すし処 志げる:「食の王道」vol.26 広川道助

2016.05.12

 

荒木町の「すし処志げる」のカウンターで、背伸びせずに寿司屋の作法を学ぶ

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はじめての寿司屋に入るときにはどうしたらいいか——— ほんの10年前までは、これが大問題でした。寿司屋はたいてい、外に値段表がなく、一見では入りづらい雰囲気で、いくら取られるかわからないからです。

かつて、食通で知られる大作家はこんなアドバイスをしました。

「カウンターには座らず、テーブル席で一人前の盛込みを頼むこと。そうすれば、高い勘定にはならない」

たしかに当時の寿司屋には一人前という単位があって、それなりのネタを握ってくれました。それにビールか酒を追加したところで、大した勘定ではなかったのでしょう。

しかし、それは昔の話。今はグルメサイトやネットの情報があふれていますから、初めての店でも予算のことで心配する必要はありません。

そのかわり、一人前という頼み方ではなく、ほとんどの店がおまかせのコースになりました。そして、予算はわかっても「ちょいとつまんで帰る」ということがやりにくい店ばかりになってしまいました。

特に銀座の寿司屋の高騰ぶりはひどく、ひと通りのコースで2万円は当たり前。酒を入れたらふたりで5万円以上です。とてもじゃないが、「ちょっとつまんでいきますか」というわけにはいきません。

そんなとき、「荒木町の料理人たちが仕事のあとに集う寿司屋がある」という情報を聞きました。しかも、30代の若手料理人でも入れる値段で、腕もしっかりしているというのです。

「すし処 志げる」は、荒木町から曙橋へ抜ける一方通行に面した店で、カウンター8席ほどの店です。席に座ると、40歳前後の主人からも「おまかせでいいですか」と確認されスタートしました。

 

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