初の韓国開催で、会場のインターコンチネンタルソウルパルナスは熱気に包まれた。初の韓国開催で、会場のインターコンチネンタルソウルパルナスは熱気に包まれた。

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2024アジアのベストレストラン50結果発表

2024.4.6

「アジアのベストレストラン50 2024」レポート 100位までの全リストあり~ 東京のレストランがワンツー独占!

アジアのベストレストラン50、初の韓国開催。会場のインターコンチネンタルソウルパルナスは熱気に包まれた。





東京のレストランがワンツートップを独占!

 

今年も「Asia’s 50 Best Restaurants(以下『アジアベスト50』)」の受賞セレモニーが開催された。「ミシュランガイド」と双璧をなす飲食店ランキングのアジア大会であり、時に「食のアカデミー賞」と称される華やかなイベントである。今回の舞台は、2013年のイベント開始以来初となる韓国ソウル。アワードセレモニーの様子は公式SNSやYouTubeでも生配信され、映えある50軒をめぐる様々な賛辞や意見は、その後もSNSを賑わせている。

 

 

今回、結果から考察できるポイントを炙り出すことに注力した。多少、私見が過ぎる部分もあるかもしれない。しかしそこは「食のアカデミー賞」であるゆえに、過去にもこのアワードを眺めた筆者の視点を叩き台として、レストラン業界に対する新たな見方を感じていただけたら本望だ。

 

 

1位から50位のリストは以下を確認されたい。また、この記事の最後には51位から100位までのリストも合わせて掲載する。考察と合わせて参考にしていただければと思う。





アジアのベストレストラン50 2024 全リスト

アジアのベストレストラン50 2024 全リスト アジアのベストレストラン50 2024 全リスト

アジアのベストレストラン50 2024 全リスト。1位セザン、2位フロリレージュ、8位傳、9位ラシームと、日本のレストラン4店が10位内に。記事の最後に51位から100位までのリストも掲載した。






50位までの結果はリストの通り。ご注意いただきたいのは、この結果が単に美味しさや実力のみを表したものではないということだ。「アジアベスト50」やその母体の「世界ベスト50」は、誤解を恐れずにいえば人気投票ランキングだ。審査にあたるのが匿名の“voter(投票者)”である点は、ミシュランガイドやゴ・エ・ミヨとも似ている。しかし、選ばれる軒数は50に限定されていて、voterは1年半以内に実際に訪れた店にしか投票できない。投票基準は、料理はもちろんのことシェフの発信力や社会への影響力、表現力や独自性といった部分にも及ぶ。絶対評価がベースの他のコンペティションに比べ、相対評価であり1年後にはどうなるか読めないのも「ベスト50」の特徴だろう。






1位を獲得した東京「Sézannne(セザン)」のダニエル・カルバートシェフ(左から2番目)。チーム全員で登壇し、その後素晴らしいスピーチを行った。 1位を獲得した東京「Sézannne(セザン)」のダニエル・カルバートシェフ(左から2番目)。チーム全員で登壇し、その後素晴らしいスピーチを行った。

1位を獲得した東京「Sézannne(セザン)」のダニエル・カルバートシェフ(左から2番目)。チーム全員で登壇し、その後素晴らしいスピーチを行った。








さてそんな「ベスト50」だが、今回の結果でまず目に飛び込んでくるのは、1位と2位を東京のレストランが射止めたこと。1位に輝いた「Sézanne」は、2022年に初登場で17位となり昨年が2位。わずか2年で今回の快挙を果たしたわけだが、37歳の英国人シェフ、ダニエル・カルバートは、ロンドンを皮切りにニューヨーク、パリ、香港、そして東京と、数々の星付きレストランで腕を磨いた努力家だ。ハイクオリティーの魅力的な料理を多数の都市で作り続けてきたことが、今や圧倒的な力となって広く評価されている。2位の「フロリレージュ」を率いる川手寛康シェフは、昨秋に外苑前から麻布台に店を移転させた。料理人としては勝負の時だったと思うが、休業期間中は休むどころか世界中を駆け巡り、店の魅力を内外に伝え続けた。昨年「シェフズチョイス賞」という、同業者からの投票による賞に選出されたのもものをいったのかもしれない。

