右から「Ode」生井祐介シェフ、「La Maison de la Nature Goh」福山剛シェフ、「La Cime」高田裕介シェフ、「傳」料理長の長谷川在佑、「L’Effervescence」生江史伸シェフ、「Florilége」川手寛康シェフ右から「Ode」生井祐介シェフ、「La Maison de la Nature Goh」福山剛シェフ、「La Cime」高田裕介シェフ、「傳」料理長の長谷川在佑、「L’Effervescence」生江史伸シェフ、「Florilége」川手寛康シェフ

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2021アジアのベストレストラン50 結果速報

2021.3.31

「世界ベストレストラン50」中村孝則が考察する飲食業界の“今”

右から「Ode」生井祐介シェフ、「La Maison de la Nature Goh」福山剛シェフ、「La Cime」高田裕介シェフ、「傳」料理長の長谷川在佑、「L’Effervescence」生江史伸シェフ、「Florilége」川手寛康シェフ。

世界が注目するアジアの飲食業界。
「最高の50軒」にランクインしたレストランとは?

 

「まさかコロナ禍がこんなに長く続くことになろうとは……」。

今年で9回目となる「アジアのベストレストラン50」の結果が、2021年3月25日に発表された。年に一度開催されるアジア最大のレストランコンペティションで、「サンペレグリノ」と「アクアパンナ」が国際スポンサーを務めている。過去にはシンガポールやバンコク、マカオなどの大都市で開催され、いずれもアジア中のスターシェフが一堂に会し、さらにはその瞬間を見守ろうという世界中の著名なフーディーやメディアも集結するたいへん華やかなイベントであったが、昨年と今年に限っては昨今の状況により様相はずいぶん異なるものであった。

 

この日は、昨年9月に横浜みなとみらい地区に完成したばかりの「ザ・カハラ ホテル&リゾート横浜」で開催されたが、緊急事態宣言解除後とはいえ、お祭り気分で楽しむには程遠い状況であることを参列者たちも承知しており、会場入りした人々はみな、開口一番、冒頭の言葉を口にしつつ、それでも授賞式が開催されたことにいいようのない感動を覚えているようであった。


「開催するかどうかさえずっと決まらなかった。2020年末にようやく、やはり投票結果をきちんと公開しようと本国事務局からの通達があったんです」と語るのは、長年「世界のベストレストラン50」でチェアマンを務める中村孝則。

 

「世界中で旅と飲食が制限されるという異常事態が起こり、かれこれ1年になります。世界は変わり、私たちは経験したことのない暮らしを強いられました。亡くなった方々やそのご家族のことを考えると心が傷むばかりですが、しかし、飲食業界が受けている苦難もまた、耐えがたいものがあります。コロナ禍で一つだけいいのは、『近い将来には収束する』とわかっていることです。アフターコロナのタイミングになって、さぁ旅だレストランだとなった時、魅力的な飲食店のリストは絶対に必要です。アジアの飲食業界を応援するために、そして私たちが食の感動を取り戻すためにも、開催に至ったことを心からうれしく思っています」

中村孝則 中村孝則

「世界のベストレストラン50」で日本評議委員長(チェアマン)を務める中村孝則のスピーチは、シェフたち、飲食業界全体へのエールでもあった。


「思いやりと労り」が評価の随所に。
今年の結果をどう見るか、どう考えるか?

 

通常であれば、派手な演出や華やかに着飾った各国のフーディーやジャーナリストたちで埋め尽くされる「アジアのベストレストラン50」の授賞式。今年は残念ながら、オリンピック同様に他国勢の参加は叶わず、会場には大きなモニターが準備され、事務局である英国から、世界同時中継で順位が発表された。日本勢の結果から紹介しよう。

 

日本から50以内にランクインしたのは9店舗。35位に入った「日本料理 龍吟」に始まり、「ラ・メゾン・ドゥ・ラ ナチュールゴウ」(30位)、「Ode」(27位)、「レフェルヴェソンス」(19位)、「茶禅華」(12位)、「NARISAWA」(9位)、「ラシーム」(8位)、「フロリレージュ」(7位)、「傳」(3位)という結果に終わった。昨年とそれほど大きく変わらないが、しかし2020年春から現在まで、結果を左右する投票権を持つボーターたちは海外への渡航がほぼ許されていなかったわけである。島国日本は当然、他国よりも不利だし、それを考えれば「大きく変わらなかったこと」がどれほどの健闘ぶりを表しているか、と容易に推測できる。

