山形正宗 純米大吟醸 藍:「気になる日本酒」 vol.10 あおい有紀

2015.12.11

 

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きもと造りならではの味の厚みがありつつ、上品でモダンな1本

山形県天童市にある水戸部酒造。1898年(明治31年)に、初代水戸部弥作によって創業された「山形正宗」を醸す蔵元です。その山形正宗のフラグシップの一つとなる日本酒が、今月12月9日に初お披露目となりました。「山形正宗 純米大吟醸 藍」。酒造好適米、雄町の有名な産地である岡山県赤磐地区のなかでも、より高品質の雄町を栽培する赤坂エリアの契約栽培米で、精米歩合40%、きもと造りで瓶詰め後、2年間低温熟成させました。

「岡山は藍の産地でもありますし、日本の伝統である染め物と日本酒の組み合わせをラベルの色でも表現したいと思い、藍と命名しました。今後例えば、酒造好適米 出羽燦々の素晴らしい産地である山形県大江町には、紅花染もありますし、色々な米の産地と染め物文化をリンクさせた色シリーズも展開できれば、と思っています。そのなかでも思い入れの深い赤磐雄町で造ったこの酒が第一弾となります」

そう話すのは、五代当主の水戸部朝信社長(43)。

きもと造りをはじめて5年になりますが、水戸部社長は、高精米で、上品でモダンな味わいながらも、きもとならではの味の厚み、複雑さ、乳酸が含まれることにより燗上がりする特徴を生かした、まさにきもと造りのいいところを、この藍で表現しました。2年間熟成させ、一番飲み頃の美味しい状態で出荷したい、との思いがあります。頂いてみると、バナナのようなフルーティーさが穏やかに、米の旨味が膨らみ、程よい苦味がきゅっと輪郭を浮き立たせ、長く心地良い余韻がたまらなく幸せな気分にさせてくれます。

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父の想いを受け継ぎ、大手商社を退社し造りへ

そんな水戸部社長は、一橋大学経済学部出身。在学中のアメリカ留学で、経済学と音楽が好きだったことから作曲を専攻し、帰国後は大手商社に就職しました。当時蔵を継ぐ気のなかった水戸部社長ですが、4年経ったある日、父親からの一本の電話で、蔵に戻る決断をしました。

「父が家業や将来についてこれまで一度も話したことはなかったのに、『もしお前が継がないなら、お前の息子を継がせられないか? それまであと40年くらいは私が頑張れると思うから…』と言われて。もし蔵がなくなるとしても、その場に自分はいないといけないと思い、一瞬で継ぐことを決断しました。大事なことほど直感ですぐ決めてしまうんです」商社を辞めたあと、半年間世界放浪の旅に出ます。自分の振り子を思いっきり右から左へ、遊びから仕事モードへと切り替えるために。そして2000年10月、28歳で蔵に戻り、酒造りの現場に入りました。

当時、地元では山形正宗=安い酒、のようなイメージがあり普通酒が売上の約半分を占めていました。このままでは悔しい、でも新たなブランド銘柄を立ち上げるのではなく、初代当主が、山形で一番の酒になるようにと命名した「山形正宗」を大切にし、勝負していきたい。そうして始めたのが「Brewer’s brewer」なる酒造り。一流の醸造家にも認められ、消費者にも認められる、そういういい酒しか造りたくなかった、と酒質向上の為にもかなりのスピードで改革を始めます。

ただ、突然戻ってきた蔵の息子の言うことを、長年務めている蔵人達がそう簡単に聞いてくれる訳はなく、反発もかなりありました。それでも、水戸部社長が幼少時代から家族のような存在だった、杜氏としてずっと務めていた水戸久一郎氏が大きな支えとなってくれました。水戸杜氏を介して蔵人に言いたいことを伝えてもらい、二人三脚で改革を進めていきます。父親とぶつかることもありましたが、基本的には応援してくれたとのこと。現在は水戸部社長自らが杜氏として酒造りに携わりながら、経営者としても流通、販売を変え、平成22年には純米大吟醸、純米吟醸、純米酒のみを造る、純米蔵となりました。

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銀座の寿司屋のつもりで、全国の最高の酒米を使用

水戸部社長が考える山形正宗の柱の一つが、「“ほぼ”ドメーヌ化」。2003年より、出羽燦々、美山錦、山田錦の自社栽培を山形で進めていますが、岡山県の雄町や兵庫県の山田錦も使っています。

