北欧に生まれながら日本でブランドを立ち上げ、「北欧と和の融合」を自身のスタイルとして確立したフラワーアーティスト、ニコライ・バーグマン。そして350年以上の歴史を誇る大樋焼の窯元に生まれながら建築家となり、現在は陶芸家としてもその才を表現する奈良祐希。そんな二人による花と器のセッション展覧会「JAPANDI-NA(ジャパンディーエヌエー)」が今月より開催される。
展覧会に向けての熱いセッション真っただ中のふたりに、初のコラボレーションにかける思いを語ってもらった。
花と器、北欧と日本、互いを繋ぐ共通性
奈良祐希(以下奈良):以前から「奈良君、ニコライさんと組んだらおもしろいんじゃない?」と言ってくださる方が周りに多かったんです。高校生の頃、ニコライさんのフラワーボックスを見て、その新しさに驚いたと共に、不思議と日本らしさも感じていたんです。やっと本当にお会いできるとなった時に、僕の作品を持っていったんですよね。
ニコライ・バーグマン(以下バーグマン):それまでいろいろな器を使ってきましたが、彼の作品をひと目見てこれまでの器とはまったく違うと思いました。とてもモダンで、独特の雰囲気があって。とにかくめちゃくちゃ印象的でした。
奈良:作品を作る時、基本的にその作品だけで完結させようとは考えないんです。建築家でもあるので、ある種の空間とか空気感がはらんだ、言い換えれば「余白」を取り込んだ作品作りを心掛けています。
バーグマン:僕も花を作るときには深さとか、奥行き感をとても大事にしています。空間というか、奈良さんの考えと似ているところだと思います。同時に大事にしているのが、裏表ともに大切に考えること。ここから見ても別の方向から見ても、どこからも美しく見えるというのがすごく大事だと思っていて、それが真のクオリティだと思います。
奈良:僕は、アートとか芸術の究極の美はシンプルさやミニマリズムにあると信じているんです。ただ作品には、そこに少し毒を盛り込みたい。ニコライさんのアレンジメントも、シンプルできれいな花でまとめられているように見えて、気づくと1種類だけ毒々しい花が入っていたりする。そんなところにも共通点を感じたんですね。
ブランド創設から今年で20年。来年春には箱根の2万坪の敷地に「Nicolai Bergmann Hakone Gardens」をオープン予定。
それぞれの予想を超え続ける“セッション展覧会”
バーグマン:でも正直、奈良さんの器は難しい (笑) 初めて見たときに、何したらいいの?と思いましたね(笑) 器自体が印象的なので、それこそ花を1本入れるだけでも成立してしまう。でも、やっぱりフラワーアーティストとしては、それではいけない。器と同じぐらい力があるような花とはどういうものなのか、と考えてできたのが展覧会のフライヤーにも使った作品なんです。
奈良:本当に不思議なんですが、花が違うと、器自体がまったく違うものに見える。今日のアレンジメントとは印象が全然違いますよね。お互い影響しあい、花によって器によって、それぞれの印象が変わるのがおもしろい。
展覧会当日の展示のため、さまざまな花を用い、何度もセッションを重ねている。これも習作の中から。花器は「Bone Flower」シリーズ。
左:「Bone Flower Jomon」右:「Bone Flower Yayoi」
バーグマン:奈良さんの器は、確実に僕にインスピレーションを与えてくれるんですよ。ギザギザとした羽のようなディテールがとても好きなんですが、じゃあそれをどう使うのか。花や葉であえて隠すのか、それともこの隙間感を逆に上手く使えないかなど、どんどん面白いことをしたいという気持ちになるんです。
奈良:ニコライさんも、僕の予想を超えたアレンジメントをしますよね。だから僕も、じゃあ器にもこんなことが活かせるかも?とか、もっとこういうこともできるのでは?とアイデアが浮かんでくるんです。実際に今回は、これまでとは違うタイプの作品にもチャレンジしていますし。ニコライさんがアレンジメントで僕の予想を超えるなら、僕は器でニコライさんをさらに驚かせたい (笑)
今回はあえて“セッション”展覧会と言っているのも、バンド演奏みたいな考え方に近いからですよね。あるいは短歌とか漫才とか。自分が作った作品にニコライさんが花を活ける、いわゆるニコライさんのツッコミにおおっと思ったら、ちゃんとボケを返さなきゃいけないし、さらに上回る必要もある。展覧会にむけてずっとその繰り返しなので、オープン時にはかなり進化したものになりそうですね。
一時は陶芸から距離を置き、建築の道を目指す。今はその建築家としての視点こそが、陶芸家・奈良の独創的な作品に大きな影響を与えている。
ミニマリズムが宿る“足し算の美学”を表現
奈良:「Bone Flower」の新作のほか、ニコライさんにはシグネチャーであるフラワーボックスを僕の陶箱でやってもらう予定ですが、その新作の器には「The Universe」と名づけています。日本のミニマリズムの根源は“禅”だと思っているんですが、金沢の哲学者・鈴木大拙が、禅僧・仙厓が描いたある掛け軸を見て「これが宇宙(The Universe)や」と言ったらしいんです。そこに描かれていたのは、○△□の記号だけ。鈴木大拙いわく、これだけで宇宙も世界も語れるし、このシンプルな図形に実は洗練された美が宿っていると。ニコライさんのフラワーボックスはまさに四角。そこに丸と三角を絶妙に融合すれば、それはミニマリズムの極致の形になる。そしてニコライさんが花を入れたら、もうこれはミニマリズムが行きつく先となるんじゃないかと考えています。
