福岡「GOH」福岡「GOH」

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グルメ最前線 トップレストランを探訪する

2024.5.10

世界から熱い視線を注がれる福岡の「Goh」。 衝撃のコース料理を堪能してきた

 

 




今回は「Goh」で辣腕を振るう福山氏の料理を堪能したので、そのリポートをお届けする。ちなみに、2022年10月に閉店した「ラ・メゾン・ドゥ・ラ・ナチュール・ゴウ」はアジアベストレストラン 50 (AB50)の初回(2016年)からの常連で、ミシュランでも星つきだった(「ミシュラン福岡」は2019年以来、更新されていない)。新生したばかりの「Goh」は、2024年のAsia‘s50Bestにも、45位としてランクインしている。

 

 

福岡発。世界が認める味、そして愛されキャラのシェフ

 

「福岡に福山剛あり」とは、誰からともなく囁かれるようになったセリフである。
当の本人は言下に否定するだろうが、そう言われるのも当然のことだ。福山氏の特質は、第一に、料理が凄まじく美味いこと。第二に、その人柄である。彼に接した者は、誰もが大らかな明るさに魅了されてしまう。
氏は以前、西中洲にある「La maison de la nature Goh(ラ・メゾン・ドゥ・ラ・ナチュール・ゴウ)」というフランス料理店のオーナーシェフだった。当初、東京の人間はその存在すら知らなかった。彼を世に広く知らしめたのはAsia’s 50 Bestであり、彼がランクインすることで初めてその存在を知ることになったのである。
彼をランクインさせたのは日本のフィーディたちではない。主として香港、台湾、中国など、海外の覆面審査員たちが彼の料理を愛して、足繁く通っていたのだ。



彼の名を世界的に広めた契機がもう一つあった。その人はガガン・アナンド、Asia‘s 50 Bestの1位に4回も選出されたバンコックのレストラン「Gaggan(ガガン)」のインド人のレジェンド・シェフである。50Bestに先立つ2014年に上海のイベントで2人は遭遇するや意気投合する。急激に接近し、ついには2022年12月、2人の名前を冠する店を中洲に出すことになる。それがカジュアルダイニング「GohGan(ゴウガン)」である。メニューはもちろん2人の創作による混成だ。
そのレストランは那珂川に面した複合施設「010ビルディング」の1階に入るが、2階には世界レベルのパフォーマンスを食事とともに楽しめる「THEATER010」と「BAR010」があり、そして3階にファインダイニング「Goh(ゴウ)」が入居している。このビル全ての料理を監修するのが福山氏なのである。






キャナルシティ博多の横にある「010ビル」。 キャナルシティ博多の横にある「010ビル」。

キャナルシティ博多の横にある「010ビル」3階にあるファインダイニング「Goh」。






さて食事であるが、この店では配られるメニューにあるのは食材名だけだ。どんな風に料理されるのかは、まるで予想もできない。ちなみに、ゲストは「ターブル・ドット」と呼ばれる大テーブル(トップ画像・右)を全員でシェアし、それに隣接するテーブル上で福山氏とスタッフが料理の盛り付けをフィニッシュさせるスタイルだ。ライブ感溢れる趣向である。





ホワイトアスパラ 蕗の薹 穂紫蘇 ホワイトアスパラ 蕗の薹 穂紫蘇

ホワイトアスパラ 蕗の薹 穂紫蘇






桜肉 雲丹 黄韮 桜肉 雲丹 黄韮

「桜肉 雲丹 黄韮」






最初に出てきた「ホワイトアスパラ 蕗の薹 穂紫蘇」は、佐賀のホワイトアスパラのクリームの上にフキノトウのブランマンジェが載ったもの。2種類のクリーム状のものを混ぜて食べるのだが、それは舌上でしっとりと溶けてゆく。アスパラの豊かな旨味にフキノトウの苦味が加わり、シソのフレイバーがかすかに香る。まさに絶妙極まりない配分によるコンビネーションであり、一口目から味覚を揺さぶられるほど美味しい。

