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美食のまち・福井県を旅する

2024.3.11

福井県坂井市に誕生 「オーベルジュほまち 三国湊」と 珠玉のフランス料理

古き良き港町に誕生した「オーベルジュ ほまち 三国湊」と珠玉のフランス料理

福井県坂井市三国町に誕生した「オーベルジュほまち 三国湊」には、フランス料理の巨匠、吉野建さんがプロデユースする「タテルヨシノ 三国湊」が入り、近隣の東尋坊近くではフレンチレストラン「LULL」の若き気鋭シェフの料理が評判を呼んでいる。北陸新幹線延伸で近くなった話題エリアの福井県三国へ、ひと足先に訪れてみた。



かつて、北前船の寄港地として栄えた三国の町

福井県坂井市三国町。北前船の寄港地「三国湊」として、明治初期まで繁栄を極めた港町が、新たな注目を集めつつある。その起点となっているのが、今年1月に誕生した「オーベルジュ ほまち 三國湊」だ。

 

かつて栄えた三国の町には、豪商の問屋や料亭など往時の面影を今に伝える町家がそこここに残る。「オーベルジユ ほまち 三國湊」は、フロント棟を中心に徒歩10分前後の距離に点在する9棟を客室とした分散型宿泊施設で、部屋数は16室となる。定員は4名から2名、広さも100平米超から40平米台のこぢんまりしたタイプまでさまざま。

 

ちなみに、施設名の「ほまち」とは、「帆待ち」のこと。その昔、波が鎮まるのを待ち、次の航海にむけて北前船がしばし帆を下ろしていることを意味する。ここから転じ、「宿泊客がこのオーベルジュでゆっくりと身体を休め、次の目的地に向かって安全に旅発つことができるように」との願いが込められている。




町屋の風情を活かしながら、巧みに「和モダン」を取り入れた客室

襖絵や調度品などは、リノベーション前にあったものを活用。三国の町に伝わって きた文化が、こういう形で継承されていく。 襖絵や調度品などは、リノベーション前にあったものを活用。三国の町に伝わって きた文化が、こういう形で継承されていく。

襖絵や調度品などは、リノベーション前にあったものを活用。三国の町に伝わってきた文化が、こういう形で継承されていく。


ベンガラ風の外壁に格子出窓、福井県特産の笏谷石(しゃくだにいし)張りの玄関、中庭にウッドデッキなど、それぞれが元の町家の風情を活かしながら、巧みに「和モダン」テイストを取り入れた快適な宿泊空間となっている。

 

客室のインテリアや調度品も、「三国祭」「花街」「湯屋」など、三国の風土や文化から着想を得つつ、その家に備わっていた襖や箪笥などを残しているため、ゲストは、往時の暮らしぶりを、そこはかとなく感じることができる。

 

お薦めは、やはり連泊だ。日毎に宿泊棟を変え、異なる雰囲気の町屋空間を楽しむ。建物近辺の景色も自ずと変わってくる。周辺を散策するのもよい。文字通り、暮らすように旅することが可能になる宿泊施設だ。




昔ながらの風情が残る港町に溶け込むかのように9棟の宿泊棟が点在する。 昔ながらの風情が残る港町に溶け込むかのように9棟の宿泊棟が点在する。

昔ながらの風情が残る港町に溶け込むかのように9棟の宿泊棟が点在する。


巨匠、「タテル ヨシノ」が腕を振るうフランス料理

「オーベルジュほまち 三國湊」のもうひとつの注目は、フランス料理の巨匠として知られる吉野建さんがプロデュースする「タテルヨシノ三国湊」がレストラン棟に入ったことだ。

 

「メゾン タテルヨシノ(ミシュラン1つ星)」をはじめ、国内で多数のフレンチレストランを手掛けてきた吉野さんと、三国漁港で水揚げされる日本海の豊かな海の幸との出会いが、新たな世界を生んでいく。




吉野さんのシグニチャー料理ともいえる、「チリメンキャベツ、フォアグラ、黒トリフのテリ―ヌ」は、「タテル ヨシノ 三国湊」でも健在。(Ⓒオーベルジュ ほまち 三国湊) 吉野さんのシグニチャー料理ともいえる、「チリメンキャベツ、フォアグラ、黒トリフのテリ―ヌ」は、「タテル ヨシノ 三国湊」でも健在。(Ⓒオーベルジュ ほまち 三国湊)

