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尾上菊之丞日記~よきことをきく~

2023.12.30

尾上菊之丞×茂山逸平のコラボレーション「逸青会」のこと

茂山逸平さんとのコラボレーション「逸青会」のこと

こんにちは。尾上菊之丞です。クリスマスも終わり、いよいよ12月も終盤に差し迫ってまいりました。私の近況をご報告しますと、秋から年末にかけて怒涛のように次から次へと様々な作品に携わり、目が回る忙しさの3ヶ月でした。

 

「糸桜」以降、10月後半は先斗町の秋の年中行事「水明会」、11月は歌舞伎座の「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」の振付、「日本舞踊キャラバン」は高知公演と沖縄公演に出演、そしてなんといっても12月の「逸青会」と、よくここまで息切れせずにたどり着いたと、自分でも感心し、同時にホッとしているところです。

 

今日は、毎年12月に開催している「逸青会(いっせいかい)」についてお話しします。「逸青会」とは、大蔵流・茂山千五郎家の狂言方能楽師である茂山逸平さんと私がアイディアを持ち寄って、舞踊と狂言の新たな可能性を追求する会です。今年も12月9日の京都公演を皮切りに、16日の東京公演は追加公演を含めて3回公演となりました。ありがたいことに早々にチケットが完売したため、逸青会として初めて追加公演ができたこともうれしいことでした。ご来場いただきましたお客様には感謝の気持ちでいっぱいです。





コラボレーションの難しさ、おもしろさ



「逸青会」のお稽古 「逸青会」のお稽古

「逸青会」のお稽古風景。左から茂山逸平さん、今年のゲストの落語家の古今亭菊之丞さん、そして私。






15年目を迎える逸青会ですが、様々な催し、特に共同で主催する同人会で「逸青会」ほどきっちり続いている会は稀だと思います。大体もめるんです(笑)。芸のことで意見が合わないこともありますし、そんなことで?というような、些細なことでうまく行かなくなることもあります。

 

 

自分たちで主催するのはお金もかかりますので、金銭面で問題が生じることもあると思います。特に日本舞踊と狂言を比べると、演奏者や衣裳に鬘など日本舞踊の方が圧倒的に経費がかかります。狂言は演目によっては演奏や謡が入らない2、3人の役者だけで演じるものも少なくありません。それでも逸平さんは二人で一つの作品であり公演であるという考えを共に貫いてきてくれました。この15年で解散の危機は一度もないんです。視野が広く聡明、作品を創る情熱、それでいておおらかな逸平さんだったからこそ一緒に続けてこれたんだと思います。






菊之丞 菊之丞

毎年「逸青会」では新作にチャレンジするのが決まり。今年はウクライナ問題をモチーフにした新作「ひまわり」を作りあげました。





新作「ひまわり」に込めた思い

 

 

今年の新作「ひまわり」はウクライナ問題をテーマにしたものです。15年間色々な作品を逸青会の新作として創作してきましたが、社会派の作品は初挑戦。今、現実に起こっている戦争をテーマにしたいと考え、今回脚本をお願いした横内謙介先生に相談しました。

 

 

舞台はウクライナのある村。戦争が始まりロシア兵が侵攻してきたことに抗議する村の老婆が、若いロシア兵士にひまわりの種を渡す。「このひまわりの種をポケットに入れてお前はここで死ぬんだ。そうすればそこからひまわりが咲くから」と老婆が猛抗議する様子を、ニュースで目にされた方も多いと思います。物語は、この実際に報道された実話をモチーフに、横内先生が新作を書き下ろしてくださいました。

 

横内先生の脚本に、作曲をしてくださった藤舎貴生さん、今回ゲスト出演をお願いした落語家の古今亭菊之丞さん、演奏家のみなさんなど多くの方の力をいただいて「ひまわり」は出来上がりました。

芸能には、風刺も大切な要素です。ただ、逸青会においては単なる風刺になってはつまらない。戦争という大きなテーマを逸青会なりに表現するというのが今回の挑戦でした。逸平さんと二人で、本質を失わずそれでいてほっこりできたり、希望を感じるような作品にするためにどうするのか試行錯誤しました。お客様の期待を少しばかり裏切りながら、古典芸能がもつ包容力とも言える、どんなテーマでも飲み込んでしまう大きさを示し、最後にはやっぱり逸青会だなと安心してお帰りいただけるような作品を目指しました。結果はどうであったか、これはご覧いただいたお客様のみぞ知るというところでしょうか。それでも手応えはありました。







「逸青会」 「逸青会」

古今亭菊之丞さんは、くしくも私と同じお名前の方。いつかご一緒したいと考えていました。落語と日本舞踊と狂言。3つの日本の古典芸能が能舞台で1つになる。とてもユニークなコラボレーションになったと思います。




菊之丞さんと嘉人くん 菊之丞さんと嘉人くん

息子の嘉人も、12月16日の東京公演に1演目だけ出演させていただきました。





京都と東京、舞台の上から感じる違い

 

 

