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第21回:ディープ・ジャパン・トリップ 「萬古焼の過去と未来をつなげる伝説の展覧会へ」

2018.12.13
萬古焼

 写真提供:ばんこの里

萬古焼を、ご存知ですか? 三重県の桑名市にて、江戸時代中期に豪商・沼波弄山(ぬなみろうざん)によって生み出された文人趣味のやきものがそのルーツと言われていますが、明治期以降は三重県四日市市の地場産業として発達しました。萬古焼とは、語源は萬古不易であり、何時の世までも栄える優れたやきもの、を意味しているという。その歴史をたどり、未来を模索する、かつてない画期的な展覧会が「ばんこの里会館」で開催されているので訪ねました。
 
 
スギの壁の中にも、展示がなされている。

、日本遺産という文化庁のプログラムの認定地視察と、レクサス匠プロジェクトの工房訪問とで全国を訪ね歩いていますが、つくづく感じるのは、その土地に眠っている歴史や伝統を掘り起こして、価値付けして発信するのは、そう簡単なことではないということ。萬古焼は、とりわけ、四日市市近郊において、日常雑器という印象が強く、伝統ある文化として、現代までの歴史を取り上げた展覧会はほとんどありませんでした。

そのことに気付いて、萬古焼の文化に今一度、光を当てる機会を作ろうと考えたのが、四日市市をベースに活動する陶芸家・造形作家の内田鋼一氏でした。世界中を放浪した体験と、類い稀な美意識から、オリジナルな陶芸を編み出す内田氏は、秀でたプロデュース能力も備え、権力構造に組しない、若い作家たちがこぞって憧れる孤高の陶芸家。彼が取り組んだのは、「BANKO archive design museum」。

戸期以降の色や形、デザインに特化した萬古焼をアーカイブする小さなカフェを併設したミュージアムで、従来の美術館、博物館、民芸館とは少し違った視点で集められた物(戦時中の代用陶器や統制陶器など)が並んでいます。こちらが、2015年11月、四日市市の萬古工業会館に、内田氏の企画のもと、多くのクリエイターが関わって誕生。初めてこのミュージアムを訪ねた時は、「埋もれている伝統を、こんなにお洒落な形で蘇らせることができるんだ!」と驚き、感動したことを忘れない。何より、内田氏の美意識と情熱のフィルターを通して編集された緊張感溢れる展示構成に、強い感動を覚えました。


スギ材で、3階フロアーは、美しいミュージアム空間に生まれ変わっている。(写真左)内田氏がプロデュースした、萬古焼を主役に据えた茶室。(写真右)写真提供:ばんこの里


古萬古青釉雪輪盃台(江戸)(写真左)古萬古赤絵四方蓋物(江戸)(写真中央) 有節萬古腥臙脂釉花紋徳利(江戸)(写真右)写真提供:ばんこの里

この内田鋼一氏が、萬古焼の本拠地である「ばんこの里会館」で、現在プロデュースしているのが「萬古焼の粋」展。萬古焼の祖である沼波弄山翁の生誕300年を記念して企画されたものですが、訪ねて何よりまず驚いたのは、「あれ、ここって、前に来たことのある、あのばんこの里会館でしたっけ?」という驚きです。全面リノベーションではないにしても、エントランス、回廊部分が、まず違う印象。すっかりモダンに、コンテンポラリーに様変わりしています。


内田氏(左)と萬古焼の良き理解者・応援者 水野氏(右)。

聞いてみると、3階フロアーの展覧会場に合わせて、会館の全体イメージをできる限り統一したとのこと。三重県産のスギ材が空間をミニマルに覆い、クリエイティブな展示空間を構成。3階の展覧会場は、圧巻。まるで、新しいアートスペースに生まれ変わった?と思うほどの、お洒落な展示空間が出現しています。江戸時代から現代に至るまでの萬古焼の銘品が並べられているが、内田氏のエスプリの効いた編集がなんとも洒落ていて、見て回って全く飽きない、刺激とインスピレーションを受ける展示となっているのです。


動物を象った土瓶は、輸出用に作られたものだそう。

やかなピンク色やグリーン、ブルーが美しい器。骸骨をかたどった陶器。動物たちの装飾が施された、明治期の輸出用の土瓶。鋳物そっくりに作られた陶製の茶釜。戦時下に作られた、金属の代わりに陶器で作られた生活雑貨。などなど、萬古焼の歴史を通して、逆に時代の変遷を感じることもできる、実に奥深い展示だ。内田氏と三重県出身の建築家グループ・ミエケンジンカイがデザイン・設計したお茶室や、ダイニングルーム、さらには外の風景を取り込んだインスタレーションもあり、萬古焼が文化や生活の中でいかに生きるか、未来を感じさせる展示ともなっている。


こんなに鮮やかなブルーの器があるなんてーー!と目が喜ぶ陶器。(写真左)美しいピンク、ブルーの器に一目惚れ。(写真右上)
四日市市のカルチャーを、萬古焼を中心に網羅した、読み応えたっぷりの一冊「ここはばんこ焼のまち!」(写真右下)

この展覧会に合わせて作られたカタログがまた、とても魅力的。萬古焼の歴史を追うだけでなく、その背景にある萬古焼を生み育てた四日市市という土地で頑張る人々、美味しい食事、魅力的な場も美しいビジュアルで紹介され、読み物としても、ガイドブックとしても楽しめます。

本展が終了して、再び元どおりの会館に戻ってしまうとしたら、ちょっと残念。ばんこの里会館は本拠地ですから、展覧会を機に、このまま萬古焼がモダンに進化するプラットフォームとして生まれ変わったままであればいいのにーーと、つい夢想してしまったものです。

 

 

沼波弄山翁 生誕三百年 企画展「萬古焼の粋」

会期:2019年2月3日まで
※休館:月曜(祝日は開館)年末年始(12月29日〜1月3日)
会場:ばんこの里会館3階ホール
住所:三重県四日市市陶栄-町4-8
TEL :059-330-2020
開館時間:10時〜17時(入場は16時半まで)
入場料:500円(中学生以下は無料)

http://banko300.jpn.org/bankoyakinoiki

 

<プロフィール>

生駒芳子(いこま よしこ) 

VOGUE、ELLEを経て、マリ・クレール日本版の編集長を務める。2008年に独立し、ファッションからアート、デザイン、伝統工芸、エシカル、クール・ジャパン、社会貢献、女性のエンパワメントまで、幅広く執筆・編集・企画・プロデュースを手がける。2010年より、日本の伝統工芸を世界発進するプロジェクト「工芸ルネッサンスWAO」の総合プロデューサーを務め、パリ、ニューヨーク、東京で、ファッションやデザイン、アートを切り口としたキュレーションで伝統工芸世界を紹介。2017年、伝統工芸をベースに置いたラグジュアリーでクリエイティブなオリジナルブランド「HIRUME」を立ち上げ、2018年より本格発信をスタート。