『老舗の流儀 虎屋とエルメス』―― 大人が語る和洋の価値と道理

2017.01.17

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プレミアムジャパンの連載対談でもおなじみの齋藤峰明さん(パリ「アトリエ・ブラマント」総合ディレクター)と、日本を代表する和菓子店「虎屋」社長、黒川光博さんの対談をまとめた本『老舗の流儀 虎屋とエルメス』が話題です。洋の東西で老舗企業を率いてきた2人の、本質を鋭く突いたトークから日本と世界の確かな未来像が見えてきます。新しい年を迎えたこの時期にこそ、ぜひ読んでいただきたい、刺激と気づきに満ちた1冊です。

「虎屋」と「エルメス」、2つの老舗企業の共通点とは?

「強いて挙げるならば虎屋です」
齋藤峰明さんがエルメスジャポンの社長に就任した時、雑誌記者にライバルを問われてとっさに出した答えです。フランスの高級ファッションブランドと日本の伝統的な和菓子店に、どんな共通点があるというのでしょう。

齋藤さんの言葉が、老舗企業を率いる2人の賢人を引き合わせることになりました。虎屋十七代の黒川光博さんはファッションに造詣が深く、もちろんエルメスの愛用者でもあります。面会が実現して会話を交わすと、すぐに意気投合しました。2人は企業のトップとして同じことを目指していることに気づいたのです。

『老舗の流儀 虎屋とエルメス』は、2013年から3年にわたる2人の対談を記録しています。テーマはリーダーのあり方、企業が守るべき価値、組織におけるコミュニケーションなど多岐にわたりました。長い対話を通じて見えてきたのは、“老舗”の持つ共通の理念です。

齋藤「エルメスという企業は、働くことを通じて社会と接点を持つこと、人々を幸せにして自分も幸せになること、そういう考えを根底において、企業活動を続けてきました。それは、虎屋さんも同様ではないかと、僕は感じています」

黒川「経済活動を営んでいる限り、利益を上げることは大切ですが、それがすべてではないはずです。おっしゃるように、自分のやっていることが人の役に立っていることを実感できるか。そして、社会とのつながりを感じていられるかどうか、これは忘れてはならないことです」

語り方が異なるだけで、2人の思考は通じ合っています。齋藤さんは10代でフランスに渡り、1992年にエルメスに入社しました。1998年にエルメスジャポンの社長に就任し、2008年から2015年までエルメスパリ本社副社長を務めます。フランスの社会と文化に触れ、外から日本を眺める視点を得ました。

黒川さんは1991年に虎屋十七代として1991年から社長に就任しました。創業500年の和菓子店を継ぎ、伝統を守りながら新しい事業に挑戦しています。パリの店を通じて海外に日本文化を広める活動を行い、2003年からは和洋の垣根を超えたTORAYA CAFÉをオープンしました。

逆方向から日本と世界を見つめてきた結果、2人の思いは重なるようになりました。旧態依然とした会社運営では日本が衰退してしまうという危機感を共有します。同時に、グローバル化の荒波をそのまま受け入れることにも警鐘を鳴らすのです。売り上げ最優先の経営で企業を発展させられるとは考えません。

黒川「私は、数値化できない価値にも、重きを置きたいと考えています」

齋藤「シェア争いに負けないために大きくしたいということです。ぼくは、こういう状況を『前に逃げている』と表現しています」

規模だけで企業の価値を計るのは時代遅れだというのです。企業文化は数字の指標で表せるものではありません。利益最優先が当然とされる風潮の中、2人は一歩引いた視点から冷静に展望します。

齋藤「虎屋もエルメスも、長く続いている会社は、ものの道理に合っているからだと思うのです」

これこそが、老舗が長い時間を費やして身につけてきた大人の流儀なのでしょう。歴史をまとい、未来を切り開く。虎屋とエルメスが体現する哲学は、人が自由に生きる作法でもあるのです。

 

新潮社
本体1600円+税
http://www.shinchosha.co.jp/book/350451/

 

文/鈴木真人(すずき まなと)

 

【「アトリエ・ブランマント」総合ディレクター齋藤峰明さん連載】一覧記事はこちら
http://www.premium-j.jp/mineaki-saito/

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