吉野さんのシグニチャー料理ともいえる、「チリメンキャベツ、フォアグラ、黒トリフのテリヌ」は、「タテルヨシノ 三国湊」でも健在。(Ⓒオーベルジュほまち 三国湊)



コンソメスープに越前がにを使うなど、福井の豊かな食材と、吉野さんのフレンチとの出会いが、新たな世界を生む。(Ⓒオーベルジュほまち 三国湊) コンソメスープに越前がにを使うなど、福井の豊かな食材と、吉野さんのフレンチとの出会いが、新たな世界を生む。(Ⓒオーベルジュほまち 三国湊)

コンソメスープに越前がにを使うなど、福井の豊かな食材と、吉野さんのフレンチとの出会いが、新たな世界を生む。料理は一例。(Ⓒオーベルジュほまち 三国湊)



越前がに、甘えび……。福井の海の幸とフレンチとの出会い

 

吉野さんは語る。「冬ならば越前がに、あるいは福井ならではの甘えび。こうした日本海の幸を求めていらっしゃるお客様の期待に応えるためにも地元の食材を駆使し、その一方でフランス料理の真髄から離れぬよう、私ならではのフランス料理もご提供。また、三国という町が持つ歴史というものも、どこかに感じていただきたいですし、連泊するゲストも多いでしょうから、その方々にも対応するメニューを考える……。なかなかやりがいのある面白いレストラン、それが『タテルヨシノ 三国湊』です」

テーブル16席、カウンター4席、個室10席の計30席は、しばらくの間は宿泊客を対象とした朝食、夕食のみで営業される予定だ。



港町の隆盛ぶりを物語る往時の建物

 

日本海有数の港町として繁栄した三国の町は、その面影を随処に残し、散策するのにもうってつけの町だ。「きたまえ通り」と名づけられたメインストリートには、栄華を極めた豪商の建物が保存状態よく残され、内部を見学することもできる。「かぐら建て」と呼ばれる三国町独特の「旧岸名家」の建築様式や、堂々たる煉瓦作りの「旧森田銀行本店」の建物の前に立つと、この港町のかつての隆盛ぶりを肌で感じることができる。




明治中期まで廻船業を営んでいた森田家が、海運の衰退を見越し、銀行業に転身。大正期にこの建物が本店として建てられた。 明治中期まで廻船業を営んでいた森田家が、海運の衰退を見越し、銀行業に転身。大正期にこの建物が本店として建てられた。

明治中期まで廻船業を営んでいた森田家が、海運の衰退を見越し、銀行業に転身。大正期にこの建物が本店として建てられた。



風情ある日本家屋とその脇を通る路地を抜けると、そこにはかつて北前船が行き交った三国の港が広がる。 風情ある日本家屋とその脇を通る路地を抜けると、そこにはかつて北前船が行き交った三国の港が広がる。

風情ある日本家屋とその脇を通る路地を抜けると、そこにはかつて北前船が行き交った三国の港が広がる。


また、三国港は越前がにの水揚げで知られる、福井県内有数の漁港でもある。三国港では、全国でも珍しい「夕競り」が行われている。当日水揚げされた魚介類は、夕方の競りを経て発送。翌朝には東京をはじめとする都会へ新鮮な魚が届く。漁場が近いという、三国港ならではの利点がいかされたシステムだ。三国港市場では、一般消費者を対象とした、日曜朝市も開催されている。活気に満ちた市場の喧騒と、ノスタルジー漂う町のたたずまい。そんなコントラストを味わうためにも、ぜひ足を運んでみたい町、それが三国だ。



若き気鋭の料理人の、地元愛に溢れたフレンチレストラン「LULL

 

三国からも近く、その絶景で全国的に名が知られる東尋坊。この東尋坊へは、北陸新幹線延伸で新たな新幹線駅が誕生する芦原温泉から車で30分ほど。田園地帯を抜けた車は、やがて日本海の海岸沿いを走る。東尋坊まであとわずか、という地点で小さな漁港に到達。その漁港沿いを走る道筋に建つのが、「LULL」だ。

