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第4回《前編》「日本に眠る魅力」を呼び覚ます Vol. 4 ~欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)締結で日本にどんなチャンスがあるのか!?

2017.12.24
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北イタリアを代表するパルマの街並み。美食の都としても知られ世界から観光客が訪れるが、名産のパルマハムのブランディングの影響が大きい。

道で、すでにご存知の読者も多いと思いますが、この12月8日に日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)が妥結しました。投資紛争の解決制度を除いた関税・ルール各分野で合意し、同日夜に安倍晋三首相とユンケル欧州委員長が電話協議で確認。協定文を取りまとめて2018年夏にも署名し、19年春までの発効を目指すと、日経新聞も報じています。農林水産省は12月15日、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)に際し、産地名のブランドを互いに守る地理的表示(GI)の合意内容を発表しました。この合意が、どういう意味を持つものか。日本にとってどういうチャンスがあるのでしょうか?

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街の中には、ハムの専門店が立ち並ぶ。地元の人だけでなく、観光客のお土産としても人気が高い。1996年に食肉製品としては初の原産地名称保護(PDO)に認定された。

 まず、このEPAが発効されれば、日本とEUの双方にかけられた、双方の関税が撤廃あるいは引き下げされて、世界の国内総生産の約28%を占める大きな経済圏が誕生すると見込まれています。日本の消費者にとっては、欧州から輸入されるワイン、チーズ、豚肉、革製品の関税が撤廃あるいは削減されるため、直接的なメリットにもつながるでしょう。日本からEUに輸出しているクルマには10%の関税がかかっていますが、それも段階的に撤廃される予定です。輸出で言えば、日本茶や日本酒にかけられている関税も、即時撤廃の予定です。
 関税の話ばかりが表面に出ますが、このEPAでとても重要なことが、双方の地域の農水畜産物を守る地理的表示(GI)の保護です。GIというのは、地域にちなんだブランド農水畜産物を守る制度ですが、現在EUと日本のそれぞれにあるのですが、それを相互に保護しようというのが、今回のEPAの重要なポインントになっています。具体的に言えば、EPAの発効と同時にEU側は71産品、日本側は48産品をそれぞれ保護。発効後は産地や品質などの基準に沿わないものは、広告などで産品の名称が使えなくます。

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地元のレストランでは、パルマハムが前菜の定番。

ょっとわかりにくいので、例を出して説明しましょう。例えば、今回のEU側の71産品のGIの中にイタリアのパルマハムが含まれています。パルマハムとは、原産地の古来からの伝統に基づく「コンソルツイオ(保護協会)」の仕様に規定される厳密なルールに従って作られるハムだけにつけられた名称です。1996年にパルマハムは地理的表示の一つである、原産地名称保護(PDO)に認定された最初の食肉製品の一つです。

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パルマハムの原料は、豚肉と塩のみ。添加物など使わない100%ナチュラル。原産地の古来からの伝統に基づく「コンソルツィオ(保護協会)」の仕様に規定される厳密なルールに従って作られる。

発効後は、日本では本物以外のパルマハムの名称は使えません。いわんや〜スタイルとか〜タイプ、〜風もご法度です。「パルマ・スタイル」とか「パルマ風なんとか」などという表記も名称としては使えない、ということです。GIの保護、というはまず言葉から正す、というのがこのEPAの狙いであることを知る必要があるでしょう。今の日本人は、メディアも含め、そのあたりの感覚が緩いので注意する必要があると思います。

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EPA締結で、この本物のパルマハムにかかる関税が撤廃される。日本の消費者は買いやすくなるだけでなく、本物のハムの醍醐味とその背景の文化を知ることになる。ひいては、日本が育んだ地域の食文化や食品の価値を再認識する機会にも通じる。

も、日本側ばかりに規制がかかるわけではありません。日本側の43産品の中には、「日本酒」や「夕張メロン」、「特選松坂牛」や「神戸ビーフ」がGIの対象になりますから、EU側でも日本で作った清酒以外、欧州で作った米の酒は「日本酒」とは名乗れないことになります。これは、やり方によっては日本の地域の農水畜産物を保護するだけなく、地域ブランドを高めるための追い風になると思うのです。政府は逆に日本の農業や酪農、あるいは漁業を守るための設備投資などに巨額の予算を計上するといいます。それは、少し発想が違うと思うのではないでしょうか。大事なのは、国際競争力を持ったブランディングをどうするかであって、その議論が、ほとんど聞かれないところに問題があると思うのです。後半ではEU側の知的なコニュニケーション戦略を例に出して、日本がやるべきブランディングの方法について提言します。

 

後編に続く》

 

<プロフィール>

中村 孝則(なかむら たかのり)

コラムニスト。1964年神奈川県葉山町生まれ。ファッションからカルチャー、旅やホテル、ガストロノミーからワイン&シガーまで、ラグジュアリー・ライフをテーマに、執筆活動を行っている。また最近は、テレビ番組の企画や出演、トークイベントや講演活動も積極的に展開している。現在、「世界ベストレストラン50」日本評議委員長も務める。剣道教士7段。大日本茶道学会茶道教授。