秋田料理 五城目:「食の王道」vol.21 広川道助

2016.04.07

異常気象の今年だからこそ、目白「五城目」の名物きりたんぽへ急げ 

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今年は異常気象で20度近い陽気でもう春になったかと思うと、10度以下で手袋も必要なぐらいな天気に逆戻りです。

この日も、数日前まではぽかぽかでしたが、その後、寒波が来ると聞いて、「最後のチャンスだ」と思って予約したのでした。

「五城目」という名前はこの店に訪れるまで知りませんでしたが、秋田と能代のあいだにある人口1万人にも満たない、小さな町。そんな名前を付けているのですから、ご想像の通り、秋田料理を供する店です。

目白駅から歩いて5分ほどの下落合にあります。下落合は地味な場所のように思われがちですが、かつては近衛文麿の豪邸があって近衛町と呼ばれ、馬を旋回させるロータリーまである、戦前の東京を知る人にとっては有数の高級住宅地です。

ちょっと奥に入ると、百坪単位の家が当たり前にある区画で、港区の麻布や青山がフローのお金持ちの町だとしたら、こちらは歴史あるストックの富裕層が住む町なのです。徳川ヴィレッジと呼ばれる、徳川家の邸宅が並ぶ一画も近くにあります。

「最後のチャンス」と思ったのは、ここのきりたんぽがことのほか旨いからです。料理自体は4月いっぱいまでありますが、せっかく食べるなら、寒い季節がいい。素朴な料理ですが、ごはんを団子状にして、串にひとつひとつ巻きつけて作るたんぽの良し悪しが出来を左右する、いかにも地方の料理です。

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扉をあけると年季の入ったカウンターと小上がり。平成21年に開店50周年を迎えたといいますから、相当の老舗です。

そのシンボルというべき存在が、五城目出身の大女将。女性の齢を記すのは気が引けるのですが、90歳を超えているのにお元気で、毎日接客をしており、息子夫婦がそれを支えているという家族経営なのです。

きりたんぽは一人前で2、3人分はありますので、メニューの選択は気を付けてください。

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お通しのバイ貝、セリの胡麻和え、小茄子はまさに東北の春を感じさせる食材です。ホワイトボードに書かれたメニューを見ながら、欲望のおもむくままに、山菜の天ぷら、ドジョウのから揚げと頼んだら、「揚げ物が続くので」と薦められたハタハタ寿司が素晴らしかった。寿司といっても、飯寿司、鮒鮨などの系統の発酵寿司で、ごはんの下にはとんぶりが隠されており、油ものを食べた口中をさっぱりします。

とりあえずのビールから移った日本酒はもちろん秋田のもので、新政、飛良泉など。この日は相方のリクエストの「雪の茅舎」で通したが、秋田料理に相性は抜群でした。 

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そして、きりたんぽの登場。地鶏、牛蒡、舞茸、しめじ、葱、芹、焼き豆腐、きりたんぽ。すっきりした鶏出汁は薄からず、辛からずで、それが染み込んだ牛蒡や芹がなによりも美味しい。野菜や肉を食べたら、きりたんぽへ。

きりたんぽは今でも大女将の手作りだそうで、堅さが絶妙なため、鍋では煮崩れず、口に入れるとホロリとほどける。このきりたんぽを食べるためだけでも、五城目に来る価値はあると、あらためて思いました。

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「秋田料理 五城目」

住所/新宿区下落合3丁目15番25号 
電話 : 03-3951-1278
営業/17:00〜23:00
定休日/日曜

 

《プロフィール》

広川道助

学者の家系に育つ。西欧で一時期を過ごし、早い時期から食の世界を志す。20代はフレンチに凝ったが、その後、日本料理の深遠さに目覚め、ここ数年は和食全般を系統だてて食することにこだわる。伝統芸能や茶道も齧るが、これまたあまりに深いので、いまだ入口あたりをちょろちょろ。昨年、若いころに通いながら、最近ご無沙汰だった料理店の主人が相次いで亡くなったのが後悔してもしきれなかったので、今年は円熟の料理人を訪ね歩き、しっかり頭に刻んでおこうと考えている。

 

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