 

 

さらに日本地区のチェアマンを務める中村孝則は、円安や日本の飲食店の実力を知るインバウンドの影響は依然として高く、それはvoterにしても同様だろうと語る。要するに、日本を訪れた人がとても多かったということだ。





アワードセレモニー前には、日本唯一のオフィシャルスポンサー、旭酒造による「獺祭」の鏡開きが行われた。 アワードセレモニー前には、日本唯一のオフィシャルスポンサー、旭酒造による「獺祭」の鏡開きが行われた。

アワードセレモニー前には、日本唯一のオフィシャルスポンサー、旭酒造による「獺祭」の鏡開きが行われた。





ポイント1 シェフの国籍が多様化し、時代は新フェーズへ

 

フランス版「ミシュランガイド」で、パリの小林圭シェフがアジア人初の三つ星を獲得したのが5年前のこと。今回の「アジアベスト50」では、英国人シェフのダニエル・カルバートがアジア1位となり、同時に日本チームのトップを獲ったが、これも今を象徴していると感じる。日本のレストラン軒数は世界でも群を抜いて多く、活躍する外国人シェフも増えた。しかし閉鎖的な部分もいまだ多く、例えば星付きクラスの和食店や鮨店を営む外国人料理長には、私はまだ会ったことがない。

 

 

「アジアベスト50」のアワードでは、国別のランクイン数や各国のトップ獲得店が発表されるなど適度なナショナリズムも感じるが、それでもその国のランクイン店のシェフが全員同国籍であることはあまりない。例えば有名なバンコクのガガン・アナンドシェフはインド人だが今やタイ飲食業界の顔だ。シンガポールや香港などは最たるもので、国籍の異なるシェフたちが自らのアイディンティティーと店を構えた国の地域性を上手に融合させて新たなクリエイションを展開している。

 

 

よって、日本人による日本らしい料理こそ尊しとする姿勢を貫こうとすると、このアワードでは浮くかもしれない。シェフの出自や店のある地域を包括し、その上で独自のストーリーを生み出さないとならないのではないだろうか。応援する食べ手やメディアにしてもそれは同様だ。

 





ホスト国の韓国をはじめ、シンガポール、インド、台湾、フィリピンからシェフが集結。 ホスト国の韓国をはじめ、シンガポール、インド、台湾、フィリピンからシェフが集結。

ホスト国の韓国をはじめ、シンガポール、インド、台湾、フィリピンからシェフが集結。





ポイント2 食のビッグトレンドを生む場所

 

「アジアベスト50」や「世界ベスト50」は、過去いくつものビッグトレンドを生んだ。スペインの名店「エルブリ」が台頭した時代は分子料理やバスク料理に世界中のフーディーが萌えた。「noma」の登場で北欧ガストロノミーが一気にメジャーとなり、昨今はペルー「central」などの活躍によって南米料理はストリートからファインダイニングのものとなった。

 

 

ならば今後は? その答えが、アワード前に開催される関連イベントに見え隠れする。「#50 Best Talks」は各国メディアが参加するエキシビションだが、今回のテーマは「FOOD OF THE PEOPLE」。アジア各国のオピニオンリーダー的シェフが登壇し、それぞれの記憶に残るローカル食の教えや味わい、それらをどう解釈して料理に活かしているかなどを語った。興味深いのは、アジア各国それぞれに独自の発酵食や伝統が息づいていること。美味しさの共有と相違点へのリスペクトを同時に感じる瞬間であり、ローカル性の追求が、料理を昇華させる鍵になると、改めて実感させてくれた。




