新富町 関西割烹市むら:「食の王道」vol.08 広川道助

2015.12.24

rd850_shoku08_01
かつての花街。一枚板のカウンターで、わがままに好きな料理をぬる燗で。

いまでは考えられないことですが、東京にカウンター割烹が流行りだしたのは昭和初期のこと。それまでは江戸時代から連綿と続く、濃いめの味の座敷料理を個室で食することが東京の主流でした。そこへ、カウンターに座り、新鮮な魚を目の前で料理する「喰い切り」スタイルをひっさげて関西から「浜作」や「出井」が銀座に出店。東京の旦那衆が一気になびいたのです。

その「出井」で長らく修業し、正式な弟子として「出井出店」の看板をもらい、店を出したのが「関西割烹市むら」です。出井は鯛頭の山椒焼きが名物で、銀座6丁目で構えの大きい料理店として君臨していましたが、残念ながらいまは閉店し、弟子でカウンター割烹スタイルを貫いているのは、湯島にある店とここだけになってしまいました。

店のある新富町は、かつて花街として栄えた町です。一時は寂れていましたが、銀座からほど近く、風情のある街並みが評価され、ここ数年、若手が新しい店をいくつも出し始め、賑やかさを取り戻しています。

昨今の日本料理店はお仕着せのコースばかりで、客が好きなものを注文できる店が少なくなりました。ロスがないので、儲けを考えたらコース仕立てのほうが店は楽だし、客も頭を使わないのでありがたいのですが、それでは、季節の食材を考えながら美味しいものをいただくという、食本来の楽しさを味わえません。そういう意味で市むらは、食いしん坊が喜ぶ、数少ないアラカルト中心の割烹なのです。

rd850_shoku08_02

rd850_shoku08_03
座敷もありますが、この店の華はカウンター席です。まずは、きれいに磨かれた一枚板のカウンターに座り、メニューを見ます。刺身、焼物、煮物、揚物と分かれ、それぞれが数品ずつ。慣れないと迷うかもしれませんが、そんなときは、よく行く店のおまかせコースで出てくる順番を想像して頼んでいただければ結構ですし、食べたくないものを無理する必要はありません。

rd850_shoku08_04

rd850_shoku08_05
大将の得意とするのは、ちょっとしたひと品。まずは、「小芋煮っころがし」「新とり菜煮びたし」「ポテトサラダ」といった定番を頼み、ビールを飲みながら、じっくりと検討するのがここでのスタイルです。

rd850_shoku08_06
その後、日本酒をぬるめにつけてもらい、刺身と焼物あたりでも頼み、おなかの具合をみて揚物から食事にいってもいいし、「丸干」や「出し巻玉子」に戻って、さっと引き上げてもいい。私は刺身を頼まないこともよくありますが、構いません。そんなわがままな使い方ができるのが、本来のカウンター割烹なのです。

料理人が、その日の美味しいものを知っているのはたしかですが、客のお腹の具合や、料理の好みまで熟知しているわけではありません。それなら、大将と会話をしながら、その日の気分に合った献立を組みたてたほうがずっと楽しい……、そう思うのは私だけでしょうか。

rd850_shoku08_07

 

「関西割烹市むら」
住所:東京都中央区新富2-11-6
電話:03-3552-2307
営業:
月〜金 ランチ/11:30〜13:30
月〜土 ディナー/17:00〜22:30
定休日:日曜祝日
席数:カウンター9席/小上がり最大8名様
予算:1万円ほど

 

文・撮影/広川道助

《プロフィール》

広川道助

学者の家系に育つ。西欧で一時期を過ごし、早い時期から食の世界を志す。20代はフレンチに凝ったが、その後、日本料理の深遠さに目覚め、近年は和食全般を系統だてて食することが一番の楽しみ。

 

【広川道助の〈食の王道〉】一覧記事はこちら

http://www.premium-j.jp/dousuke-hirokawa/

 

 

Area