伝統工芸に新しい風を吹き込む和傘職人 西堀耕太郎氏の挑戦【前編】

2017.08.23

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日本橋のコレド室町3に「わとな WATONA」というセレクトショップが6月14日(水)から9月24日(日)までの期間限定でオープンしています。日本全国の職人による選りすぐりのアイテムが集まるこのショップでは、日本の職人が世界中のデザイナーとの出会いによって誕生した商品が紹介されています。プロデュースするのは老舗京和傘工房「日吉屋」の5代目・西堀耕太郎(にしぼり・こうたろう)氏。日本のものづくりに海外のデザイナーのアイデアをプラスすることで、世界で認められる商品を世に送り出す支援をしている西堀氏がセレクトした品々が並ぶ「わとな WATONA」には、私達の現代の生活にマッチする、モダンなエッセンスがプラスされたMade in Japanのアイテムに数多く出会うことができます。

和傘職人として伝統を守りつつも、伝統の技術に現代のテクノロジーをプラスさせることで誕生した新しい商品の開発を行う西堀氏。国内外のデザイナーとのコラボレーションにも積極的で、和傘にヒントを得て誕生した和風照明「古都里 -KOTORI-」は現在15カ国で展開されています。2015年にはフランス・パリにてMade in Japanの優れた商品を集めたセレクトショップ「アトリエ・ブランマント」のオープンに携わり、海外のデザイナーとの共同商品開発も行う西堀氏ですが、実は伝統工芸の家に生まれ育ったというわけではなく、結婚を機に和傘職人の道に進んだという非常にユニークな経歴の持ち主。

 ご自身の経験や考えに基づいて伝統工芸に新しい風を吹き込み続ける西堀氏に、伝統工芸にかける思いや、これまで取り組んできたことをうかがいました。

 

――元は公務員をされて、結婚を機に京和傘の世界に飛び込んだということですが、そもそも日本のものづくりとか、伝統工芸とかに興味を持っていたのですか?

 僕の出身は和歌山県の新宮というところでなんですが、新宮は合気道の発祥の地と言われています。合気道を習いに世界中から人が集まってきて、外国の人がわざわざ田舎の町にやってきて武道に触れるという姿は幼いころから印象的でした。

高校卒業後カナダのトロントへ留学したのですが、その時に外国の人に「東京の人口は?」とか「歌舞伎とはどんなものか?」とか、日本について色々と聞かれたんです。当時、僕はそんなこと知らなくて、そうすると「お前、日本人なのに日本のことを知らないのか」と言われたんですね。そこで、僕は合気道のデモンストレーションをしたのですが、それがすごく褒められたんです。その経験は自分が日本人であるということを意識させて、帰国後、日本の文化や伝統について調べ始めました。

 和傘との出会いはその時でした。奥さんの実家である「日吉屋」で職人さんが和傘を作る姿を初めて見たのですが、綺麗でかっこよくて、感動しました。ところが和傘を使う人が減少し、日吉屋は廃業が決まっていたんです。その当時、京都で和傘を作っていたのは日吉屋だけで、日吉屋が廃業するということは1000年以上続いてきた京和傘の歴史が途絶えてしまうというということ。素人の僕が見ても和傘はこんなにかっこいいんだから、同じように思う人がきっといるはずだ、そういう人に和傘の魅力を届けたい。それが和傘の世界に入ったきっかけでした。

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日吉屋では「伝統は革新の連続」という企業理念で、今の時代にマッチした商品を創り出しています。

江戸時代、着物は伝統のものではなくてファッションアイテムだった。歌舞伎だって昔はエンターテインメントだったし、茶道だって安土桃山時代には新しい文化だった。それが時代が経つにつれて「伝統」と呼ばれ、それは日常生活には縁がないものというレッテルを貼られ、買う人も使う人も少なくなってしまうんですね。和傘もただただ伝統を続ければいいということではない。その時代時代の人がいいと思うものに形を変えないと、やっていけない、それが伝統に革新をプラスするということです。日吉屋は自らを「グローバル老舗ベンチャー」と名乗っています。