アワードセレモニー前後には、韓国農業食糧農村省(MAFRA)やソウル市によるメディアワークショップも多数開催。コリアハウスで開かれたキムチ作りでは、「韓国料理の母」と呼ばれるチョ・ヒソク(中央)による講義が。自身も2020年の「アジアベスト50」で女性シェフ賞に選ばれた人だ。 アワードセレモニー前後には、韓国農業食糧農村省(MAFRA)やソウル市によるメディアワークショップも多数開催。コリアハウスで開かれたキムチ作りでは、「韓国料理の母」と呼ばれるチョ・ヒソク(中央)による講義が。自身も2020年の「アジアベスト50」で女性シェフ賞に選ばれた人だ。

アワードセレモニー前後には、韓国農業食糧農村省(MAFRA)やソウル市によるメディアワークショップも多数開催。コリアハウスで開かれたキムチ作りでは、「韓国料理の母」と呼ばれるチョ・ヒソク(中央)による講義が。自身も2020年の「アジアベスト50」で女性シェフ賞に選ばれた人だ。






ポイント3 開催国のその後にチャンスあり

 

「アジアベスト50」は、これまでさまざまな都市で開催されてきた。シンガポール、マカオ、バンコク。日本でも東京、横浜と過去に2回開かれたが、悲しいかなコロナ禍の真っ最中で他国からシェフやメディアが訪れることがなかった。

 

「アジアベスト50」にしても「世界ベスト50」にしても、開催都市はその後、相当有利になる。というのも開催期間中は世界中からレストラン関係者やジャーナリスト、フーディーが押しかけるのだが、中にはもちろん翌年のランキングで投票権を持つvoterも多数混じっている。彼らは短い滞在期間中も果敢に話題店を攻める。ランチとディナーで1日に2コースというのも辞さない、食の猛者たちなのだ。よって、開催都市の気鋭のレストランは他国のそれに比べて格段に翌年のチャンスが増えることになる。

 

今回の結果にもそれは如実に表れており、昨年の開催地、シンガポール勢は大躍進を遂げた。その前の開催地、香港(マカオ)やバンコクも同様。ある程度成熟したレストラン文化や店舗数がないとホスト国を務めるのは難しいが、その価値は十分にある。今回のソウルは初開催ながらすでにポテンシャルは十分すぎるほどで、来年以降のランキングには熱い注目が寄せられている。

 



東京「ファロ」のシェフパティシエ、加藤峰子。「アジアのベスト・ペイストリーシェフ賞」を受賞した。 東京「ファロ」のシェフパティシエ、加藤峰子。「アジアのベスト・ペイストリーシェフ賞」を受賞した。

東京「ファロ」のシェフパティシエ、加藤峰子。「アジアのベスト・ペイストリーシェフ賞」を受賞した。




ポイント4 若手シェフや女性シェフの躍進

 

「世代交代」という言葉には多少の緊張感を覚えるが、今年の「アジアベスト50」を見る限り、世代は交代していない。逆に融合しており、ジェンダーの垣根も低くなってきている。50のリストを見ながらシェフの顔を思い浮かべると、30代前半から50代後半(推定)に至るまで、年々そのバランスはかなり良くなっているといえるだろう。現に1位に輝いた「Sézanne」のダニエル・カルバートシェフは37歳。彼の料理人人生は、まだ折り返し地点にもきていないはずだ。「ベスト50」には「権威ある」という形容詞は似合わないし、多様性こそが身上でもある。

 

 

今回、そういった点で注目すべきは「アジアのベスト・ペイストリーシェフ賞」を受賞した東京「ファロ」の加藤峰子シェフだろう。16歳でイタリアにわたり、現地の大学を卒業した後に「Vogue Italia」編集者となるが、その後パティシエに転身。イタリア時代は「世界ベスト50」の頂点に立った名店「オステリア・フランチェスカーナ」やブルガリホテルで働いたが、2018年に帰国して「ファロ」のシェフパティシエに就任した。決してソーシャライツとは言えない真面目な職人肌だが、彼女の存在をアジアのvoterが見逃さなかったことに「ベスト50」の着眼点の良さを感じる。





