カルチャー

プレミアムジャパン・アートプロジェクト<建築家シリーズ> Vol.23

建物をつくることで物語を紡ぐ建築家、大西麻貴+百田有希(前編)

2017.03.25

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「プレミアムジャパン・アートプロジェクト」の若手建築家の連載インタビュー。最終回で紹介するのは大西麻貴+百田有希のユニットだ。前半では彼らが手がけたふたつの住宅作品を中心に話を聞いた。

生活空間が数珠繋ぎに続く『二重螺旋の家』

古くからの下町の街並みが残る東京の谷中。大西麻貴と百田有希が設計した『二重螺旋の家』は、その一角に建つ小さな住宅だ。敷地は旗竿地だが、竿に当たる細い路地が2本あり、ふたつの異なった方向から敷地へとアプローチできる。3階建ての住宅はこれらの路地がそのまま内部へと組み込まれるようなデザイン。鉄筋コンクリート造の白いコアに路地から続く細長い廊下が立体的に巻きつく。

「この住宅は外観が特徴的ですが、実際には敷地の関係で外観はほとんど見えません。むしろ重要なのは内部で、それを説明するのにプルーストの『失われた時を求めて』が相応しいと思いました。この小説には、主人公の『私』がマドレーヌを紅茶に浸して食べた瞬間に、子供の頃に過ごした家の記憶が蘇るという有名な一節があります。その記憶は、家の全体像が一度に思い浮かぶのではなく、小さな場所の記憶が数珠繋ぎになって現れてきます。

『二重螺旋の家』では、路地から出発して、廊下、リビング、階段、寝室と内部空間が数珠繋ぎに続いていきます。この空間の配列は、プルーストの小説のように、私たちの記憶のなかの空間をそのまま立ち上げたものと言えるかもしれません」

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写真(上)/ 二重螺旋の家 Double Helix House  2011 Photos by Kai Nakamura
(上)建物の外観。右手の路地からの動線がそのまま廊下となり、白いコアに巻きつくようの繋がっていく。(下)3階の内部。大きなデイベットに置かれたパッチワークのクッションは安東陽子のデザイン。

大西は『二重螺旋の家』の空間的な特徴をこう説明した。コアの外側に巻き付いた廊下と階段は木調の壁で仕上げられている。いっぽう白いコアの内側の壁は滑らかな左官仕上げとなってる。空間の質がもたらすものについて百田は次のように語った。

「付近には戦災で焼けなかった木造家屋も残っているので、それらの一部として繋がるように、外壁に杉板を使っています。外側の廊下が路地の延長として、魅力的な表情を持つことを目指しました。場所ごとで幅が変化したり、階段部分の傾斜が緩くなることで、ものを飾るスペースになったり、小さな図書室になったりします」

内部空間の多様性が住み手の日常にささやかな発見をもたらす。個々の場所で目にする情景は日常的なものだが、その繋がりから生まれるシーケンシャルな体験のなかにちょっとした意外性や驚きを潜ませる。その小さな体験の積み重ねが生活の豊かさへと繋がることが意図されているのだ。

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