 


2皿目の「桜肉 雲丹 黄韮」は、熊本の馬刺しのタルタルに黄ニラを散らし、福岡・神湊(こうのみなと)の紫ウニを載せたものだ。馬刺しの肉肉しい甘味に黄ニラの青いエグ味、そこにウニのねっとり濃厚な旨味がかぶさる。2皿目でいきなりギアを上げてきた感じで、食べ手のテンションも上向く。

 


3皿目の「本鮪 トマト ビーツ」(トップ画像・左)は、長崎・軍艦島近くの高島で収穫された2種のトマトから、発酵させたジュレと搾りたてのスープを別々に作り、その中に高島で獲れたマグロの中トロを細切りの棒状にして仕込んで、最後にビーツのピクルスを載せた。トマトとビーツの種々の酸味とまったりした中トロが組み合わさって、未知の領域へと誘ってくれる。全く出会ったことのないコンビネーションだ。味が繊細にかぶさり、素晴らしく美味しい。生唾がジュワーっと湧いてきて、食欲をマックスに導いてくれる前菜である。これは傑作としか評せない。





シェフ仲間の間でもその人柄が高く評価されている、福山 剛シェフ。 シェフ仲間の間でもその人柄が高く評価されている、福山 剛シェフ。

シェフ仲間の間でもその人柄が高く評価されている、福山 剛シェフ。






印象的な料理の数々に、至福のひとときが約束されている

 

「九州の食材をメインにして構成しています」とシェフは話すが、途中ながらすでに、九州全土からオールキャストでうまいものが集結している感がある。確かに、九州は魚も肉も野菜も最高で、素材の宝庫だ。そして、シェフは土地がもたらす恵みを、一皿一皿に存分に結実させるのだ。

 


4皿目の「鮑 椎茸 あおさ」は、器のいちばん底にアワビの紐とあおさのリゾット、その上に蒸したアワビのスライスを配し、最後に焦がしバターと椎茸のソースを載せた。さすがにこれだけは、通年で出している不動の一品である。柔らかいアワビに濃厚な旨味のソースが絡んで、しばしボーゼンとしてしまうほど、とんでもなく美味しい。これは見事だ。

 

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鮑 椎茸 あおさ 鮑 椎茸 あおさ

「鮑 椎茸 あおさ」






その鮮烈さに驚いたのが、5皿目の「グリーンピース 日向夏 昆布」である。器のいちばん底に茶碗蒸しのような乳製品のフラン、その上に昆布出汁の透明なスープが注がれていて、茹でたグリーンピースが具として入っている。宮崎の日向夏(ひゅうがなつ)は柑橘類だが、ほのかに香り付けとして使われており、むしろエクストラヴァージン・オリーブオイルの香りのほうが感じられるスープになっている。とはいえ、昆布の出汁はもちろん、野菜のエキスもスープには染みわたっている。塩と砂糖で炊いた青々しい豆は甘味も塩味もあり、これら全てが渾然一体となった様は、複雑精妙で、筆舌に尽くしがたい。これまた繰り返しで申し訳ないのだが、とんでもなく美味しい。併せて、カラダにいいものを取り込んだような感覚にもなる。一皿で追わってしまうことが、ひたすら悲しい。

 

 

サーブした後でテーブルを回って、一つ一つ料理の説明をほどこすシェフがまたいい。彼には「中洲の太陽」との異名があるくらいで、その度ごとに店内が明るく暖気する感じなのだ。たぶん、こういうパワーを持ったシェフは極めて稀だ。







