や着付けなど、日本文化を教える環境にあったことから、 2017年にプレミアムジャパンの事業権を獲得し、2018年株式会社プレミアムジャパンを設立。

 


Text by Yukiko Ushimaru
Photography by Toshiyuki Furuya

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