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尾上菊之丞日記~よきことをきく~

2023.10.5

尾上菊之丞日記~日本舞踊家から、若き歌舞伎役者たちへ。恩送りをしていく夏 其の二








前回、尾上右近さんの自主公演「研の會」に私の息子・嘉人が出させていただいたお話しに続き、夏の思い出話、もう少し続きます。

 

 

 

10月6日、花形歌舞伎俳優、中村鷹之資さんの自主公演「翔之會」が浅草公会堂で開催されます。その演目の一つに「二人椀久」という舞踊があり、私は振付を担当させていただいております。今回の鷹之資さんの「二人椀久」にかける意気込みは並々ならぬものがあります。稽古を開始したのはなんと5月半ば。通常10月の舞台の稽古を5ヶ月も前から始めることはなかなかありません。40分ほどの演目ですが、先日も2時間半みっちりと稽古しました。

 

 

並々ならない意気込みなのは鷹之資さんだけでなく私も一緒。実は「二人椀久」は私にとっても思い出深い演目。注意するポイントやこだわり、鷹之資さんに伝えることがとっても多い演目なんです。

 




中村鷹之資勉強会第八回「翔之会」 中村鷹之資勉強会第八回「翔之会」

10月6日開催される、中村鷹之資勉強会第八回「翔之會」。鷹之資さんの父・中村富十郎さんの代表作である「二人椀久」に挑みます。お問い合わせ:天王寺屋友の會





菊之丞と中村鷹之資 菊之丞と中村鷹之資

中村鷹之資さんとのお稽古の様子。とても熱が入ってしまいます。




初代尾上菊之丞振付の代表作「二人椀久」
中村富十郎さんの思い出とともに伝える藝と心

 

「二人椀久」は私の祖父、初代尾上菊之丞の代表作。尾上流、そして私にとっても特別なものなんです。そしてなんと言っても今回、熱が入るのには訳があります。長年に渡って歌舞伎の本興業でこの「二人椀久」を演じ、初代菊之丞振付の代表作に育ててくださり、私にこの椀久のお役を教えてくださったのが、鷹之資さんのお父さま、今は亡き四代目中村富十郎さんだったのです。

 

 

 

「僕はあなたのお祖父さまに教わったんだよ」と言って、直接教えていただく機会が度々ありました。お祖父さまというのは、私の祖父・初代尾上菊之丞のこと。祖父は富十郎さんのお母さまである吾妻徳穂先生と何度もこの「二人椀久」を踊っていて、富十郎さんにとっては「椀久」の先生というわけです。「物狂いの風情はこう、目線はこう」「こう!いっぱいに身体を使うんだよ」とか「お祖父さまは脚がお悪かったからこうやっていた」「自分はこういうところを工夫していた」と、目の前で実際に動いてくださったり、本当に細かく教えてくださいました。そして必ずこう声をかけてくださいました。「でも、自分に合った、自分なりの演り方を見つけてやってごらん」と。そして今、私も、富十郎さんが私に教えてくださったように、鷹之資さんと愛子さんの兄妹にお稽古をつけさせていただいています。富十郎さんが私にかけてくださった一言一句、忘れることのない教えを、今、お二人にお伝えしたいという思いです。

 

 

 

稽古を重ねているとふとした瞬間に、鷹之資さんの姿に今は亡きお父上、富十郎さんの面影をみて、ハッとすることがあります。私の祖父・初代菊之丞から富十郎さんへ、富十郎さんから私に、そして鷹之資さん愛子さんへ。こうして直接は伝えられなかった藝と心を、教えを受けた人を通じて継承していく。歌舞伎や日本舞踊、古典芸能はこうやって先輩から後輩へ藝と心が送られていきます。






菊之丞と中村鷹之資 菊之丞と中村鷹之資

ふとした鷹之資さんのしぐさに、お父様・中村富十郎さんのおもかげを発見します。





実は私は元々、中村富十郎さんの大ファン。歌舞伎の俳優さんの中でも、踊り手の中でも最も憧れていた方なんです。気持ちの定まらない若い頃、富十郎さん演じる「船弁慶」を観て、その迫力と美しさに「こんなかっこいい踊りがあるのか!」と感激したのがこの道でやっていこうと決心したきっかけでした。それ以来、富十郎さんは私にとって憧れのスーパースターです。

 

 

前回お話しした、私の息子・嘉人に歌舞伎の舞台に立つ初めての機会を作ってくれた尾上右近さんのお話も、今回の鷹之資さんの「二人椀久」のお話も、まさに恩送り。師匠や先輩からいただいた御恩を直接返すのではなく、次の世代に伝えることで送っていく。この長い長い流れの中に存在できることを、つくづくありがたいなと感じています。すごく暑かったけど、忘れられない夏になりました。




