アルマーニ 帆立とキャビアアルマーニ 帆立とキャビア

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グルメ最前線 トップレストランを探訪する

2023.10.27

「アルマーニ / リストランテ」で開催された 4ハンズの饗宴に舌鼓をうつ

カルミネ・アマランテ氏による「帆立貝 キャビア サフランソース」。







有名シェフたちが海外から来日し、国内のシェフとコラボレーションをする機会が前にも増して頻繁になっている。コロナが明けたからだけではあるまい。日本にそれだけのシェフがいるということの証左である。

 

今回来日した大物は、シンガポールでミシュラン2ツ星を誇る「JAAN by Kirk Westaway」のイギリス人シェフ、カーク・ウエスタウェイ氏(以下、カークと略す)その人だ。迎えるのは東京・銀座の「アルマーニ / リストランテ」を率いるカルミネ・アマランテ氏(以下、カルミネと略す)である。






左が「JAAN by Kirk Westaway」のカーク・ウエスタウェイ氏。右が、「アルマーニ / リストランテ」のエグゼクティブシェフ カルミネ・アマランテ氏。 左が「JAAN by Kirk Westaway」のカーク・ウエスタウェイ氏。右が、「アルマーニ / リストランテ」のエグゼクティブシェフ カルミネ・アマランテ氏。

左が「JAAN by Kirk Westaway」のカーク・ウエスタウェイ氏。右が、「アルマーニ / リストランテ」のエグゼクティブシェフ カルミネ・アマランテ氏。






ナポリ生まれのイタリア人・カルミネの前職は東京・丸の内にあった1ツ星「ハインツベック東京」のシェフである。2020年に「アルマーニ / リストランテ」のエグゼクティブ・シェフに就任し、22年にはイタリアのガンベロロッソで世界に一人しかいない「シェフ・オブ・ザ・イヤー」に輝いた。23年にはガンベロロッソの「世界のトップシェフ・イタリアンレストラン」で2年連続最高位の3フォークを獲得している。カルミネは魚と野菜といった日本の食材への研究に余念がない。日本独自の肉も併せて、それらをいかにイタリア料理に落とし込むか――彼のクリエーションはいま期待の視線を集める最右翼にある。
この両シェフの融合がいかばかりだったのか――。10月5日と7日に行われたコラボレーションディナー(〝4-HANDS DINNER″)の様子をさっそく報告しておきたい。

 

すべてが上質な空間で
極上の品々が炸裂する

 

店内は天井が高く気持ちがよい。広々としたウェイティングスペースは、これから始まる特別な時間を早くも予感させる。着席すれば、カトラリー類にはすべてアルマーニの刻印が押されていることに気づく。ナプキンですらその手触りからして、上質であることが分かるだろう。






ゴージャスなテーブルセッティング。グラスにもアルマーニの刻印が施されている。 ゴージャスなテーブルセッティング。グラスにもアルマーニの刻印が施されている。

ゴージャスなテーブルセッティング。グラスにもアルマーニの刻印が施されている。






さっそくパンが2種、熱々で出てきた。添えられたたっぷりのバターにはタイムが振りかけられている。これは英国産の塩気の強いバターなのだが、細かくした香草のタイムを振りかけるのは、カークが下積み時代にいた店の名残なのだそうだ。

フランチャコルタの「カ・デル・ボスコ」で乾杯したのち、最初にサーブされたのは4種のアミューズ・ブーシュだ。冷たいものが2種で、「フォワグラのムース」(byカーク)と「ウニのブリオッシュ」(byカルミネ)だが、前者はフォワグラの濃厚さを玉ねぎがまろやかに仕上げ、後者はブリオッシュと北海道産のバフンウニの甘さがマッチしていた。温かいものが2種で、「タラバ蟹」と「クリスタルキャビアを載せたパンケーキ」(共にbyカーク)だが、前者は蟹肉をぎゅっと固めたものでシンガポールのラクサの味を想起させた。後者はパンケーキの中に仕込んだチェダーチーズがキャビアの塩気と合体していい塩梅だ。






イギリス人とイタリア人。料理を介せば二人の息もぴったり。 イギリス人とイタリア人。料理を介せば二人の息もぴったり。

イギリス人とイタリア人。料理を介せば二人の息もぴったり。





二人ともにアジアをよく知るせいか、食材にしても味にしても、ユニバーサルでありながら、より日本人にマッチするように仕上げているように感じた。最初の一口アミューズから胃袋をグッと鷲掴みにされた。

 

続いて、カークによる「トマトコレクション フレッシュバジルソルベ」は、かなりイタリアンに寄せたものだ。甘味が濃厚なトマトピューレの上に、種々のトマトやドライトマトやラズベリーが載っかり、てっぺんにバジルのソルベがおさまる。フレッシュで微妙に異なるトマトの酸味に、ピューレの甘味とバジルの清涼感が口中を駆け巡る刺激的な一品である。






カークによる「トマトコレクションフレッシュバジルソルベ」。 カークによる「トマトコレクションフレッシュバジルソルベ」。

カークによる「トマトコレクションフレッシュバジルソルベ」。






前半のピークはカルミネによる「帆立貝 キャビア サフランソース」にあった。「帆立貝を鉄板焼きスタイルで焼いてみた」(カルミネ)と言うそのホタテは、バターなどでソテーするよりも、味がストレートだ。ホタテの濃い旨味に上物キャビアの淡い塩味が加わり、それをサフランソースの甘味が和らげる。なんとも上品な仕上がりになった。そこに、「シャブリ・プルミエクリュ」をペアリングしたところが心憎い。





