グルメ

【東京 麹町】紀尾井町 山ぐち:「食の王道」vol.48 広川道助

2016.10.13

正統日本料理「紀尾井町 山ぐち」で出された
「鮎の塩焼き」の再構築にしびれました

rd850_1最近、巷で流行っている料理に「再構築」といわれるジャンルがあります。

古典的な料理のレシピと素材を分解し、いまの技術を使って新たな解釈を与えて作りなおした料理をさすもので、一世を風靡したスペイン料理レストラン「エル・ブリ」のフェラン・アドリアシェフが提唱したといわれます。

たとえば西麻布にあるレストラン「81」は、フェランシェフの下で修業した永島シェフの店ですが、彼のスペシャリテ「カルボナーラの再構築」はパスタのカルボナーラソースと同じ材料を使いながら、まったく違う料理になっています。

先日西麻布にオープンしたフランス料理「オルタナティブ」でも、ピータン豆腐を再構築した料理が最初に出てきて驚きました。

そんなことを麹町にある「紀尾井町 山ぐち」の鮎料理をいただきながら、思い出しました。山ぐちの料理はオーソドックスな日本料理で、本来なら再構築とは真逆なところにあるはずです。いったいなぜでしょうか。

この日に出た鮎は、頭と骨、身が分かれており、頭と骨は素揚げにされ、身はふっくらと焼かれて出されました。一目見て、

「なるほど、こういう手があったのか」

とうなずいたのです。

rd850_2最近の若手の日本料理店の鮎料理はたいてい、小さ目の鮎を備長炭でじっくりと焼いて出されます。串を渡す部分に角度をつけて、頭に鮎の脂が落ちるようにし、その脂で唐揚げ状態になるまでじっくり焼くのがコツといわれています。

こうして焼かれた鮎を頭からがぶりと噛むと香ばしく、「香魚」と称される謂れもわかります。しかし、そこまでじっくり焼かれると、何度食べても、身の旨さがどうしても損なわれてしまう疑問を感じていました。頭がうまくなる時間と身が焼きあがる時間はどうしても違うからです。

山ぐちの大将、山口博之さんもきっと、そのことに悩んでいたんでしょう。そして身が崩れないようにうまく頭と骨を外し、それぞれの部位に最適な料理を施すことで、どちらも美味しく食べさせることに成功したわけです。

言われてみれば「目から鱗」ですが、もともとが小さい魚である鮎にそこまで手間をかけるという発想は、他の店では見たことがありません。昔からある「鮎の塩焼き」という料理を、頭と骨、身に分解し、新しい解釈で違う料理に仕上げた、まさに「再構築」なのです。

山口さんとは開店以来の古い付き合いですが、失礼ながら彼がフェランシェフの著作を研究して考え出したとは、思えません。同世代に生きていることで、きっと同じような発想が生まれたのでしょう。

その日にいただいたのはお任せのコースでしたが、そのほかの料理はオーソドックスな日本料理。しっかりした出汁と彼の目利きで選ばれた食材がみごとに合わさった、堂々とした料理でした。

 

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