(右から)58位に初登場した「Crony」の春田理宏シェフ。22位「logy」の田原諒悟シェフ。2位「フロリレージュ」スーシェフとして活躍後に台北にわたりシェフに就任した。「logy」のシェフソムリエ、ケヴィン・ルーは、「アジアのベスト・ソムリエ賞」を獲得。「Crony」のオーナーソムリエ、小澤一貴。 (右から)58位に初登場した「Crony」の春田理宏シェフ。22位「logy」の田原諒悟シェフ。2位「フロリレージュ」スーシェフとして活躍後に台北にわたりシェフに就任した。「logy」のシェフソムリエ、ケヴィン・ルーは、「アジアのベスト・ソムリエ賞」を獲得。「Crony」のオーナーソムリエ、小澤一貴。

(右から)58位に初登場した「Crony」の春田理宏シェフ。22位「logy」の田原諒悟シェフ。2位「フロリレージュ」スーシェフとして活躍後に台北にわたりシェフに就任した。「logy」のシェフソムリエ、ケヴィン・ルーは、「アジアのベスト・ソムリエ賞」を獲得。「Crony」のオーナーソムリエ、小澤一貴。





ポイント5 サステナブルな飲食業界を目指すために

 

昨今、シェフやソムリエたちのSNS投稿を見ていると「スタッフ募集中」を訴える人のなんと多いことかと思う。時に、人員不足で休業など、以前は考えられなかったことも起こる。ゲストの無断キャンセルに嘆き、ブラックから脱せない業界を憂う声は今なお多い。ところが、海外のレストラン事情を窺うとどうも様子が違うらしい。人材難は先進国共通の悩みと察するが、しかし日本ほどではないようだ。

 

 

飲食大国の日本だが、軒数は多いものの規模の小さい高級店や予約困難店が圧倒的に多いように思う。業界の仕組みが根本的に違うのではないだろうか。今回の取材中も、ランキングレストランの母体企業や、特定のシェフを応援する投資家などに出会った。要するに、シェフがクリエイターとして活躍できるよう応援する取り組みがそこここにあり、それによって、働く若手たちも学びに集中できるようなのだ。「サステナブル」が飲食業界でも共通認識となった今。メニューを作り厨房に立ち、客を集めて収益率を上げ、空間を魅力的に仕上げ、という膨大な作業のほかに、フードロスや働き方改革、カーボンニュートラルにも留意して……などというのは、土台無理な話だ。サステナブルな食を叫びながら、自らの業界をどんどん持続性の薄いものにしてしまっている、それが最近の日本の飲食業界であるように感じてしまう。突破口を見つけることが、日本経済にも寄与するのではないだろうか。



「アジアベスト50」は、傍目から見ると華やかなパーティーイベントかもしれない。けれど、深く眺めると各国の飲食関係者がどんなビジョンで生きているか、様々な思考が伝わってくる。飲食業界に生きる人ならぜひ参戦してはと思うし、ランクインすることで新たな扉が見えてくるはず。そして食べ手である私たちもまた、世界を眺め、識らなければならない時期に来ているのだ。

 




アジアのベストレストラン50 2024 51位から100位リスト

アジアのベストレストラン50 51位から100位のリスト。 アジアのベストレストラン50 51位から100位のリスト。

アジアのベストレストラン50 51位から100位のリスト。51位レフェルヴェソンス、58位クローニー(初登場)、60位鮨さいとう、66位日本橋蛎殻町すぎた、67位レヴォ、69位マス(初登場)、76位明寂(初登場)、80位オマージュ、83位エスキスと、9店がランクイン。うち初登場が3店も入った。

 




Text by Mayuko Yamaguchi
Photography by © The World's 50 Best Restaurants


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