2019「世界ベストレストラン50」で日本最高位の11位に輝いた傳の料理より。皿の上に乗ったハスの葉の雫に見えるのは出汁。じゅんさいなどの旬菜が彩りよく入っている。ここにハスの葉の出汁を入れていただく。

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2019世界ベストレストラン50を読み解く

2019.7.2

アジア初シンガポールで開催された2019年「世界ベストレストラン50」を日本評議委員長(チェアマン)の中村孝則がいち早く読み解く。

2019「世界ベストレストラン50」で日本最高位の11位に輝いた傳の料理より。皿の上に乗ったハスの葉の雫に見えるのは出汁。じゅんさいなどの旬菜が彩りよく入っている。ここにハスの葉の出汁を入れていただく。

日本勢最高位に輝いた「傳」の健闘。
今年注目すべき世界のレストランは?

「サンペレグリノ」と「アクアパンナ」が国際スポンサーを務める「世界ベストレストラン50」。2019年の授与式が6月25日にシンガポールで開催された。2002年から始まり「美食のアカデミー賞」あるいは「ガストロノミーのオスカー賞」とも称される祭典だが、アジアで開催されるのは今年が初めて。会場となったマリーナベイ・サンズには、世界中から食の専門家やシェフ、ジャーナリストたち800名以上が集結した。

 

2019年注目の1位は、昨年の3位からジャンプアップした「Mirazur(ミラズール)―フランス・マントン」。ミラズールにとって念願の1位であり、意外にもこのアワードでフランスのレストランが1位に輝くのも初という快挙となった。2位は、リニューアルを果たした「NOMA(ノーマ)―デンマーク・コペンハーゲン」、3位は「Asador Etxebarri(アサドール・エチェバリ)―スペイン・アトクソンド」が選ばれた。以下の詳しい順位は、オフィシャルサイトをご覧いただきたいが、上位についての説明と私見を述べたいと思う。

2019年「世界ベストレストラン50」の受賞者が集結。 2019年「世界ベストレストラン50」の受賞者が集結。

2019年「世界ベストレストラン50」の受賞者が集結。


まず、今年度から二つの大きなルール変更があった。これによって順位が大きく影響することなので、最初にお伝えしておきたい。一つは、投票者全体の50%が女性になったことである。これはアワードの理念でもあるダイバシティの一環として女性参画を投票者に導入した、運営本部主導のルール変更である。このことが順位にどのような影響をもたらしかはもう少し研究が必要だが、女性投票者たちの視点が結果に反映されていることだけは間違いない。

 

もう一つのルール変更は、過去に同アワードで1位に輝いたレストランは、今年度以降から「BEST OF THE BEST(殿堂)」というカテゴリーに格上げになり、実質上のランキンングからは引退したかたちとなっている。これにより、昨年1位の「Osteria Francescana(オステリア・フランチェスカーナ)―イタリア・モデナ」を含む、8店舗のレストランが殿堂入りし、ランキングから外れた。唯一、新生の「ノーマ」だけは移店リニューアルということで、新しいレストランとして今年度2位となった。

北イタリアのモデナにある「オステリア フランチェスカーナ」は今年から殿堂入りした8つのレストランのひとつ。シェフのマッシモ ボットゥーラは伝統的なイタリア料理に斬新な発想を取り入れた創作料理で知られる。 北イタリアのモデナにある「オステリア フランチェスカーナ」は今年から殿堂入りした8つのレストランのひとつ。シェフのマッシモ ボットゥーラは伝統的なイタリア料理に斬新な発想を取り入れた創作料理で知られる。

北イタリアのモデナにある「オステリア フランチェスカーナ」は今年から殿堂入りした8つのレストランのひとつ。シェフのマッシモ ボットゥーラは伝統的なイタリア料理に斬新な発想を取り入れた創作料理で知られる。https://www.osteriafrancescana.it/

この殿堂入りのシステムについては、チェアマンや投票者、ジャーナリストたちからは賛否両論あるが、狙いは若手のレストランの活性化とチアアップ、そして話題性作りにある。チェアマンの立場としても、コラムニストとしても、ルール変更自体は評価するところである。今後は殿堂入りとなったレストランへのスポットの当て方が課題になるだろう。ランキング以外の評価や、注目の場をどう提供するかについては検討の余地があると思う。でなければ、1位になりたいというモチベーション自体が萎縮するからだ。そのあたりは今後のアワードの動きを注視して行きたいと思う。それらを踏まえ、今回の上位を振り返ってみる。


