齋藤峰明コラム第2回:「見立てる」ということ《前編》

2017.11.29
図6

「遥かなる時への旅」
18世紀フランスの貴族たちの想いを運んだ私信入れとともに、西洋と東洋、そして今昔の道具がおりなる時を超えた世界。親しい人と、遥かなる時に思いを馳せる集いのために。

私はこれまでずっと物を売るという仕事に関わってきたので、物について考える機会が多くありました。

 現代は物があふれ、大量生産と消費の時代ですが、そもそもすべての物は必要があって生まれてきています。さらに、食器にせよ鞄にせよ、物を作る技術は長い時間をかけて職人さんから職人さんへ伝承され現在に至るわけで、物は歴史と共にあるのです。

 物の役割は、当然本来その機能を提供する点にありますが、同時にその物を持ち使う人それぞれのアイデンティティーを映し出すという事実も無視できません。人間には、美しい物を持ちたいという美意識があるので、コップにせよ洋服にせよ、それを選ぶ人の個性が物に現れるのです。さらに、人間は社会的な動物ですから、他者の目にどう映るか?がとても重要で、他者の目に映る自分を認識することで自分自身の立ち位置を確認するときにも使います。洋服や靴などのファッションは、それを身につけた自分がまわりからどう見られるかを無意識のうちに考えて選んでいる部分もあり、ときに自分を表現する道具にもなっているのです。
 そういった物の役割に加え特徴的なのが、使うほどに愛着が増し、長く使えば使うほどその人にとって大切になっていくという点。最初は単なる物であった物が、使う人の魂が入ることで価値がどんどんあがっていくというのは、みなさんもご存知のとおりです。
 そんな物を「本来のあるべき姿ではなく、別の物として見る」のが「見立て」です。わかりやすく言えば、本来の機能ではない使い方を提案することですが、茶の湯の世界ではこの「見立て」の精神がすべての原点と言われています。一般的に千利休によって確立されたとされ、その後の日本人の詫び寂びの精神に非常に強く結びつくものです。

 利休は日常の生活用品を茶道具として採り入れたり、当時南蛮貿易でもたらされた品々を茶道具に転用し、当時の茶道に新鮮で趣のある試みを加えました。お茶の世界の話と言うと何やら難しいことのように聞こえますが、実はちっともそんなことはありません。「見立て」の精神は、わが国が世界にほこる素晴らしい文化で、私たちの日常にも根付いています。私は普段の生活でも「見立て」をすることが多く、例えばカード入れに使っているのはエルメスで時計やアクセサリーなどを買ったときに使われる小さな袋だし、他にもよくいいなと思ったものを自分流の「見立て」で使っています。みなさんも気に入ったグラスを花器に使ったり、コーヒーカップにペンを立てたりなど、本来の機能ではない形で物を使うことがあるのではないでしょうか。 

そんな「見立て」を、先日、銀座三越で開かれた「茶箱展」でやってみました。銀閣寺の古材を使った茶箱に、お茶会ができるよう煎茶の茶道具を揃え、タイトルを「遥かなる時への旅」として茶箱一式を見立てたのです。この「見立て」では、ひとつの恋文入れとの出会いがインスピレーションのもととなっています。恋文入れは、フランス語でEtui à billet douxと呼ばれる小さな筒で、これは、18世紀のフランスで貴族たちが親しい人への私信を入れ召使いに届けさせるために使っていた道具です。秋雨の日の午後、パリの古物商の片隅でこのEtui à billet douxと出会ったとき、一瞬にして私は時空を超えた世界へと想いを馳せました。果たしてどんな人がこの小さな筒の持ち主で、持ち主の手からどのような人に大切な伝言が届けられたのだろうかと、筒にこめられた想いやそこにまつわる物語の世界へとイマジネーションが掻き立てられたのです。そこで、この恋文入れを茶会席で使う香を入れる筒に見立て、この香入れに合わせてエルメスのスカーフ「ステッキ・ステッキ」を加工して茶具織を作りました。この柄は1967年のスカーフ復刻コレクションで、シンプルな白磁の急須と茶碗を実に美しく引き立てます。実は、見た目のバランスの美しさはもちろんですが、茶具敷にエルメスを選んだのは、エルメスが古代ギリシャのメッセンジャーの神の名前であるという偶然の計らいにもあります。この恋文入れにこれ以上にピッタリな組み合わせはないと思いませんか? 

 図4
線香筒

 香入れや茶具織の他、ヨーロッパのアンティークの調味料入れを茶巾筒や盆巾入れに、中国の七宝を線香立てに見立て、仕覆にはライカのレンズ入れの袋を使いました。茶箱の中には世界各国のものが詰まっていて、そのほとんどが本来の用途とは異なる仕様になっていますが、それぞれの物が互いに引き立て合い、ひとつの世界観を創りあげていると思っています。これが「見立て」であり、「見立て」により物たちにはこれまでとは異なる用途の新しい命が吹き込まれたことがおわかりいただけると思います。

図5
左:茶碗 右:京都千總とライカがコラボレーションしたレンズ入れを茶碗入れとして

 

《後編に続く》

 

「遥かなる時への旅」

茶箱:銀閣寺古材
茶入:平安清昌 瑠璃磁銀襴手 京都
茶合:作者不明
急須:北村和善 白磁 京都
茶碗:北村和善 白磁 京都
茶巾筒:アンティーク 調味料入れ 銀製 ヨーロッパ
盆巾入:アンティーク 調味料入れ 銀製 フランス
建水:MASAオリジナル 山茶碗 京都
蓋置:佐藤聡 吹きガラス 京都
線香立:七宝 中国
線香筒:アンティーク 私信入れ 木製18世紀末 フランス
茶具:エルメス「ステッキ・ステッキ」1967年のスカーフ復刻コレクション フランス
仕覆:今昔西村、ライカカメラ(レンズ入れ)、エルメス(小物袋)
袱紗:エルメス(同スカーフの一部)

 

 

01_saito

<プロフィール>

齋藤 峰明(さいとう・みねあき)

シーナリーインターナショナル代表 
1952年静岡県生まれ。高校卒業後渡仏。パリ第一(ソルボンヌ)大学芸術学部卒業。1975年フランス三越に入社。1992年、40歳の時にパリのエルメス本社に入社後、エルメスジャポン株式会社に赴任。営業本部長、専務取締役を経て、1998年より代表取締役社長として、日本でのエルメスの発展に尽くす。2008年外国人として初めて、エルメスパリ本社副社長に就任した。
2015年、エルメス社を退社後、シーナリーインターナショナルを設立。代表として、新コンセプトのフットウエアブランド「イグアナアイ」の紹介や、日本の伝統技術及びデザインアイテムを紹介するギャラリー「アトリエ・ブランマント」をパリにオープンするなど、パリと東京をベースに日本の新しいライフスタイルの創出と、世界への発信の活動を開始。ほかにライカカメラジャパン株式会社 取締役、パリ商工会議所日仏経済交流委員会 理事など。
1997年 フランス共和国 国家功労勲章シュヴァリエ 叙勲。

ATELIER BLANCS MANTEAUX (アトリエ・ブランマント)  http://www.abmparis.com/ja/latelier/#1