 

――グローバル老舗ベンチャー、ですか。とても面白い言葉ですね。

 ありがとうございます。日吉屋はITの技術は持っていないけれど、でも世界的なIT
企業には和傘は作れませんよね。ある意味オンリーワン、世界トップシェアなんです(笑)

傘というのは1000年以上も前、元々は魔除けや身分を象徴する宗教用具として使われていたと言われています。それが江戸時代にはその時代のニーズに合わせて雨傘へと進化した。そして今の時代においては雨傘を活かした何かを作らないと競争力がない。傘の伝統の技術を使った新しい商品、自分でも欲しいと思える商品を世に送り出すことをモットーにしています。

 

――西堀さんが手がけられる商品は、現代のニーズにマッチしながらも本当にユニークですね。

 今、照明器具を数多く作っていますが、きっかけは傘を太陽の下で干しているのを見上げた時に綺麗だった、ということなんです。そこからヒントを得て作った最初の照明器具は傘と同じく三角錐の形をしていました。ただ、それは売れませんでした。そこで照明デザイナー達とプロジェクトを立ち上げ、形を三角錐から筒型に変えて、さらに開閉できるように発展させて、オリジナリティの高いデザイン照明にしました。そのほうが市場のニーズに合うものだと考えたからです。和風照明「古都里-KOTORI-」は今では全世界約15カ国で展開しています。

それを見た人が和傘でこんなこともできないか? あんなこともできないか? と連絡をしてくるようになり、それがきっかけで和傘でドレスを作ったり、ポップアップ茶室を作ったりもしました。できない、と言うのが嫌なんです。できないといった瞬間に本当に実現不可になる。とりあえずやってみよう、というのがスタンスです。傘でドレスも家もできたんだから、傘で宇宙船だってできるかもしれませんよね(笑)

 

――本当に、その通りですね。それにしてもそういった新商品のインスピレーションはどういう時に湧き出てくるのでしょうか?

 そんなことばかりずっと考えています。新しい商品を創り出すときは、コラボレーションの依頼を受けて作ることもあれば自分から考えて実現するものもある。傘の技術を応用して、傘が閉じた状態のような、棒状のものをロケットに積んで宇宙に持って行って、パラボラアンテナみたいに広がって、太陽風を受けて進む宇宙船にも展開できるかもしれない。あんなこと、こんなこと。妄想の中から実現性の高いものを形にしています。街中でひらめくこともあるし、日々妄想しています。常に面白いことをやりたいと考えています。

《後編へつづく》

 

西堀耕太郎(にしぼり・こうたろう)

1974年、和歌山県新宮市生まれ。老舗京和傘工房「日吉屋」の5代目当主。「伝統は革新の連続である」を企業理念に掲げ、和傘の技術、構造を活かした新商品開発に積極的に取り組む。国内外のデザイナー、アーティスト、建築家達とのコラボレーションにも取り組み、和風照明「古都里-KOTORI-」シリーズを中心に現在世界約15カ国で展開。2012年より日本の伝統工芸や中小企業の海外向け商品開発や販路開拓を支援する株式会社TCI研究所の代表を務め、のべ約130社の日本企業の海外進出や商品開発を支援。2015年に前エルメスインターナショナル副社長・齋藤峰明氏が総合ディレクターを務め、フランス パリ市内マレ地区でオープンした、日本の職人技術の新たな可能性を発信するユニークなアトリエ「アトリエ・ブランマント(Atelier Blancs Manteaux)」の共同経営に参画。日本の伝統技術を生かした現代的な商品を提案すると同時に、海外デザイナーとの共同商品開発等も手掛ける。

 

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わとな WATONA *2017年6月14日(水)~9月24日(日)期間限定
東京都中央区日本橋室町1丁目5番5号 コレド室町3 3F
http://watona.co.jp/

 

 

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