 

特筆すべきは、19位に入った「レフェルヴェソンス」。昨年度は48位だった。インタビューに応じたシェフの生江史伸はこの結果を彼なりに分析してくれた。

 

「昨年は、あぁもう来年は外れるかもと思いました。しかし、その直後に東京に緊急事態宣言が発令され、飲食業界はとんでもないことになりました。そんな時、弊社のオーナーは『大丈夫だから安心してください。そして飲食業界をあきらめずにみんなで出来ることを探そう』と言ってくれた。うちは東北大震災の直前にオープンし、まったくお客様が来ないという時期を経験したことがあります。あの経験が、コロナ禍にどう挑むかの布石になったようにも思うんです。厨房はもちろん、店の外にいる生産者の方や地方のシェフたちとも連絡を取り合い、共に歩こうと励まし合ってきた。そういう活動を今回評価していただけたんじゃないかと思うと、なんだかとても温かい賞をいただいたなと感動します」


「レフェルヴェソンス」生江史伸シェフ 「レフェルヴェソンス」生江史伸シェフ

「レフェルヴェソンス」生江史伸シェフ。

生江が口にした「温かい賞」という言葉。これは、「ベストレストラン50」の指針でもある。「高級レストラン」を選ぶのではなく、「素晴らしいレストラン」のリストを作ることが、「ベストレストラン50」の永遠のルール。4年連続で日本勢首位を守る「傳」も、フーディーからこぞって「また来たいと思わせる強烈な魅力がある」と称され、そのホスピタリティーに賞が授けられることもあった。

 

「傳」の料理長、長谷川は、「今回1位になった香港の『チェアマン』は、まさに再訪したくなる店の筆頭株。僕、(シェフの)ダニーさんが大好きで、こういう店が1位になればいいのにと思っていたら本当になっちゃった」と明るいコメントをくれた。

 

元々、シェフによる発信力が多大に評価されることは、他のレストランコンペティションと比べ「ベストレストラン50」の大きな特徴だが、図らずしもコロナ禍により、より社会へのメッセージ力に秀でたシェフが注目されることにつながったのかもしれない。


「ニューエントリー」が11軒!
日本勢が今後目指すべきは、後進の育成か

注目すべきことは他にもある。その一つが、アジア全体では50軒のうちに11軒も新たな店がランクインしたこと。ニューエントリー枠に日本から1軒も入らなかったことは、残念ではある。しかし、初登場で24位に入った「Logy」(台北)率いる田原諒悟は、かつて「フロリレージュ」で川手寛康の下でスーシェフを務めていた人だ。若さや知名度のなさも足かせにはならず、シェフの田原以外はすべて台湾人という環境でスタートさせた店が、オープン2年でランクインしたわけだから、田原の実力はもちろんのこと、そんなニューヒーローの誕生を後押しするアジア飲食業界の懐の深さもたいしたものだ。

 

田原が海外で素晴らしいポジションを獲得したように、今後は日本の飲食業界においても、海外の若い才能が評価される機会が増えるはずだ。それこそ、この国の飲食業界の底上げにつながるのではないだろうか。

 

さて、今回、初の試みであった「51位から100位までの順位発表」は、そういった新たなスターシェフの登場を手助けすることになるかもしれない。というのも、この結果にはこれまでになかった傾向が見られるのだ。

右から91位に入った「cenci」の坂本健シェフ、83位の「été」庄司夏子シェフ、64位「Villa Aida」の小林寛司シェフ。 右から91位に入った「cenci」の坂本健シェフ、83位の「été」庄司夏子シェフ、64位「Villa Aida」の小林寛司シェフ。

