連載・特集

『ことほき』のしめ飾り:「お米が主役」vol.09 柏木智帆

2015.12.29

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「えび飾り」高さ70cm程度

 

日本の伝統文化が息づくしめ飾り

今年も残すところあとわずか。新年に備えて家々の玄関先にしめ飾りを見かけるようになりました。しめ飾りには、新しい一年を元気に過ごす力を授けてくれる「年神様」を家庭にお迎えするという日本の伝統文化が息づいています。

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「鳥お飾り」高さ50cm程度

このしめ飾りづくりを15年以上にわたって続けているのが、しめ飾りプロジェクト「ことほき」の2人。学生時代からの友人という、アーティストの鈴木安一郎さんと、デザイナーの安藤健浩さんです。

しめ飾りには、いくつかの伝統的な形がありながらも、その形状はさまざま。その理由について鈴木さんは「稲作は日本各地で行われてきました。引っ越し先や嫁ぎ先でも、その土地のしめ飾りではなく故郷で教わったしめ飾りをつくったのでしょう。おそらくお隣同士でも同じものをつくらず、格好よさや大きさなどを競い合ったり比べあったり、真似し合ったり、アレンジしたり、そうして進化してきたのではないでしょうか」と説明します。たとえば、兵庫県と岩手県に類似した形のしめ縄があるなど、人が継承するものがゆえに飛び火していったのだそうです。

2人がつくるしめ飾りは、少なくとも15パターン。一本のしめ縄を輪にした「玉しめ飾り」や、4本のしめ縄を組み合わせてつくる「めがねしめ飾り」。数本のわらをより合わせてつくる小さな輪飾りは「のの字」というかわいらしい名称のものや、1本のしめ縄を縦に下げた「たてごぼうしめ飾り」といったユニークな名前のものも。宮崎県の高千穂地方や岡山県などに伝わる鳥の意匠の「鳥お飾り」は、どこかユーモラスで親しみを感じます。

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「玉しめ飾り」高さ50cm程度

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「めがねしめ飾り」高さ100cm程度

 

手仕事の根っこは稲作から

2人がしめ飾りをつくるきっかけとなったのは、鈴木さんの父・博六さんの存在でした。鈴木さんによると、地元では一家の主が正月用のしめ飾りを作るのは一般的だそうです。1999年冬、博六さんがしめ飾りを毎年つくっていると鈴木さんから聞いた安藤さんが「ぜひつくりたい」と希望し、鈴木さん親子が住む静岡県御殿場市へ。鈴木さんと安藤さんは御殿場市にある鈴木さんのアトリエで博六さんにしめ飾りの作り方を習い始めました。

「僕は正直いうと信心深い人間ではないのですが、自分がつくったしめ飾りで新年を迎えるというのは何よりも気持ちがいいのです」と安藤さんは言います。

10年前に博六さんが他界した後も、しめ飾りづくりを続けていた2人。ギャラリーで展示をするようになると、「ぜひ欲しい」という人が続出しました。そこで、数量限定・完全予約制で、販売を始めたのです。

しめ飾りの原料となる稲わらは博六さんのしめ飾りづくり仲間から譲ってもらっていましたが、3年前からは御殿場市で鈴木さんの親戚から休耕田を借り、お米ではなく稲わらを得るための稲作も始めました。つくっている稲は、しめ飾りの主軸となるしめ縄に使う「シブサライ」という丈の長い在来品種のほか、しめ飾りに彩りを添える古代米の赤米と黒米。収穫の際は、機械で刈ると稲わらが裁断されてしまうため、すべて手で刈らなければなりません。シブサライは穂が出る前、夏の一番暑い時期に早刈り。なかなか大変な作業です。2人の稲作は2016年の田植えで4シーズン目に突入します。

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「玉しめ飾り」高さ90cm程度

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「俵」高さ50cm程度/高さ70cm程度

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「宝珠」高さ50cm程度/高さ70cm程度

 

アートとは一線を画した造形活動

鈴木さんはドローイングやペインティングの作品をつくるアーティストであり、キノコ写真家。安藤さんはプロダクトデザインや空間デザインを手掛けるデザイナー。ともにクリエーターの2人ですが、「しめ飾りは他の造形活動とは違う」と口を揃えます。

「アートやデザインの世界はオリジナリティや新しいものを提案していくものですが、僕らは伝統を踏襲しながらつくっていくことに重きを置いています」と鈴木さん。安藤さんも「アートではないので独自の形をつくるということもあえてしません。伝統的なものを踏襲しながら完成度を上げていくことができる余地があるという点がとてもおもしろいと思うのです」と言い、伝統文化が持つ懐の深さにも魅力を感じています。

そして、しめ飾りの完成度を上げる一つの方向性として、「ことほき」のしめ飾りは田んぼで燃やしても跡形もなくすべて灰になるよう針金もビニール紐も使っていません。稲わらは1本ではすぐに切れてしまう頼り無げな存在ですが、数本を束ねて縒り合わせていくことで、丈夫なしめ縄となり、さまざまな形状に変化してゆきます。極めて素朴な稲わらという“枯れ草”が秘めた可能性の大きさを最大限に引き出す2人の技。「ことほき」のしめ飾りをフォークアート(民藝品)として、正月のみならずインテリアとして飾る人もいるそうです。

「昔から米をつくって稲わらとともに生活してきたという日本人の伝統文化は、僕らにすごくなじみやすいのだと思います」と鈴木さん。「ことほき」のしめ飾りは現代のどんな住宅にも絶妙に溶け込むのです。

 

写真で紹介した「ことほき」のしめ飾りはいずれも東京・南青山のショールーム「yamagiwa tokyo」で購入可。
問い合わせ先は、03-6741-5800(11:00〜18:00、水曜・日曜定休)

 

「ことほき」の2016年正月向けのしめ飾りは受注は終了。2017年正月向けのしめ飾りは、2016年2月末まで予約受付中(注文が殺到した場合は2月末を待たずに締め切り)。問い合わせ先は下記参照。今後はしめ飾りづくりワークショップに力を入れていくそう。

【ことほきFacebookページ】(こちらで情報発信しています)
https://www.facebook.com/kotohoki.project/?fref=ts

 

「ことほき」のしめ飾り
価格:5,000円〜50,000円(税抜き、送料別)
お問合せ:info@kotohoki.com
http://www.kotohoki.com/index.html

 

取材・文/柏木智帆

【柏木智帆の〈お米が主役〉】一覧記事はこちら
http://www.premium-j.jp/chiho-kashiwagi/

 

 《プロフィール》

柏木智帆

フリーランスライター。元神奈川新聞記者。お米とお米文化の普及拡大を目指して取材活動をする中、生産の現場に立つために8年勤めた新聞社を退職。2年にわたって千葉県で無農薬米をつくりながらおむすびのケータリング屋を運営。2014年秋からは消費や販売に重点を置くため都内に拠点を移して「お米を中心とした日本の食文化の再興」と「お米の消費アップ」をライフワークに活動。神奈川新聞契約ライター。「日常茶飯」をテーマにお米とお茶のお取り寄せサイト「和むすび」(http://www.wa-musubi.jp)を運営

 

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