バーグマン:フラワーボックスは、花のバランスがとても難しいんです。ボックスの形は決まっていますから、小輪の花、中輪の花、大輪の花をどう配置するか。その四角の中に、まさにひとつの小宇宙をつくるということなんです。
奈良:なるほど、それは僕の「The Universe」に繋がりましたね!本来ミニマリズムとかシンプルを追求していくということは、引き算の作業。いかに研ぎ澄ませていくかだと思っています。でも、今回多分僕らがやろうとしていることは、お互い影響しあいながら花と器を足す、足し算なんだと思います。逆行しているようで、足し算にもミニマリズムが宿るんだと表現するチャレンジでもある。まさに「足し算の美学」もあるんじゃないかと、自分でも新たな思考が生まれるきっかけにもなりました。
バーグマン:そうですね。僕も、花は器をさらに輝かせるものだと思っています。なんでもないグラスではなく、アーティストがストーリーを込めて生み出す器に、さらに自分のアーティスティックセンスを足して、ひとつの新たな作品にする。それがフラワーアーティストの責任だと感じています。
顔を合わせば、さまざまなアイデアが次から次へと出てくるというふたり。初のコラボレーションにかける熱い思いが伝わってくる。
奈良:今回の展覧会の題名は「JAPANDI-NA(ジャパンディーエヌエー)」。日本のわびさびの精神と北欧のミニマリズムを融合今注目のスタイルであるJAPANDI(ジャパンディ)に、表層だけじゃなくもっと根源的なところ、それこそ魂で通じ合うという意味で「DNA」を合わせましたが、さらに言えば、僕は器でニコライさんのアーティストマインドのスイッチを入れる役目。セッションしながら、そのスイッチを常にオンでいるようにしたいですね。
バーグマン:今回セッションを続けてきて、僕たち二人とも知らないうちにいつもと違うスイッチが入ったっていう気がしますね。
そしてこの展覧会では、来てくださった方が作品を観て何かワクワクする気持ちを喚起させたいと思うんです。これを観たら音楽を聴きたくなったとか、何か新しいことをしてみたくなったとか。
奈良:それがDNAじゃないですか。みんなが必ず持っていながら、気づいていないスイッチを入れるということ。不確実な時代であっても、ワクワクする新しい気持ちをわき起こさせることができる。それがこの展覧会の一番の目的かもしれません。
自然の中では想像できなかった花の姿を、斬新な表現で提示し続けるフラワーアーティストと、ミニマリズムを追求し、独自の空気感をはらんだ器を生み出す陶芸家。その二つの才能が出会った時、北欧と日本のDNAは大きく共振し新たな美を作り出す。展覧会「JAPANDI-NA(ジャパンディーエヌエー)」を訪れれば、きっと誰も見たこともない花と器に出会えるはずだ。
■展示会Nicolai Bergmann × 奈良祐希「JAPANDI-NA(ジャパンディーエヌエー)」
日時:2021年12月15日(水)~2022年1月14日(金) 11:00~18:00 ※2021年12月29日~1月4日は休み
場所:Nicolai Bergmann Flowers & Design Flagship Store 2F
東京都港区南青山5-7-2 2F
料金:無料 主催:Nicolai Bergmann K.K. / UENOJAPAN株式会社
ニコライ・バーグマン Nicolai Bergmann
デンマーク・コペンハーゲン出身。1998年、日本のフラワーショップで働き始める。2000年にフラワーボックスアレンジメントを考案し、これまでにない花のスタイルとして大人気となる。2001年「Nicolai Bergmann Flowers & Design」ブランド創設。ヨーロッパのフラワーデザインスタイルと日本の細部にこだわる感性や鍛え抜かれた職人技を融合した独自のフラワーデザインは、日本のみならず海外でも評価を得る。現在、国内外に13店舗のフラワー・ブティック、カフェを展開。ファッションやインテリアの分野でもさまざまなプロジェクトを手掛けている。
奈良祐希 Yuki Nara
石川県金沢市出身。350年以上の歴史を持つ大樋焼十一代大樋長左衛門氏を父に持ち、祖父である十代目(現・大樋陶治斎)は文化勲章受賞者。東京藝術大学で建築を学び、同大学大学院(美術研究科建築専攻)を首席で卒業。また多治見市陶磁器意匠研究所も首席修了。建築デザインラボ EARTHEN 主宰。2021年には若手建築家の登竜門「Under 35 Architects exhibition 2021」のファイナリストにも選出され、建築家としても注目されている。建築の技術を活かし、3DCADを駆使して設計・制作した花器「Bone Flower」は東京・根津美術館にも収蔵されている。
Photography by Toshiyuki Furuya
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