「酒造りは、例えて言うなら銀座の寿司屋だと思っています。最高の寿司を出すために、江戸前のネタだけでなく、マグロは大間、タコは明石など…全国の最高のネタを使いますよね。地元産の原料だけにこだわるのもスタイルとしていいと思いますが、最高に美味しい日本酒を造るために、最高の酒米を使いたいので、あえて100%ドメーヌ化を考えず、他県のいい酒米も一部使っていきたいと思っています」

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ブルゴーニュで評価されるワインの王道に近い味わい

2015年、フランスはブルゴーニュに行く機会があり、きもと造りの山形正宗をワインの造り手達に飲んでもらったところ、とてもいい評価をもらえたそう。

「山形正宗は、硬水である立谷川(たちやがわ)の伏流水の特徴を生かし、自然な吟醸香で骨格があり旨味もしっかりありながら、収斂味があり後口がしまるような、マスカットの種に近い部分の風味があると思っています。食事に合うような設計で、フランス人にはそういう酒がとても評価されるんですね。オーク樽を効かせた白ワイン、コルトン・シャルルマーニュのようだと言われました。骨格がしっかりあり凝縮された力強いエネルギーを感じるが、突出したところはなくバランスよくまとまっている、と。ブルゴーニュで評価されるワインの王道の味わいに近いと褒められた時は、やっぱり嬉しかったですね(笑)」

山形正宗ブランドを海外へ。現在アジアを中心に、香港、韓国、シンガポール、インドネシア、イギリス、カナダ、アメリカへと市場を広げています。

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記憶に刻まれ語り継がれる、一期一会となる日本酒を

また、水戸部社長は中学からハードロック、そしてジャズなどの音楽にどっぷりはまり、一時はプロのミュージシャンも目指していたほど。青春時代から特に衝撃を受け、尊敬している山下達郎さんの音楽は、作品への完成度を高めることに関して、一切の妥協を許さず、またバンドメンバーを時間をかけて育てていく姿勢が伝わってきて、彼の人生、また酒造りにも大きな影響を与えているそうです。

水戸部社長は音楽にも通じる酒造りのモットーを以下のように語ります。

「自分の酒造るときに、やりたい事を蔵人に伝え、分かってもらい動いてもらわないとできないですし、チームプレーで和醸良酒が実現するんですよね。年齢とともにプレイヤーからマネージャーになる必要がありますし、人を育てながらこの7名のチームで最高の作品を造っていきたい。蔵に戻り15年になりますが、今感じることは、蔵元の家に生まれたこと自体が本当に恵まれているなぁと。酒造りはとても楽しいし、さらに飲んでくれた方が反応を返してくれる。飲めば作品として形は残りませんが、それもまたいんじゃないでしょうか。一期一会でその酒に出会い、あの時に誰と飲んだあの酒がどうだった、と記憶に刻まれ語り継がれるだけ、というのも素敵なことです。このお酒で嫁を口説いたんだとか、爺ちゃんが亡くなる前に一緒に飲み交わした酒なんだとか。そういうものを造れるって幸せなことですね」

妥協のない造りの中でも、フラグシップとなる山形正宗 純米大吟醸 藍、大切な方とじっくり味わい、飲み交わしたくなるお酒です。

 

取材・文/あおい有紀

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 あおい有紀

フリーアナウンサー・和酒コーディネーター

テレビ、ラジオなど各媒体で活躍する一方、日本の食や和酒の魅力発信を積極的に行い、大切さ、楽しみ方を伝えている。フィールドワークを信条とし、全国の酒蔵に200回以上足を運ぶ。酒蔵ツアーや日本文化×日本酒のコラボイベント、様々な国籍の料理×日本酒のマリアージュイベントなどの企画・主催をはじめ、各地での講演、セミナー講師多数。ル・コルドン・ブルー日本酒講師。観光庁「平成25年度 官民協働した魅力ある観光地の再建・強化事業」にて、目利き役。女性向け日本酒本「日本酒日和」(舵社)監修。日本酒造青年協議会「酒サムライ」叙任。 

【資格】きき酒師、焼酎きき酒師、WSET(International Higher Certificate in Wines and Spirits)、一級フードアナリスト、日本箸教育講師など