「逸青会」は、2009年の1回目から京都と東京の2か所で公演をしています。京都と東京のお客様の違いはありますね。初回の京都公演はすごかった。お客様はくすりともしなかった。京都は普段から狂言をはじめ、古典芸能に触れている目の肥えた方も多く、「どんなんやらはるんやろう?」って眉をひそめて見ている感じ。 舞台の上の私たちはヒリヒリしていました(笑)。特に京都のお客様の心を、雰囲気を変えるには少し時間がかかりました。

 

 

それでも、3年〜4年経つとお客様も自然に笑ってくださるようになりました。「逸青会」を見続けることで、楽しく受け止めればいいんだと理解し、舞台を楽しむことに慣れていってくださったのだと思います。今では多くの方が声を大にして笑い、大きな拍手をくださるまでになりました。お客様が斜に構えて見ているのと、ワクワクして待ってくれているのとでは雰囲気がまったく違います。続けてきたよかったなと思う瞬間です。






コラボレーションが、新しい扉を開いてくれる

 

 

逸平さんとのコラボレーションは私にとって新しい扉を開いてくれました。日本舞踊と狂言ということでジャンルの垣根はありますが、互いに「芸能者として成長したい」という一心でやってきたのだと思います。手探りで始めた新作創りも、経験を積むごとに深まり、更に新しいことを求めていく。そして何より舞台上で逸平さんと作品に向かい合う時の安心感は互いの信頼からくるものだとつくづく感じます。どんなハプニングが起きても不安はないんです。この逸青会での成功体験が私の舞台人としての自信にもなっています。

 

 

とはいえ、まさかこんなに長く続くとは思っていなかったのは事実。初めて会ったときからこの人とだったらご一緒できそうだなと予感はあったけれど、出会ってから「逸青会」を始めるまでに10年以上経っていました。あるとき、そろそろなにかやってみようよ、とどちらから誘うでもなく、偶発的に始まったんです。あれがタイミングだったんでしょう。

 

毎年、「逸青会」が終わると、また来年の会のことをお互いに考えだします。 2024年の公演は15周年記念として、8月に予定しています。東京公演は1週間連続でやりたいと計画中です。

 

今年もあとわずか一日となりました。来年もまたさまざまな活動のことなど、私の日常をお話ししてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。よいお年をお迎えください。







2024年1月3日から東京国際フォーラムにて「詩楽劇 『沙羅の光』~源氏物語より~」に出演します。娘も一緒に舞台に上がりますので、今まさにお稽古の真っ最中です。

 

◆ J-CULTURE FEST presents 井筒装束シリーズ
詩楽劇 『沙羅の光』~源氏物語より~
東京国際フォーラム ホールD7

開演時間
1月3日(水)12:00/15:30
1月4日(木)12:00
1月5日(金)12:00
1月6日(土)12:00/15:30
1月7日(日)12:00/15:30

入場料
(全席指定・税込・5歳未満入場不可):
SS席 12,000円(SS席特典<非売品>付)
S席 9,000円
U-25席 4,000円
※U-25チケットは公演当日に満25歳以下を対象にしたチケットです。
ご来場時に年齢が明記された身分証をご提示ください。

◎1/4・1/5の公演にご来場のお客様には、席種を問わず、平日限定特典<非売品>をご用意しております。

◆出演
紅ゆずる・井上小百合・日野真一郎/
花柳喜衛文華・藤間京之助/
尾上菊之丞
羽鳥以知子
◆演出・振付:尾上菊之丞
◆脚本:戸部和久
◆音楽・演奏:
音楽監督・二十五絃筝:中井智弥(3~5日)/金子展寛(6~7日)
雅楽:稲葉明徳
和楽器:吉井盛悟
■主催:井筒企画/東京国際フォーラム
■後援:東京都/千代田区/東京商工会議所
■企画・制作:井筒/井筒東京







尾上菊之丞 Kikunojo Onoe

 

1976年3月、日本舞踊尾上流三代家元・二代目尾上菊之丞(現墨雪)の長男として生まれる。2歳から父に師事し、1981年(5歳)国立劇場にて「松の緑」で初舞台。1990年(14歳)に尾上青楓の名を許される。2011年8月(34歳)、尾上流四代家元を継承すると同時に、三代目尾上菊之丞を襲名。流儀の舞踊会である「尾上会」「菊寿会」を主宰するとともに、「逸青会」(狂言師茂山逸平氏との二人会)や自身のリサイタルを主宰し、古典はもとより新作創りにも力を注ぎ、様々な作品を発表し続けている。また日本を代表する和太鼓奏者、林英哲氏をはじめとして様々なジャンルのアーティストとのコラボレーションにも積極的に挑戦している。

 

「菊之丞FAN CLUB」へのお問合せは、尾上流公式サイトをご覧ください。

 

◆尾上菊之丞インタビューもご覧ください

尾上流 尾上菊之丞の挑戦の序章~新作歌舞伎「刀剣乱舞」演出まで(前編)

尾上流 尾上菊之丞の挑戦の序章~新作歌舞伎「刀剣乱舞」演出まで(後編)




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