右から91位に入った「cenci」の坂本健シェフ、83位の「été」庄司夏子シェフ、64位「Villa Aida」の小林寛司シェフ。


「été」を率いる庄司夏子は昨年、「アジアのベストペストリーシェフ」を受賞。今回はレストランとして83位に食い込んだ。ペストリーとレストラン、二分野で名をなすというのはおそらく他に例がない。しかも31歳という若さであり、「目指す頂上はまだ遥か先にある」と自らも語っている。

 

そして、初めて会場を訪れた「cenci」の坂本健は京都、「Villa Aida」の小林寛司は和歌山で、それぞれ店を営んでいる。あいにく授賞式には不参加だったが、71位に入った「天寿し 京町」も、店は北九州市にある。巷ではリモートワークの普及によって好きなエリアに住む人が増えているが、飲食業界では数年前から世界的に「ローカルガストロノミー」がトレンドになっており、地方に赴く食べ手が増えるに従い、ローカルの名店が評価されるように。

 

これらのことを俯瞰して考えると、コロナ禍によって旅の手段は断たれたものの、世界はより近くなったとも言える。作り手である料理人も食べ手である客も、食に対してはもっと自由に、多彩に向き合えるようになったのではないだろうか。

アジアの先を見据えれば、
おのずと新たな飲食の道が開ける

 

閉ざされ、自由な身動きを止められた私たちは、コロナ収束後にどんな食を求めるようになるのだろう。中村孝則は、自身も旅への憧憬が果てしなく高まっていると語り、さらに「来年、再来年の結果は、大きく変わると思います」と言う。曰く、これまでにない思考回路で食をチョイスするようになる、知らない食文化を求めてレストランを探す、よりシェフの人間性やキャラクターに惹かれて店を選ぶようになる、など。基準が変わるというのだ。

 

今後日本のレストラン、あるいは日本人シェフたちが海外で活躍し、この国の美食や美意識が評価されるようになるにはどうすればよいのだろう。今回、ローカルイベントパートナー「マツダ」の常務執行役員であり、カーデザイナーを務める前田育男が語った言葉が印象的であった。

ローカルイベントパートナー「マツダ」の常務執行役員であり、カーデザイナーを務める前田育男 ローカルイベントパートナー「マツダ」の常務執行役員であり、カーデザイナーを務める前田育男

ローカルイベントパートナー「マツダ」の常務執行役員であり、カーデザイナーを務める前田育男。シェフたちの雄姿を見て、カーデザイナーとして通底するものがあると強く感じたと語った。

「私は長くクルマ業界におります。今回、食のプロフェッショナルたちの世界を垣間見る機会をいただき、大変共感しました。なぜかというと、シェフとデザイナーには非常に近いものがあると思ったからです。日本の食文化を、あるいは美意識を世界に誇るためにできることはいろいろあると思いますが、クリエイターとしてグローバルに向かい合うには、技術向上だけでは敵いません。発信力が必要なんです。相手は世界。何をマスだと定義して勝負するのか、そんなことを考えられる者が、最高の栄誉を得ることができるのではないでしょうか」

 

2022年の「アジアのベストレストラン50」に今から大いに期待する。そして、飲食業界が息を吹き返す日を心待ちにしつつ、今しばらく静かな時を過ごしたいと思う。

 

 

(敬称略)


中村孝則 Takanori Nakamura
「世界ベストレストラン50」チェアマン
コラムニスト
神奈川県葉山生まれ。ファッションやカルチャーやグルメ、旅やホテルなどラグジュアリー・ライフをテーマに、雑誌や新聞、TVにて活躍中。2007年にフランス・シャンパーニュ騎士団のシュバリエ(騎士爵位)の称号を授勲。2010年には、スペインよりカヴァ騎士の称号も授勲。2013年より『世界ベストレストラン50』の日本評議委員長を務めている。剣道教士七段。大日本茶道学会茶道教授。著書に『THE CIGAR LIFE ザ・シガーライフ』広見護・中村孝則 共著( オータパブリケイションズ)、『名店レシピの巡礼修業~作ってわかった、あの味のヒミツ』(世界文化社)など。

Text by Mayuko Yamaguchi
Photography by © The World's 50 Best Restaurants(Top)/ Hyemi Cho , Shu Tsuchida (amana)


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