赤坂 津やま:「食の王道」vol.09 広川道助

2016.01.07


プロの作る家庭料理はこんなに旨いのか、
歴代総理、財界要人が訪れる赤坂「津やま」の魅力

この店を初めて訪れたのは30年くらい前だったでしょうか。TBSの名ドラマプロデューサーとして鳴らした久世光彦氏が日本料理特集の雑誌で紹介していた文章が、あまりにも美味そうだったからです。

かなり敷居が高そうでしたが、なんとか機会を作って訪問。はじめて食した沢煮椀や若狭カレイの旨さに感動し、その後もぽつぽつとですが、訪れる機会を作ってきました。今にして思えば、初代の料理を20代の時に味わえたのは幸せな体験だったと思います。グルメガイドには一切、登場していない店でしたが、主人の鈴木正夫さんは銀座で生まれ育ち、各界の名士たちが贔屓にしていた銀座の割烹「わたき」で修業し、この「津やま」を開店したのです。

津やまの料理は、京料理とは一線を画す、洗練された「家庭料理」といえばいいでしょうか。割烹料理はもちろん格別ですが、その合間に出されるきんぴらや卯の花といった家庭でも出てくる料理が「プロの料理人の手にかかるとこんなにも違うのか」と唸ってしまうほどなのです。


たとえば「刻み生野菜」。大根、人参、独活、キュウリ、長ネギを切りそろえ、出汁を中心にして油を使わないドレッシングをかけただけなのですが、包丁がきれいに入った野菜は瑞々しさがしっかりとキープされることがわかります。


名物の「沢煮椀」も野菜の旨さがあっての椀です。豚の背脂という、あまり日本料理では使わない食材をうまく使い、三つ葉や独活といった地味になりがちな野菜が主役を張れるよう、下支えしています。


しかも、津やまのすごいのは、毎日アラカルトが50種類以上あること。コース仕立てにしてもらうことは可能ですが、カウンターでメニューを見ながら好き勝手に頼む、ある意味、正真正銘の「家庭料理」が味わえるのです。そんな味を求めて、歴代総理をはじめとする政治家、財界の面々が連日集まり、信じられないほどの客層を形成しました。


小泉純一郎氏が首相だったときに、〆の鯛茶漬けを絶賛し、メディアに登場したころから、ようやくこの店は食いしん坊の口の端に乗り、グルメガイドでも名前が知れ始めたのだと思います。

その主人が引退して、もう10年ほどになるでしょうか。私が最初に訪れたころは女将の後ろについて接客を学んでいた娘さんが、津やまに修業に来ていた料理人と結婚し、夫婦で立派に継いでいます。

二代目の主人、弘政さんは店を継いですぐ、ほかの日本料理店に武者修行に出かけました。当時、「津やま以外の味を知りたかった」と聞きましたが、戻ってきてから一皮むけた料理になったと感じます。義父の作り上げた津やまの味を継承しつつ、自らの味を作り上げています。

はじめて訪れたときはコースでもいいですが、二代目主人や女将と相談しながら、好きなものを選んでください。割烹料理はもちろんですが、ひじきや豚角煮、コロッケなどという料理が絶品です。ちなみに隠れファンが多いのは海老フライ。天ぷらに使うサイズの巻海老をフライにしたそれは軽く、揚げたそばから、いくらでも食べられてしまいます。

津やま
住所:東京都港区赤坂2丁目14-7
電話:03-3583-2482
営業:17:00〜22:00
料金:2〜3万円
定休日:日曜・祝日

 

文・撮影/広川道助

《プロフィール》
広川道助

学者の家系に育つ。西欧で一時期を過ごし、早い時期から食の世界を志す。20代はフレンチに凝ったが、その後、日本料理の深遠さに目覚め、ここ数年は和食全般を系統だてて食することにこだわる。伝統芸能や茶道も齧るが、これまたあまりに深いので、いまだ入口あたりをちょろちょろ。昨年、若いころに通いながら、最近ご無沙汰だった料理店の主人が相次いで亡くなったのが後悔してもしきれなかったので、今年は円熟の料理人を訪ね歩き、しっかり頭に刻んでおこうと考えている。

【広川道助の〈食の王道〉】一覧記事はこちら

http://www.premium-j.jp/dousuke-hirokawa/

 

 

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