グルメ

赤坂 鰻 重箱:「食の王道」vol.04 広川道助

2015.11.26

東京の美意識に貫かれた老舗赤坂「重箱」で、関東風の鰻の美味に舌鼓を打つ

rd850_蒲焼
悲しいことに鰻はいまや、手軽に楽しめる食べ物ではなくなっています。せっかくなら一尾たっぷりと乗った鰻重を掻き込みたいものですが、下町のざっかけない鰻屋でも、三千円以上するといわれれば、ランチで手軽にというわけにはいかないでしょう。

ご存知のようにその理由は、世界的に鰻の稚魚が取れなくなり、値段があがっているせいですが(余談ながら、鰻の稚魚をオリーブオイルで煮るアングーラスというスペイン料理があって、これもすこぶる美味なのですが、なにせ一人前に稚魚が数十匹必要なので料理として実質的に絶滅、最後に食べたのは十年以上前だったか)、ありがたいことに老舗の鰻屋は値段上昇を最小限に抑えていて、どうせ行くなら、そちらのほうが満足感が高いというものです。

なんて野暮な話から始めてしまいましたが、赤坂の奥座敷にある鰻屋「重箱」はすべてが個室で、どこからも中庭が見える設計。都会のど真ん中にいながら、旅館に訪れたような寛ぎを感じます。玄関をあけると番頭さんが迎え、靴を預かってくれますが、このあしらい方もさりげなく、老舗の重みを感じます。

昼も夜もコースのみですが、季節の前菜でお腹の調子を整えると、まず肝の串焼きが。これがふっくらとした肝で、苦みと甘みの調和が素晴らしい。これも歴代培った焼きの技術があってこそでしょう。

rd850_肝焼き
その後に、鯉こくが出されるのが重箱流です。一九世紀の創業時には川魚屋だったからで、当時は隅田川沿いの山谷にありました。鯉というと生臭さを敬遠する方も多いようですが、鯉こくは味噌味の汁物、そんな心配はありません。

rd850_鯉こく
そして鰻に戻ってまず白焼きを一尾。関東風に蒸しあげ、余分な脂を取ってから焼くスタイルですが、皮と身のあいだの脂の味わいを楽しみながら口をしめらせる、ぬる燗のなんとうまいことか。

rd850_白焼き
口直しのあとは、蒲焼の登場です。輪島塗の見事な重箱で、厚みのある蒲焼が二人分、もしくは三人分が同じ器に供されます。きわめて柔らかいのがこちらの特徴で、慎重に扱わないと切れてしまうのでご用心(私は過去、何度も失敗しています)。

rd850_P1000834 rd850_蒲焼
最近は東京でも、関西以西の地焼きを好きな方が多いようです。蒸さないため、表面のカリカリ感と中身のふんわり感の落差が味わえる調理ですが、どちらがいいというよりも、せっかく重箱に来たのなら、適度に脂を残しながら備長炭で柔らかく焼き上げる技巧を楽しんでいただきたいと思います。ある意味、ここは関東風の鰻の最高峰ですから。

実は蒲焼の陰に隠れていますが、この店が素晴らしいのはごはんのうまさ。柔らかすぎず、堅すぎず、蒲焼と一緒に食べる絶妙な炊き加減なのです。さらにいえば、このごはんに合うのはやはり、関東風の鰻なのだと思います。

rd850_ごはん
料理にすっかり満足して、玄関に戻ると、すでに履物が用意されていました。来た時と同じ番頭さんがいらしたので、無意識にひょいと顔を見てびっくり。なんと7代目、いまの店主ではないですか。焼き方は8代目の息子さんにまかせ、自分は裏方に徹するという潔さ。東京の美意識に貫かれた老舗の美学がここにあります。

 

「重箱」
住所:〒107-0052 東京都港区赤坂2丁目17-61
電話:03-3583-1319
営業:日祝休
料金:昼 1万3000円/夜1万8000円 

 

文 広川道助(ひろかわ どうすけ)

 

《プロフィール》

広川道助

学者の家系に育つ。西欧で一時期を過ごし、早い時期から食の世界を志す。20代はフレンチに凝ったが、その後、日本料理の深遠さに目覚め、近年は和食全般を系統だてて食することが一番の楽しみ。

 

【広川道助の〈食の王道〉】一覧記事はこちら
http://www.premium-j.jp/dousuke-hirokawa/

 

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