生駒芳子コラム第1回:ファッション+伝統工芸へ、私がパラダイムシフトした理由

2017.10.12
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伝統工芸との出会いが、私の人生を変えた!

 この度、日本から世界に向けて、日本の上質なカルチャーを発信する「プレミアム・ジャパン」に、エグゼクティブ・コントリビューターとして参加させていただくこととなり、大変嬉しく、光栄に思っております。もともとファッション・ジャーナリスト、雑誌のエディターとして、パリやミラノのコレクションを追いかけ続けてきた私が、現在、伝統工芸×ファッションという視点でプロジェクト開発を手がけているーーーいったいどういった経緯で、仕事人生をシフトさせたのかについて、少しお話をしたいと思います。

 長らくパリ・ミラノにコレクションに取材で出かけ、ファッション雑誌の編集を手がけてきたファッション専門家の私が、伝統工芸の世界に出会ったのは、2010年のこと。ファッションコンクールの審査委員長として金沢に招かれたのですが、その折に、「ファッションやグローバルのチャンネルを持っている生駒さんに、ぜひ、金沢の伝統工芸を見ていただきたい」と言われ、加賀友禅、加賀繍、象嵌の工房を訪ねたことがありました。それぞれの工房を訪ねた時に受けた衝撃は、今も忘れません。作家の方々がおっしゃった将来に希望を持てないといった言葉と、彼らが創っているもののクオリティの高さとのギャップが、あまりに大きかったからです。それこそ、欧米のラグジュアリーブランドのクオリティと並ぶような精密にして、繊細、美意識溢れる作品を作られているのにも関わらず、一様に作家の方々が発したのが、以下のような言葉だったのです。「我々の世界には未来がない」「まったく販路がない」「いったいこれから何を創っていけばいいのかがわからない」それまで、ファッションのトレンドを追い続け、欧米のラグジュアリーブランドとも親しくしてきた私にとって、この言葉は、いきなりどしんと重く響きました。いきなり雷に打たれたような刺激、と言えばいいでしょうか。その瞬間、なぜ私は、今まで日本の伝統工芸にまったく目を向けてこなかったのだろうと思うと同時に、「これらの伝統工芸世界をなんとか、未来につなげられないだろうか!?」と強く思ったのです。

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バゲット “加賀繍”LIMITED EDITION 参考商品

 そのあと金沢から東京に戻った私に、運命の電話がかかってきました。それは、フェンディ ジャパンの社長からの電話でした。「日本で、フェンディのクラフツマンシップと日本の職人、アーティストとのコラボレーション企画を予定しているので、それをコーディネートしてもらえないか」という主旨の連絡でした。すぐさま、金沢で見てきた工房の話をしたところ、大変興味を持たれ、そのあとすぐに社長とともに金沢に出かける機会を得ました。そして再び3つの工房を巡ったところ、社長も大変感銘を受けられ、その場でコラボレーションすることが決まったのです。象嵌、加賀繍といった金沢を代表する伝統工芸とフェンディのバッグとのコラボレーションは、半年後には、東京の大手デパートの店頭で発表され、大きな反響を得たのです。

 その間、2011年3月11日に、東日本大震災が起こりました。それはすべての日本人に、震災の被害以上のことーー心理的、精神的な側面での想像を超えるほどの衝撃をもたらしました。私の中ですでに芽生え始めていた「日本ってなんだろう」「日本人ってなんだろう」「日本の伝統世界はこれからどうなるのだろう」という疑問が、東日本大震災を経て、さらにむくむくとリアリティを伴って沸き起こり、そのことが伝統工芸の世界に立ち向かう私の背中を大きく押してくれたのは事実でした。

Photo3_漆・蒔絵のジュエリー/坂本これくしょん(スクリーンショット 2015-08-27 23.27.30) Photo2a_ピンクの南部鉄器/アンシャンテ(cherry.005-560x420)

写真1枚目/ 漆・蒔絵のジュエリー 坂本これくしょん  写真2枚目/ピンクの南部鉄器 アンシャンテ

 この経験から、私の中で「日本の伝統工芸をベースに置いたブランド作りをぜひ進めるべきだ」という気持ちが確信となったのです。伝統工芸×ファッションで、日本発信のラグジュアリーでクリエイティブなブランドを立ち上げたいという気持ちは、こうして私の中で明確なヴィジョンとなったのです。

 

<プロフィール>

生駒芳子(いこま よしこ) 

VOGUE、ELLEを経て、マリ・クレール日本版の編集長を務める。2008年に独立し、ファッションからアート、デザイン、伝統工芸、エシカル、クール・ジャパン、社会貢献、女性のエンパワメントまで、幅広く執筆・編集・企画・プロデュースを手がける。2010年より、日本の伝統工芸を世界発進するプロジェクト「工芸ルネッサンスWAO」の総合プロデュー サーを務め、パリ、ニューヨーク、東京で、ファッションやデザイン、アートを切り口としたキュレーションで伝統工芸世界を紹介。2017年、伝統工芸をベースに置いたラグジュアリーでクリエイティブなオリジナルブランドを立ち上げる。