 

130年を経た家が改築され、2016年にフレンチレストランとしてオープン。その料理の質の高さが評判となり、瞬く間に、その料理を食べることを目的として足を運ぶ、「デスティネーションレストラン」となった。



LULL LULL

LULLの外観。







港を見下ろす築130年の邸宅を、クラウドファンディングで改築

 

オーナーはフランス料理の第一人者として、麻布の「エルブランシュ」で腕を振るう一方で、国内外で数多くのレストランプロデユースを手掛ける福井出身の小川智寛さん。築130年の家とは、世界的に活躍する指揮者、小松長生さんの生家で、かつては北前船の頭首が暮らす豪勢な家だった。住み手がなくなり、対処に困っていた小松さんに出会った小川さんが、故郷に新しい魅力を創るべく、クラウドファンディングなどで資金を集め、レストランオープンに漕ぎつけた。




一面のガラス窓からの素晴らしい日本海の眺めも、ごちそうのひとつ。 一面のガラス窓からの素晴らしい日本海の眺めも、ごちそうのひとつ。

一面のガラス窓からの素晴らしい日本海の眺めも、ごちそうのひとつ。




メインダイニングの床や壁は貼り替えられたものの、太い梁や欄間、建具などがそのまま使われているため、住んでいた家族の息遣いを感じることができる空間となっている。そして、なんといっても素晴しいのは、窓の外に広がる日本海の光景だ。港に面しているため、外海が荒れている時でも、内海は優しく穏やか。店名の「LULL」は、英語で「凪」を意味すると聞き、そのネーミングに納得する。



外海は波が高くても、店から見える港の内海は、店名通りまさに「凪」。 外海は波が高くても、店から見える港の内海は、店名通りまさに「凪」。

外海は波が高くても、店から見える港の内海は、店名通りまさに「凪」。


福井産の食材の使用はほぼ8割。「地産地消」を実現

 

LULL」のシグニチャー料理ともいえるのが、「野菜のリースサラダ」だ。ヒメダイコン、ムカゴ、にんじん、パースニップ……。近隣の農家から届く、色とりどりの季節の野菜がリースとなってプレートを彩る。野菜の下にはへしこを使ったソースとチーズのスクランブルが敷いてある。




10種類以上の野菜が、可憐な円を描く「野菜のリースサラダ」。 10種類以上の野菜が、可憐な円を描く「野菜のリースサラダ」。

10種類以上の野菜が、可憐な円を描く「野菜のリースサラダ」。



ミキュイされた「くえ」に添えられた野菜が、春を告げる。 ミキュイされた「くえ」に添えられた野菜が、春を告げる。

ミキュイされた「くえ」に添えられた野菜が、春を告げる。



サボイキャベツや菊芋など、牛ランプにも福井産の野菜が ふんだんに付け合わせとなる。 サボイキャベツや菊芋など、牛ランプにも福井産の野菜が ふんだんに付け合わせとなる。

サボイキャベツや菊芋など、牛ランプにも福井産の野菜がふんだんに付け合わせとなる。



繊細な火加減でミキュイされた「くえ」は、菜の花、蕗の薹、行者にんにく、うるいなど、春の野菜と絶妙なハーモニーを奏でる。

 

調理場に立つ高橋さんも福井の坂井市出身で、20代半ばの若い気鋭シェフだ。「子どもの頃はこのあたりの海でよく泳いでいました。崎漁港では、まだ海女さんも活躍していますよ」と語る高橋さんは、地元の食材を熟知し、農場や市場にも自ら足を運ぶ。そんな努力が、福井産の食材を使う割合がほぼ8割という数字となって表れている。まさに「地産地消」そのものだ。

 

フレンチの巨匠が満を持して手掛ける王道のフランス料理と、地元を熟知する気鋭の料理人が若い感性で挑む品々。そして古き良き港町の面影を残す三国の町に溶け込む、新しきオーベルジュ。北陸新幹線延伸で一層近くなる三国は、新たな旅の目的地として、輝きを増している。

Text by Masao Sakurai (OFFICE CLOVER)
Photos by Junko Ueda

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