世界のレクサスのクルマづくりにはクラフツマンシップの精神が宿っている。2020年11月にマイナーチェンジを受けた「レクサスIS」、「レクサスLS」を通して、レクサスの未来を予感させるクルマづくりの真髄を紐解いていく。
レクサスの一貫性を意識しつつ、個々の快適性を追求する
クルマの世界ではSUV(スポーツユーティリティビークル)がトレンド。従来からのセダンはやや分が悪い。とはいえ、セダンこそ自社ブランドの看板、と考える自動車メーカーは多い。たとえば、レクサス。2020年11月に、看板車種「レクサスLS」と、ややコンパクトなサイズのスポーティセダン「レクサスIS」に改良を施した。乗ると、しっかりと力が入っているのがわかる。
セダンというのは、やや大雑把に解説させていただくと、エンジンルームとひとが乗るキャビンと荷物を入れるトランクルームとに分かれた車型。3ボックスとか3ボリュウムといったりもする。かつてクルマといえばセダンだった。でもタクシーですら、昨今は2ボリュウム化。マーケットでも、SUVの方がちょっと優位だったりする。
もはやフルモデルチェンジともいえるほどに、ISは大きく進化した。
でも実際は、セダンには魅力がいろいろある。たとえばシルエット。フロントノーズからトランクの後端まで、流麗ともいえるラインが実現している。もうひとつは、乗り降りの楽さ。さらに、車体の構造からくる乗り心地の快適性も、セダンならではの重要な特徴だ。
レクサスLSと同ISに接してみてもらえると、セダンのよさがよく理解できると思う。ひとつは先に触れたとおり、スタイリング。レクサスがスピンドルグリルと名づけたグリルとシャープな輪郭のヘッドランプを持つフロントマスクや、大きめの車輪と張りのあるボディパネルによるスポーティさと、フロントからリアにいたるシルエットがもたらすエレガントな雰囲気がうまくバランスされている。
もうひとつは、ずばり、運転しての楽しさだ。レクサスのスタッフはいま、佐藤恒治プレジデントが唱えるスローガン「Always On」の下、車両の開発に取り組んでいる。つねに改良の手を休めない、という意味だ。その端的な例が今回のLSとISなのだろう。ステアリングホイールを握り走り出すと、従来より明らかに“いいクルマ”になっている。改良という言葉からイメージするより、新車とよんだほうがいいかもしれないと思った。
自身はセダン好きと語る、レクサス車両性能開発を統括する水野陽一。
開発の背後にいるひとりは、車両性能開発において部長を務める水野陽一。レクサス車について、走りのすべてが含まれる動的性能、車体強度、さらに安全装備などの法規制に適合させることまで、つまりクルマづくりにおいて、デザイン以外のほぼすべてを統括する。「レクサスブランドとして、LSでは乗り心地と静粛性を進化させることに心を砕き、ISではスポーツセダンであることを意識しました」と今回の改良の背景を語ってくれる。
レクサスLSのマイナーチェンジを手掛けた、レクサス製品企画を担当する岩田裕一。
「ポルシェやメルセデス・ベンツが、ほとんどすべてのモデルに共通するハンドリングや乗り心地のキャラクターを追究しているように、レクサスでは全体のキャラクターを決め、そのうえで、LSにはLSの個性を作るようにしています。そしてまた、標準モデルは快適性を、F SPORTというグレードではレスポンスのよさを実現するように作り分けています」。
上記のように語るのは、岩田裕一。製品企画主幹として、LSのマイナーチェンジを手がけた。
新型LSではプラチナ箔を貼り合わせたオーナメントに西陣織のドアトリムを採用。水面に揺らぐ月明かりをイメージしている。
「以前は、LSとISを別のチームが開発していたが、いまは“すっきりと奥深い”という言葉を核に開発していますので、LSもISも、キャラクターは多少異なっても、大きな方向性としてはレクサスならではのクルマに仕上がっているはずです」。
ISは今回、フルモデルチェンジといっても過言でないぐらい、内外装とともに、操縦性において、大きな進化をとげた。スポーツセダンであることを強く意識しました、というのは、前出の水野だ。
「今回のビッグマイナーチェンジでは、これまでISでやりたいと思っていたことをしっかり実行して、“すっきりと奥深い”という在り方はたに近づけることができました。ISではドライバーの意思に忠実に動くレスポンスのよさを追究しました」。
新型ISの足まわりには、上質な乗り心地を実現する「スウィングバルブショックアブソーバー」を採用。
ISでは「開発において“素うどん”のような基本的な部分をしっかり見直そう」と考えたという。たとえば、ステアリングホイールを切るとき。切り込んでいくときの車体の反応に注力する一方で、そのあと切り戻していくときクルマがどう動くかは意外におろそかにされていたという。ブレーキペダルも同様で、踏んでいくときの反応はていねいに作りこんでも、力を抜いていくときにどれぐらい制動力を残していくかは、ややあいまいだった。それらを含め、新しいISでは、ボディの骨格にも手をいれ剛性感を高めるとともに、溶接のやりかたや溶接個所を見直した。
レクサスの未来へ向けて、エンジニアたちの熱い想いが止まらない
さらに、もうひとつ。開発陣が採用したのが、ハブボルトなる部品。タイヤを装着しているホイールを、サスペンション側のハブキャリアに取り付けるのに使う。従来はスタッドボルトとハブナットという、いわばボルトとナットで締結したのを、ハブボルトひとつで行うように。果たして、効果は大だったそう。
高度運転支援技術「Advanced Park」が新採用となった。カメラと超音波センサーで全周囲を監視して、駐車操作を支援する機能だ。
「ドイツ車などでは使っているクルマがあります。これによって、軽量化とともに、剛性感がぐっと上がり、ステアリングホイールを切り始めたときの車体の応答性(車体が向きを変える速度)が上がりました。4ドアセダンなので、荷物満載で4人で乗るときの機能性を確保するとともに、ひとりで運転するときの楽しさも、たいへん重要視したのです」
いま世間では、政府のかけ声とともに、電動車への期待がふくらんでいる。エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドの先には、バッテリー駆動のEVのニーズが今後高まっていく可能性も。そこにあって、エンジン車(とハイブリッド)であるLSとISの動力性能を高いレベルに引き上げたことを嬉々として語ってくれた、水野と岩田にとって、電気自動車はどんな未来なのだろう。
「BEV(バッテリー駆動のEV)はものすごくウェルカムです。BEVはすっきりとした動力性能が実現できます。反応速度が速くトルクがたっぷりあるモーターを活かすことで、ガソリン車やハイブリッド車が出来ないことが可能になります。たとえば、4つのモーターを使っての4輪制御は、ドライバーの意思に忠実にクルマを動かすのに適した技術です。レクサスにとって、BEVは強力なファミリーメンバーになると思います」。
水野の言葉を聞いていると、なるほどこれもまた、Always On、つねに前に進んでいく精神の発露であると知れる。そのときがいつ訪れるかは定かではないものの、現在から未来へおそらく切れ目なく続くクルマづくりを実現するのにもっとも大事なことは、コンセプト、べつの言葉でいえばものづくりにおけるスピリットなのだろう。
Photography by Atsuki Kawano(Portrait)
Photography by ?LEXUS
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