尾上菊之丞 「二人椀久」 尾上菊之丞 「二人椀久」

これは私。「二人椀久」椀久の写真です。近年は特に素踊りが多くなっている私ですが、この「二人椀久」だけは別。できる限り、いつまでも本衣裳で拵えをして踊りたいですね。

また、前回紹介した尾上右近さんの「研の會」や、鷹之資さんの「翔之會」など、若い俳優さんが主催する自主公演が増えているのはとてもいいことだと思っています。じっとしていても大きな役が回ってくるわけじゃない。自分をアピールする機会を自分で作るということは本興行で役を掴むためにも大切なことです。自主公演は冒険ですし、苦労も多い。それも含めて勉強するチャンスなんです。一つの公演を実施にこぎつけるまでの過程に全て関わり、チケットも必死で売らなければならない、何にどんな費用がかかるのか、どれほどのスタッフが支えてくれているのか、舞台に立っているだけでは気づかないこともたくさんあるんです。

 

 

総じて、自主公演を開催している人の多くは、以前にもまして謙虚になる。感謝して、だからこそ頑張ろうという気になる。私自身も常にそうでなければと思います。






そして初挑戦がはじまる
菊之丞、新派に出る

 

若い歌舞伎俳優の皆さんに刺激をもらい、私も頑張らねばいけないと気持ちを新たにしたところで、今、お稽古真っ最中なのが10月12日、13日に上演される「新編 糸桜」という新派のお芝居です。主演は波乃久里子さん。共演に大和悠河さん、他にも劇団新派の俳優さんなど。実は私、ストレートプレイは生まれて初めてのことになります。





これまで色々な芝居に携わってきましたが、私の振付や演出という立場。でも今回は役者として出演する側です。

先日、初めて立ち稽古をしてまいりました。これが・・・・とても楽しい。初めての経験にドキドキしながらも、なんだか若返ったような気さえするんです。本気でお芝居して、感情が動くのを実感できる、共演の役者さん達の本気のイキを感じて嬉しくて仕方ありません。

 

演出の斎藤雅文先生は、役柄の背景や、見えてこない部分まで細やかに説明してくださる。少しずつ課題も出してくださるので、一年生の気持ちで懸命に取り組んでいます。今までもお付き合いのある役者さんやスタッフさんも多いのですが、何より私は新米役者、自然と「お願いします!」という謙虚でフレッシュな気持ちに。

 

 

 

今回この役者としてのお仕事をお引き受けして本当に良かったと思うことの一つが波乃久里子さんとの共演。久里子さんは私が子供の頃から「よしゆきちゃん(本名)!」と声をかけてくださるとても近い存在でしたし、もちろん舞台もたくさん拝見してきました。ただ、今回は目の前で、というか、本気の言葉(セリフ)が僕に向かって飛んでくる。客席では感じることのできないエネルギーを目から手から身体全体から感じることができる。これは共演しなきゃ絶対わからない。久里子さんに限りません。他の共演の役者さん一人一人のエネルギーがすごいんです。そういうものを自分も出せるようになりたい。そしてそれをお客さまにお届けしたいと、日々稽古に励んでおります。

 

 

是非、日本橋公会堂へお運びください。みなさまに新しい菊之丞をお見せしたいと思っております。

 






演劇ユニット新派の子 錦秋公演 河竹黙阿弥没後百三十年「新編 糸桜」

2023年10月12日(木)・13日(金)
東京都 中央区立日本橋公会堂

原作:河竹登志夫「作者の家」
脚本・演出:齋藤雅文
出演:波乃久里子、尾上菊之丞、大和悠河 / 只野操 / 村岡ミヨ、鴫原桂 / 石橋直也 / 下野戸亜弓、堅田喜三代社中 / 喜多村次郎、市村新吾 / 佐堂克実





尾上菊之丞 Kikunojo Onoe

 

1976年3月、日本舞踊尾上流三代家元・二代目尾上菊之丞(現墨雪)の長男として生まれる。2歳から父に師事し、1981年(5歳)国立劇場にて「松の緑」で初舞台。1990年(14歳)に尾上青楓の名を許される。2011年8月(34歳)、尾上流四代家元を継承すると同時に、三代目尾上菊之丞を襲名。流儀の舞踊会である「尾上会」「菊寿会」を主宰するとともに、「逸青会」(狂言師茂山逸平氏との二人会)や自身のリサイタルを主宰し、古典はもとより新作創りにも力を注ぎ、様々な作品を発表し続けている。また日本を代表する和太鼓奏者、林英哲氏をはじめとして様々なジャンルのアーティストとのコラボレーションにも積極的に挑戦している。

日本舞踊・藤間流八世宗家・藤間勘十郎さんとともに立ち上げたオンラインサロン「K2 THEATRE」や、「菊之丞FAN CLUB」へのお問合せは、尾上流公式サイトをご覧ください。




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