本所吾妻橋 割烹 船生:「食の王道」vol.11 広川道助

2016.01.21

 

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5000円もしないコースでこの料理! 
本所吾妻橋「船生」の「焼物八寸」は下町の良心

「高くて旨いは当たり前、安くて旨い店じゃなくてはね」という、天の邪鬼なB級グルメ論にはあまり組みしたくはありません。長年、料理人たちと話をしていて、やはり旨い料理には、それなりの原価と技術が必要と知ったからです。

ただ、一部の高額料理店の人気に拍車がかかり、若い料理人たちがこぞって高級食材を探し求め、2万円、3万円のコースが当たり前という昨今の状況を見ていると、「いいものを使って高い値段を取るだけが、料理じゃないよなあ」とも、思ってしまいます。

さきほど「それなりの原価と技術」と書きましたが、「技術」のほうに重きを置いて努力している料理人を応援したくなってくるのです。そういう意味では私も天の邪鬼なのかもしれません。そして、そんな気持ちで探してみれば、地道に努力を重ねている料理人はまだまだいることがわかって、最近嬉しくなっています。それも下町に多いのです。

「割烹 船生」もそのひとつ。店のある本所吾妻橋のあたりは、スカイツリーが出来てから、ずいぶんにぎやかになりました。でも、この店は繁華街からは少し離れた場所に位置します。主人の船生さんは神楽坂の割烹で修業したと聞きましたが、この場所に縁があったわけではないそうです。それなのに、こんな地味な場所に城を築いたのは、よほど味で勝負できるという自信があってのことでしょう。

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十席ほどのカウンターと小さいテーブル2席をすべて店主一人でこなしているのに、コースだけではなく、アラカルトにも対応しているところに感心しました。

ふと思い立って訪れ、二、三品頼んで、ぬる燗で仕上げるのはカウンター割烹の醍醐味ではありますが、アラカルトはどうしても無駄が多くなるため、個人店で応じているところは本当に少ないからです。

しかも5000円もしないコースですら、船生さんは手を抜いていません。もちろん、値段が値段ですから高級食材を使えるわけではありませんが、名物「焼物八寸」を味わえば、店主のポリシーがわかるはずです。

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