「桜」と「華道京展」【未生流笹岡家元 笹岡隆甫が生ける四月の花】「桜」と「華道京展」【未生流笹岡家元 笹岡隆甫が生ける四月の花】

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未生流笹岡家元 笹岡隆甫「月々の花、月々の京」

2024.4.2

「桜」と「華道京展」【未生流笹岡家元 笹岡隆甫が生ける四月の花】

1919(大正8)年に創流され、西洋の花を用いた新しい「笹岡式盛花」を考案したことで知られる「未生流笹岡」。当代家元、笹岡隆甫さんは、伝統的な華道の表現だけでなくミュージカルや狂言など他ジャンルとのコラボレーションを試みるなど、幅広い分野での活動で注目を集めています。京都で暮らす笹岡さんが、月々の花と、その月の京都の風物詩を語る連載「月々の花、月々の京」、三月は「桃」と「雛の節句」です。












小さなボックスフラワーに込められた深い味わい

 

 

桜の季節が巡ってきました。今年は少し開花が遅いようですが、私が子どものころは、4月に入ってから咲くのが普通で、ここ10年前後のように、3月の末には満開、ということはあまりありませんでした。やはり温暖化の影響でしょうか。

 

 

今回は少し趣向を変えて、桜のボックスフラワーです。箱の底に苔を敷き詰め、苔を纏った桜の太枝を寝かせて、そこに花をあしらいました。古木からひこばえのように咲いた桜のようでもあり、苔庭にはらりと落ちた一輪のようでもあり……。ほんの小さなボックスフラワーですが、意外と味わい深いですよね。おおぶりの枝を華やかにいけるのも春爛漫で素敵ですが、こうしたちょっとした工夫でも、十分に桜を楽しむことができます。



「華道京展」は半世紀以上の歴史をもつ、いけばな展

 

 

桜の季節は、華道家にとって、一年の中でももっとも忙しい季節です。とりわけ、京都では「華道京展」という大きないけばな展が開催されます。この展覧会は、京都いけばな協会に所属する29流派が参加し、華道歴の長い高弟の方々が出瓶(しゅっぺい)する、歴史と格式あるいけばな展です。今年は4月4日から9日まで、大丸京都店6階の大丸ミュージアム<京都>で開催されます。

 

 

季節がら、桜を花材とする作品が多くなりますが、こうした展覧会では私たちが「本桜」と呼ぶ立派な枝が登場します。お稽古のときは、太さ1.5㎝、長さ1mくらいの、早咲きの彼岸桜や啓翁桜を使うことが多いのですが、この「本桜」は太さ5㎝、長さ3mほどの堂々たる桜です。花もひときわ大輪で力強い。今回のボックスフラワーに使ったのも、この本桜です。












展覧会で満開を迎える桜は、「切り出し」の方々のおかげ

 

 

桜は、自生しているものや園芸品種として育成されたものも含め、じつは数百以上の品種が存在しているため、「本桜」も品種として特定できないのが実状です。

 

 

 

華道家は、花屋さんに予め依頼して「本桜」を入手しますが、山野に自生する桜を、許可を得て切り出し花屋さんに届ける、「切り出し」と呼ばれる仲買がいます。この方々が、切り出してきた桜を温室や冷蔵庫に入れて,開花時期をコントロールしてくれるからこそ、いけばな展の作品は、会期中に見事な花を咲かせるのです。華やかないけばな展の影には、こうした方々の尽力が隠されています。

 




朝の光を浴びて咲き誇る、鴨川沿いの桜

 

京都はいたる所に桜の名所があります。よく「どこの桜がお薦めですか」と尋ねられますが、このスポットと、ひとつに決め込むことはなかなか難しいものです。川面を覆うかのように咲く哲学の道の桜、かがり火に映える円山公園の夜桜、春には必ず家族で一度は足を運ぶ退蔵院のしだれ桜、平安神宮の桜……。挙げ始めるときりがありません。





約700本の桜が咲く「円山公園」の中央に位置するのが、「祇園の夜桜」としても有名な枝垂桜。樹齢220年で枯死した初代の種子から育てられた二代目も、100年近くの歳月を経て、見事な枝ぶりを見せる名木となった。 約700本の桜が咲く「円山公園」の中央に位置するのが、「祇園の夜桜」としても有名な枝垂桜。樹齢220年で枯死した初代の種子から育てられた二代目も、100年近くの歳月を経て、見事な枝ぶりを見せる名木となった。

約700本の桜が咲く「円山公園」の中央に位置するのが、「祇園の夜桜」としても有名な枝垂桜。樹齢220年で枯死した初代の種子から育てられた二代目も、100年近くの歳月を経て、見事な枝ぶりを見せる名木となった。©Akira Nakata



名だたる名所、というわけではありませんが、鴨川沿いに咲く花を川端通りから眺めるのも、私にとっては毎年の記憶に残る桜です。京都の桜の時期は、ちょうど「華道京展」の会期と重なります。展覧会の期間中は、ほぼ毎朝作品の手直しに会場へ通います。

 

 

 

東山から昇る朝日を受けて咲き誇る桜を、オープン前の手直しに向かう車の中から見るのが毎年の恒例です。いけばな展のシーズンが始まるワクワク感に包まれながら眺める朝の桜は、格別な趣です。今年もまもなく「華道京展」が開催されます。さて、この春は、どんな桜が出迎えてくれることでしょうか。



川端通りから見る鴨川の桜。朝方は陽光を受けた桜を順光で見ることとなり、ひときわ美しい。岸辺の緑も鮮やかに、まさに春爛漫。 川端通りから見る鴨川の桜。朝方は陽光を受けた桜を順光で見ることとなり、ひときわ美しい。岸辺の緑も鮮やかに、まさに春爛漫。

川端通りから見る鴨川の桜。朝方は陽光を受けた桜を順光で見ることとなり、ひときわ美しい。岸辺の緑も鮮やかに、まさに春爛漫。©Akira Nakata





ひとつお知らせがあります。4月26日に東京の築地本願寺本堂内の講堂で、献花式を執り行わせていただきます。開始は11時45分の予定です。東京でこうした献花式を披露させていただくのは、あまりない機会ですので、ぜひ足をお運びください。


笹岡隆甫(ささおかりゅうほ)  笹岡隆甫(ささおかりゅうほ) 

photography by Takeshi Akizuki

笹岡隆甫 Sasaoka Ryuho

 

未生流笹岡家元。1974年京都生まれ。京都大学工学部建築学科卒業。2011年、未生流笹岡三代家元を継承。伊勢志摩で開催されたG7会場では装花を担当。舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し、国内外の公式行事でいけばなパフォーマンスを披露。京都ノートルダム女子大学と大正大学で客員教授を務める。近著の『いけばな』(新潮新書)をはじめ、著書も多数。



Text by Masao Sakurai(Office Clover)

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