グリーンピース 日向夏 昆布 グリーンピース 日向夏 昆布

「グリーンピース 日向夏 昆布」






平目 菜の花 新玉葱 平目 菜の花 新玉葱

「平目 菜の花 新玉葱」






そろそろメインの登場である。
最初に「平目 菜の花 新玉葱」であるが、有明の海苔のシートを上に付したヒラメをパリッと焼いた。そこに加わるのが2種のソースで、貝の出汁で溶いた菜の花のソースと、新玉葱をバターに合わせたソースだ。ジャストに焼かれたヒラメの身に、海苔、貝、菜の花、新玉葱、バターの味が散弾のように口の中で飛び散るのである。素晴らしいクリエーションとしか言いようがない。

 


2つ目のメインは「仔羊 クレソン 空豆」だが、フランスの仔羊に、クレソンのナムル(!)と空豆のフムス(!)を合わせた。つなぎのソースは、仔羊の骨で取ったソースを煮詰めたものだ。これは仏・和・韓・中東の技が集合したものだろう。意表を突かれる食材のコンビネーションに驚く。ソースも絶妙で美味しい。






仔羊 クレソン 空豆 仔羊 クレソン 空豆

「仔羊 クレソン 空豆」






締めはカレーライスである。ガガンからのインスピレーションもあるのだろう。だが、ただのカレーライスではない。なんと、ライスの上に載っている具は「蛍烏賊 ひじき クロダマル」なのだ。びっくりさせて旨くなかったら本末転倒というものだ。黒と茶で色は悪いが(笑)、これがまことに美味しいのである。カレーというよりも、カレーに用いるスパイスで作った一品料理と思ったほうがいい。何といっても口中ではじける蛍烏賊の旨味が凄い。こんなカレーがあるんだと新鮮な感動を覚える。クロダマルは九州の黒豆で、ライスは有田の白米である。ちなみに、向かいに座った男性は、迷うことなくお代わりをしていた。





「枇杷 オリーブオイル エストラゴン」 「枇杷 オリーブオイル エストラゴン」

「枇杷 オリーブオイル エストラゴン」





最後のデザートは「枇杷 オリーブオイル エストラゴン」と「桜マドレーヌ 焙煎茶レモングラス」の2種だが、いずれも素晴らしかった。

アルコールはボトルで頼んでしまったのだが、ペアリングも機知に富んでいるらしい。



福山氏の料理は、確かにそのベースの技法はフレンチかもしれない。しかし、日本はもちろん、東アジアや東南アジア、インド、中東など各料理のエッセンスも感じさせる。世界各地で彼の舌を通過した味の記憶の膨大なデータバンクが、新たな料理構築の引き出しになっているのだろう。そういう意味で、「どこにもない、食べたことのない料理」なのだ。何をどうすれば革新的に美味しいものが出来るかを、一年中考えている人にしか作れない。イノベーティブなんだけれども、衝撃的に美味しい料理なのである。
料理は季節ごとに変わるが、全ての季節を体験したいと切に思う。
たった14のプラチナシートは全部が外国人で占められることがあるほど、海外からの熱視線を浴びているのである。
日本在住者であれば、アドバンテージではないか。この料理に出会うために旅をする、ここはまさに「デスティネーション・レストラン」と呼ぶに相応しい。





Goh

福岡県福岡市博多区住吉1−4−17 3F
℡ 092−281−0955
不定休
料理は18:00〜の一斉スタート





文:石橋俊澄
Toshizumi Ishibashi

慶應義塾大学大学院文学部フランス文学科修士課程修了後、文藝春秋入社。「クレア・トラベラー」、「クレア」、「増刊ムック編集部」で編集長を歴任、最終は編集委員。私財での海外グルメ旅行は数知れず、また、5年間に及ぶ「クレア・トラベラー」時代には、30カ国余で最上の食巡りをする。公私にわたる食体験で衝撃を受けた店を7つ挙げれば、フランス・マントン「ミラズール」、パリ「エピキュール」、スペイン・ジローナ「エル・セジェール・デ・カンロカ」、イタリア・ソレント「トッレ・デル・サラチーノ」、香港「大斑樓」と「アンバー」、東京「セザン」。現在、食・ホテル・旅館から歴史・医療・ビジネスもののエディター兼ライター。

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