カークによる「静岡 アカザエビ」 カークによる「静岡 アカザエビ」

カークによる「静岡 アカザエビ」





カークによる「静岡 アカザエビ」はボイルしたアカザエビを白菜で包み、エビ100%のオランデーズソースで囲んだところに焦がしバターを載せるという非常に凝ったしつらえの品である。「ソースにサフランを加えることで甘味を出した」(カーク)のだが、いずれにしてもエビの旨味で横溢している。視覚的に緑色が欲しかったのかもしれないが、ちょっと葉の部分に違和感があり、白菜はなくてもいいという気がした。

 

日本独自の旬の食材を
イタリアンに落とし込む技が光る

 

そして、後半のピークが波状攻撃で続く。ともにカルミネによるもので、「リソ ディ セモラ 黒トリュフ」と「キンキ」である。





カルミネによる「リソ ディ セモラ 黒トリュフ」。実際にはポットで出てきた。 カルミネによる「リソ ディ セモラ 黒トリュフ」。実際にはポットで出てきた。

カルミネによる「リソ ディ セモラ 黒トリュフ」。実際にはポットで出てきた。





まず、パンを除けば初めての炭水化物だ。ナポリ伝統の米状のパスタをリゾット風にしたものだが、表面には粒状の黒トリュフがめいっぱいかけてある。「いつもならサフラン風味にするのですが、鶏のコンソメとパルミジャーノで味付けしてみた」(カルミネ)。自家薬籠中のものというか、実に美味しい。有田焼の小振りなポットに入っているのだが(写真では平皿)、お代わりを二回くらいしたかった。





カルミネによる「キンキのアクアパッツァ」。 カルミネによる「キンキのアクアパッツァ」。

カルミネによる「キンキ」。





次はアクアパッツアのソースで食べるキンキのグリルである。カルミネが解説する。「キンキは北海道の網走産のものです。備長炭でグリルした上で、ワラで軽く燻してスモーキーアロマを加えた」。皮はパリパリで、白身の肉は弾力をいささかも失うことなく歯ごたえがあった。確かに、かすかな薫香が好ましい。「生姜もほんの少々加えた」(カルミネ)という最後の一筆が、日本人の味覚には響くところだろう。筆者はかつて2ツ星フレンチで、生姜を用いた魚料理が散々なことになったものを食した経験があるが、カルミネの手際がいかに見事なものであるかを実感した。生姜と西洋料理は実に相性が悪いにもかかわらずである。





カークによる「ホロホロ鳥 玉ねぎマーマレード」。 カークによる「ホロホロ鳥 玉ねぎマーマレード」。

カークによる「ホロホロ鳥 玉ねぎマーマレード」。




最後の締めは、カークによる「ホロホロ鳥 玉ねぎマーマレード」。オーガニックソーセージとフランス産ホロホロ鳥のテリーヌを半々に組み合わせたものを、カーク得意の玉ねぎを炒めたホロホロ鳥のソースで食すものだ。トリュフも相まって、複雑な味を一つにまとめ上げていた。大トリとなるには、少々軽めな気もしたが……。




「アルマーニ/ リストランテ」のパティシエである秋山氏による「モンテビアンコ」。 「アルマーニ/ リストランテ」のパティシエである秋山氏による「モンテビアンコ」。

「アルマーニ/ リストランテ」のパティシエである秋山氏による「モンテビアンコ」。




締めのデザートは2種出てきて、「アルマーニ/ リストランテ」のパティシエである秋山氏による「モンテビアンコ」が秀逸であった。可愛らしい形状をした斬新なモンブランである。合わせたデザートワインは「Venezia Giulia “Pensiero”2018」で、デザートの美味しさをより一層引き立てて味わい深かった。

 

料理もさることながら、フランス人と日本人のサービス、イタリア人のソムリエたちが、一つ一つの料理をよく理解していることは言うに及ばず、一丸となって流れるようにサービスしてくれたことも特筆に値する。料理、サービス、アルコールが三位一体となって、4ハンズによる饗宴は忘れられない一夜となった。

 

 

アルマーニ / リストランテ
東京都中央区銀座5-5-4 アルマーニ / 銀座タワー10階&11階
℡03-6274-7005
11:30~15:00、18:00~23:00
定休日:月曜日
ドレスコード:スマートカジュアル

 

Text by Toshizumi Ishibasi



文:石橋俊澄
Toshizumi Ishibashi

プロフィール:慶應義塾大学大学院文学部フランス文学科修士課程修了後、文藝春秋入社。「週刊文春」、「マルコポーロ」、「文藝春秋」、「ノンフィクション出版部」などを経て、「クレア・トラベラー」、「クレア」、「増刊ムック編集部」で編集長を歴任、最終は編集委員。特に、5年間に及ぶ「クレア・トラベラー」時代には、国内外30ケ国余で最上の食巡りをする。公私にわたる食体験で衝撃を受けた店を5つ挙げれば、フランス・マントン「ミラズール」、パリ「エピキュール」、イタリア・ソレント「トッレ・デル・サラチーノ」、香港「大斑樓」、東京「セザン」。現在、食・ホテル・旅館から歴史・医療・ビジネスもののエディター兼ライター。

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