こんにちは。尾上菊之丞です。大蔵流・茂山千五郎家の狂言方能楽師である茂山逸平さんと私がアイディアを持ち寄って、舞踊と狂言の新たな可能性を追求する会、「逸青会」の東京公演が近づいてきました。
「逸青会」は今年で15年を迎えます。渋谷のセルリアンタワーの能楽堂で8月18日からの1週間の公演を予定しています。
1年目の「茶壺」、2年目の「千鳥」の 手ごたえが足がかりに
2011年の逸青会「千鳥」。岐点となった演目でした。
共同で主催する同人会でこれほど長く充実した活動を続けている会は他にはないのでは。
思い返せば2年目の「千鳥」で大きな手ごたえを感じたことが、会の存続に勢いを付けたのだと思います。狂言の古典作品である「千鳥」に、舞踊の要素を大きく取り入れて逸青会版「千鳥」を創りました。舞踊と狂言がコラボレートしたことで、より面白くなり、ご覧いただいた茂山家のみなさまからもとても好評をいただいて自信となりました。。
YouTube 逸青会ちゃんねる「二人三番三」より。ぜひYouTubeでご覧ください。
逸青会ちゃんねるはこちらをクリック
アプローチの方向が違う二人だからこそ、相性が合う
逸平さんは、15年続いた秘訣は「相性が合う」とおっしゃっていました。逸平さんが言うには、「相性とは、同類だから合うという意味ではなく、むしろ、創作に対するアプローチの方法が違うからこそ、二人の間で新しいものが生まれる」とのこと。私もそう思います。逸平さんは、どちらかというと役者目線で舞台を見ていますし、私はどちらかといえば演出家的な俯瞰視線で捉えています。
また、私自身は狂言という先行芸能に敬意を払い、そこに何を加えていけば新しいものが生まれるか、ということを絶えず考えています。
セリフ劇の経験がストレートプレイの糧に
狂言と舞踊がコラボレートする舞台を15年間続けて、得られたものはたくさんあります。演じ手の私としてはセリフでしょうか。「逸青会」の新作では、とにかくセリフがたくさんあります。会話劇を中心として、さまざまな役柄で逸平さんとお芝居をしてきました。その積み重ねが、昨年秋に初めて経験したストレートプレイの『新編 糸桜』でも役にたったと思います。
演出家的な立場でいえば、能舞台という空間を見所も含めて最大限に活かす方法を常に考え、何か新しいことはできないかと試行錯誤してきたことが、他の劇場や野外においてもその場所を最大限活かす工夫につながっている、これが大きな収穫ではないでしょうか。
笛で音を取る狂言と、三味線で音を取る日本舞踊
とはいえ、最初のころは、二人とも試行錯誤の連続でした。私が膨大なセリフ量に苦労したように、逸平さんも戸惑うことが多かったと思います。狂言は、基本的に水平方向の動きが大半ですが、舞踊は上下の動きが入りますから、そもそも身体の動かし方が大きく違っています。
また、狂言は主に笛で音を取り、笛のメロディにに合わせて動きます。ところが舞踊は主に三味線で音を取ります。狂言と舞踊の大きな違いに、逸平さんも最初は慣れないようでしたが、今では完璧にこなし、とても楽しそうに演じています。
この「楽しい」ということが、とても大切だと思います。もちろん、お客様に楽しんでいただくことが一番重要ですが、そのためにはまず、演じる私たちが楽しんでいなければならないと思います。そういった意味では、この「逸青会」は、逸平さんと私をはじめ、作曲家や脚本家の方、舞台に関わっている方だれもが、楽しんでくださっているように思います。
2023年の逸青会「ひまわり」より。ウクライナ問題をモチーフにした新作でした。
2023年の逸青会の新作「ひまわり」より。ゲストの古今亭菊之丞さん、私、茂山逸平さんと3人で舞台を作りあげました。
いたずらに「領域」を意識することはありません
作品を創作するプロセスは、楽しいけれど苦しいときもあります。でも、けっして狂言と舞踊のフィフティフィフティをめざすようなことはしません。お互いに気を使うわけでもなく、この場面は必然的に狂言の手法で、そしてここは舞踊で、と組み立てていきます。
でも、大切なのはいたずらに「領域」を意識しない、ということだと思います。狂言の領域、舞踊の領域ということを考え始めると、単に二つの伝統芸能が交互に登場する、つまらない舞台になってしまいますから。
いつかチャレンジしてみたい、無言劇
