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第5回:日本の美とは? Vol. 1「真珠」~丸い粒に宿る美しい輝きは、仄かさ、優しさ、奥深さ、にあり

2017.12.21
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伊勢志摩の夕日。リアス式海岸に囲まれた静かな海が、真珠のふるさとだ。

本人にとって「美しい」と感じる基準は、何だろう?そんなことを、パリコレションを見ながら、よく考えたものです。ロココ調、バロック調の豪華絢爛なドレスが乱舞する舞台の合間に、日本人デザイナーのコレクションをみると、バタークリーム味のフレンチの合間に突然現れる、おだしの効いた和食のように思えたものです。こってりとさっぱり。それほど、同じ衣服の形をとっていても、中に宿る「美の基準」は異なる、のです。パリコレは言うなれば、多様性の美の受け皿。価値観の異なる美意識を貪欲に飲み込み続ける大鍋のように、パリコレクションでは多様な美の花が咲き乱れるのです。

伝統工芸に出会ってから、日本の美しい輝きに数多く出会ってきましたが、まずは、真珠。もともと、真珠には並々ならぬ関心を抱いてきた私ですが、2012年に三重県のアンテナショップ「三重テラス」のクリエイティブ・ディレクターという役職についてからは、真珠の本場の一つと言われる伊勢志摩市を要する県ですから、度々、真珠の養殖場や真珠を扱う企業を訪ねてきました。現在の真珠ブームの大元には、養殖真珠の開発者であり鳥羽市出身の御木本幸吉氏がいらっしゃいます。

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伊勢志摩の養殖場

の彼が、全人生を費やして守り抜いたのが、「真珠の輝き」なのではないでしょうか? ダイヤモンドやゴールドなど、西洋の宝石を飾ってきた輝きと違って、真珠には特別な輝きがあります。ダイヤモンドやゴールドが大地の恵みだとすると、真珠はまさに海の恵み。伊勢志摩の養殖場を訪ねた時、海中から引き出したばかりのあこや貝を手に取り、養殖場の方がその場で開けて、中から真珠を取り出すという場に立ち会ったのですが、20個くらいの貝を開けて、完璧な白く丸い真珠が出てくることは、おおよそ一つくらいか、無いくらいか(!)という確率で、多くは、ブルーがかっていたり、ピンクやイエローに彩られていたりーーでもそれらのカラフルな真珠がまた、なんとも言えない美しさで、真珠ってカラフル!と感動したことを忘れません。

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写真1枚目:冬には、養殖場で、真珠を取り出す作業が続く
写真2枚目:貝の中から、真珠が顔を出す。どんな色、形になっているか、ドキドキの瞬間だ。
写真3枚目:貝から取り出したばかりの真珠

 貝に核を入れ、海に沈めて、待つこと2年。海が育む真珠は、まさに母なる海が作り出す、自然の芸術ですが、なぜ、真珠はこうも人々に愛されるのか?とりわけ、各国首相夫人からハリウッドセレブまで、パワフルな女性たちに愛され続けてきていますが、それはなぜなのか? 

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パワーウーマンの胸元を優しく彩るパールネックレス

はここ2年、伝統工芸×ファッションをテーマにして新ブランド「HIRUME」を開発してきていますが、ターゲットは、活躍するパワフルウーマンです。このブランド開発では最初から、真珠を紹介することを決めていたのですが、それはなぜなのか? 改めて、考えてみると、「真珠には優しい輝きがあるから」という答えが見えてきました。真珠は女性の肌を最も美しく輝かせる、と言われて言いますが、その輝きの質は「優しさ」にあるのではないか? パワフルな女性たちがこぞって真珠を身につけるのは、真珠がパワフルな女性たちを優しく彩ってくれる、強さを中和してくれることを、女性たち自身が無意識に感じているからではないか? そう分析してみると、真珠の輝きの意味が見えてきます。

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「HIRUME」では、ホワイト、イエロー、グレー、ゴールドなど、様々な色の真珠を紹介。

真珠に宿る「優しい輝き」は、仄かさや、奥深さにも通じているのです。日本の装飾の歴史を振り返ると、女性のジュエリーの歴史は、明治以前はほぼ無いに等しく、かんざしや帯留め、着物に織り込まれた金糸、銀糸などであり、明治以降、皇室を中心に日本のジュエリーの歴史が始まるのですが、その主役は「真珠」でした。この歴史が物語るように、真珠は、日本人にとっては縁の深い存在です。フォーマルな印象の強い真珠ですが、最近は、モードに着こなす真珠が人気です。ファッションのスタイリングの中で、真珠を自由自在におしゃれに楽しむスタイルを、今後も提案していきたいと考えています。

 

<プロフィール>

生駒芳子(いこま よしこ) 

VOGUE、ELLEを経て、マリ・クレール日本版の編集長を務める。2008年に独立し、ファッションからアート、デザイン、伝統工芸、エシカル、クール・ジャパン、社会貢献、女性のエンパワメントまで、幅広く執筆・編集・企画・プロデュースを手がける。2010年より、日本の伝統工芸を世界発進するプロジェクト「工芸ルネッサンスWAO」の総合プロデューサーを務め、パリ、ニューヨーク、東京で、ファッションやデザイン、アートを切り口としたキュレーションで伝統工芸世界を紹介。2017年、伝統工芸をベースに置いたラグジュアリーでクリエイティブなオリジナルブランド「HIRUME」を立ち上げ、2018年より本格発信をスタート。