あえて田舎町で挑戦をする「ミラズール」が、
フランス初の第一位を獲得する

まず1位の「ミラズール」は、筆者としても大いに評価をしたい。フランスといってもパリのような大都会ではなく、パリから遠くはなれた僻地(へきち)ともいえるイタリアとの国境沿いのマントン(Menton)という町にある。このような環境にもかかわらず、人を呼び込み、世界一の票を獲得していることは注目すべき点だ。筆者は日本で「地方だからお客が来ない、高級店は成り立たない」という声を度々地元で聞くが、「ミラズール」の1位受賞の理由こそ、打開の鍵が潜んでいると思う。

Mirazur(ミラズール) Mirazur(ミラズール)
Mirazur(ミラズール) Mirazur(ミラズール)

イタリアとの国境近くの町マントンの小高い丘の上にある「Mirazur(ミラズール)」から地中海を望む。アルゼンチン出身のマウロ・コラグレコ氏が頂点に立つのは今回が初めて。https://www.mirazur.fr/

ミラズールが一位に輝いた理由は、このレストランの生い立ちを紐解くと見えてくる。一番の理由は、シェフのマウロ(Mauro Colagreco)のボーダレスな経歴と活動にある。アルゼンチンに生まれ、ブラジルやイタリアへ生活の拠点を移し、シェフとしてフランスで活動を続けている。そして現在レストランはイタリアとフランスの国境近くにある。彼のそうした生い立ちは国境や言語、民族の隔たりを超えてパーソナリティとなり、ひいては料理にも引き移されていく。このことが多くの人々の五感や心を捉えたのであろう。そうした彼の料理の魅力を都会ではなく地方のレストランで表現していることが、結果的に多くの票を集めたのだと思う。


昨年より順位を上げて11位となった「傳」。
「Narisawa」は22位をキープ。

さて、肝心の日本勢であるが、日本からは二店舗がランクインした。日本の最高順位となった「傳―東京・神宮前」は、昨年の17位から順位を上げて11位にランクインした。同時に、特別賞の「アートオブホスピタリー賞」も受賞した。傳は、過去にも「アジアベストレストラン50」でこの賞を受賞しており、アジアのみならずワールドの両方で受賞したのは初めての快挙である。

傳 傳
傳のシグニチャー料理ともいえる、フォアグラが入った最中。計算され尽くした食感と味わいが楽しめる。 傳のシグニチャー料理ともいえる、フォアグラが入った最中。計算され尽くした食感と味わいが楽しめる。

傳のシグニチャー料理ともいえる、フォアグラが入った最中。計算され尽くした食感と味わいが楽しめる。https://www.jimbochoden.com/

いわゆる『もてなし力』の総合評価が問われる特別賞であり、アジアのみならず世界の投票者たちが評価したということは特筆に値すると思う。日本がインバウンドを含め、食を観光誘致のコンテンツにしようというのであれば「傳」が表現する『もてなし力』の本質を、じっくり掘り下げておく必要があるだろう。

また「NARISAWA-東京・青山」は昨年度と同じ22位をキープした。今回のアワードはトップ争いを含め、全体として激しい順位の入れ替えがあった中で、じっくりと料理に向き合う「NARISAWA」の成澤由浩シェフは、世界から変わらぬ評価を獲得し続けることも賞賛に値する。

Narisawa Narisawa
Narisawa Narisawa

日本の季節や風土、また食文化を生かした『イノベーティヴ里山キュイジーヌ』(革新的 里山料理)という独自のジャンルを提供する「Narisawa」。http://www.narisawa-yoshihiro.com/

中村孝則 Takanori Nakamura
「世界ベストレストラン50」日本評議委員長(チェアマン)
コラムニスト
神奈川県葉山生まれ。ファッションやカルチャーやグルメ、旅やホテルなどラグジュアリー・ライフをテーマに、雑誌や新聞、TVにて活躍中。2007年にフランス・シャンパーニュ騎士団のシュバリエ(騎士爵位)の称号を授勲。2010年には、スペインよりカヴァ騎士の称号も授勲。2013年より『世界ベストレストラン50』の日本評議委員長を務めている。剣道教士七段。大日本茶道学会茶道教授。著書に『THE CIGAR LIFE ザ・シガーライフ』広見護・中村孝則 共著( オータパブリケイションズ)、『名店レシピの巡礼修業~作ってわかった、あの味のヒミツ』(世界文化社)など。

Text by Takanori Nakamura
Photography by © The World's 50 Best Restaurants
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