15周年の今年は、の新作は、初めて前編・後編というかたちで上演します。1週間の公演の中で、新作狂言を差し替えるというのも大きな挑戦です。また、ゲストの方々には、私たちが今まで創ってきた作品をやっていただこうと考えています。今はこの夏に向けて、これから作品を練り込んでいく段階ですが、じつはこの先の構想のようなものも、漠然となんとなく頭の中にはあります。これまで「逸青会」でやってきたのは、基本的には会話劇です。そこから一歩踏み出し、ノンバーバル、つまりセリフのない無言劇みたいなことはできないものかな、と考えています。
とはいえ、まず15周年の東京の会を無事にやりきり、年内には京都でも開催したいと考えています。皆様、どうぞ足をお運びください。
◆ 公演概要
《日程》2024年8月18日(日)~25日(日)※21日休演・7日間・全11公演
《場所》セルリアンタワー能楽堂(東京都渋谷区桜丘町26番1号 地下2階)
《主催・出演》尾上菊之丞/茂山逸平
<一>8月18日(日)午前12時開演
「三番三」尾上菊之丞、茂山逸平/逸青会作品「わんこ」尾上右近、茂山茂
新作「御札」前編 尾上菊之丞、茂山逸平
<二>8月18日(日)午後4時開演
逸青会作品「わんこ」尾上右近、茂山茂/狂言「鬼瓦」茂山逸平、島田 洋海
新作「御札」前編 尾上菊之丞、茂山逸平
<三>8月19日(月)午後2時開演
狂言「神鳴」茂山逸平、茂山慶和/逸青会作品「いたりきたり」松本幸四郎、茂山宗彦、坂口貴信
新作「御札」前編 尾上菊之丞、茂山逸平
<四>8月19日(月)午後6時開演
舞踊「吉原雀」尾上菊之丞、尾上京/逸青会作品「いたりきたり」松本幸四郎、茂山宗彦、坂口貴信
新作「御札」前編 尾上菊之丞、茂山逸平
<五>8月20日(火)午後5時開演
舞踊「石橋」尾上菊之丞、尾上菊紫郎/逸青会作品「いたりきたり」中村鷹之資、茂山宗彦、坂口貴信
新作「御札」前編 尾上菊之丞、茂山逸平
<六>8月22日(木)午後1時開演
狂言「蝸牛」茂山逸平、茂山慶和、島田 洋海/逸青会作品「鏡の松」茂山千五郎、中村壱太郎
新作「御札」後編 尾上菊之丞、茂山逸平、尾上墨雪
<七>8月23日(金)午後5時開演
舞踊「連獅子」尾上菊之丞、羽鳥以知子/逸青会作品「鏡の松」茂山千五郎、中村莟玉
新作「御札」後編 尾上菊之丞、茂山逸平、茂山七五三
<八>8月24日(土)午前12時開演
逸青会作品「わんこ」尾上菊之丞、茂山逸平/狂言「寝音曲」茂山逸平、茂山千之丞
新作「御札」前編 尾上菊之丞、茂山逸平
<九>8月24日(土)午後4時開演
逸青会作品「いたりきたり」尾上菊之丞、茂山逸平、谷本健吾/舞踊「橋弁慶」尾上菊之丞、羽鳥嘉人
新作「御札」後編 尾上菊之丞、茂山逸平、尾上墨雪
<十>8月25日(日)午前12時開演
逸青会作品「いたりきたり」尾上松也、茂山千之丞、谷本健吾/舞踊「橋弁慶」尾上菊之丞、羽鳥嘉人
新作「御札」後編 尾上菊之丞、茂山逸平、茂山七五三
<十一>8月25日(日)午後4時開演
逸青会作品「いたりきたり」尾上松也、茂山千之丞、谷本健吾
狂言「水掛聟」茂山逸平、茂山七五三、茂山慶和/新作「御札」後編 尾上菊之丞、茂山逸平、尾上墨雪
入場料:10,000円 (※全席指定/税込、お席の指定はできません)
チケットはこちらのフォームから→https://forms.gle/ZJjx3qNcf6sKKXrR7
チケットに関するお問い合わせ先: TEL : 03-3541-6344(平日10:00-18:00) MAIL: info@onoe-ryu.com
尾上菊之丞 Kikunojo Onoe
■尾上流四代家元 三代目尾上菊之丞 (おのえ きくのじょう)
1976年生まれ。2歳から父に師事し5歳で初舞台、2011年尾上流四代家元を継承し、三代目尾上菊之丞を襲名。自身のリサイタル「尾上菊之丞の会」、狂言師茂山逸平氏との「逸青会」を主催。新作の創作にも力を注ぎ、様々な作品を発表。新作歌舞伎や花街舞踊、宝塚歌劇団、OSK日本歌劇団やアイススケート「氷艶」「Luxe」など様々なジャンルの演出・振付を手掛ける。
京都芸術大学非常勤講師/公益社団法人日本舞踊協会理事
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